裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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余り顔を見せられない友人に会う

 馬車を乗り継ぐたびトリネを町で休ませ、ついにリューンへと入る。二日三日なら、眠らず活動することも出来るようになってきたため、トリネを宿で寝かしつけた後の夜間、二度裂け目の対処を行った。ミミズの上位種と、リスのような上位種である。

 人攫いや想定外の位置から現れる化物は、俺が考えていたよりも多い。二回の対処の内、後者であるリスの化物が出たのは「バックスタブレイブ」で亡霊が佇んでいた場所ではなかったのである。

 

 そこに居合わせたのはリシディア騎士団の面々であり、作中において防げていた事象であったのかもしれない。しかし、彼らが欠ければ人類を守る者が減ることになる。

 俺はより警戒を強めようと気持ちを改めた。人死にという悪い方向での積み重ねが、人類を詰みへと向かわせるのだから。

 

 

 リューンは南西端にある町であり、俺の友人である術師の彼が住まうところでもある。老年であり、アイナやトリネとは違った意味で、年の離れた友人だ。「バックスタブレイブ」における彼は、ある魔道具のテキストにのみ記載のあった人物で、人となりは数行でしか判断することができなかった。外見の記載もなかったため、ゲーム開始時点で亡くなっている以外の情報はほぼないに等しい。

 

 友になれたのは、言ってしまえば偶然だ。彼、ジェロムは趣味人で、絵描きもしていた。俺がリューンの荒々しい海景色を前に休息を取っていた時、町を離れて絵を描きに来ていたのだ。

 俺自身芸術には疎いが、美しいと感じる景色はある。エドムンドも騎士として、芸術に接する機会が多々あったようで見る目があった。そのため、記憶の中から作品と作者とを借りることができ、ジェロムの一側面を知れたのである。

 素人目線の拙い会話だったが、ジェロムが気さくな男であったのが幸いして、言葉を交えて意気投合にまで至れたというわけだ。

 

 

 早朝。俺とトリネは、湿った空気のリューンを歩いている。

 トリネがここに滞在する期間は、四日程度の予定らしい。資料の要点を複写するにしても短いと思ったが、少女は恥ずかしそうな様子で問題ない旨を返した。これも少女の頭脳が為せることだろう。

 四日であれば、俺の作ったルートに支障は出ない。俺もトリネと同じ期間リューンを仮拠点とすることにした。

 

 蔵書が詰め込まれた図書館のような施設が開くまで、トリネには暇がある。少女は首をあまり動かさずに、俺を上目遣いで見上げ、もじもじと動いた。

 

 

「――エドさん…資料を見に行く前に、エドさんのお友達に会ってみたいなぁ…。その方も術師、なんだよね…?」

「そう、穏やかで話しやすい術師だよ。トリネ君と同じく、俺の魔法の基礎を固めてくれたんだ。水を扱う術師だから、トリネ君とも話が合うだろう。」

「ふふ…そっかぁ…。すごい、オハナシしたくなってきたな…。」

「嬉しいな。よし、では一緒に向かうとしよう。崖近くに家があるんだ。」

 

 

 トリネが俺の右手甲を、両手で握ってくる。心細いとき、トリネはよく俺に近づいてくる。独り立ちをしていても、まだトリネは十一になったばかりの幼子だ。エドムンドが守りたいと思い、俺も気持ちを同じにする、生まれが恵まれなかった子どもたち。

 俺はケルや各地の孤児院で育つ子らにするように、力加減を調整して握り返す。少女は小さく笑い、体の震えを止めた。

 

 

 

 リューンの町を歩いてしばらく。市街地から離れ、波が叩きつける岩場が見えてきた。同時に、一人が住むには大きい茶色の家も。

 俺は左掌で前方を示し、トリネへ伝える。あの家こそがジェロムの住まいであると。

 

 

「大きいねぇ…。本当に、一人で住んでるの…?」

「元々自分用に建てたものではなかったらしい。…人とは呼べないが、傀儡人形を何体か動かしていたな。」

「傀儡…!王都でも、数が少ないのに…。」

「貴重だが模倣品だ。遺物をそのまま使っているわけではなかった。」

「遺物…?傀儡人形って、すごい高価だから…全然見たことなくて…。」

 

 

 トリネは真っ黒な瞳を輝かせた。俺の発言に首を傾げたが、調子を戻す。

 “傀儡人形”とは、古い時代、生活の補助から戦闘支援までをこなしていた人造物だ。人間と変わらない外見をしているものや、明らかに土木用だと思わせる角ばったものまであった。

 リィートイが所属していた小人の隊列は、どちらのタイプの傀儡人形も使用していたはずだ。

 

 傀儡人形には欠点がある。所有者との魔力の繋がりを以て、人間を主と定めるのだが、魔力量の多い人間なら簡単に所有権を奪い取れるのだ。例えそれが上位種相手であっても。

 そう、魔工職人ディアンとその眷属たちによる乗っ取りだ。奴らが傀儡人形と猛き戦士たちを潰し合わせたことも、かつての戦線崩壊に繋がる、悪意ある一手であった。

 

 傀儡人形たちに感情や自由意思があるかどうかは描写されていないが、おそらくない。敵に奪われてから元の主に対して一切の躊躇いなく殺しにかかるのだ。そのため俺は、全くこの技術を信用していない。いつ寝返るかもわからない人形など、危険極まりないからだ。

 俺は何度か、傀儡人形の特性についてジェロムに伝えてある。結局、彼の魔力量ならば万が一があっても大丈夫だろうという認識に落ち着いた。

 

 しかしトリネのような術師も、傀儡人形の由来を知らないとは想定外だった。よくNPCたちのセリフを思い返してみる。もしかしたら、ゼシニス大陸で広く知られている事実ではなかったかもしれない。

 トリネが、傀儡について詳しく調べる機会が無かっただけの可能性もある。この場において、俺はそう思うことにした。

 

 

「――確かに、傀儡人形は高価で希少だ。それも見せてもらうといい。きっと喜んで案内してくれる。」

「んうう…そんな、いいのかなぁ…。」

「ああ。トリネ君は将来、傀儡人形を数体買って余りある程大成するから、友人も恩を売るチャンスだと思うよ。」

「エドさん、ちょっと…はずかしいよぅ…。」

 

 

 トリネは視線を迷わせてから、耳を赤くした。少女は確かな才覚を持っているのに謙虚だ。俺は俄然ジェロムと引き合わせるのが楽しみになってきた。

 

 

 その後も雑談をしながら道を進むと、遠くにあったはずの家が目の前である。俺は、家の扉に取り付けられたドアノッカーで叩く。

 陽が出ているなら、彼は起きているはず。待っていると家の中から足音がして、扉が開かれた。

 

 出てきた顔は表情が全く読み取れない、美麗な顔をした人形。全体的に色素が薄く、血流が通っていないことは一目で分かる。人形から伸びる魔力の繋がりを感知すれば、それは天井へと続いていた。

 

 

「お名前と、来訪なさったご用件をお聞かせ願います」

「…俺は冒険者のエドワルドという者だ。友人に会いに来た。」

「承知いたしました 少々お待ちください 主にお伺いしてまいります」

 

 

 再び扉が閉じられる。その間トリネは、またびくびくと体を震わせながら扉と俺とを交互に見ていた。

 

 

「エドさんのお友達って…すごい人、なの…?」

「比べるものではないが、凄い人だ。トリネ君は同等だからな。」

「ううう…緊張する…。」

 

 

 俺がトリネの不安を取り除くため苦心していると、再び扉が開いた。中を覗けば、三体の傀儡人形が背筋を伸ばして廊下に立っている。家の中の人形が勢ぞろいだ。

 男性か女性かもわからない、背丈の高い傀儡人形たちが掌で奥を示し、口々に言葉を発する。

 

 

「どうぞ、お入りください 主が二階にてお待ちしております」

「ご案内させていただきます」

「ありがとう。…トリネ君、ついていこう。」

「もっと…ぎゅってしてぇ…。知らない人、やっぱりこわいよぅ…。」

「俺と初めて話したときは、人見知りしなかっただろう?大丈夫だ。」

 

 

 人と接していくと、知らない一面が見える。数年前は、肉親からの仕打ちに耐えていたため表に見せなかったが、元来トリネは人見知りであった。ザルディ王都の研究所に馴染むにも、時間がかかったと少女自身から聞いている。トリネが善良であるためだろう、年上の術師たちから歩み寄ってくれたそうだ。

 今回の会合も、うまくいく。ジェロムはきっと、トリネに柔らかく接してくれる。

 

 

 二階に上がり、俺たちを先導した傀儡人形がドアを開く。椅子に座って窓を見ていた老年の男性が、俺たちのほうへ振り向いた。

 彼は白髪と白い髭を整えた、皺の多い顔を緩め互いに挨拶をする。

 

 

「突然の訪問ですまない。久しぶりだな、ジェロム。」

「こんにちは。久しぶりエドくん、会えてうれしいよ。…そしてようこそお嬢さん。僕の家へ。」

「お、お邪魔します…。わたしはトリネ…エドさんのお友達です…。」

「ありがとう。僕はジェロム。お嬢さんと同じくエドくんの友人で…リューンに腰を埋めた、ただの老人だよ。よろしくね。」

 

 

 ジェロムはすっと手を差し出し、おそるおそるトリネがその手を握った。

 俺の魔力の基礎を作ってくれた二人が、こうして会合する。俺はこの瞬間を嬉しく思った。

 

 

 ジェロムは、部屋の隅で待機していた傀儡人形に柔らかく指示を出すと、二人分の椅子と湯気が立つ茶を用意してくれた。

 彼の厚意に感謝し、俺はトリネと並んで腰かける。にこにこと笑顔を浮かべ、ジェロムから話題を振ってくれる。彼は、未だ落ち着かない様子のトリネへ顔を向けた。

 

 

「いやあ…。まさかエドくんが、いつも手紙に書いてくれるお嬢さんを、連れてきてくれるなんて。トリネさん、緊張しないでも大丈夫だからね。」

「は…はいぃ…。」

「ははは、噂通り謙虚なお嬢さんだ。エドくん、もしや僕のことを大きく言い過ぎたのかな?」

「貴方については、凄い人だとしか言っていない。抽象的だが、本当のことだからな。」

「国所属の術師と比べられては困るよ。この年でもう術師になれている子なんて、すごすぎるじゃないか。…トリネさん、甘いものが好きならお菓子でも食べるかい?実はこの爺さん、甘いものばかり貯めこんでるんだよ。」

 

 

 ジェロムの穏やかな口調は、次第にトリネの緊張を取り払っていく。やはり年の功とはすさまじい。彼の善良さと合わさって、語りを隣で聞いている俺さえ安心できるのだ。

 トリネは目線を上げると、頭を下げて年相応に菓子をねだった。ジェロムの笑みはさらに深くなり、包装されたファンタジー世界らしい菓子を盆に乗せて渡す。

 

 少女はじいっと小さな菓子を見つめた後、口に含む。トリネの愛らしい瞳がきらきらと輝き始めた。

 

 

「あ、甘くて…おいしい…!」

「よかったよかった。最近菓子作りも始めてね、それは僕が作ったんだ。傀儡人形の手捌きを見ながら学んでいるんだよ。絵を描く合間の息抜きに丁度いい。」

 

 

 ジェロムは自身が作った菓子を指さしていき、俺たちに教えてくれる。トリネの視線は菓子に釘付けになり、この短いコミュニケーションだけで、彼の取っつきやすさを理解したようだ。

 

 

「多趣味で良いな…。俺もジェロムに習いたいところだ。」

「はは!ちょっとしたことだから、エドくんならすぐ覚えられるよ。…それじゃあ、色々爺さんに話を聞かせてくれるかい。これだけ広い家で一人だけだと、寂しいものなんだ。」

 

 

 俺とトリネは視線を重ね、まず俺から話す。町で購入した手土産については、話の終わりにでも出そう。

 うんうんと相槌を打つジェロムへ、口が緩んでいく。久しぶりの会合は楽しい時間になりそうだと、俺は予感していた。

 

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