裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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今話から二章開始です。よろしくお願いいたします。


第二章
希望の原石探しをする


 俺はルヴネトの城下町を離れた後も、その近辺に戻っては北へ遠出することを繰り返していた。

 町でのあの戦いは死者無しで終えることができたが、時間が経つにつれ、危機感が喉元に迫っていたのだ。

 

 これまで練ってきた力も、たった一体傀儡を出されただけで押された。それがかつての特に強かった実力者のゴーレムであったとしてもだ。俺は大陸の外に蔓延る奴らを、倒しきるだけの実力を持ち合わせていない。

 俺は一年先を見据え、これからの動き方を考える。時系列から繋ぎ合わせて、出現する裂け目の位置から、ルートはほぼ出来上がっている。

 ここからは、その余白をどう活用するかだ。

 

 

(あの高飛車の元まで行くか…。いや、今しかない。主人公を見つけるための時間を取れるのは、今だけだ。)

 

 

 実力を補うために教えを乞うか、数年後人類の希望となる主人公を見つけに行くか。

 俺はその二択にまで絞り、後者に決めた。大陸の中心から一度離れれば、ルヴネトに戻ってくるまでに時間がかかる。

 強敵が現れれば、その分足も止まる。この機会に集中して探さねば、後回しにしているようなものだ。

 

 ルヴネト近辺の地図を開き、目でなぞる。馬車がよく通る道には主人公の影はなかった。ならば交易が狭められている小さな村を見ていく。もらった情報も使ってだ。

 マッピング漏れが無いように意識を集中していると、突然背後から声がかかる。気分がいいのか、弾むような調子をした少女の声だ。

 

 

「よし…馬車が通らない場所を、集中的に…。」

「おーいしょ!集中的にって?」

「……!なんだ、ミウ君か。」

「あ、なんだって言ったー!ひどくない?最近扱いが雑なんだけど。」

 

 

 見ればそこには、年の離れた友人である、冒険者のミウが立っていた。柔らかい銀髪を首元で切り揃えており、前髪で時折隠れる赤い瞳が俺を凝視している。

 彼女は両腕を使って、少し屈んでいた俺の肩に全体重をかけてきた。ぐいぐいと軽い身体が乗せられる度に、銀髪がさらりと揺れる。

 わざとらしいほどに、ミウは腹を立てているポーズを取っていた。

 

 ルヴネトを出てから、ミウと会うのはこれで何度目かも分からない。もはや人が集まる町や村に行ったら、三回に一回はいるくらいには顔を合わせているのだ。それは対応が雑になるというものだろう。

 ミウは俺についてきている。旅路が重なるというレベルではない。

 

 少女はふんと大きく鼻を鳴らした後、しばらくして俺の広げている地図を横から覗いてくる。

 

 

「ルヴネト国の地図じゃん。まさかエド…リィートイさんのところで、腰を落ち着けるつもりだったりするの。」

「まさか。俺はルヴネトで、人探しをしなければならないんだ。何年もここら辺に来ては探しているんだが、全く見つからなくてな…。」

 

 

 いつの間にか彼女は、リィートイをさん付けするようになったようだ。不安げな赤い瞳を揺らしていたが、俺がわけを説明すると笑顔になる。

 

 

「エド困ってるんだ。じゃあ人探し、私も手伝うよ!」

「本当か!ありがとう、心強いよ。」

 

 

 地図から目を離しミウの顔を見て礼を言うと、複雑そうな表情が浮かんでいく。

 ミウは、リシディア騎士団やリィートイとの会話を通して、エドムンドの生涯を知った。あのときは、いつもは笑顔の多い少女も表情を曇らせており、俺もエドムンドの死へ深く祈りを捧げた。

 

 

「あ、それってもしかして…。エドの家族、とか…?」

「いや、それも違う。だが、大切な人だ。」

 

 

 俺の説明が少なかったために、ミウの表情がぱっと切り替わる。また怒った顔だ。ミウは小さな口から歯をむき出して、いいと威嚇してくる。

 

 

「……ちょっと考え込んだ、私がバカでした!」

「すまない、言葉足らずだった。機嫌を直してくれ。ミウ君にとっても、重要な人になるはずなんだ。」

「へぇー全然説明になってないなー。…うぅん、エドの家族じゃなくって…恋人でもなさそう…?まさか…隠し子…!?」

 

 

 声を荒げたり、今は呟きながら百面相をしたり。ミウのような年頃の少女の心模様は、掴み切れない。

 主人公が俺の「大切な人」であることは間違いない。どう大切かを話せば、ミウは俺の正気を疑うため、敢えて話さないが。俺の喋りが衰えていなければ、まだましな理由を即興でひねり出せたものを。

 

 俺やミウたち友人だけでなく、この世界に生きる全ての人類にとって、希望となれる人物。特別な勇者になれる存在。必ず見つけ出してみせる。

 

 俺は未だ考え込んでいるミウを手招き、ルヴネト近辺の探索に乗り出す。

 今まで訪れた村と比較して、それらしく隠れた場所。俺は、友人たちという最も信頼できる相手からもらった情報を頼りに、その場所を目指し向かった。

 

 

 

 

 仮名をエドと名乗る騎士は、「旅の冒険者」を自称する少女ミナと共に、山道を歩いていた。気温は高くなっていて、その分森の生物も活発だ。

 ミナは顔の前で掌をぶんぶんと振る。そしてげんなりとした表情で騎士に話しかけた。

 

 

「ねえエド。こんな道もない山に、村なんてあるの?」

「必ずある。疲れたなら休もう。虫も気になるだろうしな。」

「ぜんっぜん、大丈夫!疲れてないし、虫くらい仕事で気にしてられないし!」

 

 

 騎士の提案に、ミナは慌てて取り繕い平気そうな顔をする。ミナの心にあったのは、足手まといになりたくない気持ち、そして想い人に心配されて嬉しく誤魔化す気持ちの二つであった。

 荒事に両足を突っ込んだ冒険者なら、身なりが汚れるのも日常的に起こること。だが少女は少しでも綺麗に見せようと、髪の毛を手櫛で整えた。

 

 騎士は考え込んだ後、魔力を掌から広げ、ミナの全身を包むようにした。戸惑う少女は、その魔法の名前を騎士の口から聞く。

 

 

「君は…。だが、これくらいはしておこう。『魔力の薄膜』」

「へええ…すごい!エド、こんな便利な魔法も使えるんだ。」

 

 

 魔力の絹に、頭からすっぽりと覆われたミナは手を叩いてはしゃぐ。この薄膜は臭いを遮断するだけでなく、飛んでくる小さな虫や、飛ぶ土埃も体に付着しないようにできる。

 魔法とは、戦闘以外にも有用な場合もあるのだ。

 

 

 二人して道なき道を進んでいき、少し開けた場所へ出た。木漏れ日が差し込む、自然にできた広場のような場所で、ミナは座れそうな石を見つける。

 そして少女は騎士を手招き、その石に座った。

 

 

「ふう…だいぶ歩いたね。食事にしよっか!会えると思ってエドの分も作ったんだ。…いるよね?」

「ありがたくいただこう。飯の礼はすぐに返す。」

「どうぞー。」

 

 

 ミナは背負っていた鞄を前に回し、その中から綺麗な木箱を二つ取り出す。その間、ミナの視線はじとりと見定めるような色を持っていたが、騎士が即答したことで笑顔に変わる。

 中身は、日持ちのする干し肉をほぐしたものと、黒や茶が混じる穀物だった。騎士は兜の隙間から、零れないよう食べていく。

 ミナは口の中に食物を含み、よく噛んでから騎士に聞く。

 

 

「む、も…。エドが行こうとしてる村までは、もうちょっと?」

「…ああ、もう少しのはずだ。見てくれ。信頼できる術師から共有してもらった情報だ。こういった、特徴的な印がつけられているらしい。」

「あ…本当だ。それっぽいのがある。」

 

 

 騎士の指さす先には、一本の樹木があり。その樹には、鳥の翼を模ったようなマークが刻まれていた。

 これが示すのは、村の排他性。そして限られた交易者を、森の中で迷わせないようにするための標だ。

 俗世のほとんどを絶つことで存続する村は、少なからず存在する。そして外部に知られないまま、上位種によって廃村と化す例もまた少なくないのである。

 

 

 食事を手早く済ませ、二人は樹木へ近づく。ミナは、そこに刻まれた印を首を傾けて見た。

 

 

「よくできてるね。…あの飛んでた化物のせいで、しばらくは嫌な感じだけど。」

「命の危機に瀕すれば、苦手意識も出るだろう。…ミウ君。音がする。」

 

 

 印を観察していると、騎士が鋭くミナに警告する。

 その直後。がさがさと草を掻き分ける音がして、それは二人の近くで頭頂部だけを見せる。騎士は固まったが、転んでくるその幼子にすぐさま手を伸ばした。

 

 

「わっ!?…あれ?」

「…怪我はないか、君。」

「え…と、あなたたちは…?」

「あはは!エド、小っちゃい子にびっくりしすぎ!こんにちは。私はね――」

 

 

 ミナは声を上げておかしいとばかりに笑い、幼子と目線を合わせて自己紹介を始める。子どもは既に立ち上がったというのに、騎士の腕は未だ強張っていた。

 未加工の羊毛のような、薄茶色の髪。先ほど驚きで大きく開かれていた瞳は、澄み切った空のような青色だ。

 

 この世界ならば、標準的な色味。それでも騎士にとっては、目に焼きつくほど特徴的だった。

 

 騎士の口から呟きが漏れる。あまりにも突然、長年の苦労が嘘であったかのように。騎士は希望の原石と会合したのであった。

 

 

 

 

 人が座れるだけの大きな石のところへ戻り、幼子と俺たちは話していた。とは言ってもミウが率先して話し相手になっているため、俺はほとんど相槌を打っているくらいだ。

 今この瞬間ほど、喋りが下手な自分自身を憎んだことはない。

 

 

「お姉ちゃん、お兄ちゃん!またここに来てくれたら、おすすめの場所を見ていってほしいな!わあって花がいっぱい咲いてるの!きれいなんだよー!」

 

 

 その幼子は、初対面であるというのに俺たちへ全く警戒心を持たず、にこにこと楽しそうに喋る。手振り身振りは大きく、今日見つけた綺麗な花であったり、山の中にある絶景であったりを。

 話には全く人間が出てこない。俺はそのわけについて、置かれた境遇が理由だと知っている。

 

 髪の毛の長さと艶が理由で、見た目だけでは性別が分からない。そういえば、過去の出来事をプレイヤーたちに見せたときの一枚絵でも、このような中性的な姿形をしていた。

 

 

 胸の内側を心臓の叩く音が聞こえるようだ。俺は対面している愛らしい幼子の正体について、認めざるを得ない。

 彼もしくは彼女こそが、未来の特別な勇者。裂け目の修復が出来るだけでなく、圧倒的な魔力を以て上位種相手に大きく立ち回ることになる「主人公」なのだ。

 話の途中で、幼子は掌を叩く。

 

 

「――そうだ、二人は村に行きたいんだよね?ぼく、道知ってるからそこまで案内するよ!」

「ケルちゃんありがとう!…ほら、エドもありがとうって。」

「…感謝する、ケル君。」

「うん、まかせて!」

 

 

 ()()。シンプルだが「バックスタブレイブ」にてデフォルトで設定されていた主人公の名前の一つ。男女ともに付けられていたため、これだけでは判別はつかないが。 

 幼子が名前を発した時、ケルが主人公であると確信へと変わった。

 

 まだケルは、村で受けている仕打ちについて理解まで及んでおらず。人から隔離された環境で、純粋無垢なまま生きている。

 もうこの子の安否が分かった時点で、村に用はないようなものだ。だがケルが、今どれだけ劣悪な暮らしをさせられているかを見ておかなければならない。

 そしてケルが勇者に選ばれるまでの期間、命に別状がないことを確認し続けねば。

 

 俺たちは幼子の案内についていきながら、話を聞く。ミウは終始笑顔で、この先に悪意があると想像していない。

 

 陽射しが木の葉に遮られ、鬱蒼としていく。薄暗い、主人公にとっての本当の故郷が、モニター越しに見た過去を刺激した。

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