_ パァァァン!
「…クソッ」ボソッ
俺は最後の1人を打ち取り何故俺のフォークがあそこまで完璧に打たれたのかを考えていた。
最後はコース・高さ・球速と問題なかったはずだ。あそこを張られていたとしか言いようがないが打たれた悔しさは同じ分降りかかってきた
「俊!切り替えろ!まだ同点だぞ!」
下を見て考え込んでいる俺に一也が声をかけてきた
「…あぁ分かってるさ」
そう言いつつもすぐには切り替えることは出来なさそうだな。
4回裏の攻撃はこちらも3人で抑えられて無得点
5回表の守りも3人で抑えてシャットアウトした。ここまで
5回を投げて被安打2の1失点と中々良いピッチングを披露しているが良いピッチングをしているからこその欲というかあそこでの一点がどうしても悔やまれるな…
そしてゲームは延長線に突入した…
7回の表ここにきて疲労が溜まってきた俺は四球とフォークのワイルドピッチでワンアウトランナー1.2塁のピンチそして打席には…
「ふぅ〜」
こちらを睨むように見つめるクリスさんが立っていた
「…クソッいつもよりきてるな」
「まぁここまで全力も全力普通なら変えられてるよ」
マウンドに駆け寄ってきたナインの中から一也が言った
「…まぁここまで来たら腹括るしかねぇか!打たれたら頼むな皆んな!」
「「「おう!」」」「まかせろ俊!」「お前がここまでやってんだ!絶対ミスは出来ねぇ!」
この時御幸は思った
これが真田俊平という男の真骨頂だよな。仲間を鼓舞しながら味方の反撃を信じて投げ続ける正にエースのピッチング…
しかも俊は本来相手を打たせて取るピッチングを主体とする投手だが相手が格上…それも主軸に関しては間違いなく全国トップの打力を誇る打線を敢えて上から押さえ込むように明確に見下ろしながら投げるスタイルを突き通していた。
疲労は既にピークしかし何とかこの均衡を崩さないように踏ん張ってる
「根っからのエースだよお前は…」
俺は真田俊平という男の凄さを改めて実感したのちマウンドを離れた
「やっぱたまんねぇなこの緊張感…」
俺は滴る汗を体全体に感じながらもこの空間を楽しんでいた
そして一也や他のチームメイトが俺から離れたのを確認して一息吐いた
「…ふぅ」
その瞬間マウンドの周りに異様な緊張感が張り詰めるのをチームメイトだけでなく観客や監督・コーチも感じ取っていた
監督サイド
「監督!」
「…あぁ分かってる」
本来はこの回だけでなく5回を終わった時点で変えるべきだったのだ。それが監督の仕事でもあるからだ。しかし俺に直談判してきたあの目を見るとあいつを…俊を変えることなど出来るはずがなかった
そしてこのピンチで俊の中で何かが変わったのを俺だけでなく隣のコーチも感じ取っていたのだろう。
元々俊は打者としてクラッチヒッターであり投手としてもそこ知れぬポテンシャルを持っていた。しかし我々は勘違いしていたのかも知れないな。
真田俊平という男の投手としての価値を…
相手サイド
「…何だあれは…あんな雰囲気の投手だったか?」
元々真田俊平という男は既に良いピッチャーなんなら都立でも中々居ないレベルの好投手として認識していたが…今目の前にいる投手はその辺の好投手というレベルに居ないプレッシャーを放っている
そう正に一流のプロ注目レベルの高校球児がそこに立っているような感じだ。
それを小学5年生が放っているというのだからこれがどれだけ異質なことか理解できるだろう
「…頼むぞクリスッ」
俺は唯一チャンスがある自チームの主砲に託した
一也サイド
「…は、はは」
ヤッベェ!鳥肌が立っちまったよ。これだよ。このピンチでの開き直りでは収まらないほどのギアのあげ方。投げる前からワクワクが止まんねぇよ
お前はどんな景色を見せてくれるんだ!俊!
主人公サイド
…一也が構えたのはインコースか
「すぅ」
そしてこのピンチの状況で一息吸い込んで俺はいつも通りにクイックで投げ込む
_ ズバァァァァァン!!
「ッ!?」
俺が投げたボールを寸分狂わずに一也のミットにおさまった
2球目はインコース低めのフォーク…
_ シュルッ
_ ブンッ
クリスさんが振ったバットの遥か下を通過しミットに入った
「「「!!!」」」
周りも真田俊平という男のプレッシャーによって明らかに緊張感が増していった
「…ここまでの投手だったか…真田俊平…」
クリスさんが呟いたのを見た一也は
「いやクリスさんのお陰ですよ…あいつはここまでのピンチを背負ったことと相手が全国No. 1クラスのクリスさんだからここまで化けたんですよ」
「…あいつを育てのはある意味俺というわけか」
クリスさんは一度打席を外し軽く数回スイングして打席に戻った
俺はさっきまでのクリスさんと少し違うことを感じ取っていた。おそらくさっきより集中力が増している…
しかし
俺のやることは変わらない。投手のやることを全うするだけだ。ここを抑えて攻撃に…味方の反撃なら必ず繋げてやる
一也が構えるそこは原点回帰俺の最も得意とするインコース高めだった
俺はプレートを目一杯使い左側による。そしてより広角な対角線を作り渾身のストレートを投げ込む…
「ラァッ!」
_ ズバァァァン!
俺が投げたボールはクリスさんのバットをくぐり抜け一也の構えるミットに突き刺さった
その瞬間…
「しゃあぁぁぁ!」
俺は渾身の雄叫びを上げた
相手の主砲を…ここまで何回も負け続けた壁を…やっと勝てたんだな
しかし
その代償も計り知れなかった
「木下!急いで準備しろ!」
「はい!」
こちらの監督が急いで選手交代の合図を送った。他のナインや相手チームは気づいてなかったがその中で御幸一也だけはこの反動を危惧していた
「…あれだけの出力に集中力…なにも反動がない訳がない…クソッ」
「相棒失格だなッ」ボソッ
何も考えられない。あれ、なんかこっちに監督が歩いてくるな。…あぁ交代か
「すまん一也」
「何言ってんだよ…お前がいなきゃ…ここまで」
「そうだぞ俊!」「ナイスピッチングだ俊!」「今は何も喋らなくて良い!」
一也…皆んなに監督が労いの言葉をかけてくれる
俺は一也からボールをもらい握りしめ
「…こめといた木下」
「はい!」
後輩の木下にボールを託した
その後俺たち江戸川シニアは後続を打ち取れず逆転を許し反撃も振るわず2対1で丸亀シニアに敗れた…
そして時代は中学時代へと進む