鈍感探索者と暴走お嬢様ズ   作:天坂クリオ

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ポーチと妖精

◇鈍川静真◇

 

お嬢様から急な予約が入ったが、予定は迷宮探索しか無かったので問題は無かった。なので協会で部屋を借りてアイテム収納袋(小)の梱包作業をしつつ、お嬢様たちが来るのを待っていた。

 

「鈍川さん、ごきげんよう。ついに完成いたしましたわ」

「完成って、なにがだ?」

「この、一般用アイテムポーチですわ!」

 

来て早々に、金満が花の装飾がついたポーチを取り出した。

 

「こちらです。鈍川さんは青色にしておきましたわ。いかがでしょうか」

迷宮花(ラビリス)をモチーフにしたのか?思った以上にオシャレだな。これならかなり売れそうだ」

「ですわよね!わたくしもそう思いますわ」

 

いいのが出来て嬉しいのだろう。金満はとても喜んでいる。元がシンプルな袋だったとはとても思えないくらいのオシャレグッズになっている。ただ、オシャレすぎて俺には似合いそうもない。迷宮に持っていくと汚や傷がつくし、キレイな装飾が邪魔になってしまうだろう。

 

「さっそく今日から使ってもよろしいですわよ」

「いや、迷宮で汚すのはもったいない出来だから、ほかで使うことにするよ」

「そうなのですか?……少しお上品過ぎたでしょうか。仕方ありませんわね」

「探索者向けだったら、俺が普段使ってるくらいシンプルな方がいいぞ」

 

俺は装備の持ち運び用と素材回収用の二つのアイテムポーチを持っている。その両方とも探索を邪魔しないシンプルなデザインだ。

 

「探索者には合わないのですね。残念ですわ」

 

普通の探索者は協会のショップで売ってるアイテムポーチで十分だ。探索者に必要なのはオシャレではなく実用性。そして良心的な値段だ。

 

「それじゃあ、迷宮へ行くか」

「あの、本日の探索についてお願いしたいことがあります。よろしいでしょうか」

 

氷極院が一歩前に出て聞いてくる。

 

「いいぞ、何でも言ってくれ」

「ありがとうございます。まず、先日に出された課題である、魔力出力調整ができるようになりました」

「もうできたのか?そりゃすごい」

 

3週間くらいかかると思っていたから、1週間もかからないとは驚いた。

 

「氷極院家の者としてこのくらい当然です。この課題は継続して魔物を倒すためのものだと記憶しています。なので次は実際に魔物との戦闘訓練なのではないでしょうか」

「その通りだ。多数の魔物との連続戦闘に慣れてもらうつもりだ」

「やっぱりそうなのですね。それでお願いなのですが、ぜひとも鈍川さんにお手本を見せていただきたいのです」

 

あー、うん。お手本か。

 

「見せてもいいけど、参考にならないと思うぞ?俺はいちおう剣を使ってるけど、氷極院さんは魔法を飛ばすタイプだろ?」

「いいえ、剣も使えます。流派は違うかもしれませんが、参考には十分になるはずです」

「近接戦闘ありなら、継続戦闘能力は上がるか。ならいいか」

 

手本を見せてほしいというなら、ちょうどいい相手がいる。参考になるかわからないが、敵の手の内を知ってからのほうが戦いやすいだろう。

 

「わかった。じゃあ今日は先に進んで新しい敵と戦おう」

「新しい敵ですか?」

「ああ、でも氷極院さんは見たことあるかな?モンスターハウスにもいたからな」

「モンスターハウスにいた新しい敵ですか?あの魔物でしょうか」

「どういうことですの?ぜひとも詳しくお聞きしたいのですが」

「後でイヤというほど見ることになるから楽しみにしててくれ。じゃあ準備を整えてエレベーター前に来てくれ」

 

そうして装備を整えるために一旦解散となった。

 

◇◇

 

階段を降りると、廊下の雰囲気が変わっていた。今まではオフィスビルの中だったのが、この階は別の場所へ繋がる通路のようになっている。

 

「第1階層もここから終盤だ。階段をあと3つ下るとボス部屋にたどり着くことになる」

「思ったよりも短いですわね。ここまで来るのも簡単でしたし、すぐに第2階層へ行けそうですわ」

「お前らは最初からいい装備を使っているからだ。普通は探索しつつ金を貯めて、良い装備を買って強くなっていくもんだ」

「お金も実力のうちですわよ」

「経験は金では買えないぞ。だから今回も魔物とたくさん戦ってもらうからな」

 

装備だけなら次の階層に行けるくらいのものを着込んでいるのだ。あれなら魔物との戦い方を覚えれば、誰だってボス戦を乗り切れるだろう。

 

「それで、新しい敵とはどこにいますの?」

「歩いていればそのうち見つけられる。アレは嫌でも目立つからな」

 

というわけで探索しながら進んでいくと、通路の先から戦闘する音が聞こえてきた。横道にある部屋の中で、2人の青年が今回の目的でもある魔物と戦っていた。

 

「あれが新しい敵ですの?かわいらしい姿をしていますのね」

「かわいいのは姿だけだ。名前は2Dフェアリー。見た目通り耐久力は無いが、魔法で遠距離攻撃をしてくる」

 

青年たちは戦い慣れていないのだろう、ひらひら飛びながら魔法を撃ってくる2Dフェアリーに攻撃を仕掛けているが一撃も与えられていなかった。

 

「あいつは空間を歪める能力を持っている。だから普通に攻撃を当てようとしてもスカされてしまうんだ」

「それで当たらないところで武器を振っているのですね」

「そう。攻撃を当てるためにはちょっとした工夫がいる。後で実演して見せるから、別のを探そう」

 

部屋を出ようとしたところで、青年が声をあげた。

 

「ちょ、そこのおっさん!こいつ倒すの手伝ってくれ」

「俺はまだおっさんじゃないぞ。2人いるんだし、自分たちで倒せよ」

「こいつ攻撃が当たらないんだよ!いいからなんとかしてくれよ」

 

情けないやつらだと思ったが、初めて2Dフェアリーと戦ったならああなるのもわかる。アドバイスくらいしてやるか。

 

「2人並んでるのがダメだ。1人はフェアリーの横に移動しろ。そう、横をとるんだ」

 

2人は怪訝そうな顔をしたが、片方がフェアリーに対して90度の位置に回り込んだ。そこからフェアリーの攻撃を避けつつ攻撃をしかけると、横からの攻撃が羽根に当たった。

初めて攻撃が当たったことでやる気が出たのだろう。2人は続けて攻撃を繰り返し、フェアリーを倒すことができた。

 

「よっしゃー!」

 

ハイタッチする2人を見ながら、お嬢様たちに解説する。

 

「2Dフェアリーは空間を歪めるけど、それができるのは正面の一方向だけだ。2方向から同時にしかけると対処できずに簡単に攻撃が当たる」

「以前のモンスターハウスでは鈍川さん1人で倒せていましたが、あれはどのようにしたのでしょうか」

「簡単だ。どんな風に空間が歪むか知ってるから、それ込みで当たるように攻撃しただけだ」

「そう……ですか」

「慣れれば誰だってできるぞ」

 

だから慣れるまで戦えばいい。簡単な話だ。

 

「というわけで、2人はこれから2Dフェアリーと戦ってもらう。いま見たとおり、2人でも簡単には倒せないから気をつけるんだぞ」

「1人で戦うのではないのですか?」

「それは慣れてからだ。2人で戦わないと、あいつらのみたいになるぞ」

「なあなあ、オレらも協力してやろうか」

 

話題にした青年たちが元気よく近づいてくる。

彼らは初心者講習を受けているわけではないので断ろうとしたら、お嬢様たちが前に出た。

 

「貴方たちはお呼びじゃございませんの。用が済んだなら早く帰ってくださいまし」

「元気が余っているのなら、どうぞ上の階の掃除をしてきてくださいませ」

「ではわたくしたちは先に行きますわ。ごめんあそばせ」

 

何を言われたのか青年たちが理解する前に、お嬢様たちは並んで部屋から出て行く。

 

「迷宮での戦い方を知りたいなら、今からでも初心者講習を受けるといい。ここまで来れたんなら、戦闘講習分は短くできるだろう。交渉すれば安くしてもらえるんじゃないか?」

 

そう言い置いて、お嬢様たちを追った。

 

◆◆◆

 

鈍川は迷宮に入る前に、借りた部屋の鍵を協会に返却しに受付へ行った。

 

「山田さん、これからお嬢様たちと迷宮に行ってきます」

「了解しました。あら、かわいいポーチをお持ちですね。それが新しく販売するものですか?」

「ええ、そうです。俺のは青色だって渡されたんですけど、ちょっとオシャレ過ぎて合わないんですよ。……あの、山田さんは」

「待ってください鈍川さん。いいですか?そのポーチは絶対に手放してはいけません」

「え?」

「鈍川さんはハッキリ言わないと分からないと思うので言いますが、それを誰かに渡すのはダメです。念のため付け足しますが、売るなんてもってのほかです」

「ダメなんですか?」

「絶対にダメです。それはあのお嬢様が鈍川さんにプレゼントしたものですよね。自分がプレゼントしたものがすぐに売られてたらどう思いますか?」

「……あー。たしかにすごい悲しいですね。教えてくれてありがとうございました」

 

去っていく鈍川の背中を見ながら、山田はちいさくため息をついた。

 

◆◆◆

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