裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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地獄のような「指導」を、自ら受けに行く

 安定の荷馬車の護衛をしながら、夜の月を眺める。今俺の気分はこの世界に来て、一番いいかもしれない。主人公の勇者が誕生した瞬間を見れて、しかも多少時間的余裕がある。これならば組んだルート以外にも、個人的な用を済ませられるというものだ。

 ケルは矛神の騎士達とリィートイに、ミウはラディアに鍛えられるはず。それで俺がこの年にやらねばならない戦いは、数体上位種を屠るだけ。それでは間隔が空き、腕も落ちる。

 

 

(…俺も頭を下げて、技を学びに行くのが良さそうだ。やはり、このまま次の年を迎えるのはまずい。ならば――)

 

 

 俺は鍛錬をして、教えを乞うべきだと再び思う。そして次に、平時はあまり考えたくない美貌を思い浮かべた。最も「月」を知る者、ルリベナの顔である。

 俺がこの世界に来て、真っ先に師事しに行った人間だ。「学院」で権威を持っており、複数人いる副学長の一人である。

 だが俺はルリベナについて信用はしているが、信頼はしていない。「バックスタブレイブ」では上位種の策に自ら落ちに行った、性根の悪い術師だからだ。

 

 このマイナーな鬱ゲーでは、弱い者は抗うこともできず倒れ、強い者は既に殺されているか敵側に寝返るシチュエーションばかりだ。そのため中盤の総力戦では、中途半端な強さの人員が向かうことになり、苦しい戦いの末どんどんと退場していく。

 このキャラクターが生きていればや味方側であればといった、もしもを望まずにはいられない凄惨な戦場。「裏切り」「絶望」が跋扈する大陸外での戦いこそが、主人公の主戦場なのである。

 

 

 考えを戻す。作中時系列にて、この時期大陸西側に出現する裂け目は対処できた。北西に二箇所、南西に一箇所である。南西に向かったときは、一日と少しだけだったがトリネと顔を合わせられた。またルヴネト王国の領土内から少し離れて、ソヘネーの町に行けもした。

 この間半年より早めに再会したトリネは、また研究の成果を出しており、成長が著しい。返ってくる便りもポジティブな内容が多く、俺としても嬉しい限りだ。

 シスター・ジゼラについては、孤児院の子どもたちの面倒を見ることや祈りを捧げることで大変そうだが、命の危機には至っていない。顔色も良かったため、平穏無事に過ごせているようだ。

 他の友人には顔を見せられなかったが、いる場所が場所であるため別の機会に顔を見せることにする。

 

 

(学院に行くならばトリネ君を連れていきたいが…彼女に関わりそうな資料だけでも「越境」経由で送るとしよう。懸念点は、どこまであの人が許すかか。)

 

 

 学院には、学舎がいくつか存在しており、それぞれ細かい風土が違っていたりする。生徒が貴族ばかりであるため、傲り高ぶりが透けて見えるところは共通だ。

 そしてルリベナが総長を務める第二学舎は、信じられないくらい重苦しい空気感である。学院の研究機関としての要素を前面に出しており、生徒たちも抑圧され、その影響で更に貴族たちの性格が悪くなるという悪循環を抱えている。

 しかし良い面もある。第二学舎では解術*1した魔法を、一部外部に共有しているのである。

 学院の基本方針は、価値ある魔法は外に出さないとしている。つまり悪い部分はあれど、秘密主義でないというだけで、個人的には最も良い学舎であると思っている。地獄のような空気には我慢すればいいのだ。

 

 ここからは大陸中心の東寄りに現れる化物どもを倒しながら、その間に鍛錬を積む。俺はルヴネトに都度戻るルートから、東の町を一時拠点にする計画へ再度組み立てていくことにした。

 

 

 そして俺は半月をかけて荷馬車を乗り継ぐようにし、複数回商人の護衛を行った。一息に学院近くまで向かう馬車はなく、学院へ物資を届けるような商人は、予め雇われている選りすぐりのみだ。傭兵崩れに敢えてなった俺のような者を突発的に雇うことなどありえない。

 旅道中、天候に曇りが多くなり肌寒くなってきた。また年の終わりが見えてきたのだ。

 

 四度目の護衛、厚手のコートを着込んだ朗らかな男商人が大声で俺に伝える。第二学舎に最も近く、ルリベナに手っ取り早く要件を伝えられる場所にも近い国が見えてきたのだ。

 

 

「――傭兵さん、もうすぐリフォニアに着きますよ!護衛ありがとうございました!」

「こちらこそありがとう、商人殿。最後まで油断せず見張らせてもらう。…少し暖を取ってもいいだろうか?」

「どうぞ!燃え移らないようにだけお願いしますよ!」

「感謝する。そうはならない道具だ、安心してくれ。」

 

 

 リフォニア。ルヴネトから離れてはいるが大陸の中心にある国。

 しんしんと雪が道に降り始めた。俺は所持している道具の内、折り畳んでしまっていたスクロールを手に取った。道に落ちている手頃な石を魔力のそよ風で持ってきて、封じ込められた魔法を使用する。

 一定時間、小さな物品に熱を与える魔法だ。つまりあちらの世界で言えばカイロ、温石の役割に使える。

 

 魔力を持たない大部分には使い道がなく、術師もスクロールを常備してまで使うほどではない。

 だからこそこの魔法におけるスクロールは価値が低く、使い切りではない永続の品も、希少だが値は張らなかった。

 魔法を使うと、少し大きな石からじゅうと音が鳴る。俺は布で石を包み、馬を走らせる商人の方へ持っていく。

 

 

「商人殿、あなたも暖を取ってください。これを。」

「おお…これは珍しい。傭兵さん…貴方、結構な好き者ですね?防寒具じゃ厳しくなってきましたから、ありがたく。」

 

 

 厚手のグローブを身に着けた商人も、布で包んだ石に片手を近づける。

 俺と商人はそのまま、リフォニア国の中心にある都市へと移動した。一期一会で心が通じ合うというのも「バックスタブレイブ」にはなかったこと。心が温まる瞬間をほとんど描写されなかったからこそ、今俺は旅を続けられている。

 商人たちはただ移動手段のためにいるのではなく、過酷な世界で懸命に生きている一人なのである。

 

 

 それから数時間経って、俺はようやくリフォニアにまで辿り着いた。商人から報酬をもらい、別れた。

 半月という短期間で懐が潤っている。闘技での賞金については、途中「越境」を通して、複数の孤児院に寄付をした。トリネとケル宛にも幾らか包んでおいたため、子どもたちの生活が困ることはないだろう。

 また寄付をするのも良いが、ここから年が終わる直前までは、ストレスが溜まりまくる過酷な環境に身を置くため残しておきたい。その上で残れば、再び便りと共に出すことにする。

 

 

(あの人にも便りは出したが…。読んですらいないだろう。直接話に行くしかない。)

 

 

 白一色になりかけている町を俺は歩き、リフォニアにおける越境組織の施設へ入る。小綺麗な内装で、夜の暗闇にも暖色の明かりが安心感を与えてくれる。そしてどこか無機質な受付係も、頭を下げた。

 テーブルに座っている冒険者たちは皆厚着であり、持っている武具も槍や斧槍など長物が多い。基本集団での狩りになるため、町ごとに特色があり戦法もがらりと変わる。ここは囲んで刺すやり方を好むようだ。

 がやがやと喧しい施設内を奥へ進み、受付係の一人に話しかける。

 

 

「突然だが頼めるだろうか。俺は『青月』エドワルドの名で登録している者だ。『学院』の副総長、第二学舎総長。『月環の監(つきわのけん)』の通称を持つルリベナ殿に言伝を願いたい。」

「承知いたしました。それでは内容をどうぞ。」

「感謝する。…今から、学舎の森へ向かいます。以前から話していた件について、ルリベナ殿のご批示を仰ぎたく存じます。以上でお願いする。」

「お承りました。ルリベナ様が所有される経路に通してまいります。――何かお困りのことがございましたら、カウンターまでお越しください。獣に付きモノ、何にでも色を付けた報酬が待っております。」

 

 

 受付係の男性は最後に深々とお辞儀をすると、カウンターの奥へ入っていく。そして代わりに別の職員が受付に立った。俺も頭を下げ、越境の施設を出る。

 越境経由でも便りは出せるが、返事は来ない。伝言であれば一旦耳に入れる可能性はある。最もこれは宣言であり、訪問する理由付けである。元より返事は期待していない。

 

 俺は夜、曇り空の下、近くの森へと入っていく。この森には木造の小屋が隠されているのだ。

 そここそが、ルリベナの隠し研究室。人を好まない才能の塊が、一人で月を監るための場所である。

 

 

 

 

 ある森にて。月明かりの中、眉間に皺を寄せて机に向かう女性がいる。長い黒髪をそのまま垂らし、どこまでも濃い青色の瞳を歪め、思考にふけっていた。

 そして突然古びた文書から目を離し、虚空を見て更に顔を歪める。そのような表情をしていても、黒髪の女性は美貌を保っていた。

 

 

「ちっ、何だこの不届き者は。……。」

 

 

 次に女性は何かに気がついたような表情を一瞬作り、大きくため息をついてから思考を再開する。感知するための魔法に引っかかった者の正体にすぐさま気づいたのだ。

 しばらくすると、森の小屋の戸が叩かれる。女性は返事をせず、ノックが終わって次の音が鳴っても机から動かなかった。

 階段を上る音がして、女性の横に全身鎧の騎士がやってくる。その騎士は身を屈めて言った。

 

 

「『月環の監』、ルリベナ殿。エドワルドです。ご連絡させていただいていた件について、どうかお時間いただけませんでしょうか。」

「…不肖の弟子よ。誰が入っていいと言った。貴様のような者は、寒空の下、月陽が明けるまで小屋の前で待機するものだ。」

「それは、お時間をいただけると意味でしょうか、ルリベナ殿。」

「…我輩は忙しいのだ。さっさと待機するがいい。…それか跪いて、我輩の思考を妨げた報いを受けるのでも良い。ああ…気が変わることも知れんな。選べ。」

 

 

 女性ルリベナは顔を動かし、横で膝を立てる男性の兜の奥を見た。ルリベナの目よりも薄いその青色は凪いでおり、余計に彼女を苛立たせる。

 他の追随を許さないほどの実力を持つ己に師事を仰いでいながら、「師」として見ていないことに。

 

 騎士は女性の前で、更に深く跪いた。この寒さを凌ぐ術は調達できても、ルリベナから更なる怒りを買うと分かっているためだ。

 彼には、無駄な行動をする暇はない。己の力のため、その場での最善を選ぶ。

 

 

 

「…いいだろう。では我輩の邪魔をしないよう、息を潜めておくがいい。この場で待機できること、光栄に思え。」

 

 

 その後、ルリベナは憤りを騎士で鎮めると、離れの席を指さした。騎士は何も言い返すことはなく、足音を静かにその席へ腰を下ろす。

 

 曇り空から月明かりが現れ、小屋の主と訪問者とを微かに照らす。

 ルリベナの研究は、朝まで続いた。

 

*1
古い人類側の魔法を解読する試みのこと。この魔法とは「此地の憤怒」のことであり、殆どの魔法の原点にあたる。(「月」や「陽光」「天体」由来は除く)理論を読み解くことで、現代の術師にも扱えるよう単純化している。

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