【一巻発売中】裏切りや絶望が溢れるゲーム世界で、鬱展開全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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大胆な作戦?

 シウゼヴァク王城、バルコニーにて。エドワルドと騎士エルマの「手合わせ」の末を見届けた、新しき王ハルランは、隣に座る妙齢の女性へ独り言のように話す。最近までシウゼヴァクの女王であり、今は王妃として支える指導者である。

 ハルランは、頭の中にある古い知識とのすり合わせを行っている真っ最中であった。

 

 

「これがリシディア教の騎士……か。術の理論が、精霊騎士そっくりだ。矛神の戦士にも近く見える。信仰の仕方が似ているからか――ヴァシア、リシディア教について明るかったりする?」

「はい陛下。書庫にある文献の範囲であれば、お答えできます。……代わりにその精霊騎士とは何か、ご教示いただけないでしょうか」

「助かるよ。全て目を通すには、まだ時間が必要そうだから。互いの知見を交換するとしようか」

 

 

 ヴァシアと本名で呼ばれた女性は、純白のドレスをさっと正し、まずハルランの話を傾聴する。

 彼女に付けられた名前は、遠い昔ゼシニス防衛戦で、若くして命を落とした初代女王と同じである。その勇猛を末代まで称え続けるために。

 

 

 此の地には、かつて人以外の知的種族がいた。ハルランの秘術たる融解魔法が示す通り、巨大な獣や虫が人と同等の知性を持ち、戦の果てに歩み寄ったのだ。

 その一種族に、「精霊」と呼称される存在があった。実体を持たず、人類からの呼びかけに応える魔力の塊。此の地の法則を基に生きる、植物と動物の中間のような命だった。

 ゼシニスより大きな地ウルグストフ大陸において、それらは人を愛し、見返りに奉られた。

 

 精霊に愛された者は彼らの騎士となった。そして、最も多く精霊と寄り添った騎士は「勇者」と呼ばれたという。

 

 

 ハルランがここまで話すと、ヴァシアの様子を窺う。女神教の主の正体を知った彼女は、神などいないと考えていたために大きく心を動かしていた。加えて、既視感を覚える名称にも。

 

 

「そのような、神に似た存在が……」

「だがそれらの精神は、超然とはしていなかった。狂い、乱れ……最終的に尖兵と成り果てた。精霊騎士たちは、頼りにしていた精霊によって壊滅させられたも同然だった。グスタフの悲しみようは今でも思い出せるよ……ああ、グスタフというのは」

「存じております。グスタフ様も精霊騎士であられたのですか」

 

 

 ハルランは深く頷き、顔を清々しいほどに晴れた空に向ける。孤独が郷愁を育み、ふとした会話で意識してしまうために。

 

 

「これもまた、上位種の侵攻によって乱されたのですね……。貴重なお話を、ご教示いただきありがとうございます。では次は私が――」

 

 

 ヴァシアはよく通る声で、リシディア教に関係する史実を滔々と語り始める。

 古い話はシウゼヴァクの良くも悪くも変わらない体制によって、凍結されていたかのように保存されていた。高位のリシディア教神官や、双子神教の頂でさえ時の流れによって取りこぼしてしまった記録さえも。

 

 語られる女神教の長い歴史について要約すれば、リシディア教は元々一神教ではなく、四柱で構成されていたということだった。時代を経て、人同士の宗教戦争がおさまった頃には、双子神教に分け与えられるかの如くリシディア以外への信仰が薄れたのだと。

 

 古い時代、四柱の名はそれぞれこう呼ばれていた。「聖なる白光」リシディア、「血潮の矛」ドラクシエル、「真価の盾」ヴァルミラ。そして「治癒」のタレイム。

 

 リシディアを一番上に置いてこそいたが、信仰はばらけていたという。

 最後の名称を聞いた瞬間、ハルランの眉間に皺ができる。落ち着かない様子で頭の巨角を触り、ヴァシアに続きを促した。

 

 

「覚えがない名だ。四柱……なら、その『治癒』は語り継がれることがなかったのか?」

「陛下でもご存じないとは……。はい、しかし愚かしい戦争が影響しているかは定かではありません。失われたのは最も早く、リシディア教が創設されて間もなくだったようです」

「なるほど。その頃の文献を優先的に漁った方がよさそうだ……。ありがとうヴァシア、私は書庫に行くよ。双子神教の伝令が来たら、呼んでほしい」

「承知しました。来訪されたらすぐに、魔兵に伝えさせます。……行ってらっしゃいませ陛下」

 

 

 がたりと椅子を揺らして立ち上がり屋内へ入る巨体に、王妃がしずしずと後を追い、王座の扉前で頭を下げる。そして王妃は座して待つことにした。

 

 

 一人、城内を巡回している魔兵たちに挨拶をしながらも、ハルランは今後のことに大部分の思考が割かれている。

 ゼシニスの防衛並びに人類の生存圏の奪還を計画するには、まだ霧がかかっており見当違いの策を打ち出してはならないと慎重に。とにかく情報がいると、日夜慌ただしく過ごしていた。

 

 

(……エドワルドくんの気分の落ち込みがマシになったら、この事も訊いてみよう。盤外の知恵、それに彼の武……心苦しいけれど、彼には力になってもらわないと。見返りとして私が用意できるのは、紛い物の標的――)

 

 

 だが策よりもエドワルドのことが頭によぎる。常に遠くから見守り、それだけでなくコミュニケーションも取り続けてはいたが、彼の気分は晴れていない。憔悴しきった様子がこびりつくように感情を乱す。

 やはりエドワルドは戦果を誇る戦人ではないのだ。ハルランはまた面影を感じ、ヴォルグスを思い出した。

 

 その度、意識して片隅に置かれる。今も愛する同胞と、己の感情に熱を灯させるエドワルドの二人を。

 そうして思う、エドワルドを諫め、再起させることができるのは自分ではない。立場を抜きにして、親愛の情を寄せられる友こそが最適なのだと。

 

 エドワルドは望む未来のために根無し草であり、シウゼヴァクに永住することはありえない。離れる前に出来る限り、武を磨く一助を担うことをハルランは計画している。かつて対峙し一度は退けた最悪の敵、それを彼も知ればより強くなれるはずだ。

 それはただ死神と呼称されていた。

 

 

(いや。奴らのことさえも、エドワルドくんは知っているかもしれないな……。フフッ……すごく、君が欲しくてたまらないよ)

 

 

 押しとどめても、未知の魔法体系へ、エドワルドという個人へ狂わしいほどの知的好奇心を止められない。血潮に流れる竜たちは、獣らしさを秘めている。強き個にこそ、種の未来があると本能が囁く。

 

 

 

 

 デヴィーレまで連行された俺は客室に放り込まれた。リシディア騎士たちは手を振って部屋を出ていき、残ったのは俺とアイナだけになった。

 ここに来るまでに聞いたが、俺は周囲にいらぬ心配をかけてしまっていたようだ。からっとした性格のヨヌアにさえ負担を強いていたのだと知って、申し訳なさが湧き上がってくる。

 気まずい。久しぶりに友人に見せる姿が、こんなに情けないとは。

 

 俺は心をこめ、まずは目の前に座ったアイナへ謝罪した。彼女の美麗な顔、特徴的な瞳の下には薄っすら隈が浮かんでいる。とても他者のことに時間を割いている場合には思えない。

 

 

「……迷惑をかけてしまって、すまない。君の方が疲れているのに」

「いえ、気にしないでください! 寧ろ癒される……っていうか!」

「無理はしないでくれ。聖都でのことは知っている。大事を解決した後すぐ出動して、休む暇もなかっただろう」

 

 

 アイナの空元気に見える笑顔に、俺は更に心配が募る。

 俺たちがシウゼヴァクに着く前、聖都プシケニアムで尖兵が現れた。翼騎士、リシディア騎士の成れの果てである。これもまた知識にはない襲撃であり、その事件を知ったのはミグゥニとの戦の後だった。

 

 聖都に交流があるシウゼヴァクの民から聞いたことだが、アイナは先陣を切って、都に集った遊撃部隊や聖都在住の司令官たちと共に勝利を収めたという。つまり名誉を賜るべきであり、休息を取るべきでもあるのだ。

 それが、時期からして戦が終わってすぐに雪国へ遠征である。重役の護衛を任せられるには適任だとは言え、あまりにも黒すぎる。

 

 

「ううん! せ、先輩、苦労話は後にしましょう! 柔らかいベッドで寝るのが一番っす! 不安で眠れないなら、私が付きそうっすから……!」

 

 

 するとアイナは咳ばらいをしてから、身に着けている鎧を外し始めた。じれったいとばかりにかちゃかちゃと音を立て、平時の丁寧さとは違う。

 何だ、どういうつもりなんだと思考が止まりかけるが、その意味はすぐに分かる。

 

 

「…………分かったよ。これ以上面倒はかけたくない。眠らせてもらう」

「ふ、ふうー……良かったっす、分かってもらえて……。じゃああの、着替えてくるっす!」

 

 

 アイナは俺の頑固さに流石に怒ったようで、耳に赤さがあった。ばっと水汲み器のある部屋に入り、少しだけ開いたドアから手が伸びる。防具が次々鎧立てにかけられていった。

 

 次に俺の前にでてきた彼女は、驚くほどラフな服装を着ていた。それは彼女の私服らしく、新たな一面を感じさせた。

 俺は大きく息を吐いてから、考える。ベッドで寝ると言っても、それは一人のときだけだ。極力俺は兜や鎧を人前で外したくない。何故なら俺を俺たらしめるのは、この兜あってこそだからだ。

 亡霊として交流できている特殊な現状でこそあるが、エドムンドに罪を押し付けないようにしたいとは今も思っている。その事もあるし、今となっては兜があると安心できるという理由もある。我ながらエゴ剥き出しな考えである。

 

 ここで休息を取らなければ、まずい状況になるだろう。この少女が何故ここまで思い切れるのかは、今考えていられない。

 

 

「アイナ、君がベッドを使ってくれ。俺はかける毛布だけで十分だ」

「先輩……! 逃がさないって言いましたよね……!」

「……くっ……思い切りがいいのは長所だが、ここでは」

「大丈夫っすよ。先輩の分の着替えは、用意されてましたから。それに、不安でも私がついてるっす」

「……そうなのか。……用意周到だな」

 

 

 アイナが寄って、俺の腕を引っ張ってくる。今度は顔まで真っ赤だ。しっかりと鍛えられていることが分かる力強さで、抵抗虚しく立ち上がる。

 次に鼻を鳴らし、彼女の左人差し指が鎧立てを示した。こうなってはどうしようもない。俺は泣く泣く着替えることになった。鋼の硬さから離れ、心細さが骨身に染みる。

 

 

 しかし体は現金なもので、鎧を取った瞬間にどっと睡眠欲がなだれ込んでくる。不思議なものだ。やはり友人と共にいられるというのは、安心感を生むのだろう。ラディアもミウも療養中で、話すのに負担をかけてしまうと思っていたのも原因の一つかもしれない。

 

 そうだ、兜については枕元に置いておけばいいのだ。そうすれば安心である。俺は頭にしっかりと紐を結び、顔前に白布を垂らした。

 

 

「――本当にすまなかった、アイナ。先に休ませてもらうよ」

「え……エド先輩……。その布って……」

「ああ、気になるなら後で話そう。君の話も沢山聞きたい」

「……はい。ゆっくり、後でお話しましょう。おやすみなさい先輩」

 

 

 アイナに軽く返事をしてベッドに滑り込み、脇に抱えた兜をぽんと置く。すると一気に暗闇に落ちた。

 悪夢から解き放たれて、何も考えずにする久しぶりの睡眠は、とても心地良い。

 

 

 

 

 アイナが己の大胆な行動に、顔を熱くさせている中。モユヌエは、とある準備を進めていた。エドワルドの不安を取り除くための計画である。それは二つあり、後はアイナも含め眠りから覚めたら実行するだけである。

 

 

「よし……。して、お主。成果の確認も兼ねておるからの。結果次第で今後の任務も決まってくると思うんじゃぞ」

「りょーかいです! 二組織の顔として、しっかり好印象をば……!」

「いや、そこは意識せんでいいのじゃ。ちゃんと教えられるかが重要よ」

「それはもー。見てください。これの出来からして、完璧ですよ!」

「自信があってよいよい――」

 

 

 ぴしっと敬礼をして、小さな人影は荷台に手をやる。モユヌエも同じ形状の荷台を、一列になって押していった。

 計二つの人形が荷台に乗っている。

 一つは金髪でケチョウと同じ顔をした、いわば見慣れた姿の人形。そしてもう一つは、エドワルドの信頼する友人を模していた。灰色のサイドテールが、荷台が前に進む度揺れる。

 

もう少しで、本作を投稿して一年になります! そのため記念として番外編を書こうと思っています。気になる題目があればご選択ください

  • 古い時代を生きた登場人物たちの生前
  • エドワルドの友人たちを深掘りする話
  • エドワルドが来訪してから最初の一年の話
  • 本編で触れた巨大組織の深掘り
  • 本編で触れていない組織・領域の描写
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