裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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一寸先は闇でも踏みしめる

 幼子が何でもないことのように話す、ミストヴィルでの仕打ちは、俺を大きく動揺させる。ただ知っているだけであることと、実際に被害者から聞くのとでは現実味が全く違う。

 

 主人公の過去について俺が知っているのは、村の所業と主人公の純粋であり続けた部分のみ。村のクソのような因習を感づいているなら常人では作れない、含みの一つも無い笑顔だけだ。

 勇者ファンの中での推測では、主人公の精神性が幼少時から博愛で完成されているか、両親の死と悪意を体感するまでは完全なる純粋無垢であったかの二択であった。

 俺は前者の説を推していた。いくら純粋無垢であっても、ミストヴィルの悪意を感じられない訳がない。

 

 

 ミストヴィルの村人たちは時が来るまで、絶対に主人公の命を上位種へ捧げない。また、ケルは両親を愛していて、自給自足ができるほど自立している。そのため、親の悪意の矛先が完全に向けられる前に、自立しているケルを保護すればいいのではないかと思っていた。

 

 だが俺の甘い考えは外れた。

 ケルは紛れもなく強い善性を持っているが、博愛と呼べるほど人間離れしていない。

 親からの扱いに疑問を持ち始め、村人の様子が本能的に不気味なものだと感じ取っている。()()()()()()()

 

 目の前のケルは、幼いながらひた隠しにしてきた悲しみを、徐々に発露させていく。明るい声音も震えていくように。

 魔力を溜め込める器があっても未熟で、精神も聡明だが人相応であるならば。

 ケルとその他の子どもに、一体何の違いがあるだろうか。

 

 

「――ケルちゃんは…ほとんど親以外の人と話したことないんだ。」

「うん!お父さんとお母さんが、一人でいなさいって言うから。たぶん、ミナお姉ちゃんたちと話すのもだめなんだけど…楽しいからいいや…!」

「…絶対守るから…。ね、ケルちゃんは村の外に行きたくない?」

 

 

 ミウは、ケルを抱えるようにして話を聞いている。その隣で俺も、ケルの決断に耳をそばだてている。先ほどまでは三人で円を作るような形だったが、ケルがゆっくりと俺たちに身を委ねてきたのだ。

 ケルのその行動に、はっきりとした意思はないように思えた。ケルは目を細めてから、俺たちを順に見る。

 

 

「…考えたことなかった。ぼくが決めて、いいのかな…。」

「ケル君が望むなら、友人たちへ話をつけよう。」

「いっぱい行けるところあるよ!どうかな、ケルちゃん。」

 

 

 時期は先に考えていたが、元より俺は市民であるリィートイに、ルヴネト王国の民になれるよう推薦をしてもらうつもりであった。

 村から保護されるまでの流れは変われど、ルヴネトで暮らすなら何れ矛神教からリシディア教へ力関係が移る。現ルヴネト王が高齢のため逝去するからだ。

 そのタイミングで勇者としての力をリシディア騎士団に見せれば、主人公にとって健やかに成長できる五年間が確約される。

 

 だが問題もある。勇者としての才能は、ケルにあるはずだ。しかし何が「縫合」を習得できる素質を育むのか、「バックスタブレイブ」内で明言されていないのだ。

 主人公に見せつける鬱展開に関わることなら、設定を練りに練っていた制作陣が、肝心の勇者について設定を考えていないとは思えない。

 

 俺が下手にケルへ手を出して、その結果「人類の希望」となれる逸材が勇者になれなかったら。主人公は素質こそあったが、日々積み上げていった戦闘経験や魔力の鍛錬によって力を増していったのだ。

 その根本となる「縫合」が習得できなければ、奴らの親玉や羽虫どもを倒しきれない。

 

 死の間際化物どもの攻撃で、両腕片足を失い。大量の血を流しながらも、リシディアの喉元を噛みちぎるまでに至れたのは、主人公に力があったからだ。

 天上でほくそ笑む偽りの女神たちに攻撃を届かせられるのは、主人公しかいないのである。

 

 

 下から上へ這い上がる不安感に、腕の震えが応える。エドムンドの体が、幼子に反応しているのだ。大切な孤児院の子どもたちを殺された遺恨。それは俺の迷いかけていた考えを正す。

 そうだ。結局のところ俺が考えているのは、机上の空論だ。それで片付けて、置いていくことなどできない。

 

 幼子を見殺しにすることを俺自身が許せない。そのような所業を、エドムンドの体も許しはしないのだから。

 

 ケルは口を尖らせた後、深く首を前へ傾けた。その直後、ずっと俺の右手を握っているケルの掌が、熱を持った。

 

 

「…ありがとう、ございます。ぼく、外に行きたい。ミストヴィルの人たちは…きっと怖いんだ。」

「よく勇気ある決断をしてくれた。」

「よし、じゃあすぐ行こう。大丈夫、城下町まで行けばどんな怖い人も追ってこれないから。」

 

 

 ミウは体をぐいと動かして立ち上がり、村とは反対方向に歩き出そうとした。だがミウの動きを、ケルが言葉で留める。

 

 

「その前にお父さんとお母さんに、話してきてもいい?エドお兄ちゃんたちのことは言わないよ!山の外に行きたいって言うだけで…そうしたら、お姉ちゃんたちのところに戻ってくるから!」

「そっか…話しておかないとだよね。両親だもん。…エド。」

 

 

 少女は俺を小さく手招いた後、ケルに聞こえないよう俺の兜にひそりと話す。ケルの身の安全を考えての案であった。

 

 

「村の外から、ケルちゃんを見守ろうよ。絶対バレちゃダメなのは大前提で。」

「もちろんだ。…いや、場合によっては姿を現そう。あの村の人間が何をしでかすか、分かったものじゃない。」

「…うん、そのときはついてく。あんなひどいことしておいて、実の子どもに手まで出すなら――そんなの化物たちと一緒じゃない。」

 

 

 ミウの吐き捨てるような言葉に、俺は強く共感した。

 

 ケルの命の安全は、最も優先される事項だ。

 それに俺は、ケルから話を聞いて一つ考えを深めたことがあった。ミストヴィルは魔力を持った人間を生贄とする。

 このことから、この村は過去何度も上位種に狙われていたのではと思ったのだ。

 

 

「行ってきます!待っててー!」

「はーい!…エド、私たちも行こっか。」

「ああ。誰にも気づかれないように。」

 

 

 用心するに越したことはない。俺は村の周囲から、歩く人間をじっくりと観察し進む。

 どの人間にも覇気がない。聞こえてくるやり取りも、その場にいない人間を悪し様に言うような、陰湿極まりないものだ。

 

 濃い霧が陽の光を通さずとも、昼は過ぎ陽が沈もうとしていた。

 夜が近づくことで風が出てくる。気温の逆転が霧を薄めていく。俺は家屋の中に入ったケルについて、魔力が乱れないか感知を集中させた。

 

 

 だが意識していた村の内部とは、別の場所から反応が出てきた。こういう重要な時に、「バックスタブレイブ」の世界では都合の悪いことばかり起こる。だがミストヴィルが生贄を作り出すことを覚えるほど、上位種に狙われているとすれば、おかしくはないことだ。

 

 俺は剣を抜き、移動を始めた悪意へも憎しみを研ぎ澄ます。

 

 どのような状況であろうと、化物を逃しはしない。

 

 

 

 

 幼子ケルが向かった先は、両親が住まう家屋である。そのことにもケルは、エドと名乗る騎士とミナとの会合により確信していた。出会ってからほんの数時間で、目を逸らしていたことに向き合ったのである。

 

 両親は、自身のことを疎んでいる。この村に生きる、全ての人間と同じように。

 ケルが村を歩くたび、全身に何かが突き刺さるような感覚がしていた。その意味は、負の感情が籠った視線であったのだということも、ケルは理解した。

 逃がしていた心の淀みが破裂し、手足が重く感じ始める。両親の顔を見るのが恐ろしくなっていた。

 

 

(もう…嫌なんだ!)

 

 

 ケルは家屋の戸をばっと開き、中にいた二人をじっと見つめる。薄茶色の髪は父から、青い瞳は母から受け継いだものだ。しかしケルが血によって継いだその特徴は、貧しさと病的な排他性によってくすんでいた。

 そして幼子は、交差する視線の冷たさをしかと受け止める。

 

 

「どうしたの、ケル。早くあなたの家に戻りなさい。これからご飯を食べるところなんだから。」

「そうだ、ケル。もうお前は一人で食べていけているだろう。本も渡したんだから、我儘を言わないで家に帰るんだ。」

「話したいことがあって…。」

 

(…あの二人と、全然違う。……なんであの人たちは、温かったんだろう。)

 

 

 ケルは両親に向かって一方的に話題を投げかける。追い出されることはなかったが、両親の反応は薄く、ただ頷いているだけであった。

 

 両親を目の前にしながら、騎士とミナのことを思い浮かべる。

 目は口ほどに物を言う。ケルは、両親と騎士たちの視線が別種のものであると感覚的に理解できた。

 温かな眼差しというものを受けたことがないケルにとって、騎士たちとの会話は陽だまりにずっといるかのようだった。その光を一度浴びれば、戻れない。

 震える口を一文字にしてから、ケルは宣言する。

 

 

「――ぼくは、外に行きたい。本とか、たまに来る商人とか…それだけじゃ足りないんだ。」

「ケルは我儘な“仔”だな。外は危ないんだから、山の中で過ごした方がいいんだ。」

「外に行くなんて、絶対に許さないわ。何のためにここまで育ててきたと思っているの?」

 

 

 豹変した両親の強い口調に、ケルの手足が強張る。今までケルが村人から感じてきたものが、両親からも湧き出ていた。

 ケルの両親は立ち上がり、続ける。

 

 

「もしかして、何か吹き込まれたのか!外の奴らに会っていてもおかしくないな…!」

「こんなこと言い出す仔じゃなかった、きっとそうよ!…言いなさい、ケル。どこにそれがいるの!」

 

 

 ケルは横にゆっくりと首を振り、後退る。得体のしれないナニカに変わってしまったようで、心の底から縮みあがったのだ。

 戸を閉められ、詰問されるがすぐに開いた。幼子は村の中を駆ける。

 後ろから聞こえる両親の怒鳴り声によって、村の人間がケルに向けられる視線は、更に鋭くなる。ケルは二人がいるはずの場所に必死で逃げた。

 

 その先、村の入口付近に騎士とミナが立っていた。幼子はその姿に安心して脱力しかけるが、足に力を入れてミナの体へ向かって飛び込んだ。

 そのままケルは、顔を騎士に向ける。ケルが手を伸ばせば、騎士は左手でぐっと握り返した。

 

 

「はあ、はあ…!助けて…もう、やだよ…。」

「大丈夫だ。…ここの人間は精神性がおかしいだけで、力は持っていないようだな。君を害せる者はいない。」

「よしよし…。エド、近くに反応があったっていうのは?」

「あちらから来る。…おそらくだが、奴らはこの村を餌場にでも思っているのだろう。」

 

 

 ミナは、ケルの乱れる息を背を撫でて整えながら、騎士に向かって問う。騎士は直剣で右を示した。ミストヴィルに上位種が迫っているということを。

 

 

「ケル君の他にも魔力を持った子どもを育てているのかもしれない。ケル君は、そういった子を村で見かけたりはしなかったか?君と同じ、不思議なものが体から感じられる子たちだ。」

「…ずっと、お家にいる子がいたかも。ぼくが話しかけようとしても、他の子と違って声が出せないみたいな感じだった。」

「それだ。…判断の誤りは、人に頼らねば正せないな。」

「え…エドお兄ちゃん、それってどういう――」

 

 

 ケルが尋ねようとすると、突然騎士の気配が静かになる。そしてケルの口元に左人差し指を持ってきてから、右手に力を込めた。

 騎士の持つ剣が、青色に淡く輝き出す。ケルは有無を言わせぬ空気に圧倒されながら、剣を見つめていた。

 

 

「丁度良い機会だ。後腐れなく、君を連れていける口実が出来た。」

「あーあ。いつもこうやって見せつけてるんだ。ケルちゃん、ミナお姉ちゃんに掴まって。この森の中なら、エドの近くが一番安全だからね。」

「う、うん!…わっ!」

 

 

 身体強化魔法を使ったミナに勢いよく抱き上げられ、ケルは騎士へついていく。

 濃い霧はいつの間にか晴れていて、その騎士の鎧を青い光が包む。村から聞こえる怒鳴り声とは真逆で、騎士は静寂に満ちていた。

 

 そしてすぐ、ミナと共にケルは見る。醜悪な存在と、輝く夜の月を。

 陽だまりのような語らいと、柔らかな月光により。幼子の震えはもう止まっていた。

 

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