裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

24 / 114
はじまりの鬱展開を台無しにする

 丁度木々の隙間から月の光が届いて、巨大なヒトガタと小さな数匹が村へ向かうのを視認する。歩くたびに木の根が踏み潰され、鈍い音が鳴り響く。

 俺はその正体に、ミストヴィルとの関連性を感じ納得する。緑色のそれは、主人公が相対した上位種と同じ種族だったからだ。

 

 

 ゴブリン、オーク、トロル。ファンタジーで言えばこれらの生物によく似ている、耳の尖った上位種である。

 緑色の耳が尖った亜人というのは、一般的なファンタジー世界であれば、まず雑魚敵や弱めの中ボスなどに設定される。

 そして外見の特徴だけが浸透していき、原典は別物なのに、もはや大小でしか区別されなかったりもする。

 

 緑尖耳の上位種も例に漏れず、設定が混ざっている。小さいものは弱く、成熟すれば俺の目の前にいるような化物に変化する。またそこから更に強くなると、でっぷりと太った完全なる化物に変貌するのだ。

 これのどこが「上位種」だと、鬱展開の連続によってブチギレたプレイヤーも多々いた。だが奴らも生物的特徴で言えば、人類に勝っているのだ。

 

 知能と増殖力。小さい個体であっても、筋力は並みの騎士より上だ。上位種の上澄みまで成長しなければ、緑色の美麗な人面でもある。

 「上位種」というクソみたいな名称を付けたこの世界の術師は、奴らの手駒になりかけであったに違いない。

 

 

(気配は一つ、二つ…九つか。随分来た。だが複数なら、トリネ君に気づきをもらったあれが使える。)

 

 

 俺は足音を殺しながら急ぎ、奴らの進行方向へ魔法「銀の泥沼」を生成していく。

 粘体の化物どもと違って、緑尖耳の上位種はその場で増殖したりしない。しかし死に際に獣の屍があると、黒い血を浴びたそこから新しい個体が出てくるため、注意が必要だ。

 獣たちを巻き込んでは忍びない。俺は頭の中で位置取りを計算し、局所的に魔法を使用した。

 

 そして準備が終わった瞬間、注意を引きつけるため奴らの前に姿を現す。

 整えられた人面が、下卑た笑みを作る。その表情は、ミストヴィルの村人と同様、分かり合えない精神性を物語っていた。

 

 

『へへへ…こいつが今回の捧げもんかよ?顔が見えなくてつまんねえな。』

『物足りないが、殺した後兜を剝げばいい。くく…頭が残っていればの話だがな。』

『親分、早くやっちまいたいぜ!へっ…殺す、殺す殺す!』

 

 

 奴らはおれを指さして嗤っている。醜悪な鳴き声に剣筋が震えてはいけないため、俺は魔力で聴覚を制限した。

 ミウとケルが俺の後ろについてきている。危険であるため、俺がミウに分かるよう手で合図すると、かさと俺の背後で音がした。少し離れ、安全な場所に隠れたようだ。

 

 俺は大きく息を吐くと、剣先を化物どもに定めた。リーダー格の指示も待つことができない、小さな緑尖耳が俺に向かって突進してくる。

 

 

「……。」

『ぎゃはは……は?』

 

 

 その個体の首と胴体が離れ、黒血と共に全身が爆発した。「月融け」によって、俺の剣に付着した黒血は消滅する。

 俺は、別の個体に剣先を向けた。次はお前だ。

 

 

『ザコが…我ら種族の面汚しめ。てめえら、囲んでかかれ!』

 

 

 リーダー格がそう叫ぶと、緑尖耳の化物どもは頭部に皮を被る。文字通り、奴らが殺してきた人間の皮を細工したものだ。

 巨大な緑尖耳の化物は、籠った声で笑った。だが、どのような悍ましい所業を見せられようと、俺がすることは変わらない。

 敵を殺し尽くす。主人公の道を舗装し、この世界に化物どもの悪意が残らないように。

 

 

(ケル君、見ていてくれ。別の君が躓いてしまった「石」を、今ここで取り除く。)

 

 

 俺は飛び掛かってくる個体の一匹を、右へ足を運んで斬る。爆発する黒血に当たらぬよう躱した。

 残るは、七つ。

 

 

 

 

 ミストヴィルは、上位種にとって都合が良すぎる村であった。わざわざ上位種が喜ぶようなことを、進んで行うのだから。

 純粋な性格の生贄をせっせと育て、常時上位種に怯える。そして生贄となるのは、ミストヴィルにおいて上位種に対抗できるはずの存在なのである。

 愚かにも武器を捨てて、媚を売る。上位種が望む「下等な人類」の完成形であった。

 

 ミストヴィルの村人たちは、これを「村を生かすための戦略」だと考えていたが、実態はまるで違う。

 いつでも潰せるなら好きなように遊ばせておこうと、化物どもは考えている。飽きるまで捧げられる生贄を愉しんでいるだけなのだ。

 

 

 そんなことも露知らず、ミストヴィルの人間は互いに罵り合っていた。一人の生贄の脱走と、上位種の到来で話し合いにもならず、ただ生産性のない問答を繰り返している。

 その貶し合いの最後には、育てていた生贄を全て、上位種に捧げるという結論を出した。

 

 家屋から、数か月か数年ぶりに解放された子どもたちが、呆けた顔で空を見る。

 窓越しに見ていた外の景色へ、実際に触れられる。魔力を持った子どもたちは、気持ちを晴れやかにしていた。この後自身に降りかかる死を理解しても尚、星々に見惚れていた。

 

 

「空、きれい…。」

「…もう、これ以上ない日だろうね。」

「きびきび動きなさい。あちらへ!森の中へ向かうのです。さあ、早く行け!」

 

 

 四人の子どもは、村人に背中を強く押され歩き出す。そう、親や村の人間に言いつけられたからである。彼らは長らく行動力を割かれ、もはや生きることを諦めていた。

 幼いながら腹を括っても心細さが残る足取りに、村の人間がついてくることは無かった。

 

 だが子どもたちを、二つの月は照らしている。今のミストヴィルにおいて、最も力を持った幼子のことも、同じように。

 

 

 

 ケルは目を見開きミナの傍で、エドと名乗る騎士の戦いを見守っていた。

 幼子にとって、戦いとは無縁のものであった。戦いが成立するには、最低二つの命が向かいあい、命を奪い合おうと殺意を尖らせねばならない。

 ケルは大きな獣に襲われても立ち向かうことはせず、隠れてその場をやり過ごしていた。戦いが始まるはずもないのだ。

 

 

「…きれいでしょ、ケルちゃん。」

「え…うん、すごくキレイだと思う…。主役みたいに…。」

 

 

 至近距離から発せられる、銀髪の少女ミナの言葉に、ケルは一瞬体を跳ねさせたが頷く。

 今まで見たことのない、人のような何か。非道な言葉ばかりを並べ立てるそれらに対して、騎士は命のやり取りをしている姿に対して。

 

 命を奪い合うことは汚いことであるはずなのに、ケルは目を離せなかった。戦う騎士が、目の前の「物語」の主役に思えたからだ。

 ケルは、両親に昔与えられたぼろぼろの娯楽本を、何度も読み返していた。各教義にそれぞれ存在する騎士団の任には「勇者」が必ず同行していたという話だ。

 

 勇者は苦難に打ち勝ち、民の命を守り続ける。ケルに守るべき人はいないが、それでも主人公の献身に胸を躍らせた。数年前までは、夢物語にも憧れるほど子どもらしかった。

 その情動が、ケルの心に戻ってくる。ぼうっと、ケルは騎士のことを見つめていた。

 

 

「ふふ、ケルちゃんも()()()だね。ぼんやりしちゃってさー。」

「ど、どういう意味!女子だと、そう思っちゃうってことなの…!?」

「それはー…ケルちゃんにしか分からないけど。横から見てたら、そう思っただけ。」

「う、うう…。」

 

 

 腹部をつついてくるミナに聞き返した後、ケルは動揺しながら顔を掌で包む。ケルの顔に熱がこもっている。幼子はませていた。

 

 

 すぐそばに戦場があるとは思えないほど、和やかなやり取りがある中。

 騎士は既に、緑尖耳の上位種における小さな個体を、全て斬り終わっていた。爆発し、ばら撒かれた腐った黒い血に、騎士は魔力を照射した。「月」の魔力が込められたそれが消え去るときには、痕跡は跡形もなくなっていた。

 

 

『貴様あ…ミストヴィルの人間どもじゃあないな!こんな奴を贄に作るわけがない――』

「…今回ばかりは、化物の鳴き声にも同意せざるを得ない。」

『――だが、貴様が何だろうと、このオレ様に敵うわけもない。消えろ!』

「…残り一つ。」

 

 

 緑尖耳の巨体は、被っていた人皮をぶちぶちと割き、牙を剥きだして駆ける。会話をしているようで、していない。どちらも聞く気がないのだ。

 人類が上位種と分かり合うことは、不可能だ。命続く限り永遠に、上位種は人類を家畜や虫のように扱う。それもただ見下すだけで、愛玩することもない。

 例え、人に歩み寄ろうとしているように見える場面があろうと、それは擬態でしかない。犠牲者がそうであってほしいと、望んでいるだけのことなのである。

 

 

『ふはは!オレ様の拳が当たれば、お前ら人類は弾け飛ぶのだ!貴様の腕が千切れる様を見せてやる!』

「……。」

 

 

 騎士は神経を研ぎ澄まし、大振りの拳を避ける。躱してすぐ青い靄を纏った直剣を薙ぐ。上位種の腹部に、尖った耳に、踊るような剣技にて深い傷をつけていった。

 そして騎士は一歩二歩と回り込むようにして、誘導する。彼が森のあちこちに仕掛けた、沼地に足を取られるように。

 

 

『ぐあっ…!なんだ、この銀色は…?』

「だから、緑の尖り耳は弱い。来たのがお前らで楽をできた。」

『ぐう…貴様がやったというのか!?…と、溶ける…オレ様の、足が…!』

 

 

 片膝をついた状態で、緑尖耳の巨体は顔に皺を寄せる。騎士に傷を付けられた部分が治らず、残り続けていることに気づいたためだ。

 「月」は上位種の体を蝕む。それらが慢心しきったとき、手遅れであったと理解するのである。

 

 騎士は振り回される剛腕を最小限の動きで避け、下がった上位種の首を、横に切り裂いた。緑尖耳の上位種は、最期まで信じられないという表情をしたままであった。

 

 戦いの後。騎士達と少し離れた場所から、人間の悪感情が込められた叫びが聞こえる。騎士は、木陰に隠れていたミナとケルに合流すると、その叫びたちが聞こえる場所を確認しに行く。

 

 

 そして道中、彼ら三人は、ミストヴィルで魔力を持っていた子どもたちと出会う。子どもたちは、危機が去ったことにも大きな反応を示せなくなっていた。それを見て、騎士はぎりぎりと音を立てて拳を握る。

 騎士が抱いたのは悪辣な人間たちに対する、激しい怒りであった。

 

 

 

 

 ケルは、ミストヴィルの家屋に幽閉されていた子どもたちと共に、騎士についていく。ケル以外の子どもたちはぼんやりと、騎士の背中を見つめていた。

 騎士は、子どもたちに力強く言った。村の外に出ても、道は無限大に広がっている。魔力を持っているなら尚更、どんな道だって選び取れると。

 騎士は自分自身が証明となった。エドは騎士団を抜けても、旅をする冒険者として生き長らえている。

 

 

(本当のことなんだ…。エド()()は、魔法を見せてくれた。ならぼくも、貴方みたいに…。)

 

 

 ケルはもう、エドに対して「年上の男性」であるという認識以外を持ってしまっていた。

 

 ミナと話している間も、ケルはずっとエドの動きを見続けていた。そしてミナから話を聞けば、エドが使っているのは「魔法」であると知った。

 ケルは魔法の存在さえ架空の力だと思っていたが、エドを見つめながら納得したのだ。

 二つの月から力をもらい、輝く。人知を越えた美しさは、正に魔法であると。

 

 

「ミナお姉ちゃん、ぼくも二人みたいに魔法が使えるんだよね?どんなのが使えるようになるのかな!」

「うーん…本当色んなのがあるから。ケルちゃんが使いたいって、心から思った魔法を覚えてみたらどう?気になっているなら、私も教えてあげるよ!」

 

 

 ミナの笑顔に、つられてケルは笑った。外の世界への期待はどんどん深くなって、それと同時にエドへの憧れも高まっていく。

 覚えるなら、ミナの身体能力魔法と、エドの「月」の魔法がいい。そうすれば、突然現れて自分を連れ出してくれた「王子様」のような存在に、もっと近づける。

 

 

 

 だから、村の狂気にもケルは怯まない。両親や村の人間が、子どもたちを糾弾する姿に感情を動かしても、毅然とした態度で立ち続ける。

 

 

「私たちが育て上げた“仔”だぞ!その努力を奪う気か!」

「仔を返せ、盗人め!薄汚い悪党めが!」

 

 

 ケルは右手を近づけ、騎士の左拳にそっと触った。するとエドは詰まらせていた息を吐き、涙で湿ったケルの手を握る。

 

 

「エド、さん…。ぼくたち…!」

「大丈夫だ。…君たちは、こんなところで終わらない。」

 

 

 エドが村人から投げられた石を、魔力を放出することで砕く。すると、ミストヴィルは途端に静まり返った。

 魔力を持つ者が、才能を開花させればどうなるか。村人たちは、生贄を使って難を逃れる前の共通認識に戻されたのである。

 

 子どもたちと、彼の同行者であるミナと共に、騎士はその場を去った。

 ぼんやりと思考を停止していた子どもたちも、理解する。これから自分たちは、真の意味で人間になることができるのだと。

 

 

「…彼らは間違っていた。俺たちは、悪辣さで支配できない。最後には、心の強きが勝るのだ。」

 

 

 矛神の騎士団にミストヴィルのことを報告しようと、エドはミナに相談する。ルヴネト国にある以上、王の権威は効力を持つのである。

 

 山の中は暗くとも、子どもたちの心は眩い光に満たされていた。四人は自由への期待に、ケルは人が放つ陽光と、騎士の月光に思考を染めていた。

 暗い絶望はもう遠く、山の外へ出ると朝陽が昇った。濃霧から、彼らは自由を得た。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。