裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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飛翔

 月が凝視する中、英雄が空を蹴る。そして弱点たる関節や翅を狙っては、黒い体液が雪に落つ前に、紅の光によって清めていく。

 

 古い竜が己を倒した勇士へ名誉として授けた双角、それだけでなく知性を持ったヒト以外の種族の遺物は、代々「最も強き者」へ継がれていた。

 やがてゼシニスで継承の文化が形骸化し、数々の業物が消失しても、矛神教だけは忘れることを拒み続けている。

 格上殺しこそ英雄の証拠。それを為した矛神の源は、力だけで竜擬きたちを幾多も潰したのだから。

 

 竜角からなる巨大な剣は、獲物を断つたびに黒血を吸い、更に血を求めて脈打つ。

 矛神の団長であり、双子神教を束ねる主アデスは、呼応する戦友に歓喜した。もう、抑圧されるのは御免だと全て放り投げるように。

 

 

「儀を執り行う前に……丁度良い、腕慣らしが来た!」

『ギイイッ――!?』

 

 

 飛ぶ虫の上位種を足場にして蹴り潰し、次の敵を撃ち落とす。囲まれ、一斉に強襲を仕掛けられようと、アデスの全身から一気に放出される紅色のオーラが、外殻しか取り柄の無い虫を消し飛ばした。

 

 しかし、彼一人では空を飛ぶことは出来ない。アデスの背中にある術式が浮かぶ翼は、無双を約束する力の一端は、技術者によって支えられているのだ。

 

 

「それにしても数が多い…全く、腹立たしい…!…次の『矢』を準備しなさい!」

「十四予備隊が参ります!」

「十五も十六もだ!出し惜しみなどしている場合ではないのです!」

「は、はいい!」

 

 

 そんなアデスの飛翔を、神経質そうな男が苛々とした態度を崩さずに見上げている。その男、ヴァルミの最高司祭であるサイラスの指示により、魔力持ちの技術神官が入れ代わり立ち代わり巨大な魔道具の前にやってくる。

 そして『矢』と言い表された、魔力が強く込められた巨剣が凄まじい量空を舞い、虫の胴をがりがりと削る。弱ったところに追撃の矢雨が降り注げば、虫たちが忽ち墜落していくのだ。

 

 ヴァルミ騎士や、矛神騎士が撃ち漏らしを狩り、天地を支配する。一人一人は、総司令官ほどの力があるわけではない。

 それでも人は古来より群れることで、強大な獣を狩ってきた。シウゼヴァクに吸い寄せられるように飛ぶだけの的を、破壊するなど造作もないことだ。

 

 

 戦士たちの奮闘の最中、サイラスの視線は、アデス一人のみに注がれている。彼は魔道具である、薄く引き伸ばされた水晶をぐっと眉間に押し込むようにしてから、呟く。

 

 

「…当然です。ワタシの…ヴァルミの技術に、あの男の魔力総量……敗北などありえません。」

 

 

 魔力持ちであろうと非力で、術式の構築しか為せなかった男は、雄大さを見て酷く劣等感を覚え、それでも認めた。術さえ磨けば対等であれるとも。

 故に野望は燃え続ける。最強の戦士を己の知恵と術で従え、上位種さえ人類の天敵から引き下ろすことを望む。

 

 そして願わくば、己が為せなかった力の探究を、我が子が為せるようにと。

 欲望の権化にも冷血にも、一片の情はある。サイラスは一瞬だけシウゼヴァクの方向を見た後、頭に血管を浮かばせ怒鳴りながら指揮をとった。

 

 

 

 

 王都の美しい町並みは、もう崩れ原型が無くなっている。家屋は崩れて煉瓦が散乱し、逃げ遅れた民や戦うしかなかった戦士の遺体が炎に包まれて、刺激が強く不快な臭いが漂う。廃墟都市といっても差し支えないほどの有様だ。

 そんな中、モユヌエが最も期待する戦士ヨヌアは意識を失い、元魔兵のローズは完全に脱力していた。彼は揺れている。無力感と、体から離れない痛み、朦朧とする意識のために。

 ヴァルミ騎士トスカの両腕に抱えられている事も、関係しているだろう。彼は、滑っていく景色を呆然と眺めていた。

 

 

「――虫の密集している場所を叩くのは、我ながら冴えていました。敵の数を減らせて、あなた方を救助出来たので、正にウィンウィンというところでしょうか。それに加えて――」

「……あんた、随分落ち着いてるんだな。それとも、ヴァルミ騎士にはこんな悲劇当たり前だってか? ははっ……」

「いいえ、内心ざわざわです。師匠の居場所が全く掴めませんので。」

「…信じられんよ。あの『青月』の弟子がいるなんてな…。」

 

 

 戦闘の後、ローズはヨヌアを庇いながら、トスカからの話に知っている全てを返した。トスカは町の惨状に言及することは無く二つ、「青月」エドワルドの行方と、生存者の場所を聞いた。

 ローズが驚いたのも束の間、トスカは二名を抱えて救助に乗り出した。道中、意地汚く人間の血肉を舐める上位種を蹴り飛ばし、破竹の勢いで進んできたのだ。

 

 

「師匠は、許せないことに沢山の子を引っ掛け、弟子としてきました。その度、何回枕を濡らしたことでしょう――そんなことより、師匠の知り合いなら、あの人が行きそうな場所を、頭からひねり出していただきたいです。」

「無理言うなよ、嬢さん…。」

 

 

 トスカの口調は余りに平坦で、冗談か本気かの判別をローズは付けられない。だが感情が読めずとも、傷口の応急措置をしたうえで、二名の傷が開かないように動いているのは確かだ。その人間性から、優しく騎士像に当てはまる人間なのだろうと、彼はぼんやり思っていた。

 

 上位種へ奇襲を仕掛けて倒し、生き残った人々へどこに逃げればいいかトスカは指示する。その繰り返しは短いスパンで行われた。トスカが道を作り、彼女に付き従う技術神官たちが大量の人間を送り届けていった。

 

 

 そして彼女の救助の行脚は一旦止まる。逃げた人が行き着く先、何千何万も集っている場所を発見したからだ。

 力を持たないか、生半可な実力の人間は、不思議なドームに覆われている。リシディア教徒の使う魔法「感知の阻害」に見た目が似ているが、違う。半透明の表面には古い文字の羅列と、どろりとした紅色が伝っているのだ。

 ハルランの魔法、何一つ大切なものを守ることができなかったかつてを許せず編み出された、簡易的な結界の魔法である。

 

 トスカはその集団の中に、一際目立つ者を見つけた。暴力を体現したように激闘を繰り広げる戦士に、影のように黒いヴェールを揺らす者たち。純白を、狂った同胞のために赤黒く染めた魔兵などを。

 

 中でも、馬に騎乗しているわけでもないのに、頭一つ抜けて身長の高い戦士に、トスカは興味をそそられた。矛神やヴァルミに所属するなら誰でも覚えるであろう、既視感が呼び水であった。

 

 

「数は間違いなく減っている…!魔兵たちよ、まだ振り絞れっ!」

「はっ、王命のままに!」

「ふむ……ああ、ガルフ。ここにいたのですね。」

 

 

 集団の中には、トスカと同じヴァルミ騎士たるガルフが医療行為に励んでいた。もう一つ、トスカと連絡を取っていたヒューバートとその隊は、虫の攻勢を押し返すことに必死になっている。

 戦に参加する強者は己の力によって戦に勝ち、価値を還元するのが基本だ。ガルフと彼の隊の行為が特殊と言えた。

 トスカはゆるりとガルフに近づき、抱えていた二名を地面に降ろす。おおと軽い驚きを口にしたガルフは、次の重傷者へ視線を傾けた。

 

 

「トスカ殿!よく、安全な道を確保してくれた!同じヴァルミ騎士として誇りに思うぞ!」

「当然のことをしただけです。貴方ほどではありません。それでガルフ…貴方が使っているそれ、少し余ってはいませんか。」

「んん?この状況下では寧ろ不足するだろうが…トスカ殿も使いたいのか?」

「はい。魔道具は幾らあっても良いですし、一か所で扱うよりもばら撒く方が有用に思えます。…とっても、欲しいです。」

「ううむ…そうだろうなあ。斯く言う私も、魔道具無しの生活は考えられんよ。…ようし、貴殿のために奮発するとしよう!大事に使うのだぞ!」

 

 

 どこか呑気な二人の会話は、どろとした液体入りの小瓶をトスカに譲渡されることで静まる。トスカの立場は、守護ヴァルミ教を次の世代まで存続させる支柱であり、つまり期待の象徴であった。

 見た目は丸々として武骨さのある鎧でもヴァルミには中身が見える。直球にねだられれば、ガルフのように身内贔屓のきらいがある者は甘さを出してしまうのである。

 

 トスカは、一目で魔道具の有用性を見抜き、狙いを定めた。ザルディから持ち込まれた「血の魔道具」は、まやかしではなく人を延命させることのできる画期的な代物である。師が危険に晒されていた場合、弟子としての役目を果たせるだろうと。

 ちゃぷりと音を立てる瓶を、トスカは数本受け取り、その後に集団の中で最も特異な戦士に目を向ける。人を率いているなら、多くを知っているに違いないという根拠も何もない単純な思考で。

 

 ハルランが虫の上位種並びに、翼の上位種や尖耳の進行を防ぐのに躍起になっている中、トスカは素早く彼女の横に並んだ。

 そしてトスカが扱う中で、最も得意とする武装を右手に握る。柄が長く盾にもなるほどではないが太い棒切れ。振り下ろすことで強大な衝撃を放つ『判決の槌』である。

 トスカはその武装へ魔力を注ぎ込むことで術式を展開し、虫の大軍へ向けて叩きつけた。それによって多少勢いは削がれ、その原因たる人物をハルランが見るだけの時間が稼げた。

 

 

「失礼します、大きな方。加勢しますが、わたしの師匠がどこにいるか知りませんか?冒険者稼業をしている『青月』エドワルドです。」

「……おお、君からも『糸』が視える…!なるほど…師匠、師か…。」

「知っているのですね。ならばすぐ、行ける方法を教えてください。待ちきれません。」

 

 

 遠慮など無しに、トスカはハルランに催促する。その間も戦闘を継続できているのは、トスカの才能故か。

 本来騎士として叙勲される運命に無かった娘は、皮肉なことに戦いに誰よりも秀でていた。人の死やその臭いに悲嘆することが無く、真っすぐ目的だけを見据える。無駄を削ぎ落とした合理的な思考こそが、戦場で役立てるために。

 上位種の憎悪と抗う心を支柱とする戦士たちの輪を乱しながら、トスカは方法をせがむ。ハルランは切羽詰まった状況下で判断力が鈍っていたが、『ゼシニスの知恵』と名付けられた通称は誇張ではない。

 

 かかる時間と戦力の分布を脳内の算術で叩きだし、凡人の価値観では推し量れない結論を出す。疑心や証拠立てをするまでもなく。ハルランは超常の力無しで、素早く正確な判断を国の豊かさに繋げてきたのだ。

 戦までも、兵力さえあれば偉大な軍師になり得た。ハルランの考えは、モユヌエの判断思考さえも計画の内に入れている。

 

 

「――ラディア先輩。お先に行かせてもらいます。」

 

 

 ハルランが差し出した札を手に取り、トスカは彼女と兜の裏を見て示し合わせた後、前線を大剣一本で立ち回るラディアの背中へ視線を合わせた。

 

 ラディアは怒り狂っている。上位種への恐怖、惨たらしい所業に臆することを忘れ、ただ弟子に傷を負わせた仇を殺し尽くさんと。

 戦いが落ち着けば、必ず己と同じ道を行くだろう。トスカはそう予感し、ラディアへ気持ちだけ飛ばすと、背中の武装に火を吹かせた。

 

 戦場は地上だけではない。トスカは根本である上位種を討つため、師を誰よりも深く想うが故に降りていく。

 そして再び見ることになるのだ。過去、町娘に甘んじていた彼女を連れ出した輝きを。

 

 鍾乳洞が垂れる洞穴に、巨大な穴が空く。洞穴の中心にある結界、誰一人周りにいない不気味な空間へ、彼女は迷わず突き進んだ。

 

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