裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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神出鬼没を捕らえる

 夕日が沈む中、冒険者のミナは外を走り回る。彼女は城下町が静けさに包まれたことへ、不安を掻き立てられていた。

 市民は、化物が町に潜んでいることを知らず、家々に入って眠りにつく。明日への想像を膨らませながら。

 

 その隙を上位種に狙われないかと、ミナの思考は限界を迎えそうになっていた。

 

 

「ここの区域は…もうしまってる。闘技の中間だから、早めに終わってるの…?」

 

 

 現ルヴネト王は豪快な性格でありながら、聡明であった。裂け目の脅威を知り、民を出来る限り守るための策を取ったのだ。

 市民は陽が落ちれば就寝しなくてはならない。これは、矛神の騎士たちが巡回する際支障が出ないようにするためでもあった。

 

 部外者である観光客は、細かい決まり事を知らない。ミナもそれを知らなかったが、知識はどうあれ都合が良い。

 ふうと息をつき、ミナはまた駆ける。出歩いている人間がいればすぐさま逃がし、それが上位種が化けた姿なら、すぐさま知らせる。

 ミナは住民を避難させるだけでなく、上位種に立ち向かうという決断をした。

 

 

『今回は…魔力が多い人間ばかりだ。くひひっ!』

 

 

 そして異様な声が聞こえた瞬間。ミナはすぐさま振り向き、床を転がるようにして避けた。

 総毛立つ感覚に心臓をばくばくと鳴らしながら、ミナは呼ぶ。彼女が信頼する友人たちを。

 

 

 

 

 俺はミウの反応に向かって走る。俺は「感知*1」を瞬間的に広域へ使用し、場所を突き止める。

 明確な悪意と、微細な魔力の糸。だが流線形の黒い鎧をした尖兵は、まだ何もしていないようだ。

 

 俺はゲーム内でのテキストや時系列を読み込んだ上で、こういった可能性も考えていた。「亡霊」という、人間が亡くなった証拠を残さない、上位種の蛮行について。

 

 単純なことだ。奴らはその場で虐殺を行う者ばかりだが、稀に人を攫っていく上位種もいる。中盤以降、大陸外で残存していた「亡霊」の数人は、知らない場所に連れて来られ、無念の内に亡くなっていた。

 時系列ははっきりせず、背景に城や森などがあるくらいの情報しか読み取れなかった。俺はゲームを調査しているとき、何とかしてそれを突き止めようと躍起になり、結果人が多く住む場所を狙っているようだと判明した。

 

 人がいなくなればすぐに分かる農村部は狙わない。卑怯なやり方を取るということは、それだけ力が弱い。騎士団に犠牲を出さなくても勝利できるほどに。

 強ければ慢心して、魔力を抑えることもせず暴れ回るからである。

 

 

(冷静さと残虐性のどちらも兼ね備えていれば…この大陸には来ない。)

 

 

 俺は周囲を見渡す。奥の方から、街灯が点いていく。街灯に照らされながら、走り回るミウを見つけた。

 そして薄暗くなっていく城下町の隅で佇む、黒い鎧の目標が映る。俺は直剣を突き出すようにしてから、一閃した。

 

 

「ミウ君!」

「あ、危なかったー…二十も数字数えたよ…。時間かかって…遅いよ、エド…。」

 

 

 俺は滑り込むようにしてミウを抱きかかえる。必死で走ってきたであろう彼女の体は、もうボロボロであった。

 ミウを何とか立たせ、少女の前に立つ。ちらりと様子を伺うと、にっと笑ったミウはまた両足へ身体強化の魔法をかけていた。

 

 

「はぁはぁ…。エド…行ってくる。」

「頼んだ。ここは俺が保たせる。」

 

 

 ミウが走っていくのを守る。だが上位種はミウを追うつもりは無いようで、不気味な笑い声を上げた。悪趣味な化物らしい行動だ。

 俺は暗闇を睨む。浮き上がった、人の子どもに似た化物が、にやにやと笑いながら拍手してきた。巨大な黒い翼と尻尾が生えている。

 これは女神と呼ばれる羽虫どもの眷属ではないが、旧い上位種の眷属が持つ特徴だ。典型的な悪魔のような外見は、間違いない。

 

 

『へーやるう!ま、ロイスで遊んでただけなんだけどな。そうしたら、活きの良いやつが釣れた!』

「……!」

『うあっと!来いよ、ロイス!』

 

 

 空に向かって放った俺の剣を、奴は上体を逸らして避けた。そしてその上位種は、「流刃」の隊長格の名を呼ぶ。

 次の瞬間、ひやりとした殺意が喉元にかかった。咄嗟に剣を使って防ぐ。がきと音を鳴らし、直剣が根元から折れる。

 

 

(ちっ…!やはり、操っている奴はそこまでだが…。)

 

 

 俺は、暗闇に紛れるような戦士から目を離さず、代えの直剣に「月融け」を付与した。少しでも隙を見せれば、やられる。

 冷や汗を垂らしながらも、俺は心を鎮め「流刃」の隊長格と向かい合った。

 

 

『へええ防ぐのかよ。ま、抵抗するんだったら仕方ないよね。とりあえず死にかけにしてやるよ。…やれ!』

 

 

 古い戦士の足はこんなにも速いのか。俺は何とかロイスが持つ刃を逸らし、胴鎧を斬る。「月」の魔力で強化しているというのに、ある程度まで沈み込むだけであった。

 体勢を整え、回避に専念する。尖兵ロイスの正確無比な一撃は、俺の鎧を掠る。

 

 だが、本人は再現しきれていないはずだ。心臓だけで、人の繊細な考え行動を模倣できると思うな。

 俺は長期戦を覚悟しながら、動き続ける。隙を見てやれるか、それとも。

 

 

 

 

 リシディア騎士団の騎士たちが駆け付けたのは、仮名エドが戦い始めて十数分経ってからだった。

 裂け目の対処をしてから数日が経っていたが、近くの村や小さな町を許可を得ながら巡回していたため、早く間に合ったのだ。

 騎士団と一時的に協力しているという冒険者の少女へ、疑いを持ちながらも、後に合流した騎士の青年から話を聞き納得する。

 馬を急いで走らせてきたため、息が整わないままに彼らは、やけに静かな戦場へと足を踏み入れた。「感知の阻害」が既に使われているからである。

 

 領域の中に入り込めば、まず耳にしたのは金属が擦り合う音。月灯りで時折輝く刃が、市街で踊るのを目にする。どちらも全身鎧の戦士であった。

 その一方のことを、リシディア騎士は知っている。

 

 

「あれって…。」

『……。』

『あれあれー?魔力が多いやつらがどんどん集まってくるじゃんか!おい、ロイス!』

 

 

 剣技が止まる。エドはがら空きの背後に剣を振るうが、凄まじい速さで防御され弾かれる。「流刃」の尖兵は構えを取り、操る上位種の考えのままに動いた。

 人間を素材とした「ゴーレム」。それは人類を絶望させるために作られ、今は玩具にされる存在。古い戦士の中でも水に関する魔法へ秀でていたロイスは、傀儡になろうとそれを扱う。

 

 

『やれ!』

『……「叩きつける流水*2」』

 

 

 右の掌を宙に掲げる。そして勢いよく振り下ろした。魔力で生成された水が、凄まじい質量となって騎士たちに降りる。

 

 

「くっ…穿つ!」

 

 

 騎士達には、盾を構えるしか最善はなく。しかし、すんでのところでエドが騎士たちの方へ滑り込んだ。そして左掌から「月」の魔力の奔流を放つ。

 圧力をかける水の魔力は「月」に押され、掻き消える。少量飛び散った魔力が、水たまりを作った。

 

 

「あ、『青月』殿!助かりました…!」

「怪我はないな。増援感謝する。」

 

 

 アイナに同行していた騎士の青年が、すぐさま礼を言う。

 エドは頭を軽く下げた後、ロイスの近くに戻った上位種を、兜の奥から睨みつける。そうしているとアイナも合流した。

 アイナの後ろには、意匠の異なった騎士もやってきていた。特徴は緑の剣を模った装飾。矛神の騎士たちである。

 

 

「貴方が『青月』のエドワルド殿か!武勲は聞いている。脅威への助太刀、感謝いたす。よくここを保たせてくださった。」

「先輩、ミナが繋げてくれました。あの上位種は、私たちにお任せください!」

「ミウ君がやってくれたのか!助かった。…何とか引き離してみせよう。」

「…指揮を執る。八の陣形を組め!」

 

 

 アイナは声を張り上げ、増援に来た騎士たちを纏め上げる。全員が盾を構えたその陣形は、先程の無防備な姿とはまるで違う。

 異相付きはこれを、突然できた壁に思うだろう。ならば上位種相手であればどうか。

 

 街路に漂う異様な雰囲気に気を引き締め、矛神の騎士たちも巨大な剣を構える。平時は陽気である彼らは、上位種を相手取るとき声を無にする。そして集団での作戦は無しに、個々で力を振るうのである。

 

 

「…やはり友人というのは心強いな。楽をさせてもらう。」

 

 

 エドは減った分の魔力を補うため、鎧に取り付けていた丸薬を手に取った。彼にとっては貴重なその物品をためらうことなく口に入れ、磨り潰した。

 気つけ以外にも効果はある。元より魔力の活性化を促すことで、体内の臓器の代謝さえ良くする物であるからだ。

 もう尖兵になった者にはできない、魔力の循環。血が巡らぬ人形には、事前に蓄えられた分しか扱うことができない。

 

 澄み渡った視界で、エドは古い戦士の姿を捉える。人員がいるならば、勝ち目はあると。

 今正に騎士の大盾へ斬りかかろうとするそれを、体当たりで押し出し。再び剣舞が始まった。

 

 

 

 

 蹲っていた女性は、腫れた瞼を開けて、鍛冶工房に月明かりが射しこむのを見ていた。

 エドと名乗る騎士がいなくなってから、全身の震えは戻ってきた。心の傷が彼女をその場に留まらせようとする。

 行けば殺される。あの隊長格は強かった。そして殺されれば自分も、趣味の悪い剥製にされる。死んだ後も憎き奴らに弄ばれるのだ。だから行っても無駄だ。

 

 

「わたしは何を、バカなことを考えているんだ。…今更、死ぬのが怖いのかよ。」

 

 

 震える手足で工房の床を蹴り、無理やりに立ち上がる。ここで向かわねば、才能ある若者たちが、亡霊に殺される。

 そして温かな掌で自分の背を撫でてくれた、あの騎士は戻ってこない。

 ずっと人のために戦ってきた騎士がこんなところで終わっては、報われない。共闘しているであろう彼を想う少女たちだって、絶望を抱きながら亡くなるだろう。

 

 それだけは嫌だと、リィートイは歯を噛み締め、強く思った。

 

 

「歩け、歩けよっ!」

 

 

 リィートイは自分に向かって怒鳴りながら、鍛冶工房の奥へ歩いていく。そして自身の得物を手に取った。

 巨大な黒い槌。リィートイの背丈よりもずっと大きく柄も長い。だが彼女はぐっと、それの柄に力を込めた。大槌は持ち上がっていく。

 女性は乾いた笑い声を上げた。こんな簡単なことを今まで怖がっていたのかと。

 

 

「ははは…。やれば持てるじゃないか。なら――」

 

 

 リィートイは槌を引きずりながら、鍛冶工房のドアへと歩いていく。「殴殺する小人」と物騒な通称を持っていた彼女の隊列は、叩き潰すことに特化していた。

 震える手を止め、大槌を担いでから足でドアを蹴り開けた。

 

 戦場に行くのは怖くとも、友人がいるならば戻れる。何年も戦う姿を見てきた、友情以外も抱えている騎士の安全のためなら。

 二つの月が輝く夜。女性は黒錆酒を一口飲み、それ以外を大槌へと流した。

 

 これが古き戦士のならわし。戦で死した戦士を弔うための儀式を行い、女性は向かう。哀れな同胞を、真の意味で解放するために。

 

 

「――景気づけだ。持ってけよ、同胞。」

 

*1
リシディア騎士団の魔法。周辺の乱れる魔力を感知する。「理」の能力値20必要。感知の精度は「理」を上げることでほぼ無制限に上がる。また感知する範囲を広げるとその分魔力を使用する。

*2
「此地の憤怒」と呼称される魔法の一つ。古き戦士たちが扱った放出魔法。「生命力」と「理」の能力値が45必要。

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