裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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虚構を進む

 王城の幻に閉じこもった女性は時偶に呟く。これは緩やかな自死だと。

 研究を続け、仮初の旧友に囲まれていようと停滞しているだけである。変わらない日々は彼女が望むものであり、逃避するために必要な虚像だった。

 最初は誤魔化せていようと夢から覚める。だからといって現実を直視すれば、認めたくない絶望的な状況に心を砕かれ、何一つ向上することができなくなるだけであり。

 ならば本質的には孤独である世界に籠っている方が、生産性があるとも考える。結局夢幻の中で考え付いた理論は、現実で使えるものではないにしろ、思考回路は回せているではないか。

 

 技術を発展させるには天才的である頭脳はもはや破滅を恐れ、既に壊れた世界を直視できないまま、闇に沈んでいた。

 大戦末期、人類の勝利のため己の身体を異形へと変えた決意をも無かったことにして。

 

 

 しかし、その泥濘のような思考は突如破壊される。今まで微動だにしなかった王城の幻に、形さえ保てなくなりそうなほど衝撃が伝わったからだ。

 温かな布団の幻にて眠り、偽りの昼が訪れるなり王城内の研究室で新たな知見を得るというルーティンをこなしていた女性は、規則性を壊され何事かと起き上がった。

 

 窓から覗けば、門番が形を変え何者かと剣を交えている。「ゼシニスの知恵」と称された才女、ハルランは、その異常事態をよく見て、足元が抜け落ちるような感覚を味わった。

 何故ならば、門番たる騎士影の相対する人間が、余りにも懐かしく感じられたからだ。

 姿形は門番の取った形状の方が似ていても、ハルランの心には響かない。この胸が締め付けられるような想いは、遠い昔に置いてきたのだから。

 

 

「――ヴォル…ヴォルグス。こんなこと…あんまりじゃないか。罰を受けろって、言いたいのか…。」

 

 

 かつての巨体でなかった頃を再現しようとし、取り込んだ竜血によって異形が混ざる女性は、窓へ両手でそっと触れると呟く。

 胸の高鳴りとそれ以上の苦痛に体を蝕まれながらも、戦いの行く末から目を離せない。

 「月」が再び、この虚構だらけの夢幻に輝く。青白い騎士は窓越しに、ハルランを見ていた。

 

 

 

 

 白亜の宮殿のごとき施設にて、ラディアとその弟子たち、黒い血を浄化せんとする戦士たちは互いに向かい合っていた。おろおろとした様子のミナを尻目に、ラディアは腕を組んだままヨヌアを睨みつける。 

 

 

「双子神教の儀式に参列したいだと? 婆の息がかかった奴らなんて、信用できるか! エドワルドが乗り気だから、わざわざ尻拭いまでしてやろうってのに…どこまでも舐めやがって!」

「そう怒るのも当然よね。でも、ちょっとだけ聞いて。私たちが集められたのは、何もモユヌエおばあちゃんの私兵ってわけじゃない。所属の垣根を越えて、力を貸し合う組織。双子神教の問題にだって戦力になれる――自由を掲げているのよ。」

「うーん…そう簡単に事が進みますか? 僕はあなた方が、理想に目が眩んでいるとしか思えませんけどね。」

 

 

 ヨヌアが代表して伝えると、横からアルビンが口を挟む。すっかり演技を止め、空っぽの本性を曝け出したロオファも、苛立った様子を見せる。アルビンとロオファは立場が違えど、よく知っている。別の組織同士で手を組んで、真の信頼が築けたことはないのだと。

 

 組織や国家の繋がりを放棄することは不可能であり、出来ようと何の後ろ盾もない物乞いになり下がる。

 荒くれ者の集団である冒険者だって、越境組織という巨大な仕組みがあるからこそ、市井で大手を振って歩けるのだ。現に浄血を謳う戦士たちは、シウゼヴァクの管理下にある。そんな国の持ち物である彼らが言う「自由」は、信用に値しない。

 

 

「いいえ、本質は傭兵と変わらないわ。上位種に対抗できる戦力を繋げる。そうおばあちゃんは求めて、私たちも望んだ。…気づけてるでしょ? 矛神も守護ヴァルミも、このまま行けば共倒れだって。」

「――ふ、何せ、大陸中央のルヴネトを守る戦士と、次代を背負う王子まで化物に欲望をぶちまけたんだ。」

「このっ…侮辱ばかりを繰り返して!アデス様は、情欲に呑まれぬ誇り高き戦士だ!ラディア様も…デリクなどとは違う!」

「あなたは間者に向いていなかったようだな。すっかり矛神にほだされている。あるいは、染まりやすいだけかね?」

「もうっ、話が進まないんだけど!争ってる場合!?」

 

 

 ヨヌアの焚きつけるような物言いから始まり、元魔兵の女性が侮蔑の言葉を投げかけた。

 魔兵たちは、国への忠義を何よりも大切にする。それは浄血の騎士に所属しようと変わらない。だからこそ、一国の総司令官から裏切り者を出した矛神の甘さを、嘲っている。目の前にいるのが、学院の間者であることも拍車をかけていた。

 

 ロオファが机を叩き、浄血の騎士の一人が冷徹に彼女の有様を当てこする。ミナはどんどんと悪くなっていく空気に耐え切れず、両拳を自身の足に叩きつけた。

 ミナの着こんだ厚手の衣類からぽふりと音が鳴る。ラディアは、ミナの少しだけ膨らんだ頬のあざとさに、上った血が戻っていく。

 そのままラディアはミナとの二人旅を思い起こし、大きく息を吐いた。戦しか楽しみのない女戦士は、ちょろちょろと動き回っては、表情がころころ変わるミナのような少女を、今までしっかりと見たことが無かった。

 自身とは真反対で、しかし境遇は似通っている。こうして怒りが抜けてしまうくらいには、ラディアはミナに情を持ってしまっていたのだ。

 ヨヌアも人員を宥めると、ぐっと体を前に出す。

 

 

「やめなさい、デリク総司令官の件は済んだことよ。…でも、どれだけ隠しても疑念は残る。双子神教が再び信頼を取り戻すには…裏切りなんて気にならないような、名誉を打ち立てるしかない。私たちはそれを手伝いたいの!」

「…婆の策をもっと話してみろ。また、大きな戦争をするつもりでかき集めて…てめえらは、そのためにいるんだろうが。」

「そうです、矛神の騎士長殿! 双子神教の…一部だけでもいい。この時代の精鋭を集め、ついには古き英雄たちを、その気にさせるのです。」

 

 

 ヨヌアの言い分をラディアは理解した。モユヌエは上位種へ大規模な戦を仕掛けようとしている。組織間の繋がりがなく、内部も腐敗しているなら、まともに反撃も出来ないということだ。

 知的な青年は、ラディアに熱量を上げて説明する。彼は術師として魔法の探究をする中で、失われた歴史に興味を持った一人だった。ヨヌアは青年の熱量を引き継ぐように話す。

 

 

「モユヌエおばあちゃんみたいな人は、他にもいるらしいの。ラディアさんなら知っているかもしれないけれど…この時代まで生き残っている古い戦士は、各地に散らばっている。まあ、聞いたこともない名前の人たちだし、どれだけ強いのか…。」

「…よぼよぼの奴らでも、それなりにはなるだろうな。で、あの糸巻き婆がエドワルドとケルを連れていったのは、その一環か。」

 

 

 ルヴネトでの戦闘に参加したラディアとミナ、そしてアルビンは想像ができた。古い猛き戦士の実力は、この時代の戦士の殆どを凌駕すると。

 ヨヌアたちは頷く。モユヌエが場を去る前、ヨヌアたちはそっと糸を通して伝えられたのだ。「心臓の王」、姿を隠した王は己と同族であり、この地へ再び連れ戻すことを。

 この伝達は、猜疑心の塊だったモユヌエが、信頼できる者を増やしたことを示していた。

 

 

「――この大陸は遠い昔、一つの国だったらしいわ。大陸全域に、目覚めさせようとしている人の頭脳が関わっていたんですって。それでいて、戦の最後には自ら前に出た。戦力として魅力じゃない?」

「…いくら頭の出来が良かろうが、寝ぼけていたら面倒だ。」

 

 

 ラディアは深く考え込んだ後、重苦しい声を吐き出した。ヨヌアたちの断片的な説明を聞いて、彼女の頭には懸念される事がいくつも浮かんでいた。

 ヨヌアの質問に、ラディアが素直に返す。

 

 

「それは、どういう意味?」

「価値観だよ。ゼシニス大陸が一つの国だった時代?そんなこと聞いたこともねえ。どれだけ変わっているか、想像できないだろうが。」

 

 

 ラディアは司令官に上がったとき、矛神の騎士団長アデスは直々に学んだことがある。矛神のルーツ、心に刻んでおかなければならない在り方を。アデスはその在り方を誇っていたが、ラディアは無心だった。

 何故なら、ラディアは教わるまでもなく既にその考え方を持っていたからだ。利己的な、他者の傷を考えない戦狂い。

 

 

「矛神は元々何だったか知っているか――ただの傭兵集団だ。竜を殺して、武勲を積み重ねる根無し草の集まりだとよ。知性を持っていようがいまいが、ぶち殺す! 矛神という名前になる前は、相当な鼻つまみ者だったらしい。そういう意味じゃ、おれたちは元に戻ってきたわけだ…。」

 

 

 ラディアの凄みが部屋を支配する。しかしミナは、その威圧感がただのはったりだと、今まで接してきて分かっていた。

 

 

「…戻ってくる人が、矛神のことを嫌がるって思ってる?」

「さあな。矛神だけじゃない。そいつが何を気に入らないかで、面倒なことが起こるだけだ。くく…潰せるなら、大歓迎だがな。」

「あー…浄血の人たち、ラディアに付き合ってあげてくれませんか?今すごいイライラしているみたいなので…。手合わせの方を、ちょっと…。」

 

 

 ミナは目を泳がせると、愛想よく笑いかける。すると、今までの話し合いで黙っていた浄血の騎士が手を挙げた。その男性は、王城にてラディアと話していた騎士の一人だった。

 

 

「…客人に無礼を働いてしまった詫びをせねばと思っていた。自分にやらせていただきたい。」

「私も。ラーマイマの闇を払う戦力として期待していただかないといけません。喧嘩を吹っ掛けた貴女!それが目的なのですからね!」

 

 

 次々に手が挙がり、はあとラディアの口から溜め息が漏れる。そして椅子に立てかけていた大剣を手に取ると、窓の外を左親指で示した。

 彼女のぎらつきは最高潮に達している。それは口では不快を伝えつつも、上位種を屠ることへの昏い歓びを抑えられないからだろうか。あるいは、目覚めようとしている戦士の実力に好奇を刺激されているからか。

 

 

「お前ら全員潰して、見込みがある奴だけ山登りに招待してやる!下に来やがれ!」

「獣の猛々しさ…!やはり、矛神は死んでいない!」

 

 

 ラディアの示すままに、手を挙げた浄血の騎士たちは部屋の外へ出ていき、内一人が噛み締めるように言い残す。組織の結束、国への忠誠を絶対視する者もいれば、個人の在り方を重視する者もいる。

 火種が一つあれば、どれだけ腐ろうと、勢いを削がれようとも組織は再生する。後者の考えを持つ浄血の騎士は、強く逞しい矛神が戻ることを心から望んでいた。

 

 部屋に残ったのは一部の騎士とヨヌア、そしてラディアに関わる三名。彼らも話はお開きだとして、外へとついていく。凝り固まった体を動かし、大事に備えるために。

 

 

 

 

 俺は、姿を変えた騎士の技術に圧倒されていた。視界を塞ぐように前方へ出された盾と、鋭く速い剣筋。その合間に連発される魔法。ここまで一分も隙が無く攻撃的な戦士と戦ったことがない。

 距離を取ろうにも、張り付くように攻撃を重ねてくる。これでは剣で叩く以外の戦法が取れない。

 

 

「『象牙の光』! ……目くらましも効かないか。」

『……「凝縮光、貫き*1」』

「くっ! 模倣でこれなのか!」

 

 

 兜の中に人は入っていないためか、視界を塞ぐことができないのが判明する。都合の良いところだけ模倣しているようだ。

 盾から突き出る魔法を何とか身を捻って避けても、体勢を整える前に次の魔法が飛んでくる。俺は剣を持っている右手から「霊月の太刀」を伸ばし、何とかこれ以上の猛攻を阻止した。

 騎士の影は再び軽やかにこちらへ駆けてきて、激しく広範囲を焼き払ったり、俺の手足を集中的に狙ったりなど、俺の動きを悪くしようとしてくる。

 胸部ならまだ耐えられるだろうからいいが、手足の一本でも魔法を受けたら、次の瞬間何もできず切り刻まれるだろう。

 

 これが、「朽ちぬ矛」。「バックスタブレイブ」作中で最強とされた古い時代の戦士の再現。

 

 俺は戦々恐々としながらも剣や魔法を捌き、ふと気づく。騎士の影の動きは変わらず、ブラフを織り交ぜた変幻自在の厄介な動きをしているのに、先を読むのがどんどん楽になっているのだ。

 足も大胆に動かせるようになってきた。俺は戻ってきた心の余裕のままに、左掌へ魔力を集中する。

 

 

(…やはり目の前のこれは、再現だからだな。もし先にこの姿で門番をやっていたなら、リィートイたちも倒しきれたことだろう。)

 

 

 俺は敢えて隙を晒す。騎士の影が、俺の腹部を突き刺すのと同時に、俺も素早く「月の杭」を放った。意識だけがこの夢幻に飛んでいるはずなのに、本能に訴えかけるような激痛が全身を通り抜けた。こんなところまで再現しなくてもと、思わざるを得ない。

 しかしこの程度、今までの死闘で受けた痛みと然程変わらない。俺の体から橙色の光が広がるのが見えるが、俺は左手からの魔力放出を続行した。

 

 

「あなた方の主人は――俺が攫わせてもらう。穿つ!」

 

 

 人型を、俺の魔法が全て覆い尽くした。無機質だった騎士の影が、初めて人間のように小刻みに震える。それは悔しさからか、両手が俺の首を絞めようとする前に騎士影は消し飛んだ。

 

 今度こそ終わりか。俺は腹部に空いた穴を手で押さえた後周囲を見渡したが、特に新たな門番が補充される様子は無かった。門が上がって、俺へ入るように促しているようだった、

 そのときだった。王城を見上げた俺の視界に、さっと動く人影が映ったのは。

 

 

「…あれが、ハルラン殿か? ぐ…『皚炎』」

 

 

 俺は内側から白き炎を噴出させて傷を焼き、応急措置を施した。現実の肉体でないなら、この傷を持ち越すことはないだろう。

 大量に零れ落ちていた血は止まり、貧血症状を感じながらも俺は前に進む。

 

 王城の中にも兵がいたらどうしようか。限界が来れば、モユヌエから受け取った「鍵」を使うしかないだろう。

 良い報告を待っているモユヌエの顔を思い浮かべ、俺は弱気を吹き飛ばす。必ず連れ帰ると、俺は歯を食いしばって足に力を込めた。

 

*1
此の地を照らす天体、陽光の魔法、その一つ。陽光の魔法を扱う者は、あらゆる能力に秀でている。「生命力」「器用」「知」「理」の能力値が40ずつ必要。

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