【一巻8月20日発売予定】裏切りや絶望が溢れるゲーム世界で、鬱展開全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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鈴を転がすような喜声?

「――良いお返事をいただけて、安心しました!」

「ではエドワルドさん。この事は私共から伝えておきます」

「ええ。しかし一部とは面識があるとはいえ……一傭兵に、ここまで話をいただけるとは。有難いことではありますが……」

「いえいえ……そんなことを仰らずに。守護ヴァルミの騎士を育て上げられた師を、ないがしろにする者などおりません」

「今後とも、結束が高められますよう。そして何れは、守護を担っていただければ……」

 

 

 ケルを待っている間に、技術神官たちとの情報共有を済ます事ができた。複数人が集まってきたため早くはあったが、途中から殆ど俺は話していなかった。

 トスカとの関わりを経て強く意識するようになったことだが、やはり守護ヴァルミは結束が強く、それを何よりも重視している。

 この戦いの後から随分態度が軟化してくれたことを見ると、彼らのお眼鏡にかなったということだろうか。トスカや、ここまで援軍として来てくれたザルディのガルフが働きかけてくれたのか。

 技術神官たちにまで内輪に入れられるのは、嬉しさはあるが不思議な感覚だ。

 

 特徴的な仮面を被った者、素顔を見せている者双方へ頭を下げ、介助に戻っていく彼らを見送る。教義が絡まなければ守護ヴァルミの神官たちは、利他の精神を持つ聖職者、医療者そのものであった。

 

 

 一度考える。元々俺たちは、双子神教の執り行う「儀式」のためにシウゼヴァクまでやってきた。しかしこの襲撃は、大きく予定を狂わせる劇毒だった。

 モユヌエたちに関しては別件だ。ラーマイマだけを考えれば、ラディアとケルの身の安全には変えられなかったからこそ、俺は応じるべきだと思ったのだ。

 

 そしてその二人は、新たな力を得た。ケルは「此の真意」を発現し、ラディアは「皚炎」をものにした。

 俺は地上に戻って見ることはできなかったが、民から多くを聞いた。ラディアが新しき「猛き戦士」として、上位種に大立ち回りする様を。

 もうラディアは、成長しきった。ドラクシエルの分け身などに負けないと信じられる。だからこそ今不安がある。

 

 

 俺は意を決し、野戦病院的な仮組施設の最奥、ラディアの寝ているベッドへ向かう。ミウにはまだ時間が必要だ。

 辿り着くと、案の定矛神の神官が手で制してきたが、白い布で幕が作られたそこへ声をかけた。

 静かだが、影はもぞもぞと動いている。彼が起きているのは分かっているのだ。

 

 俺もケルと同じだ。漠然とした安否を神官から聞かされるだけで、ずっと気分が晴れずにいたのだから。

 

 

「……痛むのか、ラディア。もう十日経った。皚炎の虚脱感については俺もよく分かっている。だが……顔くらいは見せてくれないか。俺たちは友人だろう?」

「…………友人だ? そんな、生温いもんじゃねえ。おれにとってはな……」

 

 

 ようやく返答があった。想像通り、彼は起きていたのだ。

 だが、白布越しに聞こえる声にいつもの調子はなく弱弱しい。それに何だか違和感を覚える。おそらく、兜を外したラディアの声を聴いたことがないからだろう。

 俺は近くの矛神神官と顔を合わせると、近寄ってもいいか尋ねる。必死で首を振る少年は、ラディアに強く言い聞かされているのだろう。

 だが次に意外な言葉が飛んでくる。そして次には、更なる衝撃が俺を待っていた。

 

 

「いえ、でも、司令官殿のご命令ですし……」

「……はああ。シド、開けていい。くそ、毎日毎日来やがって……! いつまで経っても、兜も鎧も寄越しやがらねえしよ!」

「は、わかりました……!」

 

 

 吊るされた白布が開かれた先には、燃えるような赤髪の美しい女性が、布団にくるまっていた。一見中性的だが、顔と体の骨格からすぐに分かる。肌には()()()()()()()、不貞腐れたような表情を浮かべている。

 

 

「……何だよ。そんなに珍しいかよ! だから、あんたには見せたくなかったんだ! うう……おれが戦ってきた証が、こんなツルツルになっちまって――」

 

 

 その女性が腕を擦りながら言葉を放つことで、一瞬放心しかけた俺の思考が戻る。確かにどちらでもあり得るとは考えていた。だが、二分の一を外すものなのか?

 勝手にではあるが、弟分のように思っていたラディアが。俺は、ラディアの無事が分かって安堵するのと同時に、過去のやり取りが浮かんでは消えるのを止められなかった。

 

 

「……ラディア、本当に申し訳なかった。償いは必ずする……ゆっくり休んでくれ。修練も体調が戻ったらな……」

「あん? お、おい――!」

 

 

 長い付き合いでこれなのだ。俺はまだ何か、とてつもない誤りを見逃しているのではないか。己の愚かさは、知識では埋められないのだ。

 

 

 

 ロオファとアルビンの見舞いは既に済み、ミウとケルのところまで来る。二人は粗方話し終えたようで、その余韻が楽しげな表情に残されていた。

 だが俺を見るなり、ミウの目は細められる。ケルの笑顔も少し、含むものがあるように。

 

 

「エドさん、お疲れ様!」

「お疲れ! 今日もありがと。……でもさ、ケルちゃんから聞いたんだからねー? 戦いのこともそうだけど……ちょっと無理しすぎ!」

「うん……? ケル君、何か誰かから聞いたのか?」

「もう! ほら、立ってないでもっと近くに来る!」

 

 

 ケルに問いかけると、ミウがぱんと布団を叩き俺を急かす。何のことかと耳を傾けると、二人の口から俺の最近の行動が述べられていった。

 納得はできる、だが反論はある。俺は二人に何も問題はないと言い聞かせた。

 

 青色の皚炎を習得してから俺は、更に体調が良い時間が増えた。上位種を相手にするなら、夜型に傾くのが当然の流れではあるのだが、二日三日経っても疲れが来ないのだ。

 言葉に出せば失礼だが、リィートイやモユヌエのような古い猛き戦士が、どんな生活をしても万全でいられる理由が分かった気になりもした。

 

 俺に時間はない。それこそ、上位種が作る絶望を全てぶち壊すまでは。副産物ではあるが、これはきっと最も有用な、足りない時間を補うための持久力を手にしたということなのだ。

 

 

「――あああー。ケルちゃん、縛り付けてでも一緒にいてあげてね。治ったら、私も何とかするから!」

「うん。エドさん、一旦哨戒するのは別の、魔兵さんとか騎士さんに任せようね」

「…………ああ、すまない」

 

 

 俺の左肩をケルが、右肩をミウがぐっと掴む。平時朗らかな二人から、振り払えないプレッシャーを感じた。

 肩が落ちる。現状の俺は空回りでしかないのかもしれない。

 

 

「でも体は元気そうでよかった。後心配なのは……そう。私、少ししか分からないんだけど……リシディア教の教典で有名な、『救世の夜空』っていうの。――エドなら知ってる?」

 

 

 ミウは首を小さく傾け、俺に問う。彼女の瞳は俺の「払暁の衣」に隠された胴鎧に向けられていた。リィートイによって青白い光沢を新たに灯せども、リシディア騎士の由来を。

 

 俺の「バックスタブレイブ」の知識と、エドムンドの肉体に残る記憶がその答えを選び出す。

 それが何を示すのか。リシディアを主とする者たちの教典に、上位種の息がかかっていないとどうして言えようか。

 やはり、なぞるだけでは上手くいかない。次から次に、この世界は悪意を送り込むのだから。

 

 

 

 

 ここ数日だけで、魂のコテージでは修練の種類が充実していた。全てこの特殊空間の実質的な主であるハルランの業によるものである。

 現在、ヨヌアたち群青血の騎士団――復帰した四名――と志願した「シウ・ゼヴァクの魔兵」たち九名、計十三の戦士は合同で、作り出された仮想敵相手に攻撃を仕掛けていた。

 

 

「『潮の沈』――ああ、そっちに行きましたよ!」

「分かってるわ! 暴れろ――そこ! 『暴風の銛』」

「回路展開――」

「散開して、群青血に加勢だ! く……騎乗戦無しでは、この体たらくか……!」

 

 

 単体での戦闘能力が高い熟達の戦士、もしくは世の理を人より多く解き明かした秀才が集められた「群青血の騎士団」においては、即席の連携を取ることでも上手く意図が伝わる。

 

 反対に魔兵の面々は、手間取っている。彼らは国の兵士だ。幾ら辺境の術師とは統率力・魔力量に差があったとしても、その強さは武具が大きく依存している。

 魔術回路が組まれた絡繰りの馬に、巨大な馬上槍。それらを取り上げられ、そもそも数が少なく、魔力で具現化した武器だけで戦うには心許なかった。

 加えて、ヴァルミラの眷属たちを形だけ模した仮想敵は、虫たちほどではないが戦士の恐怖をあおる。今まで経験したことのない上位種の大軍との戦闘は、確実に戦士たちの心を一度ぼきりと折っていた。

 

 しかしこれは、訓練である。死ぬことは無く、限界まで魂に疲労を与えてはピタリと止まる。これらの幻影を操るのも、またハルランであった。

 

 

「……かはっ! はああ、はあ……」

「化物め……上位種め……!」

「そうだな……動きはよくなった。だけれど、あまり時間はかけられない。老骨を表に出す前に、君たちは狩らねばならないんだ――ゼシニスの膿出しを」

 

 

 ハルランは標を聞かせ、戦士たちを奮い立たせる。白銀の隊商が到着するまで、この修練は続いた。

 

 

 

 

 夜、シウゼヴァクの王都に辿り着いた白銀の隊商は、快く迎え入れられる。

 

 馬車から降りる三名は皆、豊かな白銀の長髪を月灯りに反射させた。少年と少女二人であるはずが、誰が少年か傍から見たら分からない。

 

 白銀の髪は、騎士鎧の色が示すようにリシディア教において吉兆とされ、その故があってか貴族に多く見られる特徴である。だからこそ、その三人の内一人の顔から影が除かれた瞬間、かの騎士はすぐに気づいた。

 

 騎士と神官の制止を振り切って、ぱっと駆け出しエドワルドの元へ、聖者は近づく。

 彼女は熱の込められた視線でエドワルドを見上げ、その後祈るように両手を組んだ。

 

 

「またお会いできましたね。エドワルド様。血赤の地獄から、ようやく現世で――」

「今日は驚いてばかりだ。ご無事で何よりです――オデット殿。それに……来てくれたんだなアイナ。ほっとしたよ。ありがとう」

「エド、先輩。ああ本当に、良かったです……! 反応が無くなってから、気が気でなかったんですから……!」

 

 

 エドワルドはふっと息を吐くと、駆け寄った少女に一礼し、次に護衛の司令官の一人アイナへ声をかける。

 下からじっと見つめる視線があるにも拘らず。涙を目尻に浮かばせ笑うアイナと対照的に、聖者の口と瞳は乾いていた。オデットの掠れた囁き声も、木枯らしと誤るほどに。

 

 

「…………君、約束を忘れてはいないな」

 

 

 もう二人、鈴声の聖者の少年少女はどろりと濁った瞳を、彼へ向ける。

 エドワルドは近くに来た少女ではなく、二人を危惧した。

 彼は知っている。偽女神の尖兵が監視する別空間にて、聞いた名によって後に気づき、今の喋り方に確信したのだ。

 

 リシディア教において、各地を巡り守る白銀鎧の騎士は、清涼剤としてプレイヤーに愛された。だが、聖都にいる教徒が同じ志を持つとは限らない。静かに、エドワルドとオデットは目配せをする。

 だが結局のところ、エドワルドからオデットへ向ける信頼は、彼が思うほど絶対ではない。

 オデットは二度も魅せられたのだ。地獄のような世界で眩い月、上位種を討ち取った車輪の輝きとを。

 

 天使のハンド・ベルは、狂気に満ちている。どちらに転ぼうが音は鳴る。

 

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