【一巻発売中】裏切りや絶望が溢れるゲーム世界で、鬱展開全てぶっ壊す 作:棘棘生命
皆が泊まる宿に窓から滑り込んだ。二階くらいなら力めば跳躍できる、以前なら鍛えてどうにかならない筋力だ。「猛き戦士」というのは、修行を重ねれば一体どれほど強くなれるのか。
人のいない部屋に、ぽつねんと大きな人形が置かれている。鎧傀儡は戻った俺に首を傾けた後、また角度を戻した。
『戻られたか。ウォッムスロに着いてからも忙しそうであるな、青月殿』
「……ええ。知らない裂け目が多いもので」
『盤外の智慧あってさえもか。しかし智慧に頼り切らぬその心意義、あっぱれよ! 私も助力したいが、生者の皆々に勘付かれるのは、貴殿にとって面倒なのもよく分かる』
「お気持ちだけでも有難い。運河に還られるその日まで安らかに過ごしていてください、デリク殿」
『ううむ、私のような暴漢に気遣いなど不要だぞ』
鎧傀儡は腕を組みしばらく俯く。表層に本来の彼が現れた人形はそして、突然がばりと頭を上げた。非常に興味深い話題だったが、途中でエドムンドの声音に変わる。まるで電話を取り合っているみたいである。
『ああ、青月殿にもお伝えすべきか。近頃、還るだけが定めではないという話が――』
『――それはこっちの話だ。すまないエドワルド。聞かなかったことにしてくれ』
「……分かった」
沈黙がしばらく鎧傀儡との間に流れる。俺が気になるのは一つだ。
「因みにそれは、エドムンド君たちの利になる事か?」
『それは勿論、良い方向さ。きっと君にとってもね』
「……そうか。なら良かった。あの夜の言には、何というか諦めのようなものを感じていたからな。他の亡霊の方々にも同じように」
『古い亡霊ほど知恵があってね、策は思いつく。でもあまり死者を気にしすぎるなよ、エドワルド。数が多かろうと、所詮未練だけの残り滓だ』
「そんなことは――」
鎧傀儡は昇る陽を指さし、続ける。化物が現れるからと夜に囚われてはいけない。人が生き、言葉を交わすのは陽の元なのだからと。
その通りだと俺は思った。
無辜の人々が上位種や賊などによって、冷たい夜に取り残されないようにしたい。俺の原動力はそこにある。だが掬い取りたい存在に優先順位を付けられるほど、非情になれないものだ。
考えなしの代償は高くついた。ウォッムスロ国中央に来ても、俺の存在は知られてしまっていたのだ。アイナに生地を選んでもらった「払暁の衣」も意味を為さないほどである。軽い認識阻害の効果だけでは、姿を隠しきれないらしい。
地鎧竜が目立つこと、連れ立つ友人たちが人目を引くことも要因だろう。皆顔立ちが美しい。トスカもエドムンドとの関係を知ってからは、なるほど血筋だったのかと納得がいった。
ケルに至っては装備も目を引く。勇者の母数が少ないうえに、退けてきた脅威も知名度を上げているからだ。
少し歩けば、ルヴネトの勇者だとすぐ認識されるレベルである。もうケルの主人公ロードは、本格的に始まっているのだ。しかも多くに望まれた形で。
知名度向上による上位種の脅威は気にしなければいけないが、これほど嬉しいことは無い。
そこまで考えて、俺は思考を戻す。亡霊たちに向けて今後を話しておくことにした。
「ケル君が起きたら学院に向かう。第三学舎がどれだけ信用できるかは分からないが、もし疑いが晴れれば貴方方の知恵を集わせたい。優秀な術師たちが、大陸を守る要になってくれるはずだ」
『同胞が拓いた学び舎……その大元の理念は腐り果てている。離れであるからこそ、まだ全ては終わっていないとみるか。お前の師事するルリベナも、確かめに来たのやも知れんな。学び舎を冒そうとするのは、ソレオだけではないだろう』
「……それは。クリフ殿は詳しい事情を知っておいでですか? 俺の見ている景色だけでは、全貌を捉え切れず」
『エドムンドも言った通り、水底に縛り付けられていた残り滓如きが知るはずもなかろう。時事はさっぱりだ。だが実際に見れば、正体を暴けるだろうな――その時情報がお前に必要とは思えないが』
「どうでしょうか。先人の知恵は頼らせてもらいます。……例え既知であっても、これ以上大陸にいてほしくはありません。戦略面で補っていただきたい」
古い亡霊クリフが呟くように口を挟んだ後、俺の返答に軽く鼻を鳴らしたような音を放った。
彼は「宙空の究明者」だったという。第一学舎に入り込んだ際、入手できる武具のテキストに「学院」の創始者の情報と並べて書かれていた存在だ。
古い時代を知り尽くしていると言っても過言ではない。肉体はないが、頭も切れる。蟲の大軍相手に勝機を見出させてくれたのは、間違いなく彼なのだ。
そんな彼が、学院に潜む化物を推測している。知識人の直感は、論理に基づいているためほぼ当たる。
それに俺は、この世界に来る前から疑問視している。作中アザレアはともかく、ルリベナが尖兵に成り果てた原因が、本当にソレオにあるのか。
第二学舎での一件で、甘言に揺らぐような人ではないと分かっているからこそだ。
今までの大規模な事件においては、複数の種族が絡んでいた。俺の実体験だけでもそうだ。
リューンでは、ベルーガナスと悪魔のような姿をした旧い上位種、それにハドリグ。ルヴネトで起こった二回目の戦は、またもハドリグとオビシオン。シウゼヴァクの事件も、ミグゥニ率いる蟲の上位種のみではなかった。
ならば、黒血の危険性を知っているルリベナの自尊心をより肥大化させ、狂わせる要因があっても不思議ではない。
彼女は外部を知らない引きこもりではないのだ。社交界に顔を見せる大貴族である。邪教徒が使う「種」もよく知っていた。ルリベナほどの人でも心を乱したときに、やれると確信づける何かがあった。
ルリベナの尖兵の姿を思い浮かべる。あの暴力的な姿をしたキメラは、植物とは言えなかった。
(今日出来れば、腹を割って話すとしよう。彼女の周りに危険なものが近づいていないか、見定める)
水平線から陽が完全に顔を出した。
俺はしばらくしてから、皚炎によって体の汚れを取り、ケルとミウが眠る別室へ向かうことにした。カーディとトスカは不思議なことに気が合うらしく二人部屋だ。つまり、しばらくは三部屋借りることになっている。
ドアを叩いてからすぐ、寝ぼけ眼のミウが現れる。挨拶をすると、ミウの顔が徐々に赤く染まっていった。
「エ、エドじゃん……。ちょっと、まだお化粧もしてないのに……!」
「……すまない、早すぎたな。もうケル君は起きているか? 指定の時間までに余裕を持っておきたくてな」
「えー、もう行っちゃうんだ。……ケルちゃんはまだだけど、もう少ししたら起きるんじゃない?」
「分かった。しばらく待つことにするよ。カーディさんたちにも声をかけておく。邪魔をしたな」
顔を伏せぎみにしたミウに対して頭を下げる。怒りと恥ずかしさからか、ふんと鼻を鳴らしたミウにドアを閉められた。
あちらの世界と比較すれば種類は少なく、それでいて高価だが、己を美しく見せるために女性は化粧をする。だがそれが無くとも、彼女は愛らしさと美貌を保っていた。そう伝えたとしても、きっと更に機嫌を悪くさせるだろう。
もう一つの部屋へ足を向ける。俺の都合で皆を振り回しているのだ。誠心誠意頭を下げなくては。
そうして、俺は向かった先で驚きと納得が半々の感情を覚えることになった。
トリネの所属するザルディ国は守護ヴァルミ教を信仰している。要人を護衛できる実力者が近くにいるとなれば、要請を送るのも当然のことだった。
トスカとトリネが会うときも近い。別行動であれど、長い付き合いの娘にトリネの凄さを直接教えられる機会が巡ってくるとは、とても素晴らしい。
◆
起床してすぐに準備し、少女はエドと共に馬車に揺られていた。肩を縮ませながら、身なりの良い御者と移り変わる景色とを同時に視界に入れ、喉がつっかえたような緊張感を紛らわせる。
エドが外で待っている間、三人に言われたのだ。
学院という貴族ばかりの世界に向かうには、簡単な手入れでは足りない。髪を紐一つで結ぶのではなく、梳いて整え、些細でも着飾るべきだと。
外見を気にしているミナとカーディだけでなく、トスカも熱を入れるのは少女にとって意外な事であった。だがトスカも貴族に給仕していた時分があった。その世界は厳しいものだと、痛いほどに理解していたのだ。
『私の使ってみよっか? ほら、じっとしててね』
『私のもどうでしょう! ケルさんの瞳の色によく合いますよー!』
『つけすぎるのも、よくありません。髪のほつれだけはないようにしましょう――』
もみくちゃにされた数時間前を思い出し、極力顔に触れないよう気を付けながらケルは自分の顔を手鏡に映す。
平時の中性的な容姿とは違って華々しく、鎧を着こみながらも少女らしさが前面に押し出されていた。
(さっき、エドさんも褒めてくれたけど……どうなのかな? ちゃんと思ってくれてるかな?)
エドは変わらず正面、近付く第三学舎を見つめている。大きな裂傷が入った兜に、無数の傷が新たについた鎧はケルとは対照的だった。
彼の腕を引き、ケルはにこりと笑う。どうだろうと感想を求めるために。もう馬車に乗って四度目の確認だった。
エドは率直に言葉を返す。飾り気はなくとも本心を。
「よく似合っているよ」
「えへへ……」
ケルは照れ笑いを浮かべながら、一時緊張をほぐす。エドはケルを愛らしいと思いながら、ゼシニス大陸の価値観を理解しきっていない。だからこそ、己の価値観で判断する。身綺麗にすることに男女は関係ないと。
小時間の移動を経て、ついに堅牢な学び舎前に馬車が停まる。エドとケル、御者の男性はそれぞれ頭を下げあい、それから門前へと歩いていった。
衛兵は第二学舎と比較して倍多い。第三学舎の魔力持ちを至上とする教え故に、彼らは灰色の目立たない装甲を纏っている。だが守る者としての役目は変わらない。塀の上から魔道具を構え、客人か否かを判断していた。
そして、エドたちを出迎える者が門脇から現れる。和らいだ表情でその術師は、知己であるエドへ、また衛兵に伝えるために手を挙げた。
束ねた水色の髪に、女性と見間違う顔。ケルは彼とエドを交互に見てから、声音を聞いて誤解を解いた。
「――お久しぶりですエドワルドさん。まさか出張先でお会いすることになるとは思いませんでした」
「お疲れ様、ヴィクター殿。偶然だがタイミングが合って良かった。そうだ、紹介しよう。こちらが、稀代の勇者ケル君だ。そして彼は、第二学舎からはるばる付き添いで来た、教導役のヴィクター殿。彼の教導はどの先生よりも丁寧だと好評だ」
ケルはばっと頭を下げ、ヴィクターの柔和な対応にほっとする。
「よろしくお願い、します。ルヴネトで洗礼を受けました、ケルと言います……!」
「丁寧にありがとうございます、ケルさん。僕は一介の術師ですので、あまり緊張されずとも大丈夫ですよ。そうそう、貴女と同じくらいの息子がいて、この学び舎に入ったばかりなんです。この機会に、是非とも仲良くしてくださると」
「はい……。えっ!」
続いた言葉を噛み砕いた後、驚愕するケル。ケルの目に、ヴィクターは成人したて程度に見えていた。遡れば、それには矛盾が生じると分かったのだ。
彼を知らない人からされるいつものリアクションに、ヴィクターは愛想笑いをし心の中で落ち込んだ。そんなにも若く見えるものなのかと。男らしさを望む彼にとっては、童顔と若作りはあまり好ましくないことだった。
ヴィクターが徐に鞄から取り出した腕輪を、エドは抵抗せず取り付けた。それは、魔力量を絞るための魔道具であった。
「客人に対してこのような真似をすること、ご容赦ください。悪意があってこんな枷をつけるわけではありません」
「分かっているよ。無法者の魔法は兵器だ」
「……いえ、そういうことでもありませんよ! 第三学舎の決まりでして。外部の人間が入るときは、つけなければいけないんです」
「そういう決まりが。……最近考えることが多くてな」
「確かに、そう思われるのも分かります。最近エドワルドさんの噂には目覚ましいものがありますからね……」
ヴィクターは袖をまくり、同じ腕輪がはめられていることを見せる。そしてもう一つ取り出し、ケルに渡した。
「ですが弟子にそのような意味で粗相をしたら、ルリベナ様もお怒りになられますよ。ケルさんもお願いできますか?」
「はい。こうやってつければいいですか?」
「ええ、あっています。それでは行きましょうか」
門が開かれた。ヴィクターが先頭に立って、二人を案内する。エドはケルよりも興味深そうに内部を見回していた。彼が知るのは構造のみ。第三学舎の内部へ入ったことは、今まで無かったためだ。
空を埋め尽くす勢いで魔道具が行き交う。守護ヴァルミの技術を先鋭化したような、スチームパンク的景観。歩く面々は魔法を行使する術師というよりは、綺麗な身なりをした市民である。エドの装いは、明らかに浮いていた。
「こうして見ると、同じ学院なのに様相が全く違っているな……。ヴィクター殿はどちらが好みだ? カシアン君の教育的には、やはりこちらの方が……」
「答えにくい質問はよしてくださいよ! 秘密ですよ……守りは、こちらの方が薄いでしょう。ですので、ルリベナ様のお膝元の方が好ましいに決まっています。しかしカシアンがやりたいことは、こっちにしかありませんから……」
「なるほど、分野が違うわけだ。それで新居はどうするんだ?」
「そうですね、中間を考えてまして……」
エドとヴィクターは顔を寄せ合って話す。エドが手紙でやり取りをしている一人であり、その中でヴィクターの事情を把握していた。初めての反抗期。ヴィクターが殆ど家に戻れないことも相まって親子間に亀裂が入りかけ、この機会に関係を改善しようとしていることも。
相談を受けて返す内に、エドは彼へ親身になっていくのを感じていた。その心境の変化は、エド自身でもよく分からなかった。
もしや、このような悩みを抱えたことが自分にもあったのかもしれないとも思った。もう記憶の内にあらずとも。
ケルの好奇心が、エドを取られたという感情に移る前にヴィクターは別の話題を提供する。ザルディからやってきた才女の話である。エドもそれに乗り、ケルとヴィクターにトリネがどれだけすごいのかを伝え始めた。
聞くほど、ケルは少しずつ機嫌が悪くなっていった。話題の少女とケルの境遇が似ていたからだ。
ケルの知る、エドを想う人たちは皆彼女より一回り以上年上だった。だからこそ嫉妬の念が浮かぶ前に、信頼を置けたのである。
だがトリネは違う。自身が年下ではあるが十分に近い。
彼女の心にめらめらと激しい感情が滾る。それは紛れもなく対抗心だった。
「――馬車とすれ違われたりはされなかったんですか?」
「いいや。別のルートを使ったのだろう。今や彼女は学院の賓客だから」
「……まあ……そうですね。エドワルドさんたちも、似たようなものですが……。休息を取られたら、また後日いらっしゃると思いますから、その時にお話しできるといいですね。もしくは町で」
「そうだな、後の楽しみにしておこうと思う。ケル君、トリネ君とも気が合うだろうから、時間を作れるようにするよ」
「うん……!」
ヴィクターはケルの熱量ある返事に首を傾げたが、気にせずに案内を続ける。一男の父ではそういった機敏に疎い。エドとケルの関係性を、ヴィクターはまだはかりきれていなかった。
それから雑談しながらも、第三学舎の総長がいる執務室へ一同は向かう。
階段を上り終え、荘厳な扉前にやってきた。ヴィクターは扉を守る術師たちにエドを紹介し終え、その先を開く。
扉の隙間から眩しい光があふれ出す。エドたちの目がその光に慣れると、その室内には三人の術師が静かに座っているのが見えた。
濡羽色の髪を束ねた神経質そうな美しい女性と、女性に付き従うように部屋の奥で待機する金と薄紅と髪をした少女。そしてもう一人は長い白髭を編み込み、知性を雰囲気に漂わせる老年の男性であった。
エドは老年の男性から言葉をかけられる前に腰を低くし、最大の礼を尽くす。ケルも慌ててエドを真似た。
「――ようこそ、新しき学び舎へ。短い間じゃが歓迎しよう」
「お招きいただき、心より感謝申し上げます。ニクラウス様、ルリベナ様」
「そのままの装いで来るとはな。隣の……勇者の方が、礼儀を知っているぞ」
「……失礼いたしました」
「まあまあ、良い。こういった場で鎧を脱ぐような者なら、君の学び舎へ入り込むわけもない。楽にしておくれ」
「申し訳ございません、ニクラウス先生」
ルリベナは眉をしかめ、二の腕をとんとんと叩く。エドにニクラウスと呼ばれた老爺、第三学舎の総長たる偉人はエドの立ち振る舞いを見てから、何度も頷く。
彼は思う。傷ついた鎧は確かに、貴族の集う場にはそぐわない。だが姿勢は傭兵や単なる平民上がりの騎士では為せない型だ。客人と迎えるには相応しいと。
「長旅お疲れじゃろう。食事を用意しておる。師と共に卓を囲むと良い」
「……身に余る光栄です」
「この、不肖の弟子も到着したことです。一旦席を外させていただきます。……おいエドワルド、いつまでそうしている。早くしろ」
ルリベナはニクラウスに会釈するとテンセンを連れて部屋を出る。そうして語気を荒げ、エドを叱咤した。
立ち上がったエドに手を引かれ、ケルはほぐれた肩が再び固まり始める。ルリベナの凍り付いたような態度が、少しだけ故郷の親を思わせたのだ。
だがケルは、トスカに聞いていた話とは違うと思った。そして関係性を良い方向に定めるのは、自分次第だと。
「貴様、分かっているな。ここは第二学舎ではないのだ。我輩の顔にこれ以上泥を塗ればどうなるか」
「はい。早々に助けてくださりありがとうございます」
「そうだ。……食事の際は、せめて兜を脱げ。分かったな」
「はい、必ず」
二人のやり取りへテンセンの表情がげんなりとした後、ふとケルの顔を凝視する。
そこには何の種類か、驚きが混じっていた。
「……どういうこと? まあ、ルリベナ様には話すでしょうし――」
つかつかと歩くルリベナに付いて、一同は三階の客室へたどり着く。既に準備は整えられていた。
◆
トスカが、ザルディ国の部隊と合流してしばらく。
ミナは、カーディと共に時間を潰していた。エドの代わりにカーディから魔法の指導を受けているが、己の今後の生き方もぶれていては、鍛錬にも身が入らない。
くたりと机に体を預けて、はあと深く息をついた。
だが、転機とは追い込まれた時にこそやってくるものだ。
黒髪の少女に連れられた獣が、微かな香りを感じ取った。