裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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よくよく見たら

 なんちゃって中世ファンタジー世界でありがちな、荷馬車の護衛をして四日程度。強い化物も出ず、次の目的地であったソヘネーの街へと到着した。この大きめの街には何回か来たことがある。この世界に動揺して時系列の整理がしきれていないとき、標的となってしまう修道女の無事を何度も確認しに行ったのだ。

 ソヘネーの街が大陸の中心近くにあるため、三月に一回は寄っていたりもする。エドムンドと縁はないはずなのに、体が反応するのだ。

 

 魔法があるなら、ワープできる魔法や施設もあるんじゃないかと考える人もいるだろう。しかしながら存在しない。飛行するための魔法を応用すれば似たような施設を作れるが、敵対している上位種たちに使われる場合を危惧し、普及させられないという設定であった。

 特別な立場の人間は馬以外にも移動手段はあるが、体力の消耗、コスト、移動速度のバランスを考えれば馬が最適だ。

 そして新しい移動手段を普及させられるほど、人間側に余裕がない。消極的な守りに入って、上位種による被害を見てみぬふりでやり過ごしている国も多い。民を生贄のようにする、馬鹿でかい因習村のような感じだ。

 主人公が盤面をひっくり返してようやく再起の芽が出てくる。既に詰みかけているのが「バックスタブレイブ」の世界である。

 

 門をくぐり、馬車が並ぶ広場へと荷馬車はとまった。馬は魔力による脚部強化を解かれ、頭をぶるぶると震わせる。

 俺が荷台から降りると、丁寧な口調の商人も先頭から立ち上がり、掌サイズながらずっしりとした麻袋を手渡した。

 移動手段を兼ねる商人にも一定確率で「裏切り」が発生することがあったが、彼は誠実な人間であったようだ。俺は頭を深く下げて、彼の仕事の丁寧さに感謝する。

 

 

「護衛の方、ありがとうございました。報酬はこちらの袋に入れましたので。」

「頂戴する。…満額いただけるとは。」

「道中角付きを対処してくださいましたし、正当な対価ですよ。ではまた、機会があれば。」

「ええ。貴方もお気をつけて。」

 

 

 

 軽く話した後、そのまま俺は商店が並ぶ街路を歩いた。そして騒がしさを抜けた先に建つ教会前まで来た。

 

 教会の傍には孤児院が併設しており、そちらの建物からは元気な幼子たちの声が時折響いてくる。

 どちらも歴史を感じさせる石造りであり、周辺の花壇は手入れされているのが分かる綺麗さだ。俺は扉に手を触れさせようとした。

 そのとき、左の方から声がかかる。可憐な呼びかけだった。

 

 

「まあ、騎士様…!お久しぶりですね。」

「シスター・ジゼラ。貴女もご壮健そうで何よりだ。」 

 

 

 立っていたのは、背が低く白に青が混じる修道服を着た女性だ。ジゼラという名前をした金髪碧眼のシスターであり、フィクションでは分かりやすく正統派である。

 ゲームでは悪い方向でスポットライトが当たったこともあり、現実となっても可憐な容姿をしている。

 ジゼラは口元に左手を持ってくると返す。

 

 

「うふふ、貴方様のおかげでもございます。今回も祈っていかれるのですか?」

「そのつもりだよ。旅の安全は、同じく安心できるところで祈りたい。」

「嬉しいですわ…!リシディア様も喜ばれることでしょう。騎士様、こちらへどうぞ。」

 

 

 ジゼラは花が開いたような笑みを浮かべ、俺のことを「騎士」と呼ぶ。これは、俺がマントで胴鎧を隠していたのに偶然内側を見られてしまったからだ。騎士団を抜けたのにも拘わらず、彼女はそれを気にしなかった。

 俺は無意識に震える手を押さえ、ジゼラの後へ続く。

 エドムンドは精神が死しても尚、孤児院の家族が大切なままなのだ。だが彼にとっての全ては失われた。その苦痛が、こういった体の反応を通して伝わってくるのである。

 

 教会の中は、ステンドグラスが使われた立派なものであり、そのどれもが女神リシディアの姿を象っている。

 俺はあまりそれを見ないようにして、市民が座る長椅子の間を通っていく。そうしてジゼラが掌で示す前の方の席に腰を下ろし、ぐっと握り拳を作った。

 憎悪の念は、最も近い場所でこそ滾らせるべきだと。

 

 

「リシディア様…どうか息子をお助け下さい…。」

「神よ…魔に殺められることの無いよう、我らの日々をお守りくださいませ…。」

「……。」

 

 

 この世界に複数ある宗教は、それぞれ別の女神を称えている。大陸で最も浸透しているのはリシディアだが、盾のヴァルミラと剣のドラクシエルなど双神を奉る教えもあったりする。

 

 そしてこの女神たちは全て、「上位種」に分類される。厳密には旧くからいるやつらだ。裏切りに裏切りが重なって疲弊しているプレイヤーに、ダメ押しする最悪の事実である。

 敬虔さも騎士団の誇り高くあろうとする心も、全てが否定される展開に、当時はストレスで髪の毛が抜ける人が続出した。

 こいつらの種族は中盤から姿を見せ始め、終盤はその眷属どもがうようよ地上に降りてくる。一匹一匹なまじ丁寧な口調で、美麗な外見なのが化け物らしさを演出していた。

 

 

(天上でふんぞり返り、敬虔な騎士を遊び殺すクソどもが。必ず貴様らに報いを与えてやる。)

 

 

 祈りながら考える。修道女や多くの騎士の在り方は、決して女神が否定できるものではない。信奉しているものがどうしようもなくゴミでも、平和を望み行動していることは間違いではないからだ。

 不安にかられる人々は、拠り所が無ければ生きていけないのだ。

 

 

 俺は一時間ほどかけて心を落ち着かせ、立ち上がる。教会の扉を開けると、少し離れたところでジゼラが幼子を抱きかかえていた。その周りを年端も行かない少年少女が走り回っている。

 俺に気がつくとジゼラは微笑みかけてきて、子どもたちが俺の足元に走ってくる。

 

 

「おじちゃん!僕、こんなに背伸びたんだよ!」

「私も伸びた!旅のお話し聞かせて!」

「騎士様、今夜は泊まっていってくださいませんか。子どもたちも、貴方様のご活躍に興味津々でして。」

「俺のか?日頃どう話しているのか…いい。シスター・ジゼラのお言葉に甘えさせていただこう。」

「やった!」

 

 

 俺は楽し気に笑う少年の手を取り、頷いておく。

 丁度いい。泊まることができれば、今夜起こるはずの悲劇を確実に防ぐことができる。

 こういった温かさの裏に潜む絶望を、俺はひどく恐れるようになっていた。救出RTAをするには、感情が入りすぎている。

 

 

 

「――では、道具を補充してくる。市で食べ物も買って来よう。」

「そんな…寄付をしていただいているのに、ものまで…。」

「一泊分は返さねば。夕方には戻る。」

 

 

 その後俺は、教会の面々に一晩だけ世話になる旨を伝えて、商店に向かうこととした。ジゼラが眉尻を下げていたが、理由を言えば申し訳なさそうな表情も元に戻るだろう。

 

 教会内の重苦しい空気とは違い、商いは活気がある。この熱気が偽りになるのは、空間の亀裂が教会に入り、その上で広がってしまってからだ。騎士団や、「冒険者」とは名ばかりの行き場の無い荒くれ者が駆り出され、ソヘネーの街は戦場となる。

 

 上位種の身体的特徴や発生については、広められていない。いつどこから出てくるかも分からない、悪意を持った敵に怯えていては活気が鈍るというのが、各組織における上層部の言い訳である。

 確かに出会ってしまえば、魔力を溜め込めない大部分はただ殺されるだけだ。しかし隠蔽するより、もっと良い方法があるだろうとは思う。知っていれば、力ある者を呼ぶことだってできるのだから。

 この方針はともかく、利敵行為が基本の世界観においては、選択を誤り続けるのが常だ。根本を変えることは難しい。

 

 俺は鍛冶屋に入り、農具・工具に加えて武具が並ぶ場所を見ることにした。日常的に使うナイフの中から丈夫そうなものを見分け、五つほど買うことにする。投げた後回収できなかったり、特殊な血液で汚れて腐食したりで、使った分は補充する必要があるのだ。

 

 

「いらっしゃい、兄ちゃん。このナイフでいいのか?」

「ああ、同じものを五つ頼む。安値なのに出来が良いな。」

「へっ…まいど!五つだな、ちょっと待ってろ。包んでやるよ。」

 

 

 筋肉隆々のいかつい顔をした鍛冶師は、器用に麻布で刃を巻きテーブルへと置く。

 そして世間話というべきか、俺に言葉を続けた。

 

 

「獣狩りに使うんだろうけどよ、しばらくは大人しくしていたほうが良いぜ。獣血で汚れちゃあ、騎士団に怪しまれちまう。昨日あたりから十人くらいがぞろぞろ歩いてやがるんだ。ありゃあ厄介事だぜ。」

「…来ているのか。忠告感謝する。」

 

 

 声を潜めて助言してくれた男性に礼を言うと、彼はにっと笑ってから俺を追い出した。彼は面倒ごとが嫌いなのだ。

 

 

 

 最近行く先々で、リシディア騎士団が活発に動いている。

 主人公が勇者となる前については、描写されている部分が少ないため、これもゲームの史実通りなのか分からない。

 しかし俺としては希望を持ちたいところだ。大抵、来ている騎士団のメンバーは俺が知っている顔が入っているからである。

 市街の喧騒の中から、覚えのある声が聞こえてくる。澄んでいてよく通る、ここ二年でよく聞くようになった少女のものだ。

 

 

「――先輩~!エドムンドせんぱーい!」

「やっぱり…奇遇だとは言えない頻度じゃないか?」

 

 

 少女の、肩で切り揃えられた紺色の髪が揺れる。人がたくさんいるというのに、白銀の鎧はよく目立った。

 同じく白銀の鎧を着こんだ騎士へ指示をしてから、少女は駆けてくる。俺の胸筋あたりに頭頂部が来て、少女は俺を見上げた。

 

 

「…俺のことは、エドとだけ呼んでくれ。それだけで気づく。」

「でも、こう呼ばないと無視するじゃないっすか~!」

「その名前だけはだめだ、アイナ殿。それに、俺は先達でもない。」

「了解っす。…でも、騎士団の名誉であることは変わらないですよ、エド先輩!」

 

 

 吸い込まれそうな藍色の瞳は、少女の口調の軽さを感じさせないほどに特徴を物語っている。俺は兜の中で目線を逸らすと、騎士団の少女アイナと少しずつ言葉を交わし始めた。

 

 初めて会ったのは、大陸の南側にある村だった。騎士の集団が偶然立ち寄ったのだ。その中にアイナは混ざっていた。

 地理を調べた結果、ゲーム内にあった村のどれとも一致しなかったため、主人公の村かもしれないと期待していた。牛の角を持つ上位種の女が現れたので、ゲーム開始時点で廃村になったのだと分かったが。

 

 それからしばらくして、この少女と行く先々で鉢合うようになった。しかも俺は名乗っていないし兜も脱いでいないのに、エドムンドを知っていたのだ。

 その時は、マントと兜って変装にならないのかと意気消沈しかけた。アイナの話では、幼い頃から知っている人だからすぐに分かったとのことであったため、変装に効果はあると持ち直した。

 

 

 俺は会うたびに成長している彼女を頼もしく思いながらも、負い目がある。俺はエドムンドの体を借りているだけであり、おそらく彼女の望む人間ではない。

 それに気がかりなことがあるのだ。アイナは可愛らしく、特徴的だ。メタ的に言えば「バックスタブレイブ」の話で焦点を当てられてもいいほどである。

 

 

「――つまり『縫合』を使える人材は増えているのか?」

「いえ、人員を勇者の護衛へ割けるようになってきたんです。最近は裂け目の報告が減ってるっすから。…ここで話す内容じゃないっすね。お店でも行きませんか?」

「すまない。…費用は持とう。」

「私がちょっと考えなしでしたから…謝らないでほしいっす!部下が調べてくれたんすよ、美味しいところ!着いたら、エド先輩の話も聞かせてください!」

 

 

 俺はにっこりと笑うアイナについていき、その後ろ姿に既視感を覚える。メインストーリー序盤、騎士を率いて上位種の軍団と戦い、部下の裏切りによって死んだ司令官。「アインエルディア」の面影を感じるのだ。

 名前の類似性からして、関係性があるのではないか。姉か、もしくは本人か。知り合いでしかない俺は言葉をつぐんでしまう。

 

 

「どうしました?私の頭に何かついてるっすか?」

「いや、アイナ殿は立派だと思っただけだ。俺は騎士の道を外れた身。まだ若いのに司令官へなれるとは、すごいことだ。」

「え…あ、あはは!エド先輩が、騎士団に残した伝説には負けるっすよ!翼付き二十を一人で倒したとか――」

 

 

 俺は彼女に会うたび、不確定な事象に惑わされそうになり、己に言い聞かせる。大部分が知っている通りだと信じなければ、俺が踏んでいる薄氷はたちまちに割れてしまうから。

 

 

 

 

 六年前。二つの月が満ち輝いていた、ある夜。

 足を負傷し、隠居していた少女の父は血の海に沈み。母親は少女を家屋から逃がした。村の中よりも、獣が潜む森のほうが安全なほど、破滅が迫っていた。

 上位種。少女が年頃になって知ることができた、仇敵の総称。それらは人より肉体的に優れているから、そう呼ばれていると知った少女は激昂した。あんな命を食い潰す化物が、()()であるわけがないと。

 

 少女は他の家に住まう農民の子と共に、森の中へ次々逃げ込んだ。すぐ後ろで悲鳴が聞こえる。木々がべきべきと折れていく音がする。

 見れば、野生動物も同じように木々の間を駆けていた。追いつかれれば命はないと、本能的に理解していた。

 

 すぐに少女は絶望した。人間のものではない高笑いが、森の中を埋め尽くしたからだ。

 子の集団の前に、鹿の角が生えた異形が立ちふさがった。美しい人の面をしていても分かり合えない、冷たい存在。散り散りに逃げようと思っても、子どもたちは足がすくんで動けない。

 

 

 だがその後、少女は月灯りに魅せられた。差しこむ青を全身に受ける、全身鎧の騎士が子どもたちを庇うように立っていたのだ。

 その騎士の剣には、月が宿り。美しい剣の軌道と共に、鹿のような異形は脚を失い、腕が飛び、首がごとりと落ちた。

 夢の中の出来事と思うほどに一瞬で、陽が昇った後、異形の血は消え失せていた。

 

 

 少女はその日から、月光を追い求め騎士の痕跡を掴んだ。己を鍛え上げ父と同じ騎士となって。そしてついに、その月へと辿り着いたのだ。

 マントを着こんだ放浪の騎士、名も素顔をも隠そうとする彼に。

 

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