裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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願い事を聞く

 ザルディ国に点在する町から荷馬車に乗って移動し、王都に着いた。俺の想定した通り、丁度三日での到着だ。

 国の雰囲気は、あちらの世界でいう中世の西洋とは違っている。端的に言えば、ファンタジー色が強いのである。建造物には術式が使われていて、生活の水準が明らかに高い。古き時代の遺物が掘り起こされたことが理由だと、「バックスタブレイブ」作中で明言されていた。

 

 

 この世界は、古き時代のほうが文明が発達していたという背景がある。猛き戦士たちほどではないが、人類は皆魔力を蓄える器官が発達していたため、魔法が生活の一部であったのだ。戦いに敗れ、人類の生存圏が縮小したことで多くの技術が失われたのである。

 

 ザルディ国は他の国と水準を合わせない。ロストテクノロジーを王都に復活させたり、四属性魔法から派生した魔法を積極的に取り入れるなど、時代の先を行きたがる国なのだ。

 

 そしてこの国の教義は「守護ヴァルミ教」を掲げている。信奉している偽女神の一匹、盾のヴァルミラとは全く関係ないのだが、守護ヴァルミ騎士の鎧にも古い時代の術式が盛り込まれていたりする。

 選ばれし歴戦の戦士が鎧を着ることで、上位種を一人で相手取ることさえ可能にするのだ。

 

 彼らの、横に広く全体的なシルエットが丸っこい薄緑色の鎧は、主人公の育成を「生命力」と「筋力」の能力値特化にして、ようやく着こめるほどの重さである。因みにこの防具を装着すると、中盤の壁を絶対に越えられないため、一部プレイヤーは泣く泣く外すことになる。

 

 

 ゲーム開始時は町の大部分が機能しなくなっていたため、活気があるのを見ると気分が上がる。勇者となるケルがハッピーエンドを作るためには、この王都における動乱も絶対に阻止せねばならない。

 

 町並みに感動しながら、国が抱える術師のための研究所へと向かう。当然部外者の立ち入りは許可されていないため、受付係から話を通してもらう必要が出てくる。俺は、白で塗られた四角い建物へと足を踏み入れた。

 

 

 

 神殿を簡略化したような建物内部には、同じく神官のような恰好をした職員たちがおり、事務作業を慌ただしく行っていた。術師になれる人材は少ないが、スクロールを多重に使うことで、見かけ上魔力を持つ者と同じように振舞っている。

 そしてドアの近くでは、守護ヴァルミ騎士が一人立っており、彼らの強大さの象徴ともいえる、信じられないくらい巨大な大盾を構えている。鎧の横幅も相まって、何も殺気が飛んでいないのに威圧感が半端ではない。

 

 俺は深くお辞儀をした。数月前トリネと会ったとき、この騎士とは顔を合わせているのだ。

 顔とは言っても、彼も俺も兜を被っているため分からないが、鎧の装飾で区別がつく。守護ヴァルミ騎士は、矛神の騎士よりも数が少ないため、鎧が一点物なのである。彼の場合は、兜や手甲などに狼の意匠が施されている。

 

 

「お疲れ様、ガルフ殿。」

「…おお!御機嫌よう青月殿。今回も、術師のお嬢さんに御用がお在りか?」

「その通り。そろそろトリネ君の誕生月日だから、祝いに来たのもある。」

 

 

 俺がここに来た要件を伝えると、騎士ガルフはおどけた調子で返してきた。俺にとっては耳の痛い話だ。

 

 

「ほほう、紳士だな。…私たちの騎士団でも、祝われるのを待っている子がいるのだがね。北に向かうつもりは無いのかな?」

「そうだな…用が済めばすぐ向かうつもりだ。」

「うむ、それが良いだろう。山越えをせねばならないのは少々手間だが、青月殿なら問題なかろうよ。」

 

 

 彼が言っているのは、同じくヴァルミ騎士である、俺の知人についてだ。親しくあるつもりなのだが、友人という関係ではない子である。

双子神教の総本山にその子はいるのだが、辿り着くまでの道のりが過酷であるため、寄るのが難しいのだ。ガルフの言うように、"少々手間"で片付けられるレベルではない。

 守護ヴァルミ教の結束は強く、総本山から離れた場所にいる彼でも、他人員の動向を知っている。俺の言葉も伝書バトに乗せて飛ぶことだろう。一度口から出した言葉は、取り消せないものだ。

 

 俺は、ガルフへもう一度頭を下げ、今度こそ奥にいる受付職員へ話をつけにいった。職員の女性は事務的に応対した後、俺へ待つように言い、受付から離れた。

 

 

 

 

 研究室の机に突っ伏した状態で眠り、トリネは陽の光で目を覚ました。金属管を通ってくる来客を知らせる合図へ、眠気眼で応対する。

 トリネは、国の役人であれば昼まで待ってもらうように言おうと、ぼんやりとした頭で考えていた。職員が来客の名前を言うまでは。

 

 

『トリネ様、おはようございます。お客様が、トリネ様へご面会を求めてお越しのようでございます。』

「んうう…どなたぁ?」

『えー…越境組織に所属されている、エドワルド様だそうです。どうなさいますか?』

「え…職員さん、エドさんにちょっと待っててもらってぇ…!」

『承知しました。そのようにお伝えいたします。』

 

 

 伝達が切れた瞬間、少女の目が完全に覚めていた。ローブを脱ぎ、少女は研究室の中でぱたぱたと動き回る。

 そして私的な物品が置かれた部屋に入って着替えを探し、諸々を洗うために別棟へと走った。服装が乱れたまま想い人であるエドに会うことはできないと、少女は焦っていた。

 

 

(うう…!こんな早く来るなんて…思ってなかったよぅ…!)

 

 

 洗った髪に香料を付けながら、トリネは涙目で思う。乾かしたことでふんわりし始めた黒髪を梳かし、鏡で血行の状態を確認する。寝不足続きであったため、本調子ではないことに気分を沈ませながら、赤を差し色に入れたアイボリーのロングチュニックを着る。

 

 そして準備を終えたトリネは急ぎ、エドが待っている受付にまで走る。研究続きで奪われた体力が息を乱し、辿り着く頃には口を大きく開けていた。

 エドは、ヴァルミ騎士の男性と話していた。トリネは彼に近づき、ぎゅっと目を瞑る。

 

 

「はあ、はあ…。エドさん…待っててもらって、ごめんなさい…。」

「久しぶり、トリネ君。こちらこそすまない。急いているように伝わってしまったか。」

「ううん…。えへ…エドさんに早く会いたくてぇ…。」

 

 

 息を整えると、トリネは口元が緩むのを抑えられず、にへらと笑みを浮かべる。エドはトリネの言葉を嬉しがり、声の調子を上げた。

 

 

「俺もだ。今日は君に渡したいものがあるんだ。…その前に、トリネ君の生まれ月日を祝わせてくれ。」

「えへへ…覚えててくれたんだぁ…。嬉しい…。」

「勿論だ。今年は手紙だけでなく伝えられてよかったよ。では料理店にでも行こうか。ガルフ殿、また会おう。」

 

 

 トリネはヴァルミ騎士ガルフを黒い瞳で見つめたまま、エドの右腕を強く握る。

 エドと親しげに話すのを見て、少女は幼いながら嫉妬心を燃やしかけたが、男性であったためその気持ちは鎮火していった。

 

 

「うむ。私に構わず、今日はお嬢さんをエスコートしてあげるのだ。それこそが紳士、騎士たるものの在り方だろう。」

「俺は、騎士とは到底言えない冒険者だよ。」

「あの子をヴァルミ騎士まで育て上げておいてか?いいや、騎士道とは心の在り方を言うのだ。…む、お嬢さんが待ちくたびれているぞ。早く町を見てくると良い。」

 

 

 その男性が少女へ柔らかく手を振るのに対し、トリネも縮こまった手を小さく振り返す。トリネは気持ちを切り替え、ザルディの市井へエドと共に繰り出した。

 

 

 それからトリネは、自身の研究の進捗度合いや日々あった面白いことを話し、手紙では省略されていた旅の話をエドから聞いた。

 町で暮らす者と旅する者では、話のスケールが違うが、エドはトリネの話を楽しんでいた。彼は血生臭い戦い続きの旅を誇るつもりは無く、ファンタジー世界らしい話を聞きたかったのだ。

 

 

「――それでね…。わたしのいる研究室で…フクロウさんが飼われることが決まったんだぁ…。まだ研究には取り入れないけど…。また違う魔法が考えられるかも…。」

「フクロウか…。そう繋がりが出てくるのか?」

 

 

 話の途中で、エドは考え込む。彼が持つ知識には、血属性の魔法が獣血を扱う故に、獣とも密接に関わっているという情報があった。学院で死闘を繰り広げた上澄みの上位種についても、対抗できるのではないかと思い至ったのだ。

 そのことを知らないトリネは不安になり、おずおずとエドへ問いかける。

 

 

「エドさん…。わたし変なこと言っちゃった…?」

「いや、個人的に気になることがあっただけだ。しかしトリネ君は本当にすごいな。前俺が訪問した時に考えていた魔法がもう形に出来たとは。」

「えへ、えへへ…。もっと言って…。」

「ああ。トリネ君はすごいぞ!」

 

 

 トリネはエドの拙いが本心からの称賛を浴び、両手を頬に当てて笑う。そして少女は嬉しいことがあったとき足を運んでいる、外装が可愛らしい料理店を示した。

 エドは一瞬足を止めかけたが、トリネに腕を引かれたため静々とついていく。子どもや女性客の多いその店において、全身鎧の男性は店内の雰囲気を破壊していた。

 

 

 

 

 朝方王都に着いたのに、もう陽が沈もうとしている。やはり穏やかに過ごす時間は、あっという間に過ぎてしまう。

 途中ハプニングはあったが、隣を見下ろせばトリネが愛らしく笑みを浮かべ続けているため、祝いは上手くできたと思いたいところだ。

 俺は、一日の終わりに渡すつもりであった文書を取り出す。それと同時に物を迷いはしたが、近くの町にて押し花を作ってもらった。こういったあちらにある文化が、この世界にもあるのは、細かな世界背景を気にしなかったためだろう。

 材料は、夜にしか咲かない白い花だ。代金を渡せば、その場で魔力で動く道具を用い乾燥させてもらえた。

 

 

「トリネ君、これが第二学舎から共有を許可された文書だ。それと…この花を。本を読むとき、栞として使ってもらえると嬉しい。」

「二つも…えへへ。ありがとう、エドさん…!このお花、大切にする…!」

 

 

 文書を胸に抱き、押し花を右手で受け取ったトリネは、また純真な笑顔を俺に向けてくれた。そして何か思い出したかのようにつぶらな目を開くと、遠慮がちな調子で続ける。

 それは俺が話の中でトリネに伝えた、次の目的地に関わる内容であった。

 

 

「エドさん…もう、行っちゃう…?わたしも、南西の方に用事があって…途中まで一緒に行きたいな。今日の朝までに、色々済ませるから…。」

「そうだな…トリネ君はどこまで遠出するつもりなんだ?」

「リューンまで…。実はエドさんと同じなんだ…。」

「そうか…。」

 

 

 トリネは遠出の理由を語る。研究のための資料がリューンの町にしか現存していないらしく、取り寄せることも出来ないため向かわないといけないのだそうだ。少女は俺の旅について知っているため、遠慮をして言い出せなかったのだろう。

 俺は考える。トリネは潤んだ瞳でこちらを見上げており、願いを断りづらい。そして目的地もほぼ一緒なのであれば、時間もかからないため、尚更少女の手伝いをしたいと思う。

 

 護衛をつけても安全とは言い切れないのが、この世界の非道さだ。結果俺は首を縦に振った。騎士や前衛向きの術師ではない友人を危険に晒したくはない。

 

 

「なら、明日の朝まで待とう。道中、町の宿で待ってもらうこともあるから、そこはご容赦願う。」

「う、うん…!すぐ届けを出してくるね…!」

 

 

 トリネは表情を明るく、小さな足で研究所へと走っていく。俺はリューンに向かう途中現れるはずの裂け目と、トリネを休める町村の位置取りを考え直し、少女を見送った。

 

 

 

 

 自身の研究室に戻った少女は、どろりとした笑みをこぼしていた。確かにリューンの町に用はあるが、その時期は何時だって良かった。まだ理論を見返している段階の魔法へ使う資料であるため、急ぐ必要はないのだ。

 だが、トリネはこの機会を逃したくなかった。エドが王都を離れれば、次会えるのは何時になるか分からない。最も己の心を捧げているエドと、少しでも一緒にいられる時間が欲しかったのである。

 

 

「リューンって…エドさんのお友達がいるところ、だったよね…。わたしも、エドさんのトモダチとしてご挨拶しないと…。」

 

 

 トリネは文書を机に置き、大切に押し花を飾った後。エドが来たときのために準備しておいた荷物をまとめていく。

 幼子には重い大きな背負い鞄も、今のトリネにとっては軽く感じていた。

 

 また、融かした月を間近で見るために。そして想い人の戦いの支援を、前よりも的確にできるように。トリネは彼が遠い存在にならないよう、一時旅路を共にする。

 

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