裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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重なる災いをぶっ潰す

 女王蜂の上位種は、上半身だけの現界にも拘わらず脅威度が桁違いだ。樹木のような長く太い腕を振り回したり、人と虫を融合させたような顔から、大盾と手甲まで溶かす毒液を吐いたりなど、対策なしに受ければ即死する攻撃が次々に飛んでくる。

 どう考えても大陸内で相手するような上位種ではない。全身が出ていれば、蜂の上位種を大量に生んで物量戦まで仕掛けてくるのだから、始末に負えない化物である。何としてでも短時間で屠らねばならない。

 

 本来、ギャレスは蜂の上位種の集団に殺されるはずだった。さきほど飛んでいた物量に、ギャレス一人で挑めば勝ち目はない。どんな術師だろうと同じ運命を辿るだろう。

 しかし何故、「バックスタブレイブ」作中では彼一人で対処しなければならなかったのか。俺は段々恐ろしい事実を想像し始めていた。

 

 裂け目が現れる位置と時間が違う。それはつまり蜂の上位種は、この町付近を餌場と認識し何度も術師たちへ襲い掛かっていたと考えられる。その上で、立ち向かった術師がギャレスしかいなかったということは、あの時系列時点で迎撃できるだけの教導役は()()()()()()()

 制作陣の底なしの悪意からして、その可能性は十分にある。蜂の上位種だけが要因ではなく、「腐り落ちるソレオ」の信奉者も一枚嚙んでいると。

 

 

 激しい戦闘では、動けない者から順に狙われる。俺は奴から飛んでくる毒液を、左手から放出する月の魔力で相殺し、後ろにいた少年を守った。

 その少年はリシディア騎士団に所属する「勇者」の一人であるようで、装いは騎士とは違うがサーコートに紋様が刻まれている。勇者と呼ばれようと町の出であれば、感性は一般的なものとなる。平穏から一気に遠ざかれば動くことすらままならないだろう。

 彼はすっかり怯え切っているようで、全身を震わせて死を覚悟していた。

 だが俺は、この少年を死なせるつもりは無い。騎士も術師も皆、生きて戦いを終わらせる。

 

 

「無理だ、無理だろ…!こんな化物に敵うわけないじゃないか!」

「酷だが、しっかり立ってくれ!奴の首を飛ばした後こそ、君の出番が来る。生き残ることにだけ集中するんだ…!」

「ひ、ひはい…!」

「そうだ…!君は勇ましき者、こんなところで死にはしない。騎士たちの盾に隠れ直すんだ!行け!」

 

 

 俺は再び放出する魔力で毒液を消散させ、腰が抜けた少年の腕をぐいと掴み上げる。彼は何とか立ち上がり、裂け目の位置を見た後、よたよたと必死で走っていく。女王蜂の上位種は、少年の背中に向けて一段多い毒液を発射した。

 隙を狩らせはしない。俺は少年の背後を守り、魔力を迸らせる。体内の魔力が見る見るうちに減っていくのが分かる。

 

 だが月の魔力を練るのは、敵の懐に入ってからだ。俺は、空を歩く学院の教導役たちが上位種の右腕を、リシディア騎士たちが左腕をそれぞれ攻撃しているのを確認する。

 薙ぎ払われる腕と大顎の攻撃を、足を使って避け、耳だけで情報をキャッチする。陣営が違う故に作戦は混在するが、自然と担当する部位は分かれていた。

 

 

「虫のくせに、硬い…すぐ戻る…。」

「青月殿、正面を!火力を集中させてください!」

「皆、八の陣形を維持!私が斬る!」

 

 

 アイナの鋭い声を起点に、俺は一気に距離を詰めた。女王蜂の上位種であろうと腕を斬られれば、個々に動かすことはできなかったはずだ。奴らについては、頭部を消滅させることを考えればいい。

 俺はちらとアイナの放つ連撃を見る。彼女の魔力は斬るごとに洗練され、青色が濃くなる。微かに感じられた「月」が、ついに少女の魔力と一体化していく。

 

 

(流石アインエルディア司令官、いやアイナだ。両目が健在ならば、ここまで才覚を発揮できる!)

 

 

 俺たちプレイヤーの中には、アインエルディアのもしもを考える者が多くいた。主人公を同じリシディア教の一員として先導した女性であり、剣の腕、指揮ともに卓越していたからだ。

 いわば仲間が揃いきっていない序盤でのお助けキャラ。だが伸びしろはないわけではなく、短い間でその実力を魅せてくれた。

 隻眼のため、敵の動きを見切るのに時間がかかると説明がありながら、攻撃をいとも簡単に避けきり。狙うカウンターは正確であった。

 ならば、そのハンデがなければどうか。プレイヤーの考えに、今アイナは回答を明示している。

 

 

「司令官、今です!」

「――しぃっ!」

 

 

 大きく振りかぶって放たれた少女の一刀が、化物の左腕を切断する。次の瞬間、俺は地面から重い振動を感じた。アイナが声を張り上げて、俺たちに言う。

 

 

「先輩!術師の皆さん!やってください!」

「動かない的相手ならよ、行けるぜ!全部持ってけ!」

 

 

 ギャレスは「灯宿す大岩」を次々に浮かばせ、一気に押し出す。それは右腕で防がれたが、隙間から術師たちの「月」や四属性魔法の数々が飛び、女王蜂の上位種は大顎を一時的に削り取られる。

 

 

「ありがとう。…ようやく無防備だ。」

 

 

 俺は、黒血に塗れた上位種の顔に「月融け」を付与した剣を全力で突き刺した。暴れる化物に飛ばされないよう、深々と差し込んでいく。

 

 

『ギイイイイアッ!!』

「俺の磨き上げてきた業、存分に味わえ――穿つ!」

 

 

 俺は左掌から剣の先へ、「月」の魔力を一気に迸らせる。先ほど空に向けて放ったものよりも凝縮させ、化物の細胞一つ一つにまで逃れられぬ苦痛を与える。

 全ての魔力を解き放つ勢いで流し込めば、上位種の内側から眩い青色の光が徐々に漏れ出てくる。次に、光の筋が一本飛び出せば、化物の全身が閃光に包まれた。

 それは頭部から胸部へ塵も残さず消えていき、生まれ出そうであった蜂の上位種も断末魔を上げて逝く。

 

 裂け目の向こう側に上位種の反応が無くなってからも絶えず放出し、勇者の少年が「縫合」を使って空間を埋めきるまでそれを続けた。

 徹底して、この町に再び、蜂の上位種による災いが降りかからないように。

 

 

 ふらつく体を何とか立たせ、俺は柄のみが残った剣を兜の前に持っていく。一拍置いて、脅威が去ったことを実感した総勢から歓声が響いた。

 

 

「やった、やったぞ!あんな化物を倒しきった!」

「父さん母さん、おれ生き残ったよ…!」

「は、へへ…すげえ…。本当に死ななかった…。」

 

 

 聞き取れないほどのざわめきに、避難していた町の住民も安全を理解したらしく、わああと大きく声が広がった。

 この町にいた誰しもが恐ろしさを共有していた。今は緊張状態から逃れたことにより、夜の静けさを壊すほどの安堵と喜びに満ちている。リシディア騎士たちも毒液で溶けた大盾を放り出し、座り込んだり肩で息をしたりしている。

 

 俺は天を仰いでいるアイナに近づき、話しかけた。愛らしい満面の笑みで、少女は俺を見据える。

 

 

「やったっすね!皆さんの力と、エド先輩の月が合わさって…!本当に、良かったです…!」

「アイナのおかげだ。貴女の見事な一刀と、指揮があって屠るまでに至れた。…俺を信じて、ここに残ってくれてありがとう。」

「信じないわけないっす!あなたがいてくれたから、ここまで被害無く終わらせられたんですよ…!」

 

 

 アイナの瞳には涙が浮かんでいた。何よりも人命を尊重できる人間性が、彼女への信頼をどこまでも高めてくれる。

 俺はアイナと握手をし、信頼を伝えた。するとアイナは俺の掌だけでなく、腕までを抱えた。高揚によって行動が大胆になっているのだろう。俺はアイナの気が済むまで、動かないでいた。

 

 

 ふうっと一息をつく。魔力を著しく消耗したが、まだやるべきことが俺にはある。

 もう一つの懸念事項。第二学舎の教導役、シレッサの動向を探らねばならない。俺はアイナに話す。森の外で警戒をまだ緩めないでいてほしいと。

 

 

「――え…まだ終わってないって、どういうことっすか…?」

「念の為だ。上位種を呼び寄せる芸当が『黒い陽光』の信奉者にできたとして、影は掴み切れていない。まだ危険は残っているかもしれない。…だが何かあっても、今夜中にけりをつけられるはずだ。」

「そんな…エド先輩が一番魔力を使っているんですよ!ちょっとくらい休んでも…!」

「アイナの気遣いだけで心は休まったよ。…気つけを持っていないか。貴重な物だが…魔力を少しでも回復させねば。」

「で、でも…。…分かったっす。」

 

 

 俺は手持ちの丸薬を全て噛み、飲み込んだ。残る魔力が少ない中、無理矢理に循環させるため、体が悲鳴を上げている。体内の血が吸い上げられているような感覚だ。

 だがこれだけでは足りない。俺が、話の途中で丸薬を兜に放り込んだのを見て、アイナは唇をすり合わせてから小さく了承してくれた。

 

 彼女は鎧に付けていた袋から小瓶を一つ取り出し、魔力循環を促進する液体を俺に渡してくれる。俺は瓶を開けて兜の隙間から口へ注いだ。音は鳴らずとも、更に体が軋む感覚がする。効果はあり、痛みとは裏腹に手の力が戻ってきた。

 

 

「助かった。この借りは絶対に返す。」

「…借りなんて考えないでください!何も起こらないことを祈ってます。」

「俺も、そうであってほしいと願っているよ。また、夜が明けたらこの町で会おう。」

「…はい!ご無事で、エド先輩!」

 

 

 俺は深く頷くと、アイナの応援を背に再び第二学舎へ向かって走る。疲労でぐったりとした教導役たちが、視界の隅に見える。

 何か第二学舎で起こったとして、数の有利はもうない。少年から為った「ソレオの壌土」を倒した時点で危機は去ったと思いたいが、あまりにもあの教導役の存在が不穏過ぎる。

 あの不気味さは、杞憂で済ませられない。俺は何も起こっていないことを祈りながら、全力で走った。

 

 

 

 

 第二学舎、管理棟。ルリベナが所有する書斎にて、近付く影があった。背が低く、くすんだ金髪を伸ばした少女シレッサと、濡羽色の艶やかな髪をした書斎の主ルリベナである。

 シレッサは平時は薄い気配を、夜には妖しげなものへ変えていた。誰にも感づかれぬようにして、甘い毒にてルリベナを篭絡するために。

 

 

「――ああ、嬉しいです。貴女様が研究の途中で、しかも真夜中に戻ってきてくださるなんて。すぐにお茶をお出しします。」

「いや、気になることがあっただけだ。茶などいらん。」

「貴女様はいつも、私の容れる茶を褒めてくださるではないですか。ここはルリベナ様のために用意された城のようなもの。お好きなように、私を使ってくださいませ…。」

 

 

 恭しく頭を下げ、火照った頬でシレッサは言う。その様子にルリベナは眉間に皺を寄せ、頤に手を当てて指摘した。シレッサの左腕から、ルリベナは異常なまでの魔力の凝縮を感じたからだ。

 

 

「…シレッサ、その腕から感じられる魔力はなんだ。辿ってきて見れば、大層な物を付けているではないか。」

「ああ、聡明なるルリベナ様。お気づきになられたのですね…。これは云わば、私の鍛錬の成果でございます。私のような、貴女様に到底及ばない術師でも…このように力を増すことができるのです。」

 

 

 シレッサは左掌を見せ、上目遣いでルリベナを誘う。

 数年見ずとも、ルリベナの表面的な性質は分かる。傲慢で自信家。有り余る才能を誇り、自身の領域にまで達せない術師たちを嘆いている。シレッサは秘書のような役割の中で、ルリベナの思考を知り得たと思っていた。

 

 

「貴女様がこの鍛錬を行えば、頭脳だけでなく、この世界で至高の存在になられるでしょう…。私はどこまでもお供いたします。私が貴女様の『右月』として、研究以外の、煩わしいもの全てを除きますわ。」

「随分と唐突だな。貴様はそのような事を日々考えていたのか。」

「ですが私の愛、感じていただけていたでしょう?」

 

 

 ルリベナは目を閉じてから、一言試す。シレッサは淀みなく答え、忠誠を見せた。

 

 

「…ふん。シレッサ、我輩に偽りはないな。」

「はい、勿論です。貴女様が更なる高みに行かれること、それだけを望んでおります。」

 

 

 シレッサはゆっくりルリベナに近寄り、黒髪にそっと触れようとした。髪の手入れをするように、愛情が籠ったような手つきであった。

 だがその手は払いのけられる。「月」を纏った魔力の刃で、彼女の左腕は裂かれた。目を見開き、シレッサは哀し気な表情を作り上げる。

 

 

「…何故、ですか?私は貴女様だけを想って…。」

「純粋な人間ではありえない再生だ。ちっ…このルリベナを謀りおって。」

「うふふっ…そこまで気づいていらっしゃったのですね。…それとも、あの『青月』が要因でしょうか。」

「弟子のことなど、今は関係ない。我輩の書斎に汚れを持ち込むなよ。」

 

 

 作った偽物の表情を崩し、穏やかな調子に戻る。自身の命が危険に晒されているというのに、不気味なほど少女は落ち着いていた。

 

 少女は、二の腕に巻かれていた飾り紐をはらりと床に落とす。すると、左腕からじわじわと邪悪な気配が立ち上っていく。ルリベナはためいきをついた後、虚空に魔力の環を出現させた。そのまま、完全に体から繋がりが切れた魔力の環で、管理棟の壁ごとシレッサを吹き飛ばす。

 シレッサは落下しながら蕩けるような調子で呟く。

 

 

『…ルリベナ様のために、沢山壌土の素材をご用意しました。ああ…今も貴女の()()を愛しています。』

「気色の悪い、尖兵擬きめが。化けの皮が剥がれすぎたな。テンセン、ネイト。下へ向かえ。我輩を侮辱してきた罪、死を以て償わせる。」

「はっ、ルリベナ様!」

 

 

 ルリベナは青筋を額に立てながら、書斎前で息を潜めていた教導役たちに指示をする。テンセンともう一人の教導役は、頼ってもらえたことを喜びながら、崩れた壁を降りる。空を歩くための魔法を使用し、階段を駆け下りるかのように、シレッサに相対した。

 

 するとシレッサの周りに、のそりとした動きで十名の生徒と、二人の教導役の男女が集まった。彼らはシレッサを拘束するわけではなく、擦り寄るようにして立つ。

 

 その顔ぶれのどれもが、シレッサと親し気に接していた者たちだった。顔には悪意がへばりつき、ぎらついた瞳でにやにやと笑っている。元よりソレオを信奉していた者と、甘い言葉に篭絡された人間の集団である。

 

 

「うげえ…そんなに忍ばせてやがったの。気持ち悪いですよ~?」

『人望も実力もなくしたテンセンさん。貴女にはできないことが、羨ましいですか?』

「はあ?ズレてんだよ、シレッサ!…ふ、やっぱハンナ…あんたもそっちなんだ。鬱陶しかったけど、これで心置きなく倒せるじゃない。」

 

 

 テンセンは両掌から揺らめく「月」の魔力を表出させ、鞭のようにしならせる。横で冷や汗をかいていたネイトと言う名前の男性術師も、勢いに乗って魔力を固形化する。

 

 降りてくるルリベナの姿を以て、第二学舎で戦いが始まる。正門からぞろぞろと、門番である紺色の鎧たちが集結し、槍を構えた。学院の守りは外敵を許さない。

 

 そして最後に、全身を眩い青で包んだ騎士が姿を現す。戦いの勝利によって未だ高揚した体を、次なる戦いで活かすために。

 有利は、「月」が味方する者たちにある。

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