裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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本小説の更新は変わらず行ってまいりますので、今後ともよろしくお願いいたします。


二つの月は引き合うもの

 第二学舎で知った顔の術師たちは、裂け目の対処のためこの場所まで急いで来たという。

 総括して秘密主義である「学院」も、持てる力は駆使し人命救助にあてる。まだ巨大組織の一角としての体裁は保っているということだ。

 俺は、リシディア騎士達と四名の教導役を言葉だけではあるが労った後、鍛錬に戻るため手足をほぐす。まだ夜は長く、ルリベナに渡すため異相付きを狩っていかねばならない。

 すると黒衣の内、ヴィクターが遠慮がちな調子で話しかけてくる。

 

 

「えっ…エドワルドさん。休息は取らずとも問題ないのですか…?幾らルリベナ様の教導とは言えど、上位種相手に立ち回った後では。」

「問題ないよ、ヴィクター殿。丁度この鍛錬にも慣れてきたところだ。間隔をなるべく空けないようにせねば。」

「…なんという胆力。『青月』とは噂に違わぬ不休っぷりですね。どこでも話を聞くと、妻が言っていたのを思い出しましたよ。」

「リフォニアにはあまり来ていないが…貴方の大切な人は情報通だな。」

「ええ。彼女は、リフォニアに来る前は各地を転々としていましたからね。」

 

 

 ヴィクターは家族の話をすると、平時はやや固い表情をほぐす。手合わせをした後、俺から会話の糸口を探したのだが、取っつきにくさはなかった。ヴィクターは妻子を愛しているようで、彼女らのことを聞けば聞くほど心を開いてくれたからだ。

 元冒険者と貴族。身分違いの夫婦ではあるが、対等な関係のようだ。こんな家族想いの男が、「バックスタブレイブ」作中では、会話で触れられるだけだったとは悲しいことだ。俺はヴィクターの危機にも、目を光らせねばならないと固く誓う。

 

 俺とヴィクターが軽く言葉を交わしていると、テンセンが食いかかってくる。彼女はルリベナのお気に入りから外されてはいるが、才女の成果を尊敬する気持ちは変わらない。俺がアイナと話していたことが気に食わないのだろう。

 

 

「――あなたに、だらけてられる時間があるんですかー?…さっさと森の中に戻って、ルリベナ様のために動かないと、ですよね?」

「ああその通りだ。リシディア騎士の皆さん、アイナ。また別の戦いで会おう。貴方方はまた学院で会えれば。」

「はい、先輩!私たち共々、ご助力に感謝を!では私たちも行きましょうか、皆さん。」

「おう。日中時間があったら、お弟子さんの話聞かせてくれよ!こんな厳しい教導、どうやって切り抜けてんのか気になるしな!」

 

 

 裂け目の対処が終われば、一同荒れ野に滞在する必要もない。俺はそれぞれの陣営に別れの挨拶と礼をすると、マントの位置を直して去ろうとする。別れ際に聞こえたテンセルの歯ぎしりが、妙に耳に残った。

 

 

 

 

 裂け目の対処が騎士たちによって為された深夜から、半日が経った。第二学舎に戻ってきたその足で、午前の講義を教え終えた薔薇色髪の女性、テンセンは緊張からなる寝不足で、不機嫌そうに頭をおさえていた。

 だが、生徒が質問のために講義用の室内に走ってくると、笑顔で応対する。エドワルドに出会ったときは生徒の一人であったが、八年経てば大人としての役割を果たせる。

 そのためテンセンに燻り続ける反骨精神は、エドワルドのみに向けられるようになっていた。

 

 

「テンセン先生、ありがとうございましたー!」

「ええ。また分からないところがあったら聞きに来てね。……ふうう。」

 

 

 笑顔で去っていく幼い生徒を見送り、パタパタと駆けていく音を聞いてから頬に空気を溜め吐き出す。「学院」における教導役は、生徒への教導と自身の鍛錬のバランスを取りながら、立場を維持しなければならない。そして後者の方が優先されるべき事項だ。

 だが近頃のテンセンは、焦りばかりが先行して魔法の鍛錬に集中できていない。それが数年の間にシレッサと立場が入れ替わった要因なのだと思っていても、実行に移せないのだ。今まで大きな挫折を味わったことのない女性は、無力感を味わっていた。

 

 

(こうしている間にも他の教導役は……あいつも!)

 

 

 テンセンは昨夜、躊躇いなく森へと入っていった全身鎧の背中を頭に浮かべる。貴族であるのにルリベナの恩寵を受け、しかしその名誉さえもかなぐり捨てる無礼な冒険者。

 最初顔を合わせたときや、騎士がエドワルドと名乗り始めた頃などは、明確に格下であった。半回りも上で、魔力の伸びしろもなさそうだったというのに、もう追いつけないほどまで引き離されている。

 テンセンは今置かれている立場も相まって、余計に自身が惨めに思えていた。

 

 生徒たちの休憩時間の合間に動かねばならないと、テンセンは日に日に重くなっていく腰を上げ、講義用の教室を出た。荘厳な石造りの廊下を歩いていると、すれ違う教導役の意地悪い女性にくすくすと笑われる。

 それはテンセンの眼中にない、これ以上力を高められない女性ではあったが、じくりと自身を責める思いが強くなる。

 そのときだった。右方向から、テンセンを呼ぶ野太い声が聞こえたのは。

 

 

「おーい!お疲れさん、テンセン!」

「…ギャレスさん、何ですか?私、今から忙しいんですけど。」

「鍛錬だろ?だけど、ちょいとばかりオレについてきてくれねえか?ルリベナ様にまた呼ばれてんだ。テンセルも招集するように言われててよ。」

「ルリベナ様が、ですかー?またあのエドワルド関連じゃないですよね…。」

「まあ、お弟子さんについてだろうな。だが高められんなら、オレたちにとっては良いこと尽くしだろ!ルリベナ様もこちらを気にかけてくださっているってことだ!」

(そんなわけないでしょ、この筋肉バカのおっさん…。)

 

 

 裏表なくルリベナを信じて笑うギャレスに対して、テンセンはげんなりとした顔を作り、心の中で吐き捨てる。下に見ていても、ギャレスとテンセンの実力差は年々埋められてきている現状である。

 女性の年齢が上がり、かつて生徒だった時も教導役だったギャレスを煽ることも難しくなった。恩師などとは思っていないが、同僚相手に悪態を吐いて関係を冷やせるほどテンセンは考えなしではないのだ。

 

 テンセンは大人しくギャレスに連れられ、ルリベナの書斎の一つがある管理棟へと向かう。そして棟の四階、中央に作られている大部屋をノックしてから二人して入った。

 そこには忌々しい人間二人と、話すことのある数人の教導役。長机の奥には、第二学舎の頂に君臨する偉大な術師、ルリベナの姿があった。

 テンセンはルリベナへ深く頭を下げてから、所定の場所に立つ。テンセンを流し見した後、ルリベナは肩肘をついて言う。

 

 

「これで招集をかけた術師は全員だな。…嘆かわしい。学院の学び舎で、必要最低限を満たした術師がこれしかいないとは。」

「ルリベナ様…。ということは、オレたちは弟子にしていただける土台はあるってことですかい!」

「喧しく叫ぶなギャレス。この試み自体を無くしても良いのだぞ。我輩にとっては、その方が都合が良い。」

 

 

 冷徹な口調でギャレスを叱咤し、ルリベナは退屈そうな目で集めた術師たちを見ていく。そして足を組み替えるとテンセン、ヴィクター、ギャレスと指さしていき、最後にルリベナの隣に立つシレッサへ目配せをする。

 ルリベナは、唐突に招集した理由を話した。シレッサは丁寧ながら同僚へトゲを感じさせる口調で補足する。

 

 

「――空に浮かぶ二つの月は、互いに引き合っている。『月』の基礎、この第二学舎の教導役なら、まず忘れてはいけないことだ。貴様らはこの法則によって、魔力を引き上げろ。」

「…ルリベナ様は、術師同士で組めと仰られています。そしてルリベナ様が指さした順に、この『月』と組むようにと。ルリベナ様から指示の無かった方は、私と鍛錬をすることになります。ルリベナ様から仰せつかったことですので。」

(あいつ、あんなにぺらぺら喋ることあるのかよ…。…ルリベナ様、どういうおつもりですか…。)

 

 

 シレッサが掌で示したのは、テンセンにとって最も気に食わない騎士、エドワルドであった。彼は部屋の隅で待機しており、テンセンたち教導役が視線を向けると頭を下げた。

 この世界において、「二つの月」とは民間でも色々な意味を持たせられている。

 右側の月の方が小さいために、師弟、親子、兄弟、夫婦などの関係性を想起させるのだ。

 テンセンは昔、ルリベナの「右月」であると思われていた。

 エドワルドは教導役の誰よりも強い。つまり左の月であり、テンセンは一時でも彼に従うことになるのは我慢ならなかった。

 シレッサの補足に不足はないらしく、ルリベナはエドワルドを睨みつけてから続けた。

 

 

「…こいつは情けない弟子だ。我輩の言いつけを破った故に、監視をつける目的もある。テンセン、貴様はエドワルドを良く知っているだろう。尻を叩いて、休ませないようにしろ。…貴様が再び我輩の教導を多く受けたいならばな。」

「はっ…ルリベナ様!」

「数日おきに三人がエドワルドにつけ。ギャレス、ヴィクター。貴様らも同様だ。こいつは幾ら痛めつけても構わん。」

 

 

 ギャレスとヴィクターは戸惑ったようにルリベナとエドワルドを見る。するとエドワルドが平時は穏やかな調子を崩し、ルリベナの近くまで歩く。

 

 

「ルリベナ殿。黙って聞いてはいましたが、彼らには生徒の教導があるはずです。長時間彼らを拘束するのは申し訳が立ちません。」

「黙っていろと、先に言ったはずだぞ?その程度もできんのか、貴様。」

「…横暴が過ぎると言っている。彼らは貴女の代わりに、命を賭けて化物の対処に向かっているのです。貴女が立場上動くのが難しいのは分かります。しかしこれ以上負担をかけて、才能を潰してはなりません。」

「…貴様、我輩に口答えしたな…!」

 

 

 エドワルドの青い瞳には、確かな怒りが込められていた。彼は人命と希少な才能を何よりも重要視する。昨夜の疲労を術師たちが持ち越していることを、エドワルドは認識していたのだ。自身への負荷は目的のために歓迎するが、立場を使って他の人員にまで過酷な訓練を無理に強いるのは、看過できない事であった。

 

 ルリベナは思わぬ反抗に瞳を一瞬だけ揺らすが、真っ赤に顔を染め怒りを露にする。エドワルドとルリベナの間で鋭いプレッシャーがせめぎ合い、シレッサは何もせずその様子を眺めていた。

 

 ルリベナの怒りが爆発しかけている中、慌てた調子でギャレスは取り繕う。短い髪から汗を流し、ヴィクターとテンセンに向けてパスを回した。

 ヴィクターは見開いていた大きな瞳を平時に戻して同意し、テンセンも嫌々ながら無言で頷く。

 

 

「お、お弟子さん!オレは願ったりかなったりだから、気にするなよ!鍛錬の時間が取れるのも良いことだ!な、ヴィクター、テンセン!」

「…ええ、僕もギャレスさんと同じです。数日後を楽しみにしています。」

「そうか…申し訳ないな、お三方。教導との両立は大変だと思うが、お時間をいただく。」

「貴様…我輩へ謝罪しろ。」

「申し訳ありませんルリベナ殿。話の腰を折らないよう、黙って待機します。」

「ぐぐ…バカ弟子が…。後で叩きのめしてやるからな…。」

 

 

 三名には感情が籠った謝罪をしたが、ルリベナへとってつけたような態度で言い、エドワルドは壁際に戻る。ルリベナは両掌の指をぐちゃぐちゃと動かした後、大きなため息を吐いた。

 そして教導役たちへ、これからの動きを簡潔に話して解散させる。普段以上に不機嫌になっていたルリベナを恐れながら、教導役たちは仕事へ戻る。

 これからを考えるテンセンの心境は、更に重く憂鬱になっていた。ほんの少しの希望と共に。

 

 

 

 

 招集した教導役とエドワルドが去った書斎にて。エドワルドへの仕置きを終えたルリベナは目を閉じ、頭を押さえてじっとしていた。

 エドワルドからプレッシャーがかけられたのは、初めてのことであったからだ。

 師を心から敬わっていないのはいつものことであるが、明確に反抗されることは無かった。それにルリベナは凝り固まって動かなくなっていた感情を揺らしていた。

 

 

「奴め…少し見ない内に言うようになりおって…。」

「ルリベナ様。貴女様が気に病む時間は人類の損失。私がおります。苛立ちも不快感も私におぶつけください。」

「…苛立ちなど。シレッサ、茶を持ってこい。しばらく考える。」

「はっ…仰せのままに。」

 

 

 教導役ではあるが、秘書のような立場にいる少女シレッサに命じ、ルリベナは眉間の皺を伸ばす。

 ルリベナ視点で、シレッサは多くの魔力を持ち、才にも秀でている術師であった。それでいてエドワルドとは違い自身に従順である。細々とした雑用はエドワルドも完璧にこなすが、気に入らない。

 ルリベナは、感情を乱さないシレッサもまた自身の弟子にしたいと考えていた。

 

 

(…だが、まだ「月」を伸ばせる術師はいる。どれだけシレッサと他の術師が成果を上げられるかで、考えるべきだな。)

 

 

 ルリベナは研究に没頭しようとする。エドワルドの狩ってきた異相付きの素材は「霊月」の研究にあてられ、その部分に文句はない。

 幼き頃からずっと、心が冷たく凍っていた才女は自身の感情を理解しておらず。エドワルドに今抱いている感情が悲しみと少しの喜びであることにも終ぞ気づかなかった。

 

 書斎での研究が上手くいかないと感じたルリベナは、シレッサを本来の教導に戻し、隠し小屋へと向かう。

 夕陽が陰り、ルリベナの試みが今夜から始まる。

 

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