裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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一匹狼?

 ルヴネトにおける矛神の拠点近くには、大きめにスペースが取られている。少し前には、闘技の予行練習に使用されていた広間だ。

 ラディアはそこで訓練をしていた同輩たちを威圧し、彼らを無理に退けようとする。

 

 

「――『紅瀞』の騎士長殿!それはあまりにも横暴すぎますぞ!」

「うるせえ!黙って見てやがれ…!てめえら脳味噌筋肉にもお勉強させてやろうってんだ!」

「…ううむ。…親善試合とあれば、致し方なかろう。それに面白そうだ。」

「お前は聞き分けが良いな。そら、隅に行きな!」

 

 

 ラディアの横暴を、ミウは眉をしかめながら見ている。ケルは落ち着きなく、掌を動かしていた。

 あれだけの破天荒を見せても、ラディアの貢献は大きい。騎士長になり、総司令官にも手が届きそうである現状がその証である。

 

 

「…二人とも、ラディアの魔法を見ておくといい。彼の多芸さは、大陸中探そうと稀有だ。」

「エドがそこまで言うってことは、相当なんだろうけど…。とりあえず、応援してるね!」

「……。」

 

 

 俺はミウの激励に軽く頭を下げると、ケルの集中しきった眼差しを覗いてから、ラディアの下へ向かう。これも魔法の才が確かにある二人の、刺激になると良いのだが。

 

 矛神の騎士のならわしに、俺は関与できない。騎士たちは部外者に視線を迷わせることはなく、ラディアと俺の訓練が終わるまで待機するようだ。建造物の中に入っていく者もいた。

 人がはけ、より広く感じさせる訓練所にて、ラディアは俺の方を振り返った。手合わせ用にリィートイが刃を潰した、巨大な剣を俺に向ける。

 そうして戦士は、兜の奥でくつくつと好戦的に笑った。獣のごとき闘争心。俺は獣の礼儀が好きだ。

 

 

「これで邪魔は消えた…。遊ぼうや、青月。」

「ああ。お互い良い息抜きになるだろう。」

「余裕ぶっていられるのも、今の内だ。『灼熱*1』!」

 

 

 ラディアが宣言するのと同時に、戦士の左手を中心に熱風が吹く。これは矛神の騎士団の技ではなく、ラディア自らが学び、習得した魔法だ。

 己の左手から腕までを灼熱に明け渡し、体力が尽きるまで戦う。焔を扱う者らしい、短期決戦を得意とする使い方である。

 俺は鎧の裏側へ魔力でできた水を流し*2、重装であるのに軽やかに駆けてきたラディアの一撃を避ける。魔力の炎で熱せられ橙に染まった大剣は、訓練所の地面を抉った。

 

 

「避けんじゃねえ!」

「真正面から喰らうつもりはない。」

「なら、受けるようにしてやる!」

 

 

 ラディアはそう声高に叫ぶと、大剣をぶんと振り回し。そこから炎でできた渦を発生させる。範囲攻撃には余念がない。

 俺は訓練所の土を蹴って砂を飛ばし、空いた左手で魔力のそよ風を飛ばした。大部分は炎で消えたが、少量は俺の次の手を隠す土煙となる。

 ラディアは火力を追い求めるタイプであり、「殺られる前に殺る」、もしくは「肉を切らせて骨を断つ」を地で行く戦士だ。そのため、防護するための魔法をほとんど覚えていない。

 だが上位種を相手にするなら、術師発祥の魔法では頼り切れないため合理的な判断である。

 

 ラディアは炎で形成した斧槍や帯状の斧などを使って、がんがん魔力を消費していく。だが隙は中々見せない。流石異例の騎士だ。継戦能力に優れている。

 俺は虎視眈々と、研ぎ澄ました暴風とそよ風にて隙を狙う。ラディアの熱風に取り込まれても、幾らかは届かせることができるよう、威力は上げておく。

 

 ふと、避けていく中でラディアがあからさまに隙を見せた。俺はすぐさまカウンターを避けられるように体勢を整えた上で、剣から暴風を突き出した。

 

 

「はっ、堅実だな青月!ならよ、これはどうだ!『潮の障壁*3』!」

「な…!?」

 

 

 すると得意げな調子で、ラディアは左腕を天に掲げた。俺の放った暴風は、厚い魔力の水で阻まれ効果を失う。

 まさかと、俺はラディアの扱った魔法に驚愕し、次に喜びが勝る。焔と水はそれぞれ別の体系であり、汎用的なものならまだしも、高位の魔法を同時に習得するなど並大抵の才能ではできない。

 

 今度は、俺が隙を晒すことになる。ラディアは再び魔法「灼熱」を左腕に付与し、巨大な武器を軽々と振り回す。足を狙ったら次は腕。そして喉元と、狙いが分かりにくく容赦のない連撃が続く。

 

 

「やるな…ラディア!君がそこまで鍛錬を重ねていたとは、想像以上だ…!」

「なめんなっ!おらあ!」

「…だが焦ったな。『突き出す岩地』。」

 

 

 俺は姿勢を低く、訓練所の地面を撫でるようにして、魔力で出来た岩石を飛び出させる。ラディアは反射的に一つ目を避けたが、俺が暴風を放つのと同時に「突き出す岩地」を使うと、大剣でそれを防いだ。

 足を明確に止めた。狙っていない、大きな隙だ。

 

 

「当てる…!」

「く――『火柱』!」

 

 

 集中が足りず、その場しのぎの魔法を使うラディアに接近する。そしてリィートイが打った鈍の直剣を、ラディアの右肩に叩きつけた。ラディアはぐうと低いうめき声を漏らし、大剣を取り落とす。

 

 攻撃を返してくる前に、直剣へ風を纏わせ、ラディアが得物を拾えないようにしておく。魔力を時間をかけて練るほど、風は炎に取り込まれなくなる。

 ラディアは顔を上げると、大きく溜め息をついた後、右肩を押さえて左掌を振った。これで模擬戦は終わりだ。

 

 

 

 矛神の騎士たちは深く頷きながら、俺たちに手を鳴らしている。

 また、いつの間にかケルとミウ以外に、知った顔が増えていた。緑の衣を着たミストヴィルの子どもたちと、リィートイである。

 

 ラディアは吐き捨てるように言い、俺を兜の奥から睨む。プライドを抜きにして勝利をもぎ取ろうとするラディアは相当に悔しさを感じているようだ。

 俺はラディアを賞賛する。「月」に関わる魔法以外、俺は体系を正確に理解できていない。覚えた汎用的な魔法も、「月」と似た魔法を辿っての習得であるため、飛び飛びだ。ラディアのように複数の体系を覚えられる柔軟さは、俺には真似できないことである。

 

 

「…またお前の勝ちかよ。くそ…!」

「すごいな。『潮の障壁』を習得したとは驚いた。俺が知らない内に基礎から理解していったのか。」

「勝てなけりゃ意味ねえだろうが!…地属性の魔法だと?てめえもおれに隠してやがったな…!」

「君相手には、搦め手を使わなくては勝てないからな。異相付きも狩れない、目くらまし程度の技だ。」

「…ちっ。あのニセガキ相手に楽しもうと思ってたが、これでなくなっちまった。」

 

 

 声を荒げた後、ラディアは右手を開いたり閉じたりしてから肩を回した。連戦はする気がないらしい。

 にやりと笑みを浮かべたリィートイが、俺たちに近づいてくる。遅れてミウとケルも言葉を交わしながら合流した。

 

 

「はは、武器は折れなかったみたいだな!あーあー…いいの喰らっちまって…打ち身は大丈夫か?酒の中の薬草でも摂って、安静にしてろよ!」

「…何だそのにやけ面は!そんなに面白いかよ…!この、調子に乗りやがって!」

「いた!ひたいって…やめろよ!」

 

 

 ラディアは左手で、リィートイの柔らかい頬を引っ張る。嫌がってはいるが、腰にかけてきた「錆酒」を淀みなくラディアの顔近くに持ってくるあたり、大した痛みも感じていなさそうだ。

 ケルがラディアの足元に近づき、俺と戦士両方を向いて目を輝かせる。魔法による殴り合いは、幼子のお気に召したようだ。

 

 

「ラディアさん、エドさんありがとう!色んな魔法があるって知れて、すごいわくわくしました!」

「刺激になったようで良かった。ミウ君はどうだ?ラディアの曲芸じみた魔法の数々は。」

「う…うん…。エドが色んな魔法を使ってたのも驚いたし…ラディアって騎士様も…。」

 

 

 ミウは心あらずといった様子で返す。俺はミウがそうなるのも納得できた。エンターテインメントとして、燃え盛る炎と剣舞は見ごたえがある。

 騎士は視覚に訴えかけるような魔法はあまり使わず、術師についても実際に技を行使する場面は少ない。非日常は言葉を無くすものだ。

 ラディアは俺の例えが気に入らなかったようで噛みついてくる。

 

 

「てめえ、曲芸だと!見世物とおれの魔法を同じ扱いにするんじゃねえ!」

「剣を交えるたびに驚かされるのだから、ある意味同じだと思ってな。良い動きだった。」

「なにい!」

「はは、敗れたやつがみっともないぜ。おしっ!わたしがお手本を見せてやる!」

 

 

 ぽんとラディアの鎧を叩き、錆酒を押し付けると、リィートイは引っ張られていた方の頬を撫でた。俺を向き合う表情は、きりとした戦士のものに変わっている。

 

 

「エド、次はわたしだ。偶に運動しに来てるから、矛神の騎士とも顔が繋がってな。ほら、嫌な顔はしてないだろ?」

「よろしく、リィートイ。まさか貴女と手合わせできる日が来るとは。」

 

 

 リィートイが矛神の騎士たちに手を振ると、ラディアの時より良い返事が戻ってくる。やはり無理矢理従わせるのは良くないということだ。

 前向きになった彼女は強い。無論、実力的な意味でも飛びぬけている。共闘した俺が、この場で一番それを理解している。

 

 俺に近づいたリィートイは頭を下げるように手で示す。俺はリィートイの要望のままに耳を傾けると、彼女は耳元で小さく言った。

 

 

「これが終わったら…。なあなあになっちまったが、わたしに説明してくれよ?わたしたちの時代を知っている理由をさ。」

「ああ、了解した。それは答えなくてはな。」

 

 

 よく見ればリィートイの装いは、普段の作業着姿ではなかった。俺やラディア同様、鉄の鎧に身を包んでいる。

 大きなハンマーを肩に担いで歩き、俺から距離を取った後どんと地面に叩きつける。そして背中にかけていた灰色の兜を紅葉のような左手で持ち上げた。

 顔が完全に隠れ、リィートイの体からプレッシャーが漏れ出した。俺はラディアとの模擬戦とは別の高揚を、全身で感じる。

 細部は違うが、リィートイの兜は俺の記憶にある、古き戦士のものであった。上位種どもを叩き潰してきた小人たちの小隊が、今蘇るのだ。

 

 ラディアと行った長い訓練により時は経ち、陽が沈んできた。

 

 人相手ならば、風と大地を。俺は息をつき、静まろうとする城下町にて直剣を構えた。

 

 

 

 

 緑の全身鎧に身を包んだ騎士は、一度ぶるりと首が震える。「青月」エドワルドと、同じく付き合いの長いリィートイが別人のごとく変貌していくのに滾ったからだ。

 特にエドワルドの真価が見られることを、騎士ラディアは待ち遠しく思っていた。

 

 

(ただのガキじゃねえとは思ってはいたが…相当だ。エドワルド相手にどこまでやるか…。)

 

 

 騎士見習いから上がって数年。十五で成人したラディアは、「青月」と会合した。

 

 今でこそ、炎を水流に例えた「紅瀞」としての異名を轟かせているが、その頃のラディアは魔法の価値を感じていなかった。

 孤児上がりのラディアは他者の言うことなど真面目に聞かず生きてきて、周囲を黙らせるほどの才能もあった。剣の腕を上げるだけで、脅威とされる異形「異相付き」は屠れる。

 並みの騎士には出来ないような芸当をこなせる才児は、己の力に慢心していたのだ。

 

 

 しかしその自信は、同輩を何人も犠牲にして辛勝した上位種との戦いで、ヒビが入る。魔力を纏わせただけの刃では、化物相手に深手を負わせられず。騎士として守るべき民も多く死なせた。人生で初めての無力感を味わわされたのだ。

 ラディアは必死で化物を倒す術を探した。そんなとき、「月」を扱う騎士に出会ったのである。

 

 人知れず化物を屠る騎士の姿は、頭の中で考えていた理想通りの「強さ」であった。

 そうしてラディアは目標を定め、必死に努力した。ひたすら己を高め続け、その間エドワルドの真似事として弟子を教導したりもした。

 

 

 だが、ラディアの望む「強さ」には届かない。それも「月」を使わない日中のエドワルドに対して、一歩も二歩も及ばないのだ。

 古い魔法とは並大抵のことでは覚えられない。「月」を習得しようとしても、貴族だらけの学院に伝手がなければどうしようもなかった。

 

 ラディアは悔しさを飲み込み、持てる全てを使ってエドワルドに手を伸ばし続けた。

 

 その傍ら、ラディアの心には別の感情が溜まっていく。親を知らないはねっ返りは、剣を交える度楽しそうにリードするエドワルドが、巨大な山や必ず顔を出す月のように、不変なものに思えてきたのだ。

 変わらず、力と父性を感じさせる男性。ラディアはいつしか、打ち負かされることを楽しみ始めていた。

 

 

(…エドワルドについてやがる女、お前からも感じるぜ。()()()と同じ執着ってやつを。)

 

 

 ラディアの隣で手を組みながら観戦するミナに対し、視線を向ける。ただ「月」にふらついた軽薄な雌猫か、それとも相応の覚悟を持った人間か。

 各地を巡り大陸を知った騎士は、「月」の邪魔になるかどうかを見定めながら、目の前の戦いを楽しむ。

 

*1
「学院」が古き魔法から解術した、火属性の魔法。習得には「生命力」の能力値が25、「知」が20必要。

*2
『水雫の薄膜』。森に潜む者たちの上級魔法。「知」の能力値を24まで上げると習得できる。炎からなる傷を防ぎやすくなる。

*3
「学院」が古き魔法から解術した、水属性の魔法。習得には「生命力」の能力値が30、「知」「理」が20必要。

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