裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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大言を現実とする

 蛆は臭気こそを好み、屍に植え付けた卵より出でる。一片の骨も残さぬほどの食欲であるが、寄生虫として宿主を全て喰らう最期の瞬間まで生かし続ける。痛みさえ麻痺するほどに激痛で自我を奪い、死を望もうとも地獄は続く。

 

 ミグゥニは虫と形容される種族の中で、突出した個であり群体であった。侵略種族らしく、それ自身が誇示しただけではなく、人類もそう判断したのだ。王を名乗ったそれは、自らより巨大な虫の侵略種族をいとも簡単に服従させ、手足のように扱う能力を持っていた。羽音、鳴き声、放出される鱗粉と服従させるための手段は多岐にわたり、更には人類の判断能力を奪う効果も秘めていたのである。

 

 個であり群体でもあるミグゥニは、本体の役割を担う個体が死んでも別の個体が継ぐ。どれだけ物質的距離が離れていても、同じ世界に存在する限り卵や蛆たちは、王からの継承を待ち続けているのである。

 尖耳も翼の生えたヴァルミラの眷属たちも、力を得るために虫を磨り潰したり、己の体内器官に継ぎ足す。ミグゥニの影響下に置かれることを知らず、無意識のうちに誘われているのである。

 ハルランは、エド、ケル、モユヌエと順々に目を見ながら説明していき、一度唾を飲み込んでから言う。

 

 

「――最も厄介なのは、奴が産んだ卵だ。侵略種族の中には虫を好んで喰らう輩もいて、そういった奴らはミグゥニに寄生された。自己強化などと言っていたな。…つまり、結界を再び塞いでから倒さないと、予期せぬ場所で復活する。予測だが、ほぼ確実なことだ。」

「…なるほど。しかしハルラン殿は、よく覚えているな。流石は天才たる術師だ。」

「ま、まあ…調べたのは私だから。結界の中に閉じ込めたのは、皆でだけれど。」

 

 

 エドの飾りのない賞賛に、ハルランは両足を擦り合わせ落ち着かない様子で答える。モユヌエはその生娘のような様子にじとりとした視線を一瞬だけ向け、その後に真剣な顔に戻った。

 

 

「…それでだ。モユヌエくんは私が教える通りに、結界の修繕をしてほしい。破られてこそいないが、術のほつれた場所から影響が出始めているみたいだ。侵略種族が集まってきている。」

「これまでにないほど奴らが周辺に現れているのは、そういうことなのじゃな…。貴女様は、エドワルドをどう動かすべきだと思われる?名のある化物と、大群。どちらも相手取らせられるほど、こやつ頼りではいかぬ。」

 

 

 モユヌエの、エドのみを頼るような言い方に当人は反論する。しかしモユヌエは己の言い放った言葉を正だと信じていた。

 

 

「モユヌエ殿。魔兵も冒険者も、貴女のもとに集った騎士たちだっているでしょう。俺やケル君と共に来た友もいる。」

「いいや、お主こそが要なのじゃ。…上位種殺しには、連携が常である。そのはずが…一人で複数を倒しきれるお主が出てきて変わった。お主の戦いぶりは戦士たちを鼓舞するじゃろう。」

「…命が惜しくないと思っていただけです。俺以上の実力者はいるはずだ。それに、定住しない傭兵程度が、モユヌエ殿が考えてくださっているほどにはなれません。」

 

 

 エドは青白く輝く己の兜を指で示し、その形状を物語る。リィートイにより古い魔力が注ぎ込まれていても、特別な形に変わってはいない。冒険者ならば誰でも購入できる兜であり、有象無象に紛れるという意味合いを持たせたままであると。

 注ぎ込まれた魂によってケチョウに似たモユヌエの美貌が、幼子が怒ったように膨らむ。その後彼女はエドに詰め寄り、胴鎧を指で小突きながら言った。

 

 

「もう、卑下はやめる! ヨヌアやオズだけでない。浄血の騎士に入った者の中には、エドワルドの助けになることを望んだ者もおるんじゃからな! 魔兵にも知る者はおる。少なくともこのシウゼヴァクでは、お主は要になれるのじゃ。」

「…ありがとうございます。」

「それで、ハルラン様。どうすべきだと思う。」

「……。」

 

 

 モユヌエが再度促すと、ハルランはしばらく考え込んだ後三名を掌で示し、意見を口にする。それは静観していたケルや一部の亡霊たちを動かすほどの意外性だった。

 

 

「外は私が引き受ける。エドワルドくんにケルくんは、ミグゥニを確実に撃破してくれ。」

「ええっ…! ぼくも…ですか?」

「そうだ。…あなたの望みを信じようと思って。この娘の成長が何より優先されることなら、ミグゥニを討伐することは大きな価値になる。侵略種族は、手の付けられないようなのばかりだから、手段を学んでおくべきだと思う。」

「エドさん…。」

「な…。これは実験ではないのじゃぞ!大勢の命がかかっておるのじゃ、被害を最小限にとどめる方法を取るべきじゃ!」

「しかし、未来の芽は育てないといけない。この天体はもはや、人類の楽園じゃないんだから――」

 

 

 モユヌエとハルランが考えをぶつけ合う中、エドは考える。彼はこれまで、この世界に来てから誰かの指示の元動いたことはなかった。志を受け継ぐことはあっても、己が判断できる最善を尽くし、自らの足を動かして事を為す。

 しかし今の状況では、二人の意見を自らの意思で選択しようと、他者に責任を押し付けることになるとエドは思っていた。

 彼は恐れている。ケルという希望が失われ、この世界の未来が暗闇に包まれることを。どこにいようと、上位種は襲い来る。友人たちの命と優先順位をつけるつもりは毛頭なかったが、全員を観測し続けるのは困難だ。

 ならば、自分が目の届く場所で力をつけていくことが最善なのか。これからすぐに始まるであろう戦を前にして、エドは決断することができずにいた。

 エドはケルと見つめ合い、不安げに揺れる幼子の瞳にまた心を痛める。

 そのとき、エドムンドの亡霊が語り掛けた。

 

 

『…エドワルド。怖がらなくても良い。こういう大事のために、僕たちがいるんだ。お嬢さん、教えた魔法はまだ覚えているかい?』

「うん…でも、あの魔法は亡霊さんたちが…。まだ、見たいものもしたいこともたくさんあるはずなのに…。」

『僕が総意ではないけれど…還ることを忌避する人はいない。そもそも意識を保てていることが奇跡的なんだ。ただ嘆くより、未来が見たいと再び願えただけで救われているんだよ。』

 

 

 ケルは言葉を濁し、エドムンドは少女の優しき真意を察して返す。

霊魂に関わる魔法とは、魔力以外のエネルギー体系、つまり「魂の運河」の一部を消費し、力を為すものである。つまりは亡霊の存在をエネルギーへと変換することになり、用いられた魂は運河へ還ることになる。替えが利かず、回数も限りある魔法なのである。

 エドも、何となく理解する。「バックスタブレイブ」の知識のみが確かでも、実際に魔法の理論を学び、行使する経験を重ねてきたならば、魔法の仕組みについても感覚的に把握できるのだ。

 エドは周囲の人々に視線を合わせていき、腹を決めてから声に出す。

責任を他者に委ねず、今まで通りに。第三者から見れば寝ぼけているような結論でも、エドは為し、裏切らないと決めたのである。

 

 

「――ミグゥニは、俺が。そしてすぐさま外に群がる上位種も全て、信頼している戦士たちと共に殺しきる。…ケル君、酷なことだが俺についてきてくれ。」

「…はい! エドさんと一緒なら、ぼく頑張れるよ!」

 

 

 決意を露にしたエドは、左掌をケルへと差し出す。力強く、そして信頼を込めた言葉にケルは大きく頷き、迷うことなくエドの手を握った。他ならぬ「救世主」が望むならばと。

 その繋がりは危うく見えて、しかしエドが揺るがぬ限り強く結びつき続ける。ハルランにより、纏わりついていた悪夢が晴らされたエドは、もう惑わない。

 呆気にとられた様子のハルランとモユヌエは、それぞれ驚きと呆れを顔に出したが、至った結論は同じであった。

 確実なものなど何もない。結局は討つことができれば良いのだ。

 

 

「その自信を、うちは待っておった。さあ、紛い物の竜の次は蟲の王を狩ろうぞ!」

「ふふっ、惚れてしまいそうだ。…モユヌエくん、紛い物の竜というのは?」

「オビシオンじゃよ。ハルラン様たちも、偽竜を幾度も相手したと聞いておる。残っておった奴らの内、一体をついに倒したのじゃよ。」

「……あの影を。エドワルドくんとモユヌエくんから、また聞きたいことが増えたな…。」

 

 

 その後も話し合いは順調に進み、元凶たるミグゥニ討伐のために詳細な段取りを取り決めていく。また事態を細部まで知る者を絞るため、モユヌエはシウゼヴァクに集めた戦士たちへ、表舞台での戦について話すことを決意した。そして「心臓の王」の帰還についても。

 

 

 

 

 それは突然のことだった。浄血を謳う騎士たちと、ラディアたち矛神が手合わせを行っていた最中だ。沈みかけの陽を、鳥の群れのようなものが覆った。

 それは数瞬の事ではなく、時を待たず夜になったかのように陽光を遮り続ける。ラディアたちは異変に気付き、ぶつけていた刃をぴたりと止めた。

 浄血の騎士が戸惑ったような声を上げる。ざわざわと焦りが広がっていく中、ラディアは兜の奥で目を凝らした後、淡々と大剣を磨いた。

 

 

「な…なんだ、あれは!」

「バカでかい虫だな。…おいお前ら、準備をしておけ。浄血なんたらもだ。すぐに戦いになるぞ。」

「あ、あんな量…どうやって倒すつもりなの⁉」

「…やるしか…ありませんよ、ミナさん。くそ…大母が離れられているときに…!」

 

 

 浄血の騎士の一人が、絶望しているミナへ声を振り絞るように言い、己の得物と左掌とを構える。

 異変に気が付いたのは、彼らだけではない。シウゼヴァクを守る魔兵たちも、馬に乗ったまま市街を駆け、王都民へ呼びかけていく。

 

 そのときだった。新たな異変が起こる。魔兵の一人が、何者かに貫かれたのである。純白鎧が血に染まり、下手人の槍が光る。それは、同じ「シウ・ゼヴァクの魔兵」、その一人であった。

 落馬した彼を石でも見るように放置し、狂乱したように同胞を刺し貫いた魔兵は叫ぶ。そして狂った魔兵は、数少なくとも徐々に徒党を組み、一つの群れをなした。

 

 

「王へ、裏切り者の血肉を捧げん!」

「再びの栄華を下さる、心臓の王のために!」

 

 

 狂いし魔兵の耳には、未だ囁きが残っている。甘く、心を欲望で溶かすような、偽りの導きが。

 かつて栄華の中心であった王都にて、悪意が暴走する。「月」が、巻かれる紛い物の愛さえもはねのけることが出来るか、愉しむように。

 思惑入り乱れる戦は、準備を待たず始まる。

 

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