裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す 作:棘棘生命
休みなく走って、森を抜ける。その時点で第二学舎の異変に気付いた。真夜中であっても正門を守っている、紺色鎧の門番たちがいないのである。
不気味な予感は当たった。全力で戻ってきたことは正解だったのだ。
「くっ…もっと速く!『迅風足*1』」
俺は習得している魔法を用い、一直線に進む。この魔法は念の為に覚えたもので、燃費も使い勝手も悪く戦闘では運用できないものだが、森を抜けた今こそ使い時である。
四の五の言ってはいられない。地面の凹凸と吹き付ける暴風で足を取られないようバランスを取って、何とか少しだけ上がった正門へ滑り込む。
最初に耳に入ってきたのは、金属がぶつかる鈍い音だった。それと同時に、紺色鎧の門番が勢いよく地面を転がってくる。
兜が外れ、見えた顔は白い髭を蓄えた老年の男性であった。呻き声からして、彼とは何度も話したことがあると分かる。
俺は駆け寄り、彼の着こんだ鎧の損傷具合を確かめた。凹んでいるだけで、貫通まではしていないようだ。
「門番殿、怪我は大丈夫か!」
「ぐ…君は…!エドワルド君…よく来てくれた。幸い打ち身だけのようだ…ごほごほっ!」
「良かった。安静に、門前で休んでいてくれ。俺が…奴らを倒す。」
「…頼んだよ。私はあの、黒衣を着た人でなしたちの逃げ道を塞ぐ。それくらいなら、爺にもできるはずだ。」
腹部を押さえながら、老年の門番は転がってきた先を睨む。そこには、第二学舎の生徒である少女が悪辣な笑みを浮かべ立っていた。
いや、元少女と呼ぶべきだろうか。左腕の先端が泥土のごとく変色しており、その浸食が徐々に広がっているのだから。
特殊な尖兵「ソレオの壌土」へ成り果てる前兆である。俺は先程の戦闘で柄だけになった剣ではない、二本目の得物を取り出して問うた。
「術師よ。手を止めるつもりは無いか。そのまま侵食されれば、人としての感情を全て無くし化物になる。その先に待つのは不幸と絶望だ。まだ骸でないならば、未来を考えてみろ!」
『ふっ、何を言ってるの?ソレオ様に身を捧げられることは、この上ない名誉なのに。』
心底不思議がるような調子が、やけに人間らしさを欠いている。注視すれば、少女の頭部が黒く染まっていく。最初から頭に「種」を植えていたようだ。もう腐り落ちている。
つまり意思疎通が出来ているように見えたのは、少女の人間であった時の名残だったということ。気がずんと重くなり、骸と化していく少女へ、届かない嘆きを思わず呟く。
「…頭脳明晰だったろうに…残念だ。愚かな選択をしたな。」
『ああ、とろ、けてしまいそう…!う、ふふふ!』
人が黒い血で出来た泥土へ変わっていく様は、何度見ても悍ましい。俺は今、丸薬を飲み込むときよりも顔を歪めているだろう。
言葉が途切れ途切れになっていく「ソレオの壌土」に向かって剣を振るった。右肩からの袈裟斬り、斬り上げに繋げ、水平に薙ぐ。三回斬撃を受けた時点で、この化物の動きは鈍くなった。
今ほとんどの生徒たちは、寮で眠っている。絶対にこれ以上の被害を出してはならない。
「……。」
『あ、ふ…すい、とられる…。』
最後に脳天から叩き斬る。腐り落ちたそれは、簡単に崩れた。
魔法「感知」を用いれば、十数にも及ぶ悪意が点在しているのが分かる。俺は化物から完全に反応が無くなるのを確認した後、奥へ走った。一番強い魔力を目指して進む。
「ソレオの壌土」は泥状であるが故に脆く、魔力を存分に纏わせれば刃はすぐに通る。内部から「月」の魔力を注ぎ込めば、精神的ダメージはともかくとして、肉体的な消耗は少なく屠れるのである。
またもう一つの特徴として、習得してきた魔法の特徴が体表に出るのだが、少女だったモノには何もなかった。学んだ魔法の体系が身につく前だったということだろう。
気分が悪くなる前に思考を切り替え、立ち塞がる次の尖兵へと剣を向けた。黒い泥土から、淡く青い光を放つ鹿の頭部が一つだけ生えている。
動物の特徴が表れる。これは「霊月」を習得した者の特徴だ。俺は繰り出される「霊月の槍」を避け、直剣を上段から振り下ろす。
この世界の魔法には、こういった法則がある。
此の地や月、星々など原点に近い魔法であればあるほどに、人類側は強められる。反対に尖兵と成り果てた者が使えば、威力が弱まるのである。
弔いの念は強まれど、尖兵相手なら恐るるに足りない。
今夜二度目、化物相手に延長戦が始まる。
◆
ルリベナと彼女に師事する教導役の二人、そして紺色鎧の戦士たちは、相対する尖兵たちのあまりのグロテスクさに吐き気を催していた。特に教導役の二人は、顔を青ざめ「ソレオの壌土」の有り様に戦意を喪失するほどであった。
それ故に、高速で散らばる何体かを逃してしまう。紺色鎧の門番たちはそれらを追いかけ、ルリベナの周囲を守る人員を少なくした。
『うふふっ…素晴らしい姿です、同胞の皆さん!さあ、さあ!もっと動いて、ソレオ様が降臨するための良い土となりましょう…!』
「…ハンナ!あんた、こんな終わり方でいいの!?生き物ですら無くなって…!」
『気分が良い…魔力が、ワタシの魔力がどんどんと高まっていく…!』
「――く、回れ!」
恍惚とした表情で魔法を飛ばしてくる元教導役の女性へ、テンセンは言葉を投げつけるが、返ってくることはない。テンセンは、二つの月の公転を基にかつて生み出された魔法を用い、尖兵からの攻撃を逸らす。
己の体内循環を魔力の帯で縛るでもしない限り、ソレオの「種」は浸食を止めない。「強くなり、地位も欲望も満たせる」という甘い言葉に堕ちた者は、「種」の正体を知っていようが、思考停止で己の身を滅ぼすそれを掴む。自分は大丈夫だと言い聞かせても、既に人ならざる者へと精神性が変化し。そして一瞬の快楽に身を委ねるのである。
ハンナと呼ばれた女性はぼろぼろと腐食し、黒く崩れた手だけが辛うじて人であった頃の名残となる。テンセンは安全を取るため、後方へ跳躍する。そのとき、涙の軌跡が月明かりで煌めいた。
反対にルリベナは表面上冷静さを保ち、「月」の魔力を宿した環を飛ばして尖兵たちを横殴りにする*2。そして複数の環が重なり球体のようになった魔力を周囲に浮かばせ、シレッサを押し潰した*3。
完全に自身との繋がりを絶った魔力を操れるのは、今のゼシニス大陸を探し回って数名しか見つからないだろう。「月環の監」の通称は、ルリベナの在り方と業を見た術師たちが付けたものなのである。
ルリベナの業を受けても、シレッサは立ち上がる。シレッサのくすんだブロンドは既にぬとりとした泥土に覆われていた。
「まだ逝かんか。粘着質なやつだ。」
『貴女様の弟子になるはずだった女ですよ?そんな簡単に死なれては寝覚めが悪いでしょう?』
「しかも、尖兵でありながら意識を保っている。どうなっているのだ?」
『ふふ…ご関心をお持ちでしょうか。なら今からでも、私との「鍛錬」を。』
「誰がするか愚物め。…消えろ。」
ルリベナが左掌を伸ばし、指を弾く。戦闘の最中、空や地面に潜ませていた月の環を、一気に飛び出させて逃げ場を無くす。空中に浮かんだところで「月」の魔力はシレッサを逃さず、隙間なく押し潰した。黒血で濁った叫びを上げるシレッサを、腕を組みながらルリベナは眺めた。
尖兵として自身の命と引き換えに限界を越えようと、真の強者には敵わない。ルリベナは魔力操作だけでほとんど足を動かさず、完封と呼ぶにふさわしい戦闘を魅せた。
だが「ソレオの壌土」の特徴はただ体が黒い土に変わるだけではない。魔力を含んだ泥土が混ざり合うことで、異形を芽生えさせる土壌になるのである。
テンセンとネイトも何とか、教導役であった尖兵を倒しきった。しかし逃した尖兵を追うわけにもいかなくなる。完全に人の原型を無くした巨大な尖兵が、彼女たちの行く手を遮ったからだ。
それはシレッサの声で、支離滅裂かつ途切れかけの言葉を並べる。泥土からぼこりぼこりと、動物の頭部と青色のオーラが立ち上っていく。
『これ、だけあれ、ば…うふふ、さい、らす…。』
「…貴様ら、我輩の教えを一度でも受けて…。これだけの仇を返すのか。ゆ、赦さん…!塵も残らず、消し飛ばしてやる!」
「まずいぞ、テンセンさん!ここまで怒っているルリベナ様は初めてだ!」
「ちっ…言ってる場合じゃないでしょうが!ルリベナ様、他の化物も倒さなくてはなりません!ご指示を!」
ルリベナは己の「霊月」をこれ以上ないまでに愚弄され、雪のように白い両拳を顔の前に持ってくる。再び拳を下ろしたとき、ルリベナの表情は顔を歪ませるでもなく、面のような真顔に戻っていた。血走った瞳だけが、その激情を表す。
「…貴様ら全員、散らばった門番たちの加勢に行け。生徒に危害を加えさせるな。こいつは我輩が潰す。」
「はい!…よかった。あんな化物より、ルリベナ様の怒りの方が恐ろしい。」
「あなた口を閉じることもできないんですかー?ルリベナ様、行ってまいります!」
テンセンとネイトは紺色鎧の戦士を引き連れ、その場を走り去る。ルリベナはずっと握りしめていた拳を広げ、半透明かつ巨大な爪を虚空に形作り、泥土を引き裂いた。それは、夜を監視する梟の鋭利な爪であった。
牡鹿を模した枝のごとき角、獣の牙などを模した魔力が飛ぶ。その度、ぼごぼごと女性の声帯が音を立てる。痛覚すら無くし、ただ時を待つだけの塊へとそれは変わっていた。
はっと目を見開き、ルリベナは気づく。「ソレオの壌土」の性質は知られていないために、その正体を見極めるまでに時間がかかったのだ。完成に近づくようなことがあれば、上澄みの術師でも倒せない。
「…まさか、こいつは前座か…?ちっ、面倒な…。」
シレッサが数年以上に渡り、左腕に凝縮させ続けてきた淀んだ魔力は、壌土全体に行き渡っており。思惑とは外れていても、不完全な形で計画は達成される。
ぼごりと粘性を帯びた土から、異形の腕が生える。それは壌土の高さを越え、見上げるほどの巨体となった。
『――ふむ…育ち切ってはいないが…。これはこれで問題なかろう。』
「なんだこいつは…!化物め…。」
メンフクロウのごとき形状の首が、曲がった状態で固定され。頭部に見合わないほど横幅の広い身体には、大量の羽のごとき葉がつく。
黒血が黒い瞳から零れ落ち、「腐り落ちるソレオ」は不完全に咲いた。
◆
被害を抑えるため全力で第二学舎を突き進み、二体目、三体目と尖兵たちを各個撃破していると、突如目的地である管理棟近くで青色の光が輝いた。
あれは「霊月」の輝きだ。俺はルリベナの様子を共闘していた門番たちに聞く。だが彼らは戦闘が始まったことで集ったため、詳細を知り得なかった。
「――だが、一つだけ言える。ルリベナ様は、我々や学院の術師たちのために立ち向かってくれている。あの光はルリベナ様が放った『月』だ。」
「化物は散らばったが、対処できる数だ。ここは我らに任せてくれ!君はルリベナ様の助けになってくれれば良い!」
「ルリベナ殿が…。やはり、まだ毒牙にはかかっていなかったようだな。」
俺は断続的に光る前方を見据え、思い直す。ルリベナが真の意味で他者へ関心がないなら、俺や教導役を指導したりなどしない。第二学舎での研究を、公に共有したりもしない。傲慢で人の心を鑑みようとしないが、興味を持てる物事が狭いだけの天才なのだと。
そしてここにきて、学舎を守ろうとする思いがあると知った。ルリベナは行動を以て示している。
命を張ってまで騙そうとし、更に感情を動かしていないならばお手上げだ。俺には判断を付けられない。
だから絶望と裏切りを描写する世界において、俺はルリベナを信じる。彼女がこれからも人類側でいてくれれば、この上ない希望だ。
(…彼女については、今後も見続ければ問題ない。ルリベナに善性が残っているならば、それを守り抜くだけだ。)
俺は尖兵たちの処理を門番たちに任せ、走り続ける。「感知」に引っかかっていた、上位種に連なる者たちの強烈な悪意、乱れる魔力は、既に数体にまで減っている。その傍らから移動していく魔力は、俺の知る女性のものであり、安堵の息が漏れた。
テンセンはシレッサとは違い、生徒たちの守りになっているのだ。そうと分かれば、心が熱くなる。
だが、尖兵の代わりに巨大な気配が、管理棟付近に出現している。壌土が次の段階に入ったのだと、俺は直感的に理解した。
「間に合えよ…!」
俺は更に速度を上げて、紺色鎧たちの横をすり抜け、長かった道をようやく走り切る。俺の目の前では、やはり記憶の中にある化物が、ルリベナと肉薄していた。
折れ曲がったクロメンフクロウの飾り頭が生えた、巨大な異形。細部は簡略化されているが、間違いなく「腐り落ちるソレオ」の一本だ。
俺は走ってきた勢いを殺さずに、ソレオに向かって「霊月の槍」を出現させ突貫する。深々と刺さった魔力の塊は、ソレオの注意を引くだけにしか効果を為さなかった。
剛腕で払いのけられるが攻撃を回避し、ルリベナの隣へ並ぶ。
「ルリベナ殿。俺もやらせてもらう。」
「…切羽詰まれば、敬語すら扱えんのか貴様は。今我輩は怒っているのだ、これ以上標的を増やさせるな。」
『ほう、ほう…活きの良いのがもう一匹…。古い時代を思い出すほどの出来だ…。養分にするには足りる。』
ソレオが黒血を撒き散らし、咆哮する。それでもルリベナはこちらに顔を向けて睨んでくるため、顎を掴んで強制的に前を向かせる。
「こ、この…バカ弟子があ!」
「和やかに会話をしている場合じゃないのは、分かるはずだ。集中してくれ。」
「ここまでの屈辱を…今夜で二度も…!このデカブツを消したら、拳だけでは済まさんぞ!」
「後でその鬱憤についても聞く。奴で晴らしてくれ。――行くぞ!」
信じられないほどルリベナの目つきが鋭くなるが、怒りの矛先はソレオに向けてほしい。学院を今危機に陥らせているのは奴だ。
ソレオは俺たちの大きくできた隙を狙い、黒血を槍状に変化させ突き刺そうとしてくる。俺とルリベナは左右に飛び、再び液状に戻ろうとするそれを「月」の魔力で消滅させた。
『良い動きをする。だがどちらの人間も魔力が枯渇気味である。傷んだ素材で、どれだけ吸収できるか…。』
「…ルリベナ殿、俺が盾をやる。その間に魔力を練ってくれ。」
「ふん、言われずとも。あの汚い化物を我輩に近づかせるな。どこまで実戦向きな動きになったか見てやるからな。」
「余裕だな。来る…!」
彼女の魔力は戦闘続きで減ってしまっている。幾らルリベナが強いからと言って、ソレオを仕留められなかった場合、大勢の死が決まるようなものだ。
ソレオの狙いは、俺の予想通りルリベナに定められた。黒血の異形が形作られ、次々にルリベナ目がけて跳ね回る。俺はルリベナの前に立ち、「月融け」を全身に使って消散させることを繰り返す。
隙を狙って反撃するが、まるで手ごたえがない。傷ついているかも定かでなく、ソレオは依然として健在だ。
俺が全力で放つ「穿つ業」で、ようやく穴を開けられる程度だろうか。これで「バックスタブレイブ」内で戦うどのソレオより弱いはずなのだから、たまったものじゃない。
ルリベナが練る魔力が放たれるまで、俺は待ち続ける。それこそが反撃の要だ。
◆
才女ルリベナは、目の前で動き回る鎧姿の弟子を見ながら、体内の魔力を循環し続ける。
よくもここまで動けるものだと、ルリベナは無意識下で感心していた。魔法の才能こそあれど、ルリベナは並外れた体力を持っているわけではなく、寧ろその逆であったからだ。
彼女の中にはまだ魔力が余っているが、肉体的疲労が先に来ていた。エドと名乗る弟子がこの場にいなければ、劣勢になった瞬間、回避できずに倒れるだろうとルリベナは予感している。
ルリベナにとって敵うか分からない上位種を相手取ることは初めてのことであり、それ故に心の奥底で不安が渦巻いていた。
(エドワルド…貴様は何故、そこまで必死になる。我輩は赤子ではない…!己のことであれば、全て対処できる。)
ルリベナは戦闘中、月の環による盾を何度も出そうと考えた。だがそうすれば体内の魔力は回復しきらず、共倒れになることも俯瞰できていた。
殆ど見ているしかできない。口では余裕ぶっても、ルリベナの心の内にはじわりと焦りがにじんでくる。
そしてルリベナが魔力の循環に集中し過ぎた瞬間。ソレオの冷徹な目が隙を捉えた。ルリベナは死角から飛んでくる槍を避けきれず、足をもつれさせかける。
エドもルリベナの動きを見ている。更に彼女が大きな隙を作らないよう、エドはルリベナの腰を腕で寄せ、飛ぶ槍の軌道から外した。そして剣を持った右手で固形化した黒血を弾き、苦し気な声を上げていなしきる。
「…怪我はないか!」
「ああ…。くっ…この我輩が、上位種ごときに弄ばれるなど…!」
ルリベナは屈辱感で、拳を地面に叩きつけたい気分だった。だがその感情のエネルギーを逃がさず、ひたすら回避と魔力循環のバランスを取って集中する。
弟子がこれだけ動けているのに、師である己が醜態を晒していいものかと熱が籠る。彼女は奥底にあって気づけなかった感情を体に馴染ませた。
有象無象に尊敬されようと、それは当たり前のこと。ルリベナは弟子に、真の意味で師であると感じてもらいたいのだ。
苛立ちを抜きにしても、ルリベナはそう思った。彼女は最も「月」を知る者である。弟子の「月」を育て上げた師として誇りある存在になりたい。
湧き上がる感情という合理性のないものでも、ルリベナが行う魔力循環は支えられる。
そしてついに才女は、失っていた分の魔力を、再び体に宿し直した。ルリベナはらしくもなく、エドワルドの肩に柔らかく触り、朧な青い魔力を表出させる。
「不肖の弟子、エドワルドよ…もう我輩を守らずともいい。これ以上奴の思い通りにはさせん。我輩に続き、貴様がこれまで磨いてきた業を、今ここで再び示すのだ。」
「流石、最も『月』を知る者だ。もう復帰されるとは。…では、行きましょう。」
「貴様も余裕が戻ったな。…我輩を師と呼べ、エドワルド。ここまで我輩が譲歩しているのだぞ。」
「…ええ。では師よ…奴を共に討ちましょう。」
「ふ…。」
ルリベナは笑う。鼻を鳴らすような軽いものであっても、心からの笑みを。
ソレオは独りで二人の「月」を吟味しながら、智略を練る。だがそれは、人類を下に見たものでしかない。
二つの月が地平線に近づいて、輝く。夜明けが近い。