裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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索敵完了

 俺は、越境組織が所有する木造の建物へ入り込んだ。

 見るからに荒事しかしなさそうなスキンヘッドの男性だったり、全身を灰色の服で覆う顔を隠した人間だったり、昼の街で遭遇すれば避けて通るような人間ばかりが集結している。

 

 彼らは「冒険者」。ほとんどが魔力を体内に蓄えられず、腕っぷしや物理的な技術だけを得意とした者たちだ。

 危険を冒し、獣や異相付きを狩って日銭を稼いでいる。俺はその中の一人に睨まれ、ふいと顔を背けられた。息があがっている。

 

 

「チッ……誰かと思えば、鉄塊野郎かよ。視線を向けるだけ、時間を損したぜ。」

「仕事終わりか?お疲れのところ失礼した。用が済んだら出ていくよ。」

「ああ、なんだあ?ふんっ…!こんなところに、わざわざ入ってきやがって…。」

 

 

 次に、横から目つきが悪い茶髪の彼が、ぼそぼそと俺に文句を言う。そして、卓を囲む冒険者たちとテーブルゲームに興じはじめた。

 彼とは以前、夜の酒場で同席した時、身の上話を聞いたことがある。口ではすごむが、それは日々を生き抜くための虚勢でしかないことも、俺は知っている。

 

 俺は休息をとっている彼らを刺激しないように気を付け、奥へと進んでいく。天井の隙間から日差しが注ぐ造りは、ここが隠れ家のようで、わくわくとした気分にさせてくれる。秘密基地というのは、男の中の童心をくすぐるものなのだ。

 ミナ、いや彼女自身から訂正されたためミウという。ミウは顔をくしゃりとして、俺に謝ってきた。

 

 

「ごめんね、エド。あいつら疲れてて気が立ってるんだ。あれ…あまり堪えてない感じ?」

「見ればすぐ分かることだからな。彼らも根は良いと知っている。」

「おお、い…!」

「ちっ……。」

「はーあ…。尊敬するよ、その図太さ。」

 

 

 俺の耳に、男女混合の舌打ちや苛立ちの声が入ってくる。大方持っている手札が弱かったのだろう。

 ミウは目を細めて、いいと歯を見せた。俺も、彼女の表情の豊かさにはすごさを感じている。

 

 図太いというが確かにそうだ。常在戦場の心構えでなくては、「バックスタブレイブ」の世界で生き残ることはできない。ただ怯えていては、嘲笑う死神の刃が首を狩る。

 エドムンドには申し訳が立たないが、時には大胆に口火を切り、考えを出さなければ。当人たちに聞こえていなくとも、言葉に出せば態度にもなる。冒険者たちへ鬱憤が溜まらぬようにするも、必要なことだと考えている。

 コルバの街は、「支配」の街。ゲーム開始時点、冒険者たちは無力で、安易な道に手を出すしかなかったのだから。

 

 ミウに向かって頷くと、彼女は首を傾げてから前を見た。だんだんと喧噪が聞こえてくる。これは野次馬が集まる喧嘩だ。

 荒っぽく手と暴言が出る喧嘩は、冒険者たちにとって日常風景だ。胸ぐらを掴み合うのは、体に刻まれた古傷を隠さない黒髪の女傑と、背が高い金髪の青年。いや、青年になりかけの、幼さが残る少年だ。

 そして間に入り、白髪まじりのがっしりとした男性が掌を揺らしている。優し気な男性は、仲裁をしようとしているようだが、二人の言い争いはどんどん熱が入っていく。

 

 

「――だから、お前はケツが青いってんだよ!そんな馬鹿みたいに突っ込めば、すぐ死んじまうってのが分からねえのか!」

「あそこで前に出なきゃ、きみたちが危なかっただろ…!」

「まあまあ、二人とも落ち着いて…。」

「うるせえ、そういうことじゃねえ。反省してろ、バカガキ!」

 

 

 女傑は、ばしりと青年の頭を叩いて立ち去る。しばらく彼は、頭を押さえ卓に両肘を乗せていたが、俺とミウが近づくとそれをすぐさまやめた。ばっと顔を上げて、意外そうな表情を作る。

 

 

「おお、ミナ。それにエドさんも!来てたのか…こんな珍しいことがあるんだな。」

「やあ…酒場で会って以来だね。旅の戦士さん。」

「…昼会うのは久しぶりかもね、ライト。こっちの騎士様が、あんたとハンスおじさんに会いたいって言ったから、連れてきたよ。ね、エド。」

 

 

 ミウの目配せに俺は頷き、同意する。俺は彼らに挨拶をし、断片的だが事情を黙って聞く。

 

 

「ああ。久しぶりだなライトラル殿に、ハンス殿。…今のは相当痛かっただろう。薬を買ってこようか。」

「いや大丈夫だよ。…確かにぼくが悪かった。だけど姐さんがあの突進を受けていたら…。」

「彼女も殴るほどじゃなかったと思う。…ライトくんが危険にあってほしくないだけさ。ライトくんは才能があるから、死んでしまったらって怖くなったんだよ。私はそう思う。」

「…姐さん。」

 

 

 まだ少年らしさは残るが、整っていて爽やかな容姿の剣士、ライトラル。そしてコルバの街で最も強い、相談役も兼ねる中年の男性、「鋼拳」のハンス。

 ミウと同じく、ゲーム内でこの街を支配していた二人である。

 

 どれだけ彼らが善性を持っているように見えても、見定めなくてはならない。

 そして、あのような悪人になってしまった理由を、見つけ出すのだ。

 

 

 

 それから俺はミウを交え、ライトラル、ハンスと雑談することにした。全員人当たりが良く、冒険者たちが集まる施設とは思えないほどに、穏やかな時間が過ぎていく。

 そう、良すぎるのである。

 

 まずライトラルについて。彼は名前通りと言っても良いくらい、人間性の光が輝く剣士だ。コルバの街の人間を守れることに誇りを持っており、腕っぷしも強い。それに現時点で数年後の顔立ちが想像できるほどに、顔が良いのである。

 人を惑わすのではなく背中を押してくれるような。女性主人公を選んだなら思い出の人になりそうなほど、全てが格好いい剣士である。

 その分彼からの「裏切り」は苦痛を伴う。整った顔は嘲りに満ちて、主人公たちへ自分の糧になるように叫ぶのだ。

 しかも「綺麗な街で一時でも過ごせたのだから、最期に見るには贅沢だっただろう」という旨を言い放ち、襲ってくる。

 主人公を案内したのは彼であったからこそ、裏切りへの悲しみは段違いであった。

 

 

 次にハンスについて。

 彼は特に人当たりの良い紳士的な男性だった。進んで主人公の相談に乗り、賜った使命の重圧や、友人たちのいる第二の故郷への郷愁の念を、心地よいタイミングで聞いた。

 そして年長者として距離感を誤らずリードし、現状の主人公へ最も効く激励を与えたのだ。甘い言葉ではなく、きちんとしたアドバイスである。

 多くのプレイヤーにとって、その時ハンスは、初めての信頼できる相手だったかもしれない。

 しかし夜、フィクサーとしての冷徹さを露にした瞬間、すぐ制作陣にやられたと気づくのだ。

 

 

「はは!流石腕が立つね。私はもうおじさんだから、そんなに飛び回ることはできないよ。…もうそろそろ潮時かな。」

「そんなことないさ!まだ誰も、ハンスさんに功績*1で勝てたことないんだから。エドさん、ハンスさんはすごいんだ!」

「ライトラル殿の言う通りだと、俺も思っている。獣を五体満足で狩り続けられるのは、並大抵の腕じゃない。」

「ははは…こんなおじさんをおだてないでくれよ、二人とも。それよりエドくんの話を聞かせてほしいな。滅多に会えないし、相当な実力者だと聞いているよ。ライトくんも、目標にするには最適な方だと思う。」

 

 

 ハンスが話の方向性をこちらへ動かしてくる。この街の冒険者における顔とも呼べる人材だ、話の流れを整えるのはお手の物なのだろう。俺も交流を進んで行っていれば、こんな風に自然に会話できるようにもなっていたのだろうか。

 

 大人数では進んで話さないのか、ミウはしばらく静かだったが、俺へじっと視線を向けている。ライトラルも青い目をキラキラと輝かせており、その純粋さにたじろいでしまう。

 だが、会話しているときに覗く気配や仕草こそが、彼らの本質を見抜く手がかりだ。俺は上位種との血生臭い話は避けて、旅の途中でどういった獣を討ったのかを話す。彼らの仕事にも通じる話だ。

 

 憎悪だけの、絶対に敵を殺さなくてはならない戦いなど、話しても得にはならない。

 過度な怯えを与えても、そうして出てくるのは人の本質ではないのだから。

 

 

 

 

 銀髪の少女ミナは椅子に腰を下ろし、騎士をぼうっと見つめる。騎士の話は、頭の中で整理すれば荒唐無稽なように思えるが、それが真実だと彼に対する知識と、感情で理解できていた。

 

 異相付きを剣を一閃するだけで倒すなど、ただの冒険者ではありえない。十数人の戦士が立ち向かい、傷だらけでようやく勝利を得るものなのだから。

 ミナが一方的に知るリシディア騎士団の騎士達だって、四、五人の小隊を作って対処する。

 

 だが騎士は月灯りのもと、異相付きを相手にしていなかった。

 ミナは見ていたのだ。二度目、仮名をエドとする騎士の戦いに相まみえたときのこと。

 獣のように見える化物相手に剣を振るう前、錯乱した異相付きを一刀で捻じ伏せていた。戦いが終わった後、弔いなのか、跪いて右拳を兜の前に持っていたことは、ミナにとって忘れられない光景である。

 

 

「…すごいな。エドさんが話を盛っているにしても…倒したのが本当なのは信じられるよ!エドさんの話、結構旅の人から聞いたりするんだ!」

(盛っているわけない、寧ろおさえてるんだから。このばか!)

「そうなのか…。…参考までに、どういう風に広まっているのか聞いてもいいだろうか。醜聞は広めたくない。」

(エドも乗っかって!そういうところも良いけどさ…!)

「…むう!」

 

 

 ミナは唇を擦り合わせるようにして唸り、目の前で繰り広げられる会話に不満を抱える。自分が話しても伝わらない。言葉だけでは騎士のすごさは表現できないのだと、歯がゆい思いをして。

 騎士がミナの様子を伺い、小さく声をかける。少女の想いには的外れだが、気にかけられることへの嬉しさが勝る。

 

 

「ミウ君、俺が話し過ぎてしまってすまない。ここを出たら、もう少し埋め合わせをしよう。」

「…そんなこと言っちゃってさ。とんでもないの欲しがってもいいのかなー?」

「それは困るかもしれないな。出来る限りで頼む。」

「あはは、了解です。」

 

 

 ミナは口端を吊り上げてから、騎士が顔の向きを変えると息をつく。

 彼女は騎士と会食をして、この短い間に、街を出る決意を固めている。それを後回しにしてしまうほど、騎士の話を聞いていたかったのである。

 

 少女の熱は一時覚まされる。越境組織の受付から女性の声がしたためである。

 朝昼夜と越境組織の職員は、休憩のためか人前から姿を消すことがある。つまり今彼、彼女たちが戻ってきたのだ。

 決まった言葉で彼らは言う。冒険者の日銭を賄う、荒事を持ち出すための定型文を。

 

 

「――冒険者の皆様、こんにちは。何かお困りのことがございましたら、カウンターまでお越しください。獣に付きモノ、何にでも色を付けた報酬が待っております。」

 

 

 ライトラルとハンスも反応し、ゆっくりと立ち上がる。ミナも騎士に手を振ってからカウンターへ向かった。

 休憩は終わり、彼らの仕事がまた始まるのだ。

 

 

 

 

 俺は、荒くれたちが群がるカウンターを眺める。バックスタブレイブの世界というより、ファンタジーを感じる光景に胸が熱くなる。

 これだ。こういう光景をリアルで見られたら、浪漫を感じるというもの。活気づく様を肴に、異なる世界を純粋に楽しみたかった。

 

 すぐに冷える。冒険者たちは最序盤、主人公から見ても強い人間の集まりだった。

 コルバの街はクソだったが、訪れる街ごとに魔力も扱える強者がいて、時に共闘したりもした。騎士団の人間より頭が固くなく、学院の高飛車たちより親しみやすい。

 

 裏切りや絶望は在れど、そういった少なくとも確かな絆が、プレイヤーの心を辛うじて保ってきたのだ。

 

 

 「バックスタブレイブ」制作陣は、何よりも外道である。主人公が絆を育んできた冒険者は、漏れなく殺される。実力をなまじ持っているがゆえに、中盤以降の総力戦に駆り出され、あっけなく全滅するのだ。

 序盤頼もしかった背中が、崩れ去る絶望。繋いだ絆が意味を為さないことへの、怒りと虚無感。

 

 そして怒りというのは爆発的であり。継続せず、次の裏切りや絶望に感情が持っていかれてしまう。彼彼女のためにと進めても、顔は地面を向いてしまうのだ。

 俺はその絶望を感じたくないし、主人公の勇者にも味わってほしくない。道半ばで立ち止まることがどれだけ甘く、より濃い絶望を身に刻むかを知っているために。

 

 

 しばらくすると、ミウが戻ってくる。ライトラルとハンスも一緒のタイミングでこちらに来た。

 仕事を取ってきたのか聞くと、少女は首を振る。そして掌を合わせて、ミウは俺へ願った。

 

 

「ハンスおじさんが、私たちに話があるみたいなんだよね。終わったらすぐ戻るから…そしたら別のお店回りたいな!酒場前で待っててくれれば、すぐ行くからさ!」

「ああ分かった。…だが、俺もやることがあってな。少し街を歩く。酒場には向かおう。」

「そっか…うん。じゃあお互い用が終わったら、酒場に集合ね。急な予定が入っちゃって…ごめん。それじゃあまた後でね!」

 

 

 ミウは最後の言葉だけ力強く言うと、二人の元に向かった。彼らの関係性は、個人のエゴ剥き出しなゲーム中では、考えられないほど深いようだ。

 聞いたところ、年長者であるハンスは二人の教導も受け持ったことがあるのだという。俺は人物が人物であるため、非常に気になったが、魔法による感知を強めることで間接的に知ろうと考える。

 

 もし、化物に今の時点で繋がっているならば、俺の元に気配が届く。人類を見下しすぐに殺したがる、上位種の悪意が。

 

 

 

 

 越境組織の施設を離れた騎士の推測は、ある意味で部分的に当てはまっていた。

 施設の奥部。通称を付けられた、限られた冒険者しか立ち寄れないような部屋。茶に白が混じる短髪の男性は、後ろ手にドアを閉ざした。

 

 ミナは、ハンスのその動きに嫌な予感がする。こちらをまるで逃がしたくないような、普段の温和な様子からは考えられない雰囲気も漂ってくるからだ。

 少女に付いた古傷が疼いている。少女は獣を恐れ、それでも出自故にそれを狩るしかない。だが、何故この場所で、痛みを伴う心的外傷が湧き上がってくるのか。

 

 彼は、少女にとっての恩師であるはずなのに。恐ろしく、口さえきけない。

 

 

「ハンスさん、大事な話ってなんなんだ?今日は珍しいことが立て続けに起こるな。」

「はは、確かにそうだね!でも今日は、二人にとって忘れられない日になるはずだよ。勿論いい意味でね。」

「ハンスおじさん…私、もういいよ。おじさんのことだから、『ちょっとしたいい出来事』なんでしょ?今日私やることあるし。」

「そう、ちょっとしたことでもある。だから聞いてからでも…すぐエドくんのところへ行けるよ。」

「な、なんなの…。」

「……。」

 

 

 ライトラルがさっと左腕を横に出し、無言でミナに目配せする。明らかにおかしいと、明るく少し抜けているが、この街一番の剣士たる青年には分かったのだ。

 ミナは体を縮ませ、ハンスの言葉を待つ。すると男性はいつもの優し気な調子で、話し始める。その声音では考えられないほど重く、諦観に満ちた話を。

 語り出しはこうだった。

 

 

「――二人は、今の『越境』についてどう思う?」

 

 

 話している間に、男性の背後から小さな影が出でる。

 それは少女にぞわりとした寒気を起こさせた。少女は、それらに今の自分を形成するほどの、恐怖を植え付けられたのだから。

 

 

『…なあ。この俺が、お前らの望みをかなえてやるよ。ちょっとした対価で…ハンス共々、強いお前らには特別だ。』

 

 

 まだ若き二人は、男性とその影の言葉を聞き、じっと固まる。

 それらの言葉は、人を惑わせる魔力を秘めていた。恐怖に震え、何の支えもない人間には、自身の結末が分かっていたとしても、縋ってしまうほどに。

 

 

 しかしながら、小さな影にとっては不都合なことが起こる。

 

 雲一つない空に。そして静かな水面にも、月が昇り出た。

 

*1
越境組織の依頼を達成することで得られる貢献の数値。上がれば上がるほど、越境組織の中で待遇が良くなる。

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