裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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やたら鬱展開にボリュームがある

 俺たちプレイヤーのトラウマとなった化物どもを討ち、迎えた朝は心地よい。今日一日はゆっくりと平和を享受したいくらいだ。

 名残惜しいが、もう出発しなければならない。

 

 ソヘネーの街における惨劇は、大量にある鬱展開の一つに過ぎない。この話が特にプレイヤーの心を抉ったのは、搦め手を使ってきたからでもあるが、ここが序盤に訪れる街だからだ。

 序盤ならまだ比較的、プレイヤーも元気である。全ての鬱展開に反応し、脳が疲弊しきるのはゼシニス大陸を出る頃だろう。

 しかし序盤の展開においてある意味鍛えられたプレイヤーも、ゲームを進めていけば泣いて許しを乞う。あまりの希望の見えなさに。

 煮詰まった制作陣の陰湿さは、被虐趣味のマニアでも生半可なレベルでは最後まで残っていられないほどだった。

 マイナーな鬱ゲーの内容を理由に場外乱闘とは、していることがあまりにもバカらし過ぎる。

 

 

 まだ疲労の残る体を鞭打ち、寝ずの番をしていた騎士たちへ視線をやる。俺も眠らずにいつでも動けるように待機していたが、座って体を休めていた。騎士団の彼らはずっと立ったままである。

 他者のために彼らは戦い続けている。皆二十代か三十代くらいで、アイナのように十代の子どももいる。俺の生きた現実では、まだまだ自分の人生を楽しんでいい時期だというのに。

 若くして人間のできている彼らが、どうして化物の悦楽に使われなくてはならない。何故、世界に殺されなくてはならないのだ。

 

 リアルであればあるほどに、「バックスタブレイブ」の世界の悍ましさを体感する。そして胸を締め付ける悲しみも。

 だがこの痛みと、人々が平穏無事である温かさこそが、俺の手足を動かし技を磨くのだ。

 

 

(…彼らのためにも頑張らなくては。)

「あ…。先輩、もう出発するんですね…。」

 

 

 教会の石煉瓦に手をついて立ち上がったら、目をしょぼしょぼとさせたアイナが話しかけてきた。遠くからでもよく通る朗らかな声も、今は本調子でない。

 俺は掌を掲げて、彼女の問いにそうだと答えた。すると少女は途端に体を張り、愛らしい笑みを作る。

 

 

「私たちはしばらく滞在する予定っす。任務が被ったときは、またお話し聞かせてください!それまでご無事で…エド先輩!」

「互いに何事もなく会おう。…アイナ殿、騎士の皆さんも無理はせずに。貴女たちが生きていることこそ民の希望だ。」

「あ、はい…。…言ってて恥ずかしいと思わないタイプか…?」

「ああいうの、誰にでも言ってるのかな…。怖いな…。」

 

 

 俺は白銀の騎士たちへ深く頭を下げ、教会を去る。背後から聞こえてきたひそひそ声は、聞かなかったことにした。

 俺が平均より口下手で、咄嗟に良い言葉が思いつかないのもあるし、記憶を覗けば元気な頃のエドムンドも大げさな言葉で仲間を称えていたようだからだ。

 別人を装っても肉体は誤魔化せない。特徴が漏れるのは仕方ないのだ。

 それに言葉をかけすぎれば、かえって災いを呼び寄せるかもしれない。死亡フラグというのは、この世界において洒落にならないのである。

 

 ジゼラたちには手紙を残してある。宿泊させてくれた礼と、また食卓を囲みたいという、俺の願望ばかり記述したお粗末なものだが。

 物を書くのは今でも好きだ。最近はペンを持つことが少なくなったので、腕が錆びついているのだと言い訳をさせてもらう。

 しかし喋りも書きも下手になっているのは、本当にまずい。説得は鬱破壊に必要になるため、矯正しなくてはならないだろう。

 

 もう一年すれば、一泊することすら贅沢な時間となる。亡霊の記憶もそうだし、ゲームが始まる前の鬱展開は七年間に集中しているからである。

 

 村での劣悪な暮らしと、最初の「裏切り」について、プレイヤーが見せられるのが二年間分であり。主人公が第二の故郷に来てから、旅立ちまでが約五年間になる。

 時間が進むにつれ、人類が諦観に支配されるため被害も増えたというのが表向きの理由である。しかしプレイヤーには、制作陣の考えなどお見通しだ。

 力を得る前の勇者はただの子どもであり、人命を救うことなど出来なかった。()()()()()()

 詭弁でしかないが、勇者は遭遇するたびに悔やむのだ。何かできることがあったんじゃないかと。

 

 つまりメタ的に言えば、主人公に無力感を突きつけ、曇らせて、悦に浸るためのスパイスなのだ。

 

 俺は鬱展開破壊のため大陸中を走り回り、この世界を必死で生きる人々を見てきた。この世界において彼らは、モブでも背景でもない。一人一人感情を持っているのだ。

 そんな民たちが、ただの絶望の芽にされることを許せない。絶対にだ。

 

 

 

 ソヘネーの街は交易が盛んで、荷馬車の量も向かう場所の種類も圧倒的である。俺は商人たちに話しかけていき、俺の目標に近いところまで走る馬車を見つけ出した。

 ゲーム中ではRPGらしく、簡易的な項目が出てくるだけだったが、現実寄りだと交渉しなければならない。目的地は近くとも、冒険者や傭兵を求めていない商人もいるため、見極めは大事だ。

 

 長距離を一気に移動したかったり、大陸の端に行きたかったりする場合。商いに命を捧げた人種がいい。

 俺は、気さくな雰囲気だが目力の強い男性と、交渉を成立させる。

 俺がすることはシンプルだ。変に怪しまれないよう、護衛の相場において中間辺りを報酬にしてもらう。そうしたら、商人と馬車に傷一つつけないよう立ち回るだけである。

 

 

「――よし決まりだ。馬脚を増強させても長旅になる。着いたらその分色は付けてやるが、覚悟はしておけよ?」

「ありがたい。必ずや貴方と荷、両方を守ると誓おう。」

「へえ頼もしいな。あんた強そうだし、期待してるぜ。…この街の名産を繋げば、あの国も潤うだろうからな。」

 

 

 その後も商人と軽く話し、大きいが布にほつれが見られる馬車へと乗り込む。俺は既に、名を知ることはないであろう同行人を気に入っていた。

 彼の眼鏡越しに燃える瞳は、短期的な金儲けより、大きな利を見据えているのを知ったから。

 

 

 

 

 名前を望まない騎士、仮名をエドとする男は荷馬車にて揺れる。兜で第三者から表情は隠されているが、この何もない時間でも、気を緩めることをしなかった。

 魔力によって強化された馬の脚は、荒れ野や泥濘みさえも軽やかに乗り越える。民間の流通が馬に限定されているために、走行の安定は何よりも重要である。

 故に「馬脚の順応*1」が閉じ込められた巻物は、どの国においても販売されている。

 だが馬は道具ではない。草を食ませられるような中継地点にて、休息を取る必要があるのだ。

 

 丸眼鏡をかけた商人の男は、商いの同行者となったエドに声をかける。大陸の中心から端まで向かおうと思えば、無理をしても半月かかる。

 その間に険悪な関係になったら、目的地を見ることは叶わないだろう。交流を嫌がるような商人は生き残っていない。

 

 エドは商人の男へ返答する際、言葉を尽くして労い、その後作った焚火の前に座り込んだ。

 

 

「あんたもお疲れさまだ。地図通りなら、ようやく折り返しってところだな。あと半分も頼んだぜ。」

「ああ、期待に応えよう。貴方のような、価値ある交易をする御仁は、いつまでも商いをしていてほしいからな。」

「おいやめてくれよ。…毎回こっぱずかしくなっちまう。そういえば…あんた、ザルディに着いたらあてはあるのか?」

 

 

 わざとらしく顔を歪めて感情を逃がした商人は、疑問に思っていたことをエドに尋ねる。エドはしばらく黙って、あると答えてから続ける。

 

 

「ザルディ国内の村に、知り合いがいるんだ。数日は厄介になろうと思っている。」

「なるほどな。あんた、稼がないで転々としているのか。筋金入りの旅人だな。…用が済んだら都市部に行くんだろ?顔見知りに紹介状くらいは書いてやるよ。」

「流石、洞察力が高い。もしそうしていただけるなら、厚意に甘えさせてもらってもいいだろうか。」

「お互い五体満足で来られたんだ。厚意なんて、上からのもんじゃないぜ。」

 

 

 エドと商人の男は道中言葉を交わし、それぞれの事情を知った。商人の男は、エドが各地を旅してまわる理由を。反対にエドは、商人が危険を冒してまで遠くと交易する背景を。

 商人の男はザルディ国出身であり、作物の育ちにくいその地で飢えを味わった。そして彼の母や弟は病でこの世を去った。だから残った家族や同じ境遇で苦しむ人のために、不毛の地でも育つ植物を持っていき、国全体に活気を生み出したいのだ。

 

 殆どは暗い時世に覆い隠され消されても、別の光は現れ続ける。エドは、そういった小さな灯りを見つけるのが得意だった。

 

 そうして夜も更けた頃には焚火を消し、エドが眠らず周囲を警戒する。人の肉の匂いを嗅ぎつけた異相付きが寄ってくることもあったが、それらは全て濁った血潮を空に捧げた。

 

 

 半月とはエドにとって短い期間であり、曇色の城壁が見えてきたとき、彼は既に気持ちを切り替えていた。

 獣を狩るだけでいい時間は終わり、一歩踏み外せば死と隣り合う戦いが待っている。

 

 騎士は商人の男と別れ、城壁から比較的近い位置に存在する小さな村へ赴く。もうどのような段取りかは、騎士の中で決まっていた。

 

 

 

 

 異相付きでも上位種でもない、この世界特有の脅威がある。「尖兵」と呼ばれる、後天的に異形の特徴を持ってしまった人間だ。異形の度合いは個体によって違い、手足しか原型を留めていない場合もある。

 尖兵はゼシニス大陸では絶対に自然発生しないものであり、主人公の勇者が戦う者はもれなく上位種によって特徴を植え付けられている。鬱になる背景と共に。

 今回俺が救助しようと思っているのは、その尖兵になる前の少女である。村に現れる裂け目を対処すれば大きな悲劇は避けられるが、根本的には解決まで行かないため、工夫が必要になってくる。

 

「バックスタブレイブ」と名付けられたゲームにおいては、美麗な外見のものが多くフォーカスされ、惨たらしく死ぬ。焦点を当てられずとも命を落としているのだが、一枚絵があるキャラは悲惨度合いが桁違いだ。

 

 

 数時間も歩けば目的地が見えてきた。貧しくもありふれた村だ。俺は、その少女の生い立ちを思い浮かべる。

 

 ある男女の娘として一番目に生まれた、トリネという子どもは、村に似合わず特殊な才を持っていた。流血を媒介とした魔法*2である。主人公やパーティメンバーも、育成の方向によっては基礎から習得できる魔法で、エフェクトと演出は内なる少年をくすぐる格好良さだった。制作陣はこういうものだけ作っていれば良かった。

 

 話は戻る。流血を媒介とした魔法は獣に有効であるが歴史が新しく、トリネの両親は周囲から異端の誹りを受けそうになった。

 その後の両親の対応がクソすぎた。娘の特殊な才のために、家族全員が生活出来なくなってはたまらないと考えたのだ。貧しいのだからと理由を付けて、幼いトリネの扱いを極端に悪くした。そうすることで、自分たちはまだ村の一員であるとアピールしたのだ。

 

 トリネは強い子だった。しかし、ある出来事がとどめを刺す。トリネの妹、目に入れても痛くないほど可愛がっていた子に「裏切られた」のである。

 妹も泣きながらだった。どうしようもない親を真似しなければ、飢え死んでしまう。まだ一桁の齢で死を選べるほど、トリネの妹は異常ではなかった。

 そうしてトリネは幼くして未来を奪われ、ヒトの醜悪さにより絶望したのだ。

 

 尖兵は、凶暴な生ける屍である。上位種が村を滅ぼした後も、トリネは異形となって活動し続けていた。もはや少女の面影はなく、巨大な肉塊としか表現できない化物として。

 「膨張する血塊」。タフかつ火力の高い攻撃を連発する、厄介な中ボスであった。

 

 

(…今のところは順調だ。俺がいなくても何とかなりそうなくらい、持ち直しているしな。)

 

 

 俺は村の入口に立つ男性に話しかける。少し汚れた麻の服を着ている彼は、俺を注意深く見た後頷く。

 

 

「…誰かと思えば、あんちゃんか!また来てくれるなんてな!」

「ああ、久しぶりだ。あの子は元気か?」

「は、知らないな。村のはずれなんて、あんちゃんくらいしか寄り付かないだろ。それよりも、折角来てくれたんだから宿を開くように言っとくよ。気が向いたらまた獣を狩ってくれると大助かりだ。」

「そうか…ありがとう。森には行くつもりだ。肉を期待していてくれ。」

「おう!ありがとうよ!」

 

 

 男性は一度冷めた目つきになったが、俺が狩りをすると言った瞬間元気になる。俺は男性の許可の下、村に入り一直線に村の隅の家屋へ向かう。ボロだから分かりやすい。

 男性の言葉からトリネの立場は、村八分のような状況のまま変わっていないようだ。だが彼女自身はゲーム中とは違う。元来の芯はブレず、より逞しくなっているのである。

 

 俺は、戸をノックし反応があるまで待つ。

 するとごそごそと家の中から音がして、戸の隙間から黒い瞳が覗いた。俺はくりくりとした少女の目と視線を合わせるため、少し屈む。

 

 

「トリネ君、また来たよ。元気だったか?」

「あ…え、えへへ…。エドさんだ…待ちに待ってたよぅ…。」

「嬉しいことだ。…成長した君の魔法を見せてもらいたい。よろしく頼む。」

「うん…でもその前に…。ゆっくり、お話しよっか…。」

 

 

 ぎいと戸が鳴って、小さな背丈の少女が俺の腕を掴んだ。ボサボサだが、洗髪と香料はきちんとしていることが伺える黒髪が揺れる。

 見た目以上に握力がある、真っ白な左手が目に映る。俺はトリネに促されるまま、薄暗い家屋に入ることになった。

 

 救出ともう一つ、俺はこの村に目的があって来た。

 違う体系の魔法から学んで、己の技を磨き。より化物を殺せるように。

 

*1
人に効果を為さない限定的な魔法。強化・増強とは名ばかりで、脚の先を固形化した魔力に一定時間置き換える。魔法の才能がある商人は、スクロールに頼らずとも使用できる。理とは違う能力値である「知」を、30まで上げることで主人公も習得可能。

*2
「流血魔法」と呼ばれる。自傷や周囲の傷によりバフデバフを付与できる。

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