裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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目的の達成は迅速に

 コルバの街を出てから、三月が経った。この数か月は、一体もしくは数体くらいであったため気持ちは楽な方だった。コルバで、あの獣皮の上位種を万全な状態で戦わせていなくて本当に良かった。

 万全であれば、奴が呼び寄せた複数の獣皮に囲まれ、その上で骸たちまで襲い掛かってきたはずだ。

 

 序盤に挑めばまず勝てない物量戦。負けイベなのに、本当にそのままバッドエンド直行なのである。一体でも上位種が加勢していれば、腕の一本は覚悟しなければならないほどの支配であった。

 

 奇怪であったり、何も知らない者から見れば話が通じそうな見た目であったり。上位種は、主人公の勇者とプレイヤーの心を折るために、様々な残虐性を発揮する。

 今は、馬車に乗っている間や倒した後の数日は休息できる。とはいえもうすぐ化物どもが、より活発に裂け目から出現するようになる。

 

 そうすれば街に滞在する期間も惜しい。魔力を切り詰める必要も出てくるだろう。

 限界を超えるような生活は、想像したくない。現実逃避のような甘えは、この地獄のような世界観では許されないのだがそれでもだ。今でさえ、一歩間違えれば重傷を負っていたであろう戦いがある。

 コンディションも十分でない状態で、奴らを追いつめられるだろうか。まだ一部の亡霊とコルバの街くらいしか、小石を除けていないというのに。

 

 

 俺は、先程の激闘で深く切り裂かれた兜を触る。これは斑点が翼に付いた、鳥のような上位種にやられたものだ。全身に「月融け」を使っていようと、倒す直前の暴走は受ける傷すら無視してくる。嘲りではない偶然の一撃こそ、何よりも脅威なのである。

 そして歌で惑わさず、鉤爪を使ってくる鳥の上位種は苦手である。猛禽類に似たそれらは、何が何でも獲物の血が見たいのだ。

 暴走とそれが持つ性質の併せ技により、俺が長年被っている兜に爪の形の穴が開いてしまったというわけである。

 

 俺は息を落ち着けると、エドムンドの鎧に触れる。こちらには大きな傷がないで済んだ。首を狩りたがる奴らの性質が幸いした。

 

 

(五体満足で、彼の鎧は無事。それだけで幸いだが…仕方ない。厄介になろう。)

 

 

 俺は兜に黒い布を巻いて取り繕い、その場しのぎとした。俺の顔とも呼べるこれは、器用でないため自分自身では直せない。鉄を打つなら、鍛冶屋へ。信頼している友に任せるべきだと思い立ったのだ。

 

 今護衛している馬車は、丁度友人がいる王国へと進んでいる。俺はしばし、数日ほどは上位種を狩ることから遠ざかることにした。

 俺がしたいことは、善良な人を助けるだけではない。勇者の身の安全を確認する。そのために勇者がどこにいるか、見つけ出さねばならないのだ。

 

 

(ルヴネト王国…。あそこの近くであってくれ。)

 

 

 俺は勇者の第二の故郷とも呼べるその王国、ルヴネトへ向かう。

 勇者候補として迎えられた時点で、他国の領地ではないはずだ。まだ外道が、王に成り代わってはいないのだから。そう俺は推測していた。

 ただ、何年も探しているのに見つからないのは、不安が勝ってしまう。だが希望の芽はまだある。

 俺が探した期間を換算すれば、二月くらいだからだ。二月で、この広大な国の領地を網羅できるわけがない。

 別の国の土地もそうなのは、一旦隅へ置いておく。目星のある場所を押さえるのは、人探しに有効的。

 もしルヴネト国にいないなら、別の場所を必死で探すだけだ。一年後の俺の状態とそう変わらない。

 

 夜、急ぐ荷馬車が走る。獣は、突き進む馬車を留めはしなかった。駆る商人に迷いが無ければ、人類の生命線とも呼べる、魔力の脚をした馬に追いつきはしないのだ。

 それでも追いつく角付きや脚付きを、俺は斬る。そして危険が去った後、しばしの休息を取った。

 

 

 

 昼に入りかけの朝。道中の真剣さはどこへやら、おどけた調子の商人から報酬を受け取る。護衛は成功し、彼が提示していた料金以上を上乗せしてもらう。

 周りを見渡せば、妙に活気がある。そのわけを商人が話してくれた言葉で理解する。

 

 

「すごいですな、傭兵さん!そんだけお強いなら…ここに来たのも、ルヴネト王の闘技に参加するおつもりで?」

「…いや、まだ彼の王の催しを楽しむつもりはないよ。報酬に色を乗せてくれたこと、感謝する。」

「覗いてみるのも面白いでしょうよ!そこで思わぬ知り合いがいたりだとか…へへ!」

 

 

 商人は指で、路銀を表す円を作る。闘技での賭け事にも手を出すとは、金の亡者といったところか。

 だが俺は、商人の人間らしさに寧ろ安心した。この道中、商人は一言も発さないほど、この輸送に力を入れていた。欲とは無縁かと思うほどに、果敢に馬を動かしていたからだ。

 

 俺は彼の望みに乗りかかるような形で話す。商売がうまくいけば、その分国は潤う。それが積もりに積もって、人類を守る壁になるのだと、俺は思う。

 

 

「…もし俺が、その闘技に出たならば。遊ぶ金全部賭けてもらって構わない。護衛として雇ってくれた礼にはならないだろうがな。」

「へへへ…期待してますよ。今回は、ありがとうございました。」

「こちらこそ、感謝する。それでは、またいつか道が重なったら。」

 

 

 俺は頭を下げてから、胡散臭い様子になった商人と別れる。兜を直してもらい、かつ時間が余っているならば訓練をするのも良いかもしれない。

 

 ゲーム中、主人公が五年の間育った国。陰りの一つもなく、お祭りムードだ。

 上がる旗には、筋肉隆々の現国王が信奉する「剣のドラクシエル」の絵が描かれていた。

 

 どの旧き上位種も、クズには変わりない。最終盤で主人公の勇者が戦ったときは、とんでもない失望を抱えたのを覚えている。

 それでも「武神」とされるそれの信奉者は、リシディア騎士団同様嫌いにはなれない。皆生き残ってほしかった。彼らが化物どもに殺される度、涙が止まらないほど、俺にとっては好きなキャラクターばかりだった。

 

 

「――せんぱーい!お久しぶりっす、先輩!」

 

 

 城下町の活気に気持ちを高揚させながら、友人の元へ向かおうとする。そのとき俺がよく知る声が近づいてきた。

 俺は振り向き、疑問を抱く。その少女には、いつも纏っている白銀がなかったからだ。

 吸い込まれそうなほど綺麗な藍色の瞳が特徴的な少女、騎士のアイナはにこやかに立つ。彼女は、どうみても騎士団のそれとは違う、鉄製の鎧に身を包んでいた。

 武骨な鎧も、アイナが着れば華がある。俺はアイナに挨拶を返した。

 

 

「この時期のルヴネトに来るってことは、勝ち進むつもりですね!」

「久しぶりだ、アイナ殿。先ほども同行した商人に言われたよ。だが、戦うには準備が足らない。だから今回は、出られるか分からない状況だ。」

「ああ、そうですよね。申し訳ないっす…。」

 

 

 するとアイナは眉を下げ、明らかに気分が落ち込んだという表情を作った。俺は胸が痛む。期待していたことを取り上げられるなんて俺が「裏切った」ようなものじゃないか。

 頭を押さえていると、アイナは続ける。

 

 

「お聞きしてもいいか…。その、エド先輩の兜に理由があるんですか?」

「その通り。少し手間取ってしまって、兜を抉られた。…アイナ殿が鎧を変えているのは、やはり闘技のためか。貴女の期待に沿えず、すまない。」

「確かに騎士団とは違うように見せるためですけど…そんな、謝らないでくださいよ!エド先輩が出られなさそうなら、その代わり一回戦だけでも観に来てほしいっす。結構やるんすよ、私!」

「ああ…必ず観よう。」

 

 

 アイナは二の腕を叩き笑った。俺はアイナの、表面だけでも笑顔を作る姿が、更なる胸の痛みを呼ぶ。

 何故こういう時に限って、催し事があるのか。俺にとっては、出ない方が都合が良いとはいえ、知人の期待に沿えないのは苦しい。何とか時間を工面できないものか。

 頭の中で、立てた予定を洗い出していると、またしても背後から知る声が聞こえる。伸びる手は、ぱしりと俺の肩を掴んだ。

 

 

「エドっ、一月ぶりだね!」

「おお、ミウ君。もう一月か。…この人の多さでよく俺を見つけられたな。」

「反応薄くない?私、エドと会えなくて寂しかったんだけどなー。」

 

 

 首を下に向けると、わざとらしく片方の頬を膨らませる少女が見つめていた。俺が発った後、彼女も宣言通りコルバから出たようで、俺が思っていたよりも頻繁に会うようになっていた。

 立場も性格も関係ないが、アイナがもう一人増えたような感覚だ。アイナと違い、明らかについてきているのが分かる。「旅の冒険者」とはよく言ったものだ。

 

 しかし俺は、ミウの日に日に力が伸びている姿に驚かされている。

 会話とは別で、ゲーム中ではありえなかったIFを見せてもらえるのは、俺にとって刺激になっていた。彼女のように、生きて別の道を人々へ行かせることができるのではと、希望を感じさせてくれるからだ。

 

 ミウと会話していると、アイナからプレッシャーが漂う。騎士として高め続けた魔力。市井で出して良い敵意じゃない。俺はアイナに向き直ると、彼女が指さす方を見た。

 王都ならではの高めな料理店である。

 

 

「先輩…来てくれますよね?」

「…ああ。だがおさえてくれ。通行人が怯えてしまう。」

「え…エド、行っちゃうの。騎士様は仕事が大変なんだから、別のお店見ようよ。」

 

 

 ミウの掌の力が強まる。二人が偶然出くわしたときから、常にこの状態なのだ。

 年頃の少女の機微は分からない。二人とも人との交流を得意とするのに、どうして威圧感を放つのか。それとも、全くの知らない人間相手だと出ない顔見知りが、作用してしまうのか。

 ゲームと現実的なこの場では勝手が違い過ぎる。勝手にキャラクター同士が話すというのも一部ギミックとしてあったが、それはそれとしておく。

 

 

「もういい。二人とも、あそこで近況も聞かせてくれないか。騎士と冒険者には、繋がりがあるだろう。顔を合わせる度にいがみ合うべきじゃない。」

「ええ、分かりましたよ先輩。それじゃあそこの、ミウさん――」

「私の名前、ミナだから。忘れないでね、騎士のアイナ様。」

「はあ…そうですか。分かったっす。ミナさん、先輩から離れなくてもいいっすから、一緒に食べましょう。」

 

 

 流石アイナの大人びた対応に、俺は彼女への敬意と、自身への情けなさを感じる。化物殺しで人との交流がほぼなかったことが、ついに災いしたのだ。

 最近は数日に一回くらいしか声を発していなかった。言い訳だ。

 

 アイナが先行し、俺とミウが彼女に続く。

 同じ卓で飯を食べさえすれば、態度も軟化するだろう。俺は兜の修繕についてを午後に延期し、何とか気持ちを前向きに持っていく。

 

 

 俺の中の決めつけは、強ち間違っていなかった。寧ろ、大成功だったと言っても過言ではない。

 アイナは、ミウの通称を知っていたのだ。「張り付く影」は斥候として優秀であり、騎士団の調べにも乗っていると。

 そこからミウが心を急速に開き、「騎士様」という慇懃無礼な呼び名を止めた。彼女たちは隣に座っていたために、二人だけで会話することもあった。

 

 

「アイナさ…言った方がいいと思うけど。言い出さないとずっとあのままだよ――」

「あなたに言われなくても分かってるっす――」

 

 

 目の前で次々消えていく料理を見て、彼女たちの仲の深まりに喜んだ。

 俺は不安だったのだ。いくら二人が善人であっても、立場に縛られてしまうのではないかと。だが聞こえてくる二人のひそひそ声は、切れぬ信頼が芽吹きそうな予兆を感じた。

 実力者は固まり、脅威へ対抗すべきだ。俺は、会うたび力を増す二人が手を組む姿を想像し、頼もしく思った。

 

 

「――ほら、見て!戦い以外はぽやぽやしてるんだから!」

「く…ええいつか…。いつか踏み出すつもりっすから――」

 

 

 そうして俺は、彼女たちが食べた分の料金を全て払った。路銀は減ったが、元より友人に修繕してもらうため多めに貯めていたのだ。

 結局のところ報酬は、武器と日持ちする食物、ソヘネーの街並びに支援が必要そうな孤児院の寄付などで消える。俺はもう遠いあちらで言う「宵越しの銭は持たない」の最たるものだと自負している。

 

 

 

 

 日中の騎士は、数奇な運命によって出会った二人の少女の話をじっくりと聞き、そして別れた。アイナは騎士の前で緊張し、定期報告のような話になり。ミウの場合は、困難な旅の中で一粒あった喜びを語った。

 

 その街で会合しようと、それぞれにはすべきことがある。騎士は手を振ってから、淀みなくルヴネトの城下町における陰へと歩いて行った。

 祭りによる喧騒は次第に遠くなり、もはや人が不在であるようにも思える町の隅へ来た。騎士は並ぶ店の一つに近づき、硬い手甲で扉をノックする。

 

 ぎいいと音を立ててその扉は開き、騎士の視線の先に気だるげな幼子の姿があった。騎士は店番をしているだけのように見える幼子の前に立ち、一言告げる。

 

 

「リィートイ、依頼だ。」

 

 

 目を細めながらも騎士の様子を伺っていた幼子は、ぐいと背を伸ばし。紅葉のような手を、ぽんと騎士の手甲に置いた。

 

 

「おう…よく来たな、エドワルド。あーあー、随分とひどくやられちまって。」

「鳥に掠られてな。情けない話だ。」

「どうせ複数にやられたんだろ?奴らがよくやる遊びだ。…わたしに任せておけ。」

 

 

 幼子の声は間延びしているのに、騎士は体を引き締めた。その最後に発せられた言葉はずっしりとしていて、感情を動かされたからだ。

 

 

「…ありがたい。やはり貴女に頼むのが最適だな。」

「おいよせよ。じゃあ、そこで待ってな。」

 

 

 幼子の髪は柔らかくも、騎士が知る少女ミナのような銀の煌めきはなく。側面で長く一つ結びにしたそれは、降り積もる灰のようにくすんでいる。目の色でさえ灰に染まった幼子は、炉に熱を灯した。

 騎士が、自身にあえて付けた偽名を呼び彼の兜を受け取る。騎士の顔は既に、白く分厚い布で覆われていた。

 

 暗がりに重い音が鳴る。ひそかに鍛冶屋を営む、幼子のような人間は、騎士の信頼している友の一人であった。

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