裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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全てが腑に落ちていく

 サソリの要素を持った上位種を、リシディア騎士団の協力のおかげで難なく撃退できた後。

 俺はアイナに招かれ、騎士たちが待機していたという焚火前にて、腰を下ろしていた。ぱちぱちと、薪が弾ける音が心地よい。

 最初は少し焦ったが、今回の裂け目の対処も犠牲者無しで終えることができて良かったと、心から思う。奴を放置していれば、この近くにある村は、化物一体のために半数以上が命を落としていた。

 特別な出自を持つ人間でなくとも、「バックスタブレイブ」の世界では容赦なく狙われる。見目麗しいか愛らしい人間を華として添え、血生臭い絶望を演出するのである。

 

 俺が揺らめく炎を見て癒されていると、隣に座っている少女の声が聞こえてくる。俺は足元で組んでいた両手を広げ、右へ首を傾けた。ルリベナの鍛錬に加え、脆いタイプであれど上位種を相手取れば、疲労はずんと重くのしかかるものだ。

 

 

「――先輩、エド先輩。…お疲れみたいっすね。」

「…大丈夫だよ。アイナ殿…いやアイナ。あの高飛車の言葉も今は抜きだ。ゆっくり話せる。」

 

 

 敬称を付けると、アイナから圧力がかかったため、彼女の要望通りに変える。すると目を細めて、いつも通りの朗らかな笑みをアイナは浮かべる。

 ルリベナから課せられたメニューは力を付けるため大事だが、今はアイナの調子を戻すことが最優先だ。俺は、極力彼女の言葉を引き出すことにした。

 

 

「はい、ゆっくりと。今ならまた、私とエド先輩二人きりですから…色々お話ししたいっす。」

「…先ほど、エドムンドさんと貴女は言った。確かに俺は、彼としては死んだ。だがルヴネトでもアイナは聞いたはずだ。…それはただの方便であると。」

「そんなことないです。…エド先輩は、エド先輩っす。エドムンドさんじゃありません。だってその方は、エド先輩みたいに剣を扱えませんから。」

「…どういう意味だ。」

 

 

 アイナは明確に、俺とエドムンドを分けているように話す。やはりエドムンドの勇ましさは真似できないということだ。

 俺が問いかけると、少女は続けた。

 

 

「深く調べてみて…分かったんすよ。エドムンドさんの伝説は、誇張されたものでした。強くはありましたが、一度に翼付きを二十匹も仕留めたことは無かった。武勲も通称も全部、リシディア教の強さを示すための誇大な喧伝だったということっす。」

「そうか…。」

「あはは!ほら。エド先輩は他人事みたいっす。…なら何であの時、私の呼びかけに応えてくれたんですか?」

 

 

 エドムンドの記憶全てが、脳に残存しているわけではない。アイナは演技のできない俺を見透かすような瞳でじっと見た後、もう一度小さく笑った。

 そのわけについて思い起こせばシンプルだ。エドムンドの名を知っているのは、リシディア騎士団に伝手を持っている人間か、かつての彼と親しかった者だけだと思った。

 もしかしたら、こんな世界であってもエドムンドに救いの手が差し伸べられるかもしれない。孤児院の家族が一人でも生き残っているんじゃないかという希望を、捨てきれなかったからである。

 

 アイナは俺の返答を待たず、続ける。特徴的な藍色は、やはり主人公の傷となった彼女によく似ていて。しかし、片方が失われていない。

 彼女の言葉は俺にとって、更なる衝撃を与えるものであった。

 

 

「エド先輩。私、ずっとあなたに言いたかったことがあります。――私を助けてくれたあの夜から、ずっとあなたを追ってきました。こうして騎士長になって、今度はあなたを助けたいと必死で。」

「あの夜…。」

「…先輩は覚えてないっすよね。各地を渡り歩いて、沢山の人を化物から守ってきたんですから。でも私の心にはずっとあなたが残っています。」

 

 

 隣に座るアイナがぐいと俺の両肩を掴んで、向かい合う。俺は彼女の様子がおかしかった理由を、何となく理解できた。

 友人でも年が離れている故に、アイナとは腹を割って話してこなかった。その不満を、真面目で人としてできた少女は抱え込んでいたのだ。

 俺は、滔々と語り始める少女の声に耳を傾ける。

 互いの認識を深めてこそ、俺たちは真の意味で友となれる。人類の宿敵を討つ仲間へとなれるのだと俺は思う。

 

 そして俺はアイナの話に幾度も驚かされ、そのどれもが腑に落ちる。

 俺はより穏やかな心で、アイナを見ることができた。過去の俺は知らずの内にファインプレーをしていたと、自画自賛をしたくなるような心地になって。

 夜はまだ長く、俺はアイナの話を存分に聞き続けた。

 

 

 

 

 少女アイナは、エドと名乗る騎士と、今まで最も顔を近づけていた。変わらず兜に素顔を隠したエドは動揺もなく、アイナの話に相槌を打っている。

 

 

(おかしい、おかしいっすよ!こんな思い切ったのに、何でそんな余裕なんですか!)

 

 

 アイナが問いかければ、エドはこれまでの旅路を淀みなく語り。そしてアイナが今までを話せば、彼は聞き役に徹する。エドは、全てアイナに合わせている。

 だが段々とアイナは、思考がショートしてきていた。やろうと思えば地面に押さえつけられる体勢だ。いつも話すときは頭上から聞こえてくる低い声が、アイナの耳へ直に届く。

 エドは、先程アイナが伝えた洗礼名と事柄を噛み締めるように繰り返している。

 

 

「――そうか。アイン・エルディア…。俺は貴女のことを助けられたんだな…。」

「わ、私は…ずっと、エド先輩に支えられてるっす!この前だって、エド先輩から感じる魔力で…。」

「俺の魔力が支えになっているのか?」

「あ……」

 

 

 アイナは頭が茹だったために、エドに話すつもりのなかったことまで口から出しかける。「探知」を私的に利用し、少し遠くで休息を取っているエドを想いながら眠ったこと。騎士らしからぬ、気味悪い所業だと恥じながら止められない行為を。

 俯いた後、エドの兜から様子を伺う。彼は悪感情を出すことなく、ただ頷いていた。

 

 

「ずっとそうじゃないかと思っていたんだ。騎士団だから、個人であるミウ君よりはあからさまじゃないが貴女とはよく会う。…分かるよ。リシディア騎士団が、俺が不自然なまでに、何度も裂け目の対処をしていると感づいたんだろう?」

「そ、そうじゃないっすよ!そんな私は、任務に忠実じゃないっす…。」

「…違うのか?」

 

 

 エドは内心、リシディア騎士団上層部の指示が現場に近くなってきたのだと舌を巻いていたのだが、アイナが首を振ったため自身の考えの浅さを恥じていた。

 

 アイナは緊張感により、空気を少しばかり溜めた頬から、息を荒く吐き出し。ぎゅっと目を瞑った後言う。

 

 自身の行いが誤っていると彼女は分かっている。だがエドの魔力が感じられなくなると、不安でいっぱいになるのだ。深い執着は依存心を育んでいる。

 それでもアイナは思い切る。取り繕っていたから、憧れの人は距離を取っていた。ならば醜い部分さえも見せねば、関係性は変わらない。前後どちらに動こうが現状維持よりは良いと、アイナは博打に出た。

 

 

「私、エド先輩にずっとついていきたくて…。そうしたら化物を倒すのにも協力できるって、大義名分が出来ちゃったんです。それで自分を正当化して…本当最低っすよね。」

「…俺としては、アイナたちが協力してくれて大助かりだ。」

「え……?」

 

 

 そしてエドから、想像していた回答の斜め上が返ってきてアイナは呆ける。それではまるで彼が自身の行いを認めているようではないか。アイナは混乱し、次のエドの言葉に顔を真っ赤にする。

 

 

「騎士団の方針だと思っていたが…裂け目近くを守ってくれるだけで有り難いこと。アイナの負担にならないなら、引き続き探知をつけてくれて構わない。」

「なんで気味悪がらないんすか…!先輩から怒られるべきことなのに…。」

「貴女のような友人を悪く思うわけがない。それに人々のために体を張っているだけで立派だ。疲れが癒えるなら、好きなようにしてくれ。」

「そ…そうやって何でも受け入れてくれるから…。許してくれるって勘違いしちゃうんすよ…!」

 

 

 アイナは更にエドの両肩を強く掴み、制御できない感情を口を結んでは開くことで表す。今度はエドが笑う番だった。

 

 

「先達ではなくとも友人として、俺はアイナを見込んでいる。これからも協力してくれ、アイン・エルディア司令官。」

「…はい!先輩!」

(あ、ああ…。先輩…昼じゃなくてもこんな感じじゃ、堪えられないっす…。)

 

 

 アイナはやけになったように笑顔で返事をし、その心の内はぼうっと上の空だった。

 エドにペースを持っていかれ、アイナの腕からはへなりと力が抜けた。少女はそのまま座り込み、感情も何ものぼせていた。

 丁度リシディア騎士たちの後始末が終わったようで、複数人の話し声が二人に近づいてきた。アイナは頬を引き締めて、部下たちを迎える。

 鎧姿の集まりへ黒衣が混ざっている。エドもまた立ち上がり、知った顔たちへ言葉をかけた。

 

 

 

 

 戦闘を終えたリシディア騎士たちを見て、第二学舎から死地に赴いたつもりであった四名は、安堵と肩透かしを同時に味わっていた。

 命を落としたくはないが、教導役として役目を果たしたい。彼らには天に聳え立つほどのプライドがあるのだ。

 

 リシディア騎士の一人である男性が、兜を脱いで術師四人に声をかける。リシディア騎士たちは、この地域が「学院」の所有地に近いと知っていた。

 

 

「――学院の方ですか!お勤めご苦労様です。対処はもう終わりました、付近は安全ですよ。」

「そ、そうか…ありがとうよ。…反応があって二時間も経ってないぞ?」

「ええ、我らが騎士長は優秀ですから!それに『青月』さんが協力してくださいましたしね。」

「青月…?エドワルドさんが、対処なされたということですか?」

「おお、学院の方も知られているんですね!あの人、この部隊では有名なんですよ。」

 

 

 ギャレスとヴィクターが呆然としながら聞き、誠実にリシディア騎士の面々が回答する。今日も五体満足でいられたと冗談めかして喜びあう騎士たちの言葉が耳に入ってくるが、テンセンもルシも同じだった。

 自分たちが死を覚悟しているのに、エドワルドはその先を行く。魔法を究めることを意味とする術師たちは、暗闇に取り残されたような感覚を味わった。

 

 

「知り合いなのでしたら、『青月』さんとお話しされては?騎士長と一緒にいますから。」

「じゃ、私が見てきますね~!ギャレスさんたちは、騎士とお喋りしててくださーい。」

 

 

 テンセンは反射的にリシディア騎士の男性へ返し、ずんずんとエドワルドがいるらしい場所へ歩を進める。

 

 そして女性は見た。言葉を交わす紺色髪の少女と、全身鎧の男の姿を。エドワルドから発せられる声音はテンセルが聞いたことが無いほどに明るく、戦いや魔法以外について楽し気に話す。

 

 

(あいつ…!ルリベナ様からの命令を無視して、お喋りって…!どこまで私たちをこけに!)

 

 

 テンセンは焦っていた。教導役になった後、ルリベナから目を向けられることがめっきり減った。それだけで、テンセンは最も「月」を知る者から見放されたのだと気づいたのだ。

 どうやったらもう一度、「月」を教えてもらえるのか。何年も努力しても尚、ルリベナは振り返らない。学舎の術師たちを見ていない。

 視線を向けたとして、テンセンの後釜となった少女だけだ。テンセンは才能を持ちながらも、ずっと劣等感を抱え続けていた。

 絶対に目に物見せてやると、テンセンは固く血がにじむほど拳を握りしめた。

 

 そんな彼女は、夜が明けた後受ける命令によって更に激情に心臓を焦がすことを、まだ知らない。

 

 左の方が大きく見える二つの月は瞬き、次の日を呼び込む。しばし月は隠れ、その時を待つ。

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