裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す 作:棘棘生命
リィートイとの模擬戦を終えてから俺は、城下町を陽が顔を出すまで巡回した。これから未来の勇者であるケルが、幼馴染となる娘や同世代との友情を深める町だ。改めてしっかり見てみると趣深い。
騎士たちの巡回は、平時であれば交代制である。万が一に備え、兜まで装着した強者たちの列は壮観だったが、鎧は統一されているので見分けがつかなかった。
そのためラディアの鎧は一際目立っていた。途中から合流したから、騎士長だからというよりは、ラディアが独自に鎧を改造しているためである。初めて出会ったときも、標準的な矛神の騎士の鎧とは違っていたのを覚えている。
型破りだが、戦のために実用性を求めるのは頼もしい。
個人的に俺はユニーク装備が好きだ。「バックスタブレイブ」をプレイ中、重要NPCの装備を主人公の勇者に着せて、弔い合戦をしたこともあった。その瞬間だけは、怒りで絶望感を忘れられもした。すぐ次の絶望が口を開けて待っていたので、気分は晴れなかったが。
朝日を浴びると、矛神の騎士たちは詰所へと戻っていく。リィートイは大きく口を開けてあくびをし、ラディアは気つけのためか自身の兜の側面を叩いた。
「はああ…眠い…。エドお前…あれだけ動いたのに、よくぴんぴんしてられるなー…。」
「朝か…。…巡回は終わりだ。おれは寝る。」
「お疲れ二人とも。そういえば、ミウ君はどこで寝ているんだ?」
「ミナとかいう女は、詰所でぐっすりだ。ガキのお守り程度で疲れるなんて、先が思いやられるぜ。」
憎まれ口をたたいたラディアは、手をひらひらと虚空で揺らした後、無言で離れていく。
だが平時は張りのある声に、覇気がなかった。やはりラディアほどの実力者でも、訓練後の巡回はきついのだろう。健康的で何よりだ。
俺はここ数年、上位種への警戒でろくに満足に眠れないので慣れてしまった。真の意味でゆっくり休めるであろう時はまだ遠い。
リィートイは右手で目を擦り、左手でハンマーを引きずりながら俺に言う。時々言葉が止まるため、リィートイも限界が近いようだ。俺はリィートイの体を支えながら、鍛冶工房へと連れていく。
「エドー…今日寝るときくらいは鎧を脱いだらどうだ?ここはもう安全だ…何せ沢山の騎士とわたしがいるんだからなー…。」
「確かに、安全だと思える場所だ。リィートイ、貴女が奮起してくれてよかった。これで安心してケル君を任せられる。」
「また、お前自身は抜きにして…。…お嬢ちゃんたちに首根っこ掴まれても、文句言えないぞ?」
しばらく歩くと、リィートイの鍛冶工房へ着いた。俺は戸を開けた後、工房内にハンマーを立てかけ、奥までリィートイの手を引いた。彼女が仕事以外のとき過ごしているであろう部屋が、突き当たりにある。
ここまで来れば大丈夫だろう。俺はハンマーをどこに置いたか伝えた後、数日滞在できる宿屋を探しに行こうとした。
だが、俺の体は動かない。離そうとした小さな手が、ものすごい力で握り返してきている。痛みはないが、少し強めに引っ張ろうと外されることはない。
「まあまあ…そんなに急がなくてもいいじゃないか。寄ってけよ、エド。」
「…演技か。見分けがつかなかった。」
「さっき、目がさえたんだよ。こういうしみついた習慣は、何十年経っても消せないものだな。」
リィートイはぱちりと開いた瞳で、悪戯気に笑う。模擬戦でこの掴みをやられていたら、負けていただろう。復帰した古き戦士の筋力は、底なしだ。
彼女が満足するまで、この手が離されることはない。俺は観念して、リィートイの導かれるままに前へ進む。
リィートイの部屋は質素そのものであった。鍛冶の匂いが漂っており、机には設計図や型を取るための皮が散らばっている。生粋の仕事人という印象だ。部屋の隅に置かれている小さな人形がアクセントになっている。
彼女は、同じく部屋の隅に敷かれている藁の入った袋を持ってきて、その上にどかりと座った。
「わたしの部屋はどうだ。お前の想像通りだろ?」
「そうだな。…あそこの玩具は、ルヴネトの知り合いからもらったものか?」
「はは、そうだ!町の子どもがくれた。今はわたしと同じくらいの背丈だが、数年すれば綺麗な娘になるだろうな!」
「良い話だ。頼られているんだな。」
「…まあな。」
彼女は目を伏せてから、真剣な表情を作り話し出す。俺を部屋にまで入れたのは、腹を割って話したかったからだとリィートイの狙いに気づく。
「エド、時間が経てば…人は変わる。それはお前も同じことだ。悪い意味でな。ずっと張りつめるんじゃなくて、力を抜ける時には抜けよ。」
「…ああ。」
「…嘘つけ。全然気が抜けてないぞ。鎧を着てても分かる。それに、明らかに前より疲れてるじゃないか。」
友人からの気づかいは有難いものだ。俺は頭を下げるが、リィートイは納得がいっていないようだ。
だが彼女の言うように、鎧を脱ぐつもりはない。俺は数日経てばまた、化物を屠るための旅を再開することになる。一度気を抜けばそれだけ、奴らの悪辣さに遅れを取りやすくなってしまうだろう。
「寧ろここからだ、リィートイ。より集中せねば奴らの魔の手が迫る。力不足な分、振るう剣の数で補わなければ。」
「……はあ、強情だな。しかたないやつだ。」
リィートイはぐいと俺を引っ張ると、重心を崩してくる。そして座り込んだ俺の兜をぽんと触ってから、掛布団を寄せてきた。
そして彼女は、暖炉の薪を着火した。ほどよい温かさが包み込み、俺の背中を同じ間隔でリィートイが叩くことで急速に眠気がやってくる。
「ほれ、これで眠くなっちまえ。…お前に渡したいものがあるからな。ゆっくり休めよ。」
「それは…楽しみだ…。」
「本当は体拭いといた方がいいんだが――」
リィートイの声がふっと消える。俺の意識は暗転し、しばらくの安息を得た。
◆
幼子のような女性リィートイは、エドの寝息が聞こえてきてから、その姿をじっと見つめた。エドがリィートイの前で完全に無防備になるのは初めてのことであり、女性の口からくすりと声が漏れる。
エドが着こんだ全身鎧の武骨さと、今の状態からは受ける印象が真逆であったからだ。
「ケルちゃんがそんなに大事なのかー?…まあ、ずっと探してた子だものな。」
女性は眠るエドへ語りかけるように独り言ち、すくりと立ち上がる。エドの誤魔化しは、リィートイにはお見通しであった。無理を隠すことも、
理を見通すような、不思議な騎士。そんな人間が、出会って二日ほどの幼子に入れ込んでいる。何かあるとリィートイは睨んだ。
(数日経てば分かるんだろ?場合によっては、わたしも焦らないといけないか?)
何故ならエドは、リィートイに「ケルを任せたい」という意味に取れる言葉を残したのだ。
騎士は一貫して、上位種相手に剣を振るい人を助けることを目的としている。共闘することはあろうと、今までたった一人で。明確に人を育てたいという意志を見せたのも、初めてのことだった。
つまりは、エドはケルを発した言葉以上に、戦力として数えようとしている。才能ある術師や騎士でも敵わない、上位種を討つための手として期待しているのだと、女性は解釈した。
「エド、お前は…どこまで見えてるんだ?」
リィートイは再びエドへ問うも、答えることはない。女性は、いつもは頼もしく思っている騎士の背中や兜などを満足するまで柔らかく撫で、今日のために鍛え続けていたモノを取りに向かう。
良き物を打ちたい鍛冶師として、目標を同じとする戦士として。そして騎士が無事に帰ることを望む女性として、完成させた傑作。
古い猛き戦士たちが身に着けていた脚甲*1。それを更に改良した代物であった*2。
◆
大体数時間は眠れただろうか。体が軽くなったのを感じながら目を開けると、すぐ目の前にリィートイの顔があった。
思わず体を震わせると、彼女は柔らかく微笑み俺を立ち上がらせる。彼女にかけてもらっていた薄い布団を、俺は丁寧に畳んでいく。
「すまないリィートイ、部屋を借りて眠ってしまうとは。だが、お陰で休息は取れた。」
「それは良かった!ミナちゃんとラディアがもう来てるんだ。これで汗拭いたら、ケルちゃんも連れてご飯食べに行こうな!」
「ああそうしよう。布をありがとう、使わせてもらうよ。」
「いいってことよ!じゃあ後でな。」
リィートイは俺へ水で湿らせた布を手渡し、早く来るように言った後ドアを閉めた。足音が遠ざかっていくのを聞いた後、俺は兜を外した。
人前でエドムンドの顔を見せるつもりはない。彼女らしい配慮の行き届いた対応である。
そして受け取った布で汚れた体を拭き終わり、再び鎧の留め具を締め、兜を被る。
ドアを開けば、俺の友人たちが発する騒がしい話し声が聞こえる。その内容は、ミウとラディアについてを主題としていた。
「――このおれが直々に育ててやるんだ。有難く思いな!」
「確かにありがたいけど…!」
「…君も面倒見がいいな。ミウ君の才能を見抜いたというわけか。」
俺は、ミウとラディアが激しく言葉をぶつける場面へ入っていく。ラディアは休息を取ったことで調子を取り戻したようで、得意げに話した。
「起きたか。…勘違いするなよ。これは、おれのためにする事だ!青月ぃ…てめえを、次こそぶちのめすためにな!」
「え…さっきと言ってること違くない…?」
「黙りな、野良猫!それが教えを乞う態度か?」
「…はいはい。申し訳ございませんでした。…そういうわけだから。エドが私のこと適当に扱うからだよ。反省して!悲しくて、歯を食いしばっても知らないからねー!」
舌を俺に向かって小さく出し、ミウは冗談交じりの言葉を連ねる。
昨日はラディア相手に及び腰だった少女は、既に友人の扱い方を分かってきているようだ。荒事に身を置きながらも処世術に長けている。ミウは強かだ。
俺は、友人同士の仲が深まることに喜びを感じた。大きく頷き、ミウの望みに応える。
「次会うときが楽しみだ。それまで反省しておこう。…ケル君たちの魔力量調査まではいるんだろう?噛み締めておかねばな。」
「ううー…!」
「はははっ!まさか、あの青月にあしらわれてやがる!」
「…あはは!騎士サマは言い出しもしないくせに…。」
「てめえ!表に出やがれ!」
ミウとラディアによる言葉の応酬が止まらない。殴り合いへ発展していないということは、とても相性が良いのではないか。思わぬ発見に笑みがこぼれた。
言い争いながら外へ出ていく二人を見ていると、リィートイが俺の手甲をつついた。見ると、彼女の左手には鉄でできた盤が水平を保っており、その上に見慣れた物が置かれている。
黒く染められた、足を守るための装甲だ。
リィートイは足甲を持ち上げて俺によく見せてから、地面へと置く。彼女は俺が身に着けている鎧の由来について知っている。だからこそ疑問に思った。
「エド、これを付けてくれないか。」
「だが…俺が身に着けている脚甲については…。」
「リシディア騎士団の鎧は外せないって言うんだろ。…でも、わたしに脚甲くらいは預からせてくれないか。お前が無事に帰ってきたら返すよ。」
リィートイは此の地のごとく包容力を持つ。魔性と呼べるほどの善性だ。背丈の問題で、自然と上目遣いになる友人を見ていると、どうしても無下には出来ない。
(…そうだ。もし俺がエドムンド君に誓った約束を果たせなくても…これだけは返せる。)
そして俺は思い立つ。エドムンドの育った孤児院跡に向かうのは、全ての戦いが終わってからだと決めていた。だがもし戦いの半ばで倒れることがあれば。「バックスタブレイブ」の世界で、生き残れる保証はない。
もしエドムンドにとっての最悪が起こったとき、信頼できる友人に託すのもいいじゃないかと。
「…リィートイ、貴女には感謝してもしきれないな。代金は多く支払おう。…頂戴する。」
「これはわたしからの贈り物だ、金はとらないよ。だから必ず戻ってくるんだ。分かったな!」
「ああ。約束しよう。」
リィートイの情にまた甘えることになってしまった。ひんやりとした鉄の段が、俺の足にぴったりと合う。
俺はつけ心地の良い新しい脚甲で、鍛冶工房の床を歩いた。
それから俺とリィートイが外へ出ると、ミウがケルたちのいる場所を話す。俺はミウが先導するのに従って、ルヴネトに複数ある教会の内一つへと向かった。
詰所の入口には、緑の衣を着た子どもたちが集まっていた。俺はその中からケルとミストヴィルの子どもたちを見つけ出すと手招く。
存在感を放ち子どもたちの中でも目立つケルは、満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきた。
俺はケルへ、ずっと笑顔でいられるようにと願う。数日後の調査まで、緊張感を持ちながら。