裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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眠っていた獅子たち??

 ハンマーを構えた背丈の小さな戦士は、一分の隙も無く佇んでいる。俺が攻撃を仕掛けるまで待っているようだ。

 俺は剣に夜風を纏わせ、冷えた刀身を全身鎧のリィートイへと向ける。

 

 

「さて…今の『月』はどんなものかな。」

「貴女の鎧を融かすつもりは無い。だが、色々と試させてもらおう。」

 

 

 沈みかけた夕日が地平線で、一瞬強く光を放つ。俺は陽の光を背に、左手を横に振った。「月」の魔力を土に混ぜ、硬化させる。

 固められた土塊は青く輝いて、重力を無視するように地面を滑り、下から上へと飛ぶ。魔法「空に落ちる石塊」。最も「月」を知る者からまず教わった初歩の一つだ。

 顔を完全に覆う兜を付けているリィートイには無意味だが、小手調べには丁度いい。異相付きと上位種、どちらにも使うことが無い技であるため、感覚を呼び起こすのにも一苦労である。

 

 リィートイは飛ぶ土の塊たちを、ハンマーを一振りするだけで相殺する。今彼女が握っているのは、何の変哲もない鉄製の槌であるはずなのに、俺の魔法の威力でも砕けない。

 強く、自分で質の良い武器を作れる戦士なんて、無敵にも程があると俺は思った。

 

 続けて俺は暴風を最大限に纏わせた剣で、虚空を貫いた。土埃を舞わせながら飛ぶ竜巻に、リィートイはぴくりとも動かない。

 リィートイは軽く笑ってから、構え直した。一瞬消えたプレッシャーがより鋭く俺を射抜く。

 

 

「お前、慣れてない魔法ばかり使ってるな?試すったって、わたしは練習のための案山子じゃないぞ。」

「…『月』は、鈍でも刃にしてしまう。本気で斬り合うのは訓練ではないからな。」

「大丈夫だよ…来な。わたしが全部受け止めてあげるさ。」

「貴女がそういってくれるならば…暴風に月の光を浸そう。」

 

 

 俺は腕から掌へ魔力を巡らせると、「月融け」を制限して使った。単なる風圧が青色を帯びる。

 これで実戦に近くなった。俺は駆けると、立ち止まったままのリィートイに剣をぶつける。彼女は巨大なハンマーを盾代わりに使い、ぐぐと俺の一撃を押し退け始めた。

 力任せで敵わないのは、分かり切っていたこと。俺は一歩後ろへ下がってから、リィートイの守りをどのように崩すか思考する。

 

 

 

 

 小さくも頑丈な戦士と、月を僅かに纏った騎士は、間合いを取っては得物を振り合う。その応戦は、騎士団の騎士であっても躱しきれない速さであるのに、遊んでいるような空気感であった。

 

 

「――ははっ!ここまで育ってるのか…!あのルリベナもよく仕込んだもんだ!」

「知っているのか、リィートイ…!」

「ちょっとな。だが、埃を被った魔法を大事にする奴は噂にもなる!」

 

 

 兜でくぐもった声たちは、言葉を交わす。

 リィートイは楽し気に笑うとハンマーを高速で薙ぎ、エドと名乗る騎士を後退させる。いくら魔法をぶつけても持ち前の頑丈さと技量で相殺してくる女性は、エドにとって厄介極まりない相手だ。だがこれは模擬戦であり、命のやり取りには至らない。

 エドは、どんどんと習得している技を繰り出していく。威力は低くとも手を変え品を変え、リィートイを撹乱するのに工夫を凝らす。

 

 古い戦士は、強力な魔法に頼らない。あくまで手段の一つとして、的確に魔力を練る。リィートイは両手に白みがかった光を込め、大槌を投げつけるようにして解き放つ。

 

 

「少し使うぜ!『扇央』。」

「……!」

 

 

 扇状に流される重い衝撃がエドの足をよろめかせ、飛んできたハンマーが彼の体を吹き飛ばす。リィートイは拾ったハンマーで追撃を仕掛けた。咄嗟に直剣を訓練所の地面に突き刺したエドは、体をしならせる。リィートイの振り下ろしを避け、柄めがけて鈍らを叩きつけた。魔力が通っていても薄い、守りの甘い部分である。

 エドが扱う剣の側面が欠け、リィートイの得物にもみしりと根元が折れかける音が鳴る。

 

 それを皮切りに、リィートイの息が乱れていく。戦士としての死線は遠い昔にくぐったきりであり、持久力が著しく減っているのである。

 また反撃に重きを置く戦法を得意としていた故に、リィートイは悪戯に体力を消費していた。

 

 

「はあ、はあ…流石現役は違うな…。すぐバテちまうよ…。」

「貴女ほどの戦士が…まだここからだ。」

「…ああ、まだ動ける…折角あつくなってきたんだからな!」

 

 

 肩で息をした後、戦士の女性は槌を右に薙ぐ。そしてそのままハンマーを前にして突進し、エドの顎目がけて振り上げる。エドは剣の側面で勢いを殺し、左掌から空色の暴風を解き放った。リィートイは脚で踏ん張り、今度は足を掬うように柄を突き出す。

 

 そこにエドは勝機を見た。リィートイは頑丈であり重しもあるが、攻撃を耐えるとき足が止まりやすい。奇しくもラディアの弱みと同じ側面を持っていた。

 

 

「貴女は頑丈だが、重心はどうだ?」

「え…うわっと…!?」

 

 

 エドは剣を振るう直前で留め、リィートイの死角から伸ばした左手で、女性の背中を軽く押す。殺気を伴わない攻撃は緊張の緩みを通り抜け、リィートイにたたらを踏ませた。

 すかさず、リィートイの兜の頂を横に叩く。騎士はふらついたリィートイを右手で支えた。二回目の模擬戦は終わりを迎える。

 

 

 

 エドとリィートイの試合が終わった頃。

 半日以上を訓練の観戦に費やした幼子ケルは、ついに集中が切れ、目を回していた。ただでさえ村の外の光景に驚きっぱなしであったのに、同じ人間とは思えない動きを見続けたのだから。ケルは、まだ夢の中にいるのかとも思っていた。

 幼子が世界の広大さを知るには、もっと時間が必要だったのだ。

 

 

「ふへえ…すごいなあ…。」

 

 

 ふにゃりとした声でケルは呟き、目を擦った。幼子はほとんど一人で生きてきたが、村から解放され安心しきった状況には、気を張りつめることもかなわない。

 ふらふらとしているケルを、ラディアは右手で支える。そして頭を軽く叩くが、ケルは眠気眼のまま変わらない。ミナもしゃがみ込み、ケルの背中を擦った。

 

 

「おいガキ!…おねむかよ。」

「…ミストヴィルから出てきて、ずっと起きてたもんね。矛神の騎士サマ、この子教会で寝かせられますか?」

「ああ、こいつはもう矛神のガキだからな。同郷のガキが集まっている寝床を術師が知ってるはずだ。一緒に寝かせとけ。」

 

 

 既にケルは寝息を立てている。ミナはケルを抱きかかえると、術師に案内されるまま進んでいく。

 エドとリィートイが後から合流するが、ラディアに止められる。もうすっかり陽は落ちきって、騎士たちだけが町を歩く時間である。

 

 

「もう夜だ。ガキの相手は明日にしておけよ。…それで、てめえらも巡回に加わんのか?」

「…是非ともやらせてくれ。この町の構造はあまりよく見ていなかった。良い機会だ。」

「わたしもやろう。はは、最近はけっこう矛神に浸かっちまってる感じがする。」

「そうかよ。おれも後で巡回に行く。ここのいけすかねえジジイに用があってな。」

 

 

 昼とは打って変わって落ち着いた様子のラディアは、矛神の拠点を親指で示す。その指先は三階に向けられており、話す相手がルヴネトに滞在している総司令官の一人であることを表していた。

 

 大きめに造られた詰所から、巨大な剣を担いだ騎士たちが出てくる。彼らと入れ替わるように、ラディアは屋内へ入っていった。

 リィートイは兜を脱ぎ、背中にぶら下げる。汗ばんだ灰色の前髪を手の甲で拭い、サイドテールを揺らす。二人は、矛神の騎士と共に夜のルヴネトを巡回しに向かった。

 

 

 

 

 しばらくして緑の衣に顔をうずめた幼子たちが集まる場所へ、ミナはやってきた。彼女は少しだけ左右に跳ねた銀髪を触りながら、ケルたちの顔を見つめる。

 眉間に皺の寄らない弛緩した彼らの寝顔は、ミナには幸せそうに感じられた。

 少女は思う。自身が幼い時、あの「月」を灯す騎士がいたら。自分はもっと、穏やかな道を歩めたのだろうかと。

 

 

(はあ…。あの騎士サマとリィートイさんに会ってから、何か考えちゃうな…。)

 

 

 ミナは部屋を出て、廊下を歩く。身を乗り出し、窓から輝く二つの月を眺めた。

 空に登るそれらは、ミナにとってただの天体である。少女が求める「月」は一人しかいない。

 

 だがミナはこの短い間で、力不足を思い知らされた。ラディアが扱う全てを焦がすような焔は、一生かけても辿り着けない境地であると、足元が抜ける感覚を味わったのだ。

 リィートイの魔法に関しては思い悩むまでもなく、雲の上である。そして二人の戦士は、あれだけの実力を兼ね備えながら「月」に届いていない。

 その事実がエドの強さを浮き彫りにし、嬉しくも彼女の心を苦しめた。

 思いつめていると、突然ミナの死角から声が聞こえる。くぐもっていて荒っぽい、中性的な声だ。

 

 

「少しは強くなってきたと思ってたんだけどな…。やっぱりエドの邪魔になっちゃうか…。」

「――はっ。やっぱりその程度かよ、冒険者の雌猫。」

「ひ…!…騎士サマですか。」

 

 

 ミナが身を続ませると、影から鎖帷子の音と共に姿を現したのは、ラディアであった。騎士は総司令官との話を手早く済ませ、ミナを見定めるため気配を殺していたのである。

 ラディアは挑発し、ミナの軽薄さを嘲笑った。「命を助けてもらった」という理由だけでは弱すぎる。諦めるようでは、エドについていこうとした人間と同じ、一過性の熱情であると。

 

 

「おれは、てめえとは違うぜ。…やがておれは、天にさえ剣を伸ばす!エドワルドはおれと同じく、そうするつもりだ。」

「そ、それは…!騎士サマだからできることでしょ!生まれも才能も違うんだから…。」

 

 

 心の弱ったミナが発した言葉に、ラディアは胸ぐらを掴むことで怒りを表明する。ラディアは孤児上がりである故に、元は同じ立場であり、魔法の才能をも持つ人間が劣等感を露にしていることに我慢ならなかったのだ。

 

 

「なに…もう一度言ってみろ…!その性根が野良のままで甘んじる理由だってんだよ!」

「私だってさ…やっと『月』に照らされて…!甘んじてなんかない!」

「…嘆くだけか。おれは這い上がったぜ?きたねえ残飯を食い漁ってよ、何日も血で汚れた!お前らと同じだ!」

 

 

 ミナを突き飛ばし、己の経てきた幼少期を語る。今は騎士長であろうと、貴族でない限り死に物狂いで生き残ってきた者ばかり。民が思うほど、騎士は小奇麗ではないのだ。

 

 

「このクソみたいな世界は、力が全てだ。中途半端に強くても意味がねえ。化物相手に逃げるか、良いように操られるだけだ。てめえ、コルバで思い知ったんじゃねえのかよ。」

「…なら、あんたがその力を教えてくれるって?」

「…矛神教は、叩き上げでのし上がってきたんだってよ。ドラクシエルの力なんて、ただの体裁だ。今は騎士ぶる奴らが増えているが、根本は変わらねえ。」

 

 

 今度はミナの下顎をぐいと持ち上げた。ラディアはミナの頬を潰しては離し、語りかける。

 

 

「そうだ。見込みがなけりゃ捨て置いて、強くなりそうなら年を跨いで置いていく。それこそが、矛神のならわしの一つ。」

「むも…!もおいうつもり…!」

「…おれが試してやる。青月に相応しくなれるかをな。」

 

 

 月夜にて、ラディアとミナは秘密の取引をする。兜越しに交わす二人の視線は、どちらも火花を散らすように鋭かった。

 

 

 

 

「『学院』が所有してる書物かー。確かにあそこなら、生き残りがいても不思議じゃないな。」

「ほぼ失伝しかけているのが懸念点だが…。これで理由は説明できただろう。」

「ああ、十分だ!…まだ隠していそうだけど、目を瞑ってやる!」

 

 

 エドと名乗る騎士の横を、リィートイはゆったりと歩く。ルヴネトでの戦闘を経て、女性が抱くエドへの感情は微細に変化していた。

 命を賭けてでも、民を守る。決して逃げない騎士の姿勢を再確認したリィートイは、秘めていた感情が漏れ出していた。

 それは過剰なほどの母性であった。

 

 

 リィートイはもう、エドが傷つくのを放置できない。古い「月」を扱うという部分、自身が生きた時代を知る極少数であることは、リィートイの感情を大きく刺激した。

 理解者を、それも自身の心を二度も絶望から掬い取った男を失いたくない。

 

 失いたくないならば、自身の力を取り戻さねば。リィートイは思い立った。

 好きな「黒錆酒」を断酒し、ひたすら鍛冶の腕を上げる。鍛冶をしていない時は、戦の勘を取り戻すための訓練。そしてエドが自身と接する時安心できるように、ルヴネトの市民と関わり色々な悩みを解決してまわる。

 リィートイは短期間で、真の意味での「頼れる鍛冶屋」へと変わっていった。

 

 だがこれらの行動は、エドが心の弱さを見せたとき自身が要になりたい欲故である。そしてエドが「探し人」だという幼子を連れてきて、その欲は大きくなった。

 甘やかし続けて、何れ騎士が自分の近くで足を止めるように。

 

 

「エド、しばらくここにいるんだったら…ミナちゃんと一緒に、わたしの工房で寝泊まりするのはどうだ?今夜はもう、宿が空いてないしな。」

「いや…だが昼は長くいさせてほしい。今後を整理する時間が必要なんだ。」

「おう!そうだ、お前が考え事してる間に、色々打ったやつ見せてやるよ。」

 

 

 リィートイはその感情の片鱗は見せず、朗らかに笑う。また一つ、「月」に糸が絡みついた。

 

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