裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す 作:棘棘生命
鍛冶工房の中。灰色髪の小さな友人リィートイの横に立っている鎧姿の人物に、俺は口角が上がるのを感じる。俺の友人の中でも、静寂とは無縁の例外。矛神の騎士としても型破りな戦士に、久しぶりに会合できたことが嬉しかったのだ。
彼あるいは彼女は、ラディアという。矛神教の教義故に、単独行動を主にしながらも司令官の立場まで上りつめた凄腕である。「バックスタブレイブ」にも登場し、ゲーム開始時点で生きていれば、中盤の総力戦で活躍しただろうと惜しまれていた。
俺個人としても思い入れがある。ラディアが装備する矛神の騎士長の鎧は、少年の心をくすぐられたためである。亡霊の記憶を見た後、IF展開を考えた一人だ。
性別については、ゲーム上でもこちらの世界でも分からないままだ。鎧は矛神の騎士らしい重装甲で、また兜でくぐもっていて声でも判別できない。男性なら高く、女性なら低いと言えるハスキーな声である。
付き合いは長いが、顔を見たことは無い。ただの騎士であったときも、俺と会うときはフル装備だった。
どちらであろうと俺には関係ない。強く、人類のために剣を振るう騎士は貴重であり、友人として大事な存在であることに変わりはないからだ。
「ようエド!聞いてくれよ。こいつ押し入ってきてずっとこの調子――」
「『青月』ぃ!お前、最近ここらに屯っているって話じゃねえか。不思議なもんだ…何か落とし物でもあったのか?」
俺に向かって放たれる、相手方の荒々しい口調にも、心なしか喜色が混じっているような感じがする。俺はそうであってほしいと思っている。
俺は鍛冶工房内の二人に挨拶をする。
「リィートイ、邪魔しに来た。…久しぶりだな、ラディア。人探しをしていた。」
「はっ、そうかよ!で…いつも通り無駄骨になって、この情けねえニセガキに泣きつきにでも来たか!」
煽るような調子でラディアは俺に返す。言い方は悪いが、言い得て妙だ。リィートイの外見は出会った当初から全く変わっていないし、もっと古い時代の人間だと判明したので、あちらの世界においてその手のマニアには喜ばれる要素だろう。
リィートイはつま先立ちになり、柔らかな両頬を膨らませて緑の鎧の裾を掴み上げる。
ひどい物言いをされているが、そこまで怒ってはいないようだ。リィートイの寛容さが垣間見える。
「なにい…このやろ!年上を敬いやがれラディア!」
「ふん、なにが敬えだ。力を隠して籠ってやがった奴の、何を敬えってんだ!おれを舐めやがって…!」
「は、はは…それはすまないな。調子が出なくてよ。」
反対にラディアは、リィートイへだいぶ怒りを爆発させているようだ。リィートイは、ラディアを宥める方向に舵を切った。
やはりこの前の戦闘を聞きつけてやって来たのだろう。そこで、矛神の騎士としての任も重なったという流れだろうか。
俺を置いて繰り広げられる二人のやり取りを見ていると、俺の後ろにケルが隠れた。そして顔だけ横から出して、ぶるりと震える。直線的に激情を飛ばすタイプの人間は、ミストヴィルにはいなかったためだろう。ラディアを怖がっているようだ。
ミウも戸の端に移動し、中を覗き込んでいる。
「エドさんと全然違う…。こ、こわい…。」
「騎士様であんな冒険者っぽい人いるんだ…。ねえエド…あの人って結構長い知り合いだったりする?」
「ああん…?青月!お前の後ろにいやがるのは何だ?」
ラディアが声を震わせると、ケルは顔を隠した。俺はしばらく考えた後、これも刺激の一つだとケルたちに紹介することにした。
「そうだな…紹介しておこうか。二人とも、あの騎士は少々荒っぽいだけだ。腕には参考になる部分が多々ある。ケル君、怖ければ俺が手を握っていよう。」
「ううエドさん…!」
「何くっちゃべってやがる!来いよ…!」
するとケルはさっと両手を出し、俺の左腕を握った。便乗したのか、ミウも俺の背中に右手を置いてきた。
ラディアが右手で手招くのに合わせ、俺たちは鍛冶工房の中に入る。灯された蝋燭と、燃え盛る炉が工房を最低限照らしていた。
鍛冶工房にこれだけの人員が集まるのも、珍しい光景だ。俺は軽く両者の紹介をし、四人に顔を合わせてもらう。出身やどういった所属なのかを、ミウを皮切りに各自で話す形を取った。
ミウの説明に対し、ラディアが反応する。
「コルバ…西の方の小せえ町か。てめえ、騎士になりかけくらいは魔力があるな。増えたひっつき虫にしてはやる。」
「ひっつき、虫…!?くうう…!」
「おい、青月!随分と楽しそうじゃねえか…。引っ付く女にかまけて、剣を適当に振ってんじゃねえだろうなあ!」
ラディアはぐっと、俺の首元から流したマントを掴み上げた。そしてはっと笑ってから、手を退ける。冗談の類だったようだ。
俺は否定しておく。多少知人と会う機会が増えたとはいえ、上位種を屠るのに支障は出ていない。
「問題ない。以前よりペースは上がっている。それにルヴネトでの戦闘を経て、怠けるわけにはいかなくなった。」
「偽りはないな。」
「ああ。ミウ君は時偶に会う友人だ。今回も偶然会った。ルヴネトの領土にある、ミストヴィルという村に同行してもらったんだ。…後で、互いの腕がどれだけ上がったか試すとしよう。」
じっと俺の兜を見た後、ラディアは模擬戦をすることに意識を向けた。ラディアは俺との会合に、強さを求める。弁明はできたようだ。
「はっ、元からそのつもりだ!リィートイも来いよ。隠してやがった分見せやがれ。」
「分かった分かった。…お前、びっくりするなよ。それじゃあ、ミナちゃんの紹介はラディアに出来たし…。次はそっちの、ケルちゃんか。お願いしてもいいか?」
「おれは、ガキはいじめねえ。リィートイは別だがな。…震えんな。」
リィートイが仕切り直してくれ、ケルに視線が向けられる。ミウはラディアに向かって歯ぎしりしていたが、息をついてからケルの頭を撫でた。
ケルはおずおずと話し始めた。
「えっと…ぼくはケル。ミストヴィルの出身です。今日矛神教のせんれい?を受けたばかりで…。エドさんについてきました。…エドさん、ぼくが話せるのこれくらいしかないよ…。」
「それで十分だ、ケル君。…この子は俺が村から保護した一人だ。見込みがあるから、二人に紹介したくてな。」
不安げに見つめてくるケルを安心させるため、俺は力強く返す。戦士である二人、リィートイは興味深そうにつま先から頭頂までを見て、ラディアはメンチを切る不良のごとく唸っている。
「へえ、おれの同輩になるかもしれないわけか。…おもしれえ。確かに、術師にするには勿体ない魔力量だ。」
「…エド、さっきは話が流れたが、この子がお前の『探し人』だったりするのか?ただの子どもを、わたしのところに連れてくるわけもないだろ。」
リィートイの推測の正確さに、俺は彼女の聡明さを感じ取る。俺は頷き、ミウにも話したことを伝えた。
友人関係を築いてから長い二人は、俺がずっと人を探していることを知っているため、それぞれ大きく反応する。
ケルも俺に対して、不思議そうな表情を浮かべた。当たり前の反応である。
「リィートイの推測通り。このケル君が…俺の探し人だ。」
「やっぱりそうか!良かったじゃないか!ほうほう、この子がね…。」
「本当かよ…おいガキ、今何歳だ?」
「え、えっと…。多分、七か八かな…。誕生日とか、年のこととか教えてもらってなくて…。」
「…青月、どこでこのガキのことを知ったか…話すつもりはねえのか。」
「ああ、すまないな。だがこれで、ケル君に目をかけたい理由は分かってもらえただろう。」
そうきっぱりと伝えると、リィートイとラディアは聞き出そうとするのを止めてくれた。こういったところも、彼女らを信頼できる部分だ。
ケルは依然、首を傾けてわけを知りたがっている。俺は数日後に分かるとケルに短く言い、再びラディアに向かい合った。
「…おれについては、青月が話した通りだ。こいつとは長い。それこそ七、八年だ。騎士だったおれも、総司令官になれるくらいには武勲を積んだ。腕が鈍るから、そこまで上がるつもりはねえがな!」
「ケルちゃん、わたしはリィートイだ。鍛冶屋…エドやラディアが着こんでいるような鎧を作ったり、剣を打ったりしてる。こっちにも興味があったら見ていきな。」
ぶっきらぼうにラディアが言い、リィートイは穏やかな部分を前面に出してケルに話す。ケルは二人を交互に見た後、頭を下げた。
◆
こうして全員の紹介が終わり、少し雑談をする。ケルとミウは、ラディアに対する第一印象の強烈さがほぐれていき、元来の積極性が顔を見せ始めた。
特にケルは、ラディアの武勲に興味があるようで、各地で行っていた哨戒について話を聞いている。矛神の騎士団における司令官は、リシディア騎士団と動きが大きく違い、部下を同行させない。
そのため「司令官」とは名ばかりで、どれだけ騎士として腕が立つかの指標の意味合いが強いのである。
ケルの境遇についても、幼子自身の口から徐々に共有された。ケルの好奇心の強さのわけを、リィートイとラディアは知る。
「――ラディアさんは、どういう魔法を使うんですか?ぼく、色んな魔法があるって知ったばかりで…興味があるんです!」
「知りたいかよ!…ならすぐに見せてやる!」
ケルの興味の色が混ざる質問に対し、ラディアは行動で以て示すつもりのようだ。俺の肩をごっと殴り、鍛冶工房の戸に向かって歩く。
ラディアの兜の奥から、灼熱の赤い瞳が見える。ぎらぎらと、戦いに飢えた色だ。これはケルの期待に応えるというよりは、痺れを切らしただけに思える。
「ぺらぺら喋っているのは、性に合わねえ。青月…エドワルド。…てめえの剣が鈍っていないか。おれに証明してみせろ…!」
「頃合いか。では訓練所を借りるとしよう。…リィートイの魔法も見せてもらいたい。修繕の依頼料は多めに支払おう。」
「おうよ。模擬戦をするんだったら、この剣を使いな。ラディアもだ!騎士の武器は、折れるには高価すぎる。」
「はっ!訓練程度で、おれの鍛えてきた剣は折れねえが…てめえに合わせてやるよ。」
リィートイは、俺の右手に丁度良い長さの直剣を置き、ラディアにも武器を渡す。俺の得物より長く太い、筋力が無ければ振ることもままならないであろう大剣である。
ラディアは笑うと、陽の光に刃を照らした。
「エド、わたしは後から行く。…本気になるって、あの時言ったろ?ちょっとはそれを見せられるよ。」
「とても期待している。また後で。」
「ははっ!わたしに構い過ぎると、ラディアが妬いちまうぜ?」
リィートイは掌をひらひらと振ると、鍛冶工房の奥へと入っていく。振り返れば、三人はもう工房から出ていた。
そして俺が店を出るとき。かんかんと金属を叩く音が断続的に響き始める。リィートイは鍛冶の仕事を再開したようだ。
ラディアを先頭に、俺たちは矛神教の拠点へと向かう。どれだけ俺の腕が高められたか、緊張と高揚の模擬戦が始まる。