裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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ランダムエンカウントは彩りを与える

 ミウが買ってきてくれた食物を全員で食べ、その間に今後の提案をしておく。彼らがどうしたいのかも聞き入れた上でだ。

 しかし子どもたちは、俺の出した案にすぐさま同意してくれた。四名の少年少女は、解放されてから欲求が戻ってきたらしい。一度は生きることを諦めていても、環境が変われば感覚も正常に戻っていく。

 

 食事を終えた後、ミウに子どもたちを任せ、俺は二つのことを為しに行った。

 一つは、ミストヴィルが上位種とある意味で繋がっていると矛神の騎士たちに伝えること。もう一つは、ルヴネトの城下町行きの荷馬車と交渉することであった。

 

 前者に関しては、騎士たちに子どもの状態を見せることで、すんなりと話がついた。農村や山村で、魔力を溜められる子どもが間引かれる傾向にあることは、どこの勢力も知っている。だが上位種への捧げものにするというのは、看過できることではない。

 矛神の騎士団はすぐ偵察隊を動かすと言ってくれた。

 

 

「『青月』殿、情報の提供感謝いたす。して、子らは我ら矛神が保護すればよいか。」

「ええ、五人とも保護していただけると有難い。」

「…うむ。一人だけ、魔力量が多いのう。貴族の血でも入っておるのか…?」

「…ただ、村に魔力を蓄えられる人間はいなかった。古い血が目覚めやすい環境だったのやもしれない。」

「なるほど、古い血…。貴殿は随分と、理に詳しいようだな。」

 

 

 俺は矛神の騎士たちと雑談兼情報共有をする。双子神教は、素質のある人間を抜擢する風土を作り上げている。リシディア教よりも人数が少ないために、戦力を求めているのだ。

 そのため、魔力を蓄えられない普通の子どもを保護することはほとんどない。今回は運がよかった。

 保護した子どもについて王都の総指揮官に連携する旨も、あちら側から話してくれた。至れり尽くせりである。

 

 

「そうだ。青月殿にこれも共有しておこう。別の国を哨戒していた同輩が、ルヴネトへ訪れたと。」

「騎士殿…それは、俺にまで共有していいことなのだろうか?」

「問題ない。貴殿のよく知る同輩である。立場を抜きに繋いだ縁、これからも育んでいただきたい。」

 

 

 矛神の騎士は、魔法にて伝達を受け取ったらしくその内容を俺にも話した。矛神の騎士でよく知っている人間となれば、当てはまるのは一人だ。

 大方、ルヴネトでの戦いの話を聞きつけたのだろう。俺は友人との会合が重なることに気分を高揚させた。

 

 

 話が終わった後、近くで立っていた皆の中からケルへ言葉をかけた。すると、子どもたちの内一人の少女が、じっとケルを見て言う。無表情なようで、目の奥には何かしらの感情がにじんでいるようにも思えた。

 

 

「…ケル君については、また別の考えがある。ルヴネトで話をつけられたら、君は俺にしばらく同行してくれないか。」

「分かったよエドさん!」

「…この子だけ、何かあるのですか。」

「ああそうだ。君たちは気にせず、向こうについたら騎士たちの指示に従ってくれ。…王都は面白い物がたくさんあるぞ。見てから詰所に向かってもいい。」

 

 

 子どもたちに王都への期待を持てるように話すと、ケルについては気にならなくなったらしく仕草で喜びを示していた。

 彼らの固くなってしまった表情筋も、矛神教で過ごせば信じられないほどほぐれることだろう。

 

 

 そして俺は大勢を受け入れてくれる荷馬車を探し、商人と話をつけることができた。馬車の中身はほとんど空であり、積み荷をこの町で降ろしたことが分かる。

 護衛とはいうが王都に無事戻るため、念を入れての人員配置だ。乗せて行ってもらうだけになりそうなため、交渉の末、商人に代金を払った。

 

 

「うん。まあ…危険もほとんどないことでしょう。あなたとそこの女性。馬が疲れる分、きっちり対処をお願いしますよ。」

「嫌みっぽい…。はい、頑張りまーす。」

「商人殿、感謝する。藪から異相付きが出れば、追いつかれないよう対処する。」

「あなた、縁起でもないこと言わないでください!こんな短い路で出たら、たまったものじゃありません!」

 

 

 そう慌てた調子で返した小太りの商人は、馬を進行させる。

 荷馬車に乗れば、この町から王都までは半日もかからない。だがこういう短い道こそ用心すべきだ。俺は何事もないことを願いながら、馬車の外に注意を払い続けた。

 

 

 

 

 木製の台車の上で、子どもたちは静かに到着するのを待っていた。幼き少女ケルも、固い板を背もたれにして木々が流れるのを眺めている。

 ふとそのとき、ケルへ少年のうち一人が小さく話しかけた。ケルよりも自由がなく、憔悴しきるまで閉じ込められていた、三歳ほど上の子どもである。

 

 

「君…村の隅にいた“仔”だろう?やっぱり…温存されるだけあったんだね。」

「温存って…!あの人たち、ぼくらに順番なんてつけてたの…!?」

「そう…偶然聞いた…。僕たちのような仔は…この、変な感覚の大きさで区別されていたみたいだ…。」

 

 

 少年の言う「変な感覚」とは、体内に蓄積した魔力のこと。

 ケルは少年が話す内容に、悪寒が走らずにはいられなかった。ケルは改めて思う。ミストヴィルの村人は、自分たちを人間として見ていなかったのだと。

 怖気故に、ケルがゆっくり腕を擦り合わせていると、隣で座っていた少女がこそりと話してくる。彼女の声もまた、騎士やミナには聞こえない、小さなものであった。

 

 

「あなた…騎士様の期待に、応えて。もらうだけじゃなくできるのは…。こほっこほっ…。」

「大丈夫…?」

「声を出すの…久しぶりだから。それより…頼んだわ…。」

 

 

 痛んだ長い茶髪を一つで結んだ少女は、喋り過ぎたためか咳き込む。ケルが背中を擦ると、力の抜けた腕で押し退け視線を合わせる。それは憧憬と嫉妬が混ざった、追い縋るような瞳だった。

 ケルは四人の子ども一人一人に視線を向けてから、頷く。初めて昨夜話した間柄でも、同じ村で耐え続けてきた者同士、心を一つにしていた。

 

 

「うん。エドさんが何を、ぼくに求めているか分からないけど…。やるよ。」

 

 

 ケルが小さく宣言すると、満足げに子どもたちは頷き返す。死の運命を捻じ曲げられた四人の少年少女は、昨夜知った「灯火」の支えとなることを望んでいた。

 

 

 子どもたちが言葉を交わしているとき、エドと名乗る騎士と、「張り付く影」のミナは、馬車の端で警戒態勢を取っていた。

 かすかに聞こえる話し声に耳を傾ける余裕はなく、ひたすら索敵を続ける。

 荷馬車が壊されれば、子どもたちと商人は放り出され。最悪の場合、一つの交易が途絶えてしまう。商いの重要性を、二人は知っていた。

 

 

「…ミウ君。また旅路が重なったとき『感知』を教えておきたい。騎士団の魔法だが、能力が足りれば習得できるはずだ。」

「エドは買い被りすぎ。エドは楽々覚えたかもしれないけどさ…。どの教義の騎士様も優秀なんだよ?その魔法を私が覚えられると思う?」

 

 

 ミナのどこか卑屈な物言いに、エドは訂正しようとしたが一度考え込む。そして彼は、ゲーム開始時点でのミナの実力について吟味した後、伝えた。

 

 エドの記憶の中にある、悪人として登場した妖艶な女性は、使う魔法の悉くが高位の身体強化魔法であった。それらには「敏捷」だけでなく、「理」の能力値も必要であったため、リシディア騎士団の魔法を覚える余地があると考えたのだ。

 例えゲーム中描写がなく、尖兵に成り果てていたとしても。尖兵は、生前覚えていた魔法しか扱えない。原作でのミナは、自力で「理」の能力値を伸ばしたのだとエドは結論付けた。

 

 

「…いや、君の伸びしろを考えればいける。数年かけても価値はある魔法だ。」

「え…。…ちょっと!集中乱させないでよ!」

 

 

 ミナは「数年かける」という言葉に反応し、赤面する。それだけの時間を、騎士と関わることができると考えれば動揺せざるを得なかった。

 

 だが騎士はミナの前に指を立て、調子を取り戻すように誘導する。騎士は、異形が馬車の近くに現れそうであることを、「感知」したのである。

 ミナが真剣な顔つきに戻った瞬間。森の中からばきばきと音を立てて、何かが飛来する。それは猪のようであり、しかし背中に三枚の巨大な翼が生えている。

 

 商人はそれを視認し、叫んだ。まさかこんな不幸があるなんてと、怯えだした。

 

 

「ああ、お助けくださいヴァルミラ様!わたしゃまだ、妻と子供を残していけないんです!どうか…どうか…!」

「商人殿、焦らないで馬車を進めてくれ!俺たちが貴方を、絶対に送り届ける!」

「ひ…ひ…お願いいたします…!」

 

 

 騎士は、小太りの商人に向かって声を張り上げると、同乗する子どもたちを安心させるため左掌を振る。ケルたちは身を縮ませながら、より大人しくなった。

 

 

「…『翼付き』が一体か。俺が撃ち落とす。ミウ君は別の場所からも出てこないか、見ていてくれ。」

「了解、です…。」

「頼んだ。…当てる!『旋風の槍*1』!」

 

 

 騎士は「翼付き」に狙いを定め、手に取ったナイフにつむじ風を付与して飛ばした。まるで風で出来た槍のごとく真っすぐに伸びたそれは、翼付きの翼二枚を貫く。

 ミナはそれを、呆けた表情で見送る。緊張感が吹き飛ぶほどの驚きであった。ただナイフで、微細な損傷を与えるものだと思っていたからである。

 

 

(エドって…騎士団の魔法と「月」以外にも、覚えてるんだ…。風…。)

 

 

 日中の騎士は、「月」を扱えない。使用したところで、威力が格段に落ちるからである。

 しかし威力は下がれど汎用性の高い魔法を扱えれば、常在戦場を為しえる。騎士は自身の覚えている「月」に近い技を、代わりに習得していた。

 

 翼を失って地面に叩きつけられる「翼付き」を、騎士は再び魔法「旋風の槍」で貫く。しばし祈った後、騎士はまた警戒態勢に戻った。

 子どもたちは、彼の背後で目を輝かせていた。魔法への憧れを、彼らは覚えたのである。

 

 

 

 

 幸いなことにあれから異相付きは出ず、ルヴネトの城下町に辿り着くことができた。

 小太りの商人は、ついてから俺へ拝み倒すようにして、渡した分の路銀を返してきた。それに加えて、多めの報酬も。

 

 

「これは受け取れない。取っておいてくれないだろうか。」

「いえ、痛感しました…どこにでも護衛はつけるべきだと!これは勉強させていただいた分です!これで、お子さんにも良いものを食べさせてあげてくださいな…!」

「では有難く頂戴する。貴方も、家族に無事な姿を見せてあげてくれ。」

 

 

 頭を下げて去っていく商人に対して、安心する。異相付きへの警戒を高められたことは、人類にとってのプラスだ。

 

 それから俺はミウと共に、後ろについている子どもたちへ王都を紹介し、商人からもらった分で衣服を一着ずつ買ってから、矛神の拠点へ向かった。

 現ルヴネト王は騎士たちを大事に扱っているようで、詰所兼教会関係者の滞在する建物は、三階建てで立派な造りだ。入口付近に立つ騎士に話しかけ、俺は「教会の洗礼簿」に記録してもらうため、中へと入った。

 

 

 矛神の教会における術師が、俺たちを出迎える。緑の剣を模った衣をまとっており、リシディア教よりも好戦的な風土が感じられた。

 術師は、広域周知の魔法によって俺たちのことを伝達されていたようで、視線を下に向ける。

 

 

「貴方は『青月』エドワルド殿でお間違いないでしょうか。…申し訳ございません。越境組織について、騎士ほど詳しくなく。」

「ええ。保護を考えて下さり、感謝申し上げる。」

「では、こちらへ。ふーむ…まだ幼くも、騎士に向いた目をしていらっしゃる。まず洗礼を受けていただきましょうか。それからどの方向性で修練すべきか、こちらで決定しましょう。」

 

 

 そう言って矛神の術師の男性は、子どもたちを二階へと案内した。俺は、術師たちに呼ばれ集められている五人を見ながらも、近くに立つ術師に進言する。

 

 

「あの、柔らかい薄茶髪をした幼子…ケル君は、取り立てるに値する。魔力の器を調べる際、騎士や術師とは別の役割についてご一考くだされば。」

「…それは『縫合』についてということですか。」

「鍛錬せずに、あの魔力量が表出している。可能性は高いでしょう。」

 

 

 術師の男性は顎に手を当てて、ケルを凝視する。その後、試してみようという結論を出した。

 

 

「どちらにせよ…調査するには数日を要します。連れてきた貴方は、それまでルヴネトに滞在していただけますか。」

「ええ、勿論。」

 

 

 俺の横で、ミウが目を見開いている。彼女にはまだ「探し人」がケルであることを言っていなかった。俺は声を小さく伝える。

 

 

「え…!…ならさ、ケルちゃんとエドってどういう関係…?」

「色々複雑なんだ。これは俺の中に秘めておきたい。」

「話しておいてそれ…!…いいですよー。ふん!」

 

 

 横でミウが感情を動かしているのを気にしながら、ケルたちの洗礼が執り行われる様を見届ける。厳粛な雰囲気であるためミウも声を大きくはせず、やがて黙り込み子どもたちを見つめた。

 

 

「矛剣を取り、魔を払う者。そのはじまりの魂として、霊を清め。戦神ドラグシエルが祝福したもう――」

 

 

 術師の中でも高位の男性が、緑色透明の水を子どもたちに垂らす。この儀式が、あの邪悪なドラグシエルに届くことはないため、俺は安心して子らの将来を祈る。

 そして、ケルがこれから背負っていくことになるであろう力にも。

 

 まずは「縫合」の基礎を習得できるかだ。焦燥感を飲み込んで、俺は無事その瞬間を迎えられることを強く願った。

 

 

 

 数十分くらいが経った。俺は、体を洗われ、緑の衣に身を包んだケルたちと対面した。汚れが取れれば、子どもたちは年相応の愛らしい顔立ちを見せた。

 ケルについては、流石未来の主人公と言うべきか。周囲も含めて輝いているような錯覚を覚える。

 

 

「えへへ!服からいいにおいするよ、エドさん!」

「さっぱりしたな。申し訳ない、矛神の術師殿。早速だがケル君を借りさせてもらう。」

「ええ。ですが夜までにはお戻りください。この王都における取り決めについてはご存じでしょう。」

 

 

 俺は、術師の問いかけに分かっている旨を返した。

 魔法についての刺激は多い方がいい。俺はケルを、古い猛き戦士の一人だと判明したリィートイに会わせるため矛神の拠点を出ようとする。

 そのときだった。三階にいた矛神の騎士が降りてきて、俺を呼び止めたのだ。

 

 

「青月殿か!貴殿の知る同輩は、町をふらついておる!後で共に、ここへ来て下され!」

「…ただの訪問ではないのか、騎士殿。」

「うむ、あの方も遣わされた使命がある。よろしく頼む!」

 

 

 慌ただしく彼は三階へ戻っていく。この時期に、ごたごたした事情があっただろうか。俺は頭の中に焼きついている知識を駆使し考えたが、後で当人から聞けばいいと思い立つ。

 俺は四人の少年少女に声をかけた後、ケルとミウを連れて今度こそ外へ出た。目指すは、友人の鍛冶工房である。

 

 

 

 

 町並みを楽しむ幼子の手を引き、エドと名乗る騎士は、寂れた町の隅までやってきた。戸を開こうとすると、三人の耳には、中で騒がしく掛け合う話し声が聞こえてくる。エドは一度手を止めたが、ぐいと押す。 

 

 薄暗い鍛冶工房にいたのは、その主である女性リィートイ。それと、エドと同じように顔が完全に隠れる兜を被った、全身鎧の人物であった。

 陽の光で、緑色の剣を象った装飾がはっきりと照り輝く。兜で籠っている荒々しい口調を止め、その人物はエドの方を向いた。

 

 

「…運がいい。まとめて会えるとは。」

「噂をすれば来やがった…『青月』ぃ!」

 

 

 怒りか喜びか。そのどちらもを含んだような声で、その矛神の騎士は「青月」の名を呼んだ。

 

*1
「学院」が古き魔法から解術した、風属性の魔法。習得には「敏捷」「知」の能力値が15ずつ必要。

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