裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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呪縛

 リィートイとの話の後。俺はアイスブレイクという名目を打ち立て、目的のない情報交換を少しの間だけ行うことにした。

 そうするとあまり知りたくなかった話や驚愕の事実が、何でもない世間話のように次々飛び出る。

 そもそも何故、エドムンドや古い猛き戦士であるロイス等が地下室にいるのか。その理由を、エドムンドは話した。

 

 

『――すごいだろう!僕も勧誘こそしたが、ここに集まっている彼らは皆、エドワルドに着いてきたんだよ。途中、満足して運河に還った魂も沢山あるけれど、少しずつ増えている。それだけ君に惚れ込んでいるというわけだ。』

「俺に…?しかし、エドムンド君。俺は君の身体を乗っ取った、得体の知れない野郎だぞ。…隠していて申し訳なかった、ケル君。俺はこういう人間で――」

「どうして謝るの?…ぼくの方こそ、ごめんなさい。前、エドムンドお兄ちゃんから教えてもらったんだ。…でもエドさんはやっぱり、ぼくが思ってた通りかっこいいんだって、分かって良かった!」

「…………。」

 

 

 二度に渡る衝撃により、言葉が全く出てこなくなる。エドムンドだけでなく、ここにいる全部が俺の背中に。しかも、何年間も?

 いやそれよりも、ケルがあまりに無垢に笑うので度肝を抜かれた。いつもは分かりやすく感情を表現してくれるのに、裏を読み切れないのだ。

 

 俺は盗人同然で、しかも部外者である。それを知っていながら、何故この子は悪感情を抜きに、あるいは隠すことができるのだろうか。

 続けてモユヌエからも、俺の正体について粗方認識を合わせている旨も伝えられる。彼女はリィートイと話したことで吹っ切れたようで、恐ろしいほどに核心をついてきた。

 

 

「お主の、先読みに近い洞察力。知れぬはずのことを知っている預言じみた識。妙だとは思っておったが、納得は出来たのじゃ!…言うなればお主は、盤上を俯瞰していた者じゃろう。」

「……そんなに。誤魔化すことはできなさそうですね。」

「まあこれ、そこの陰険の受け売りじゃがな。ふんっ、好き勝手うちを責めおって…!」

『…何とでも言うがよい。読みが当たっていたことの方が重要なのだ。』

 

 

 亡霊クリフは、鼻を鳴らしたような音を出すと俺を見つめてくる。周囲に浮かんでいる半透明の老若男女にも。この数に、俺はずっと見られていたのか。正体も殆ど分かっていながら、彼らはどういう気持ちで。

 すると、俺の背中に感触があった。モユヌエの魔法を通すと、亡霊の掌まで感じ取れるらしい。エドムンドの亡霊はそのまま、ぽんぽんと背中を叩き、俺に告げる。

 

 

『大丈夫だ、重荷を背負った気持ちにならなくても。だけど、代表して願いたい。――生き抜いてくれ。僕…俺たちの分まで生きて、君の行き着く先を見せてくれ。』

「…ああ、分かった。…皆が安心できるように、やってみせるさ。」

 

 

 不思議な感覚だ。人の本心等正確には分かるはずもないのに、感情がなだれ込んでくる心地がする。それは、暖炉の火のごとく、とても温かった。

 エドムンドは死しても高潔であり、何十人かも分からない亡霊たちも、善良であり続けている。

 罪悪感を覚えることこそが罪なのだ。この世界に踏み入れた時点で、取り返せない罪を背負ったことも。

 

 俺は気を引き締め、決意した。救えなかった彼らが、せめて最期は幸福であれるように。ケルを必ずや育て上げ、期待に応える。幸い、体は軽い。

 

 

『うん…頼んだよ。…そうだ。あと一つ…弟子の子は、面倒を見てあげるべきだ。いや、これは僕だけの願望だから、頭の隅にでも置いておいて――』

「他ならぬ君の望みだ。トスカ君は既に立派な戦士だが…やれることを探してみる。」

『ああー…まあ、これに関しては良いのか。どう思う、ヴァシア?』

『二人のエドが、感動的なクライマックスを…フフフ――え、ワタシ? ええっと、どちらに転んでも趣きはありますよね!』

「……賑やかだ。それは良いんだけど、どうも落ち着かない…。」

 

 

 エドムンドの亡霊は近くにいた丸眼鏡の少女へ声をかけ、楽しそうに話し始める。その内容は全く分からない。どうやら亡霊と交信するには、彼らから言葉を向けられる必要があるらしい。

 横から聞こえてきたハルランの呟きに、俺も心の中で同意する。俺の抱えている問題だが、大人数がいると自分のペースが乱されるのは、どうにもならないように思える。

 

 

「よし……そろそろ作戦を考えよう。シウゼヴァクにいる戦士とも顔を合わせたいが、ミグゥニを抑えるのも限界そうだ。――割れかけを補強してから、一気に叩く。上手くいけば被害は最小限に抑えられるはず。」

 

 

 穏やかで通る声は、俺たちの意識を正した。続くハルランの説明により、ミグゥニの解像度が上がっていく。想定していたよりも、ずっと厄介な奴だ。

 不凍の蟲、またの名を「節くれの王」。奴は今でも、蟲の上位種の親玉と言える存在なのだと。

 

 

 

 

 少し先、夜が訪れた頃。

 黒い鮮血が垂れ、次に削ぎ落した肉が重い音を鳴らして落下する。それは鳥の翼のように見えて、実際は微細な触手が蠢く異形だった。

 引き上げた釣り針のような笑みを浮かべた上位種は、片翼を無くしても尚、腕を伸ばす。指先から腕にかけて大量の眼球へと変わり、それは全て砲弾のごとく弾けた。

 相対する戦士、どちらも頭まで金属に身を包んだ男たちは雪原を駆け、どこまでも冷静に爆発の範囲を読み切った。

 

 男の片方。所属の分かる紋章等をつけていないが黒いヴェールを被った戦士は、魔力の炎で燃えるクロスボウを構え、そのまま魔力を帯びた矢を打ち出す。

 ドスと肉に深く突き刺さる音がして、翼持ちの上位種は奇怪な笑い声をあげた。

 

 

『す、素晴らしい、ですねえ! ああ、天上にお連れしな、ければならない殿方がお二人、も…!』

「――しかし、狩りやすいものだね。この獲物はあげよう。」

「ならば、いただく。化物が……無様に死に絶えるがいい…!」

 

 

 もう一人。巨大な異形の大斧を片手で軽々と振るう騎士は、白い息を吐いた後、大きく跳躍する。そして斧の刃にまで通した魔力で、上位種の脳天から薪を割るように叩き斬った。

 

 上位種の中身は、うねり続ける朱い触手で詰まっている。

 二人はそのグロテスクな肉塊に、嫌悪で手を止めることなく一気に魔力を放出した。クロスボウの戦士は懐から取り出した灰を散布し、群青色のマントを付けたハウンスカルの騎士は灰が上位種に纏わりつくよう、魔力の風で拘束する。

 最期の最期まで、狂ったような笑い声を響かせながら、翼の上位種は溶けていく。そして、完全に消滅したと判断した瞬間、二人は同じ方向へと雪原を進んだ。数週前には素性も知らなかったとは思えないほど、彼らの息はピタリとあっていた。

 

 繋いでいた馬に騎乗し、目印も何もない場所を走る。ヴェールと装飾の凝った鉄仮面を右手で直し、男は軽口を叩く。しかしそれは上辺だけで、言葉の奥には無機質さがあった。人の機敏など何とも思っていない、ただ殺しを請け負う、我のない平均的な「黒血絶ち」の隊員である。

 

 

「いいじゃないか、『狂狼』オズ。その憎悪と力…同志になれば、今以上に煮詰められるのだが。」

「姉上と大母がいる。二人がいなければ、おれもこの世にいない。群れることなく、死ぬだけだ。」

「大母に飼い慣らされた番犬か、羨ましいね。君には犬小屋があるんだ…俺たち、洞で住まう野良とは違って。…次はどこか。」

「真っすぐ、北東だ。同じ隊の奴に助勢する。」

「ああ、そうか。――浄血を謳う騎士団…大母も血迷ったか。」

 

 

 黒血絶ちの隊員の声は、風で掻き消える。同時にその姿も吹雪で見えなくなった。それでも馬は、目指す地点へたどり着ける。一心同体の、騎手の綱と温もりだけを信じているがために。

 常に民衆の中に入り込み移動し続ける彼らは、隠れ里にて訓練された馬を相棒とするのである。

 

 

 オズとクロスボウの男はその後、災いの足音たる不吉な事象を体験する。シウゼヴァクが大きく揺れた後、耳から刺突剣で貫かれたような痛みを覚えたのだ。それは甘ったるく、届いた者によって音を変える。色に溺れたような叫びだった。二人はその波長に合ってしまったのである。

 

 欲望の一切を復讐心に置き換えた男は大きく舌打ちをし、オズもまた情欲をかきたてられる前に小刀を強く握り、切り傷を作ることで頭を平常に戻す。

 

 

「気色悪い…よがりやがって…。化物どもの魔法か?」

「王都の方からだ。姉上は、無事か…。」

「どうだろう。心配なら、任を放棄するもいい。化物よりも、欲に塗れた愚かな屑を殺したほうが、世のためになる。シウゼヴァクには、そんな屑がうようよ――」

「一先ずは、アレを片付けるぞ。」

「…そうしようか、『狂狼』オズ――何?」

 

 

 吹雪が一時的に止み、膠着状態にある戦場へと加勢に入ろうとしたその時。青い炎が噴き出す鎧が横入りした。

 

 討伐は一瞬だった。翼の生えた上位種は地面をうつ伏せの状態で引きずられ、肉のなにもかもがズタズタに裂かれた後。巨大な盾で叩き潰され、即席の墓を作られる。内に蠢く卵も皆殺すように。

 丸々とした騎士。鳥の意匠が刻まれたヴァルミ騎士であった。

 

 

「撃破完了しました。引き続き、シウゼヴァクへ最短で向かいます。」

「…待て、ヴァルミ騎士。」

 

 

 凄惨な現場を作り上げたにも拘らず、涼やかな調子で何者かに報告をし、噴きだす魔力によって地面から若干足を離す。何もしなければ、そのまま飛び去ってしまうのは明白だった。

 呆気にとられた様子で固まる、浄血の騎士と冒険者へ声をかける前に、オズがヴァルミ騎士を呼び止める。その騎士、「高速要塞」トスカは首周りの隠れた兜を横に振った。

 

 

「何か御用でしょうか。わたしは一刻も早く向かわなければなりません。師匠をお助けしなければならないのもありますし、手短にお願いいたします。」

「そうか。事情はどうでもいいが…王都に、何が現れた。上位種か?」

「ええ、そうです。何でも『蟲』が目覚めたとか。これでよろしいでしょうか。失礼いたします。」

 

 

 トスカは端的に返した後、ぐいと手に括り付けた紐を引き、そのまま地面を滑るように飛び去る。三つ数えたくらいで、トスカに引っ張られた巨大な橇がオズたちの横を高速で通っていった。

 

 オズの並外れた動体視力には、しかと映る。橇に乗った面々は一様に仮面をつけており、大事そうに、不可思議な仕掛けの為された武具を梱包していたことが。

 その場にいた人間は与り知らぬことであるが、その武具とは尖耳の上位種を狩った戦場に落ちていた戦利品であった。

 

 技術のためなら、戦場を漁る汚さも恥じぬ。ただ漁って売りさばくだけの盗人である「形見屋*1」よりはマシだと開き直れる図太さこそが、ヴァルミの技術神官たちの特徴である。

 

 

(……蟲だと。それは、おれたちが討つべき化物のはずだ! 姉上…!)

 

 

 胸騒ぎが抑えられず、オズは先頭を切ってシウゼヴァクの王都に急ぐ。オズの脳裏には、姉たるヨヌアの屍が想起させられていた。

 この世界の歪みは、隠しきれないほどに表層へ出始めた。封印されてきた禁忌から、徐々に漏れ出る。

*1
盗人猛猛しいを地で行く集団。洒落た服装に身を包んでおり、凄惨な戦場との対比が為される。「バックスタブレイブ」作中では、NPCが死亡した後再びその場所に戻ると出現しており、皮肉気な調子で武運を祈る。

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