裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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土日、三回投稿できました!よろしくお願いいたします。


何故か、認識が重なる

 しばらく騎士の青年と雑談していたら、少女たちの会話が終わったようだ。何やら彼女たち同士で目配せをしているので、この短時間で仲が深まったのだろう。

 行動でしか上手く考えを示せなくなった俺としては、羨ましいコミュニケーション力だ。

 

 灰色のサイドテールを揺らしながら、機嫌良さそうにリィートイが言う。

 

 

「いやあ、二人とも良い子たちだな!お前が心を開くのも分かるよ!」

「そうだろう。俺は話が下手だから褒めきれないが、信頼するに足る人たちだ。」

 

 

 俺がリィートイに返すと、アイナとミウはこそこそと二人で話し始める。流石に話している内容は聞き取れない。

 リィートイの表情が真剣なものに変わる。頬はまだ赤いが、普段の様子に戻ってきたようだ。人を包み込むような温和さを持ちながらも、締めるときはきっちり締める、冷静沈着な一面が顔を出す。

 

 

「…それでエド、話はまとまったか?」

「十分だ。アイナ殿、俺は貴女たちの任務に協力したい。どうだろうか?」

「あなた、話したんですか!せっかく…!」

 

 

 アイナは騎士の青年を鋭く見た後、大きく息を吐いた。

 

 

「ふう…先輩がいるなら心強いです。是非ともご協力を。」

「ありがとう、アイナ殿。…騎士殿、このリィートイは俺が頼りにしている鍛冶師。情報通でもある。冒険者として調査に協力するなら、彼女も道具の面で支援してくれるはずだ。問題ないか、リィートイ。」

 

 

 アイナの了承は取れた。平謝りする騎士の青年を横目に、リィートイを紹介する。

 そして俺が念の為確認しておくと、しばらく考えた後、リィートイは問題ない旨を口にした。俺はそれだけで、ずっしりとした安心感を覚えた。

 

 

「任務…調査か。お前が気にしていた、上位種が潜んでいるかってことだな。」

「な…!エド殿、彼女は何故…!?」

 

 

 そして騎士の男性が驚くのも無理はない。各組織の上層部、裂け目に関わる人間しか知らない「上位種」の単語が、幼く見えるリィートイから飛び出して来たら、そうもなる。

 それに上位種と実際に遭遇して、運よく生き延びられでもしなければ、空想上の種族だとでも思うだろう。

 信じられまい。人間に似た特徴を残していながら、言葉も価値観も通じず。ただ人類を苦しめて殺すことを目的にした生物がいるなんて。

 

 

「リシディア騎士。ここにいる人間は皆、上位種について知ってる。わたしも、こんななりだが昔は上位種とも戦ってきたんだ。なめられちゃ困る。」

「…それは初耳だ。やはり、貴女は戦士だったのか。」

「言ってなかったからな。お前と、あの子たちの話を聞いてて…ちょっとだけ話そうと思った。」

 

 

 リィートイは俺を振り返らずに、ぽつりとこぼす。アイナとミウに刺激をもらったということか。

 ゲーム中不確かではあったが、推測はしていたため合点がいく。特別な素材を使った武器防具の製作をしてくれるのも、最期戦い抜いた描写があったのも、彼女が戦士であったからだ。点と点が繋がった気分である。

 

 騎士の青年は眉にぐっと力を込めて、リィートイを凝視する。その後目を瞑り、返した。

 

 

「信じられない…。ですが一先ずは、飲み込みます。」

「そうだ。納得できないなら、渡した情報だけ考えてくれりゃいい。作戦でも立てるなら、わたしの工房を貸すよ。今はほとんど客が来てないから、内緒話をするならうってつけだ。」

 

 

 俺はアイナとミウの方を見る。既にアイナは了承している。だがミウはどうか。

 ミウは数月前に、上位種の脅威へ触れたばかりだ。いるか分からないとはいえ、潜んでいれば遭遇することになる。

 

 

「エド…私は。」

「無理はしないでいい。上位種は総じて手強い。ミウ君が危険な目に合わずとも、騎士団が保護してくれるだろう。ドラグシエルを奉る騎士たちも見かけたからな。」

 

 

 俺が見つめていると、ミウは顔を下げてから唸り始める。その後、彼女は感情を爆発させた。

 

 

「ううう…!できる、できますー!私みたいなのでも役に立てる、滅多にない機会なんだから…。逃さないよ!」

「『私みたいなの』?卑下するんじゃない。君はよくやっている。アイナ殿、騎士殿。ミウ君も調査に参加させてほしい。彼女は速い。」

「…ええ。その判断はアイナ騎士長へ。結局のところここは、リシディア教の管轄外です。そうと分からない人員は多い方がいいと、私個人は思います。」

 

 

 ミウは、根底に劣等感を持っているようだと、最近町先で話すようになって知った。冒険者だから、出自がよくないからと理由を付けて、卑下しているのだ。

 俺はそうは思わない。ここに立場を見下すような悪人はいないのだから。

 

 騎士の青年は、長年活動している故か柔軟に対応してくれる。アイナもまた司令官として、寛容だった。

 アイナの頷きにより、啖呵を切ったミウは息を荒げながら眉に力を込める。覚悟を決めた、戦士の顔だった。

 

 

「――ほんとさ、こういう時に欲しい言葉くれるんだから…たまったものじゃないよね。」

「うんうん、分かるっすよ…。」

「お嬢ちゃんたち仲良いなー。…三人とも、こっちだ。わたしについてきてくれ。」

 

 

 リィートイは手招くままに、俺たちは鍛冶工房に向かう。

 十数分歩いて、再び人混みを通ったときのことだった。俺の予感が確信に変わったのは。

 

 

 

 歩きながら俺は、そろそろ陽が傾いてくるかと考えていた。今日は知人と話して酒も飲み、騎士団への信頼も深められ、素晴らしい日だった。

 

 こういった幸せな平穏というのは、物事の最初にあればあるほど、色濃く衝撃が襲い来る。俺は戻れない六畳半でも、仄かに感じていた。

 この悪意の塊がうろつく世界においては、その感覚は単なるジンクスではない。絶望がそこら中に転がっているのだから。

 

 

 黒い全身鎧。流線を描くような、洗練された鎧の人物が歩いていた。俺は人々の喧騒が遠くなり、目の前の光景が突然スローモーションになった気がした。

 ありえないのだ。その特徴的な鎧を着ている人物は、ただ一人しかいない。中盤以降、大陸の外で相対する人物以外は着ることができない防具。

 

 そして俺の耳に、入ってきたのはもっと驚愕すべき言葉だった。俺と同じく、鎧の人物を見ている。

 リィートイが愕然とした調子で、手を大きく震わす。

 

 

「――おい、嘘だろ。流刃の…隊長…?」

「どうしたの、リィートイちゃん?」

「…嘘だ。だがまさか…奴が。奴がやりやがったのか…!?」

 

 

 ミウの問いかけにも答えず、リィートイの様子がおかしくなる。俺は混乱しながら、すぐ彼女の手を握った。何としてでも安心させるために。

 掌に力を込めたまま、俺は人混みに消えるその人物をずっと見続ける。

 

 やはり、見間違いなどではない。古き戦士の一人。その中でも隊長格であった男、ロイス。

 主人公の前に立ちはだかる恐ろしき強敵が、悠然と通り過ぎていった。

 

 

 鍛冶工房に着いても、リィートイの震えは収まらなかった。蹲って過呼吸になってしまっている。俺は何故、彼女があの戦士のことを知っているのか確証が持てなかった。

 だが震えの原因は分かる。流れる刃を示した戦士の隊列、「流刃」の通称を言葉に出したからだ。

 

 リィートイは声を荒げて、掌を振るう。もう彼女の顔に酔いは残っておらず、薄暗い工房内でもはっきりと青ざめているのが分かった。

 

 

「お前たち、作戦会議をしている暇なんかない…!今すぐ騎士団と連携を取るんだ!」

「どうしたんですか…。エド先輩、彼女は何故こんなにも怯えて…?」

 

 

 リィートイの背中をゆっくりと擦りながら、アイナ達へ話した。少女の異常な姿に、恐慌が移ってしまえば冷静な判断も下せない。

 

 

「まずいな。騎士団の判断は正しかった。魔力の糸を探知して、被害が出ない内に倒さねばならない。」

「先輩も!?…上位種の気配はしませんでしたが、見つけたのですか!」

「尖兵だ。感知できないほど、弱い反応に調整されていた。悪趣味な模造物だよ。」

「尖兵って…!ハンスおじさんみたいな、あんなひどいことされた人がいたの…!?」

「……確かに、いました。はは、口から全く声を出せませんでしたが…。」

 

 

 尖兵を操る魔力の糸は、反応が薄ければ薄いほど、技量の高い上位種が取り付けたと言える。

 俺が落ち着いて説明すると、立っている三人はそれぞれ違った反応を示した。騎士の青年は感知できていたようだ。

 魔法とは才能が必要だが、その上で鍛錬することも効果を上げる方法の一つだ。魔力を蓄える器が大きくならずとも、かけた年月は覚えた魔法を扱うのに特化させられる。

 この青年は、陰から騎士団を支えてきた立派な人間だ。

 

 そして、俺の言った「模造物」という単語に反応したのか、リィートイの顔がぐいと向けられる。普段は気だるげな瞳を、今は大きく見開いていた。驚いているようだ。

 

 俺の方がリィートイに対して驚いているのだが、今は話を進めるのが優先だ。騎士の青年とアイナ、最後にミウの顔を見てから伝える。

 

 

「尖兵がいるなら、上位種も潜んでいる。いつ虐殺が起こるかも分からない。刺激しすぎず、矛神教とも連携を取ってほしい。増援もだ。アイナ殿…行けるか。」

「…ええ、絶対に話を通します。あなたはリシディア騎士団へ連絡を。私が行きます。」

「アイナ騎士長、お任せを。こちらも必ず話をつけます。」

「ありがとう。」

 

 

 騎士団の二人は、これから行動する上での話し合いをすぐに終わらせた。アイナの表情は、もう司令官として切り替わっている。もう少女とは思えない。

 ミウは目線をリィートイに向けてから、騎士たちへそして俺へと動かす。不安げな表情をして、胸の前で手を組み縮こまっている。

 

 

「ミウ君はもしものとき、町から住民を避難させてくれないか。それが出来なさそうなら、逃げてくれ。」

「…だめ。足手まといにはならないから、エドたちを支援させてよ。私の魔力、どんどん成長してるんだからさ。」

「だからこそだ。君には未来がある。あの化物ごときに、失っていい命じゃない。それでも…君自身が判断することに口を出すわけにはいかないな。」

「そう、私が決める!エドが焦ってるところなんて、見たことなかったから…。助けてもらった分、私が力になるんだ。」

「そう、か…。君は勇敢な、素晴らしい冒険者だ。それしか言えないよ。」

 

 

 ミウはいつでも、常人には恐ろしくてできない決断をする。こんなにも善性を持った子を、疑っていたのがバカらしい。

 俺は目頭が熱くなるのを感じた。懸命に日々を生きる人が、明日も朝を迎えられるようにせねば。

 

 

 作戦会議をする暇はなく、三人は鍛冶工房を去っていった。この段階で、偶然ではあるが奴を見つけられたのは僥倖であった。虐殺が開始してからでは遅いからだ。

 それとも、これも俺の知る「バックスタブレイブ」の時系列通りか。しかし可能性は摘まなくては、少なからず被害が出る。

 

 リィートイの震えは徐々に止まってきた。俺は同じ間隔で背を擦りながら、彼女へ語りかける。

 

 反対の手で俺も三人と同じく剣を取った。暗闇へ僅かに射しこむ陽で、刃を照らす。

 もう、楽しい時間は終いだ。

 

 

 

 

 リィートイは、仮名をエドという騎士に背中を擦られながら、心の傷に苦しんでいた。

 多くの戦士が大陸外で死に、生き残りはほとんどなく。ようやく戻ってきた先で、僅かな生き残りも数を減らされた。

 何故、同胞がいる。何故、何事もなかったかのように歩いているのか、リィートイは頭の中では分かっていた。

 

 彼女の隊列も壊滅させた、憎き上位種。「魔工職人」によって、弄ばれた屍が歩いていたのだと。

 ただの屍や醜く変容させた生体を操るなら、どの上位種でも行えること。魔工職人であるそれは、数十年単位で尖兵を保存する技術を作り出した。

 いや、模倣したのだ。人類の技術の結晶を奪い、醜く捻じ曲げて、心臓だけを取り出した「ゴーレム」の作成を行った。

 

 

(見せしめか…?なんで、わたしが暮らしているところで、そんなあ…。)

 

 

 幼く見える女性の思考は、ぐちゃぐちゃになって定まらない。最近は、過去のものとして整理がつけられてきたと思っていたのに、実物を見ただけで全身が震えて止まらない。

 リィートイは「流刃」の隊長格とは、一言二言話したことがあるだけだった。しかし同胞だ。共に上位種を世界から追い出すため戦った仲間であったのだ。

 

 その仲間が、仇敵に玩具にされていることを知っただけで。上位種の恐ろしさ、敗北したこと、良いように扱われていることへの悔しさを痛いほどに感じる。

 

 リィートイの汗に染みる背中をさすりながら、エドはゆっくりと語りかける。憐憫は混じるが、それ以上に別の感情を押し殺すような声音だった。

 

 

「リィートイ。貴女が怖がっているのも、きっと悔しく思っているのも…少しだけ感じられるよ。」

「ううううう…!はぁ、はぁ…。」

「だからこそ、貴女を苦しませる奴らを…討ち倒す。戦いが終わった後でもいい。俺にあの流刃を知っているわけを聞かせてくれ。」

「え、えどは…なんでしってるんだ…!あいつがいきていたじだいに、おまえは…!」

「なるほど。段々分かってきたぞ。…だが、考えを巡らせるのも後でだ。」

 

 

 騎士は声音を少しだけ明るくし、リィートイの背中をぽんぽんと叩いた後立ち上がった。

 もう騎士は、リィートイに問い詰められたときのための言い訳を考えてある。正直に全てを話さずとも、相手が解釈してくれるからだ。そちらの方が、彼にとって都合が良い。

 

 リィートイは離れようとする騎士に、泣き腫らして赤くなった紅葉のような手を伸ばす。騎士は小さく笑い、最後にぎゅっと握った。

 

 

「行ってくるよ。貴女も、俺がミウ君へ言ったように、逃げてもいい。だが、そうなる前には…奴らを潰す。」

「えど…だめだ…。あいつと、もう一体いるんだぞ!」

「大陸外からはるばる来たのなら、剣でもてなすとしよう。だが、恐らく操っている上位種は木っ端だ。問題ない。」

「あ…あ…。」

「大丈夫だ。…こう言い過ぎるのも危ないか。気を付ける。」

 

 

 騎士は手を離し、扉を開ける。リィートイがかつて鍛え上げた筋力は、今は力が抜けて縋ることしかできなかった。

 早いもので、もう夕陽が陰ろうとしている。

 

 闇夜に、二つの月が出でる。

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