裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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ついてくる少女??

 俺たちは数時間かけて、荷馬車が停まる小さな町にたどり着いた。この町からルヴネトに向かう商人はいるだろうから、声をかけて護衛をしながら乗せていってもらおう。

 ルヴネト国の領土であるため、矛神の騎士も滞在している。ここで話をしておいて、ルヴネト王の膝元で指揮を執っている矛神の総指揮官に繋げるのもいい。

 

 霧深く物さえ不明瞭にしか見えない村で育ったためか、ぼろ布に身を包んだ少年少女たちは無気力から解放されたようだ。

 俺とミウの後ろに、カルガモの雛のごとくついてきながらも、露店で販売されている装飾品や、飲食店の内部に視線を行ったり来たりさせている。

 

 俺は隣で歩くミウに対し、路銀を手渡す。この前の闘技に参加したとき、賞金をもらったため余裕があるのだ。寄付する前であったため、手持ちがあった。

 

 

「ルヴネトに着くまでに、空腹で倒れてはならない。ミウ君、これで子どもたちの欲しがる食物を買ってきてくれないか。」

「え…私だけ?ついて来ないつもり?」

「俺に、子どもとの完璧な会話はできない。面倒見の良い君なら任せられる。俺は色々話をすませておくよ。」

「はー…まあ、いいけど!ルヴネトに着いたら、また埋め合わせしてもらうから。…はい、お姉ちゃんについてきてね!」

「ああ、了解した。よろしく頼む。」

 

 

 面倒ごとを押し付けられたと分かったのだろう。ミウはそっぽを向いた後、子どもたちに笑顔を作った。そしてどこで集まるか決めた後、ミウを先頭にぞろぞろと町を歩いていった。

 ミウ以外、白いぼろの服を着ているため、何事かと町の人間に見られていたのが印象的だった。何も知らなければ俺もそうなるだろう。

 

 

(純粋に育てられたというのは本当だな…。会って間もない人間にあれだけ懐くとは。あの少女の性格あってこそか?)

 

 

 俺がミウたちを見送ると違和感に気づく。一人足りないのだ。すぐに、俺の違和感を晴らす声が下の方から聞こえる。

 

 

「――じっとしてどうしたの?」

「ケル君は一緒に行かなかったのか。」

「え?…うん!お腹空いてないもん。それよりエドさんの行くところ、ついてきたい!」

 

 

 ブロンドに近い茶色の髪に、空色の瞳をした幼子。ケルが、ミウたちの向かった道とは反対方向を示す。馬車が停まっている、町の入口付近である。

 俺はケルの顔色を観察して、良くはないと読み取る。俺は考えてから、ケルに質問した。

 

 

「そうは言っても、昨日の昼頃から食事を摂っていないじゃないか。いや…いつ食べた?」

「二日くらい前かな?大丈夫だよ、せつやくには自信あるんだ!」

「…交渉は後回しだな。食物を買いに行こう。ケル君だけなら要望も聞ける。」

「う、うん。ありがとう…エドさん。」

 

 

 俺はそっと近づけてくるケルの手を取り、ミウの向かった通りに続く。兜の隙間に料理の匂いが入り込んできた。「バックスタブレイブ」の世界は、店売りの食事は美味いのである。

 制作陣に、これといって料理にこだわりがなかったのは、唯一褒められる部分かもしれない。

 

 やはり痩せ我慢であったようで、ぐうとケルの腹から音が鳴った。俺は横の小さな背丈を見て思わず笑うと、ケルは顔を地面に向けた。さらりとした髪で隠れた耳が、少し赤くなっている。

 

 

「うう…我慢できるのに…。」

「もう我慢する必要はないんだ。目に入ったもので、ケル君が食べたいのを何でも買おう。直感でいいぞ。」

「あ…あれが食べたい、です。」

「分かった。多めに買っておくか。」

 

 

 ケルが顔を少しだけ上げて示したのは、庶民が食べる黒パンと、木の椀に入ったシチューであった。俺は路銀を、ケルと繋いでいない方の右手で取り出し、店の主に話しかける。

 

 

「失礼する。黒パンを十四、大きめの器を二ついただきたい。」

「……まいど。」

 

 

 恰幅の良い男性は、俺が伝えた分、パンとシチューのセットを店頭に置いた。できたての熱さを顔に感じる。

 パンは簡易的な手提げに入れられているため脇で抱え、シチューが容れられた大きめの器の内一つを、ケルに渡す。

 

 

「両手で持って、落とさないように。皆の分だ。」

「…うん!」

 

 

 ケルは笑顔で元気よく返事をすると、小さな両手で器を持ち上げた。そして危なげもなく、俺と並んで物を運んでいく。

 そして待ち合わせ場所として決めた町の隅に腰を下ろし、ミウたちを待つことにした。急遽予定変更をしたが、送り届ける子どもが最優先だ。少女も分かってくれるだろう。

 

 

「美味しそう…!エドさん、食べていい!?ちゃんと二つまでにするから!」

「ああ。足りないなら四つ食べて構わない。…君たちには聞いておかないといけない話もある。食べながら教えてくれ。」

「うも…?も…分かった、何でも聞いて!」

 

 

 ケルは既に口へパンを頬張っており、一口飲み込んでから頷いた。そして俺は、ケルが焦るように食べる姿を見守りながら、考える。

 

 聞いておきたいこととは、子どもたちがどこに所属したいかである。世間を知らないならば判断をするのも難しいだろうが、望みは聞いておきたい。

 魔力を蓄えられる者は貴重であり、大成しなくとも、上位種という脅威に立ち向かうためには失ってはいけない存在である。ならば、出来る限り力を引き出せる所属が良い。ある程度強ければ、自身の命を守れる。

 俺は、ゲーム内テキストを一言一句見逃さず調査して得た知識や、実際に旅して培った見識から、最適を導き出そうとする。

 だが深く考えずとも、答えは一つだ。双子神教の騎士見習いになることである。

 

 双子神教には二つ分派がある。剣のドラクシエルを奉る矛神教、盾のヴァルミラを最高指導者に掲げる守護ヴァルミ教だ。

 双子神教の総本山は最北端にある。そこから各国の双子神教を信奉する王や領主を守るため、総指揮官か司令官が派遣される仕組みなわけだ。

 

 どちらの女神も俺たちプレイヤーにとっては憎き化物だが、下につく騎士たちは誇り高く、頼りになる存在である。この教団に所属する勇者たちも、騎士たちの雰囲気と同じ感じだ。

 

 

(――だがケル君を所属させるには、魔法の発展性が無さすぎる。「縫合」がまだ習得できていないとはいえ、そのまま預けるとなると…。)

 

 

 例外はいれど、騎士は正道を好む。特に双子神教の、魔法についての地盤は固まっていて、他の魔法が入り込まないのだ。

 リシディア教がルヴネト王国を管轄するまで待つ案以外にも考えてみたが、どれも不安定で、今後の育成に支障が出る。

 だがもし早い段階で、矛神の騎士団に「縫合」を習得させてもらえれば。五年間の安泰に加え、二年と少し魔力を鍛える時間が増える。

 ゲームでは主人公の独力で目覚めた魔法だが、時間のアドバンテージは大きい。勇者として所属の変更をするか、変えずとも拠点をルヴネトにすることで、残ればいいのではないか。

 

 勇者とは特殊で、教団ではなく国につくこともできるのだ。「縫合」を使える人間は非常に少ないため、土地を安定して守れるように各教団が取り決めたと、ゲーム内の書物にあった。

 

 

(しかし、ケル君や子どもたちの考え次第だ。融通は利かせたいが、果たして…。)

 

「あったかいな…。パンってこんなおいしいんだ…。」

「ルヴネトに行けば、毎日温かい食事が食べられる。楽しみになってきただろう?」

「うん…!あ、エドさんも食べてよ!どうぞ!」

 

 

 ケルは自身が持っていた黒パンを千切り、俺に手渡してきた。過酷な環境に置かれていたというのに、自然と人に施せる。俺は、ケルの心根の清らかさに嬉しさを感じた。これこそ、俺が好きな主人公の姿だと。

 俺は礼を述べてから、素早く兜の中にパンきれを放り込んだ。固いが、それでも温かい味だった。

 

 

 しばらくすると、ミウたちがやってきた。ミウの後ろをついてくる四人の子どもは、薄っすらと笑みを見せており、食物の入った袋を大事そうに抱えている。

 俺は合流して一番に、ミウへ謝罪した。交渉の類が終わっていないことについてである。

 ミウはケルの様子を見てから、掌を前に出して振った。

 

 

「大丈夫大丈夫!いっぱい買ってきたの、一緒に食べよ!この町、城から近いんだし、荷馬車が無くなるなんてことないでしょ。」

「…そうだな。腹ごしらえしてからでも問題ないか。」

「それよりケルちゃん!エドに買ってもらったのー?」

「も…!?」

 

 

 ミウが来ると賑やかになる。彼女に構われたケルも顔を赤くしてはいるが、嬉しそうだ。

 昨夜から思っていたが、ミウの子どもの扱いはすさまじい。こういった自然と輪を作れる人間こそ、俺が守りたい存在だ。

 善性が、絶望ばかりの「バックスタブレイブ」の世界を壊す。俺はこれからも、彼女たちのような人が健やかに生きられるよう、剣を振るいたいと強く思った。

 

 

 

 

 冒険者の少女ミナは、ミストヴィルから保護した四人の子どもたちと共に、町を回っていた。

 男女二人ずつで構成された子どもたちは、淀んだ瞳の中に確かな輝きを持ち、ミナへ色々なことを聞いた。あの食べ物は何という名前か、あのキラキラしたものは何のために使うのか。か細い声でも、好奇心の火種は尽きない。

 ミナは笑顔を心掛けて、子どもたちに一つ一つ説明していく。そんな中少女の心には、エドと名乗る騎士の姿が浮かび上がっていた。この瞬間、騎士と自分は家族になったような心地がしていたのだ。

 

 

(でもエドが、どこかの町に定住するなんて…。はぁ…ないよね。)

 

 

 ミナは騎士を追いかけ、上位種を屠った後の静かな戦場にて、物を拾い集めていた。飛び散った剣の欠片や、鎧の削片である。

 それらは直前までエドの魔力を含んでおり、ミナの鼻孔には清涼な魔力の匂いが通り抜ける。その度にぞくぞくと背筋を快感が走った。他の「月」を知らずとも、エドのものでなければ満足できない。そうミナは感じていた。

 

 月の光で輝く金属と、一緒に旅する。そうすることでミナは、ずっとエドの傍にいるような感覚を楽しんでいた。だが次第にミナは、鼻孔を刺激するだけでは満たされなくなっていた。

 旅の重なりは喜んでも、連れ立つことを拒むエドにどれだけ繋がれるか。増えていく知り合いたちに相談をし続け、ミナはある結論に達する。

 

 

(エドはずっと一緒にいてくれない。なら…人を増やせばいい。大陸の中心にいるだけの理由を増やせば…。)

 

 

 騎士の友人である鍛冶屋の女性は言った。人で繋ぎ留めねば、エドは簡単に世を去る。自身の名や生涯に意味を持たせていない、危うさがあると。

 ミナにとってもそれは、看過できないことだった。ルヴネトでの戦闘を経て、その気持ちはますます強まる。水流の魔法によりへしゃげていた騎士の鎧は、一歩踏み外せば死んでいたのと同義なのだから。

 

 突然ミナは、子どもたちに伝える。あえて蠱惑的な色を持たせて、子どもたちが聞き逃さないように。

 

 その内容とは、騎士団の人間に、エドが他言していない功績を広めていくというものだ。

 当事者である子どもへ「もっと良い暮らしができる」と分かりやすいメリットを提示することで、「月」の重要さを第三者に周知させる。

 そうすれば、エドはもう簡単には死ねない。ミナはずっとエドを感じることができる。

 

 

「――それと、騎士のお兄ちゃんの決定は、君たちに良いようにしかならない。しっかり聞いてあげてね。」

「うん…!」

「そうだ…もらった命なんだもの…。」

 

 

 魔力を持っているなら、それだけで価値がある。ミナは、エドがどのような道を子どもたちに示そうが生きていけると、問題視していなかった。

 泥水を啜ってでも生き残ってきたミナは、子らの生まれの歪さに仲間意識を持っていた。それ故に多少考えが雑になる。

 

 

 しかし合流した後、エドが子どもたち話したことは、ミナの予想を超えていた。

 ただ村から保護しただけの子どもに、なぜそこまで気にかけるのか。ミナは混乱していた。

 

 

「――君たちは、矛神教に保護してもらおうと考えている。幸い、彼らには顔が利く。五人くらい、魔力を溜められるなら喜んで受け入れてくれるだろう。」

「エド…そこにも知り合いいるんだ…。」

「こんな俺にも、大陸中探せば気の合う奴はいるということだ。…気を悪くしないでくれ。ミウ君も、俺の大切な友人だ。」

「あう……もう!そうやって言えばいいと思ってるでしょ!」

 

 

 ミナは、エドの言葉一つで思考が沸騰しそうになる。だが頭の冷静な部分で、危機感も持っていた。何月もついていっているのに、エドにはまだ知らない部分がある。

 騎士長アイナはこれを魅力だと考えたが、ミナは焦燥感を強めた。

 

 

(エドがいなかったら…何も意味ないよ。…エドの友達も見定めないとね。)

 

 

 絶対に標を逃してはならない。浮世離れした騎士を必ず地上に引き止めると、ミナは強く誓った。

 

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