裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す 作:棘棘生命
少し早めの投稿です。よろしくお願いいたします。
街路の雪が、土のついた靴で汚される。付近に裂け目の反応があったことで、リフォニア国のとある町に滞在していたリシディア騎士や冒険者たちは、騒然としていた。
特に騎士たちは戦々恐々としながら、祈りを捧げている。前の戦いから半月も経っていないというのに、再び反応があったのだから、精神的に追い詰められる者もいた。また、同輩が一人巡回中に姿を消したとなれば、猶更のことだった。
あるリシディア騎士の男性は影に潜む者としての仕事を終えた後。リシディア騎士と黒血絶ちに、ソレオの狂信者たちについて情報を共有し、すぐに次の脅威が迫る。
男性は、得物である短剣をしまい騎士団の槍に持ち替える。そして焦った様子で彼を呼びに来る同輩の女性に向けて、軽く手を挙げた。
「バーナード、大変な事態となってしまったな…。化物…上位種がもうすぐ現れる。何が出るか分からん、槍に魔力を通しておこう!」
「…悪い偶然は重なるものだな。こんな夜に化物が揃い踏みとは。」
「うん…?とりあえず話は後だ。何としてでも被害が出る前に仕留めるぞ!」
男性バーナードの言葉は意味ありげで、女性騎士は一瞬だけ思考を止めたが、優先事項は人々の避難を呼びかけることである。女性騎士はすぐさま意識を切り替え、裂け目の反応があった場所へと男性を連れて向かう。
夜空を悪しき影たちが通った。それと同時に、白銀の兜で隠れた男性の余裕も崩れる。数えられる量の影であることは、複数の上位種を相手取るという意味にそのまま繋がる。
既に裂け目は広がっている。人の血肉を甘露と思う、黄と黒の危険色をした化物が飛ぶ。蜂のごとき上位種が、人ならざる甲高い鳴き声を上げて、リシディア騎士達へ鋭い針を飛ばした。
そのとき半透明な青光たちが、地表へ落ちる猛毒の針を消滅させる。そうして空を高速で飛ぶ岩石が、蜂の上位種を叩き落とした。
「おお、うちの魔力でも何とかなるとはね。」
「虫ならば、脆い…。」
「おっしゃあ!今回こそは間に合ったぜ、リシディア騎士さん達よ!」
バーナードと女性騎士が見たのは、空に浮かんでいる黒衣の集団であった。第二学舎から迎撃のため飛び出した教導役たちが、それぞれの「月」を繰り出す。
一つ一つは浅い傷でも、多くが放ち魔力を滲ませれば、癒えぬ重傷となる。大男ギャレスが、体躯と己の魔法を活かして盾となり、後方から固形化した月の魔力が飛ぶ。
集中砲火を受けて、奇怪な声を上げながら一匹が墜落した。それに追撃をかけるのは、下で待ち構えていた白銀の騎士たちである。
詰所から飛び出したリシディア騎士は、ががと道から音を鳴らすほどに強く突き刺していく。頭だけになっても動けるそれは、その特徴を表すことなく事切れた。
女性騎士とバーナードは、白銀をまとめる勇ましき少女に合流し、大槍へ魔力を流した。リフォニア外から外征してきたとしても、その少女アイナは優秀な司令官として名が知られている。戦場で疑う余地はなく、リフォニアを巡回しているリシディア騎士たちは、アイナへ指揮権を預けた。
アイナはこの町を守る騎士たちと連携し、部下たちを動かす。
「アインエルディア殿!私たちも準備万端です、ご指示を!」
「よく来てくれました。…貴方たちも含め、四の陣を組む!外へ向かわせず、槍で叩き落とす!」
「承知。…くく、聞いていた話より余程騎士らしいじゃあないか。」
男性は皮肉気に笑うと、大槍を構えアイナの指示通り、魔力を纏わせたそれを投げる。薄く見えても蜂の上位種たちの翅の硬度は、鋼鉄を凌ぐ。だが強者が魔力を通せば、その強靭さすら脆くするのだ。
鉄を貫く毒針には、何層にも重ねた大盾を。毒液交じりの顎は使わせず、急所という急所を突いて潰す。
この町は幸いであった。裂け目こそ出現したが、増援に来た学院の術師とリシディア騎士に守られている。
残虐を愉しむことはあっても、虫擬きの上位種は直線的に血肉を見たがる。策などなく、数の有利さえ拮抗すれば狩られるだけだ。
しかし人間側にも限界はある。場に集まった総員は、裂け目を閉じるまで持ち堪えるつもりであった。
『ギ、ギイギイ!』
「縫合持ちはまだですか!流石にこのままでは…きりがないっすよ!」
「今やってますから!人遣い荒いんですよ、騎士様方は!」
『ギハハハッ!』
「ひいっ…!」
アイナは、リシディア騎士団に所属する「勇者」の一人に叫ぶ。リシディア騎士に護衛してもらい、盾の裏側で集中している少年は怒鳴り返す。そして、ぶんと不快な音を立てて襲い掛かってきた上位種の一体に、情けない声を上げた。
「勇者」の少年は白い糸のような魔力を縫い合わせ、裂け目を閉じようとしているが、より状況はひどくなっている。倒しても裂け目から蜂の上位種が通り抜けてきて、魔力の糸がほつれるのだ。
この惨状は、虫擬きが死したときや高揚したとき出るフェロモンがそうさせていた。リシディア騎士たちが魔法「感知の阻害」を使おうと、範囲外に臭気を撒き散らせば、裂け目の向こうに届いてしまう。
仲間が甘露に舌鼓を打つならば、活きの良い獲物が待っている。この種族については、倒すことが却って人類へ災いを呼び込むのである。
長期戦となって、リシディア騎士たちや教導役の面々に、蜂の上位種の攻撃が掠り始める。一人でも魔力切れとなれば、形勢は逆転してしまうだろう。
上位種は簡単に、人類へ絶望を植え付ける。戦う者たちの顔に陰りが出てくる。
しかし虫擬きの群れが嘲笑おうと、浮かぶ二つの月は決してその所業を許さない。
二人分の人影が照らされ、森から姿を現した。
一方は空を歩いて、魔力を凝固させた刃で裂き。もう一方は、降りてきていた上位種の一体を直剣で一閃する。
そして後者は、柔らかく動く両足を大きく動かして、掌から空中へ向けて「月」を解き放った。
最も「月」を知る者から着想を得て、磨き続けている「穿つ業」。それを最大まで高め、薙ぎ払う。
十、二十と空を埋めていた蜂の上位種が次々に消し炭となり、空には美しい星々だけが残った。
「あははっ…エド先輩~!かっこいいっすよー!」
「遅くなってすまない。…まだ来る。大きい奴だ…!」
劣勢に駆けつけたエドに、アイナは涙交じりの声援を上げた。先ほどまでの凛々しい司令官はおらず、憧れの人を想う乙女がそこにはあった。
エドは、アイナを含め町を守った戦士たちへ頭を下げ、ヴィクターも空中でお辞儀をする。
そしてエドは、裂け目から感じる反応に警戒し、低く通る声を響かせる。ぐいぐいと裂け目から体を出す巨大な異形へ、全員が魔法を叩きこんだ。
赤い複眼に黄色い体表をした巨大な女性の異形は、虫のような無機質な音を立てて損傷した部分から黒血を垂れ流す。
『クウ、カチクドモクラウ!ジョウドヲ、クラワセロ!』
「…倒しきれないか。だが消耗は激しい。このまま一気に畳みかける。」
「お弟子さん、妨害は任せてくれよ!絶対に逃がしも、出しもしないぜ!」
「ルリベナ様の弟子、見事だった。うちにも手伝わせて。倒れるまでやるよ。」
エドの横に、ギャレスと学院の教導役たちが降り立つ。魔力の消耗を押さえ、限界まで力を巡らせるために。
リシディア騎士たちも彼に並ぶ。エドは心を熱くしながら直剣の先を化物へ向けた。
上半身だけを裂け目から出した女王蜂の上位種は、キリキリと大顎を鳴らし甲高く鳴く。
化物が餌場だと思い込んだ場所には、それらを墜落させるため、反撃と言う名前の狼煙が焚かれている。もはやそれに逃げ場はない。
◆
己の隠し小屋に籠っていた、天才と名高い術師の女性は、がっと立ち上がった。学院の近くであるというのに、上位種とそれに連なる者の反応が同時に知らされ、集中を乱されたからである。
外ならばまだ良いが、第二学舎近くにまで脅威が迫れば、呑気に研究などしていられない。
ルリベナは周辺の反応を探り、学舎近くにあった脅威が弱まり消えたのを確認した。化物の近くには、彼女に師事する男の魔力があった。強張っていた筋肉を一瞬だけ弛緩させ、ふうと息をつく。
(…手際が良いではないか。あいつめ、我輩の弟子である自覚が出てきたか?)
そうしてルリベナは、エドの魔力が森から離れていくのを感じ、しばし目を瞑った。第二学舎からはこれまで以上に教導役が出動している。二つの脅威があれば、その分人員を割くのは道理だ。
だがルリベナは、別の部分に気分を害する。学舎に残るシレッサの魔力についてである。二番目の弟子にするならば、シレッサになるだろう。そう思っていたルリベナだったが、予定していた事象から徐々に離れていく。
「まさか、この状況でも動かぬというのか。このルリベナが『観測』しているというのに…判断力が足らないようだな。」
ルリベナは深くため息を吐き、隠し小屋の二階からそのまま、外へと躍り出る。ルリベナが重要視するのは、己から学んだ「月」をどう活かすかであった。
日中のシレッサは適確な判断の下動き、腕も良い。意志薄弱とも取れる傾向こそあるが、ルリベナが体系化した朧な「霊月」には合いそうだと、ルリベナは考えていたのである。だがその期待は今、
優雅な足運びで、第二学舎の管理棟へと才女は向かう。
ルリベナは、最も「月」を知る者。月明かりに照らされる刃こそが最も力を増すことも、月の魔法が満ち欠けのように様々な面を見せることも知っている。
傍から見れば人命を軽視しているように思われても、真意はそこにない。ルリベナはどこまでも「月」を探究する者だった。
だからこそ、本心では名を望んでいない弟子の「月」も理解できる。遠くに感じる魔力が、少し見ない内にルリベナの期待以上へ成長していることを。
(バカ弟子め…上位種など早く倒して、戻ってこい。我輩は学舎が壊れようと構わぬのだぞ。)
弟子の成長を感じて、無意識に機嫌が良くなった女性の魔力は澄み渡っている。そのために、普段は隠されている汚濁の気配が、はっきりと認識できていた。
まだ彼女は、人類へ失望していない。