裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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使いどころは決まっている

 二人は魔法についての談義を楽しめたようで、画材庫へどこか晴れやかな表情をしながら入ってくる。

 トリネの満面の笑みは、見ていて気持ちの良いものだ。俺は置かれているキャンバスに掌を向け、寂しげな印象を受けるそれらの出来を称える。

 

 

「術師同士話が弾んだようで良かった。その間じっくり観賞させてもらった。新しく描いた絵も素晴らしいな。…この人物画は、まだ完成させないのか?」

「はは、ありがとう。そうだね…もう長いこと経ったから、余計な付け足しになってしまうと思って、手が出せないんだ。」

 

 

 俺は再び、塗りに粗さのある絵を見る。この女性の横顔が描かれた絵画に、ジェロムは特に思い入れがあるのだ。

 おそらく、彼は最期までこの絵画を完成させないだろう。

 

 

「トリネさんも、エドくんと一緒に観てくれると嬉しいな。向こうの部屋には完成させた絵を置いているから、是非。」

「はい…!エドさん、あっち…。一緒にいこうよぅ…。」

「ああ。ジェロム、絵を見せてくれてありがとう。もうしばらくしたら市井に出るつもりだ。しばらくはリューン近辺にいるから、また寄らせてくれ。」

 

 

 トリネは俺の腕を引っ張り、扉の先を示す。彼女の少女らしい振る舞いに微笑ましさを感じながら、忘れない内にと物を取り出す。

 

 

「そうだ…この画材を渡しておかねば。土産だ。」

「ありがとう。これはまた、いい素材だね。」

 

 

 俺はしまっておいたジェロムへの土産を手渡し、少女の望むままについていく。

 トリネと観賞をし終わったら、各々の目的のため動くことになるだろう。トリネは研究、俺は裂け目を対処するための準備へ。

 

 ゼシニス大陸端にはイレギュラーな事態が起こりやすいと、俺は踏んでいる。海が広がっているならば、海洋性の上位種、異相付きが。別の大陸が地理的に近いならば、そこを根城にした上位種が渡ってくる可能性が考えられるからだ。

 バックスタブレイブ作中には明示されなかった描写も、この現実的な世界においては、用心せねばならない。どんな場所にいても、絶対の安心はないのだから。

 

 

 トリネと俺は部屋に入り、ジェロムが書き上げた傑作を眺める。そうして、この大部屋に入る度俺は、奥部に飾られている二つの絵画に、いつも意識が向けられるのだ。

 両手で口元を隠して、トリネも感嘆の声を漏らす。厚塗りで表現された一方には、ジェロムの家族らしき母子が並んでいる。そしてもう一方は、兜を脇に抱えた鎧姿の女性が極めて写実的に表現されているのである。

 

 

「綺麗な人…誰なんだろう…。」

「俺も気になって前に聞いたが、はぐらかされた。トリネ君になら教えてくれるかもしれないな。」

「そ、そうかな…?もし教えてもらえたら、エドさんにもお話しするねぇ…。横の絵は、ジェロムさんの…。」

「ああ、ジェロムの妻子だ。彼の子に出会ったことはないが、年を重ねていれば偶然知り合っていても分からないだろうな。」

 

 

 トリネが、俺が初めて見たときに覚えた疑問を全て挙げてくれた。

 鎧姿の女性について、注意深く見れば分かる。確かに写実的だが、実際にその人物を見て書いたわけではないということが。かつて魔道具で映写された姿をもとに描いたのだろう。

 そして俺は、この鎧を知っている。流線形の黒き鎧。「流刃」の隊列に所属していた、戦士の装備であると。

 

 ジェロムが語らない以上、彼とこの女性との関係性は憶測だ。またこの戦士が、ゼシニス大陸に戻ってこられたのかは分からない。

 しかしジェロムが手放さず、家で大切に飾っていること、流水に精通していることから、深い縁があるのは間違いない。

 

 

(ロイス…尖兵となった彼との戦いについて、何れ話しておくべきだろう。かの英雄は、死しても尚誇りを失わずにいた。)

 

 

 貶められた英雄について、軽々しく口にするなどできない。然るべきタイミングで、この話をしようと俺は思う。

 化物狩りには乾いた闘争のみがあっても、尖兵と相対することは、それだけで様々な激情を呼び起こす。

 

 もしジェロムが「流刃」の隊列の一人を祖先とするならば、彼が語った若き日の復讐心へ再び囚われてしまうだろう。

 彼が抱く無念は、俺が代わりに上位種どもへぶつける。老体に無理をさせて、結果友人が命を落としてしまうのは避けたいのだ。

 

 

「鎧…かっこいいなぁ…。わたしも…少しだけ着てみたいかも…。」

「興味があるなら、鍛冶屋で採寸してもらうのも良い。戦いに出ない術師でも、有事の際には急所を守る防具があると役に立つ。もし作りたいなら、費用は俺が出そう。」

「う、ううん…大丈夫…!作るのは考え中で…。わたし、いっぱいお金貯めてるから…えへへ。」

 

 

 トリネは両手を振って、遠慮がちに返す。今のはただの思い付きであったようだ。気が向いたら防具を作ってもらいたいと、俺は思った。

 

 術師は大抵、金属板をつけることはしない。魔力による防壁に自信を持っているからだ。

 確かに、並の異相付き相手なら防壁を割られることはない。だが、元より硬い金属に魔力を通した方が、守りが安定するのも事実。

 実際、術師としての経験が豊富であろう、第二学舎のギャレスは黒衣の下に防具を仕込んでいた。古い猛き戦士たちもその回答にたどり着いたのだから、鎧を着るのは正義なのだ。

 

 

 一通り観賞を終え、俺とトリネは雑談をしながら大部屋を出る。

 先ほど談義していた部屋を覗いた後、一階に移動しているジェロムへ声をかけた。四日もあれば、合間にまた話ができる。

 背筋はぴんと伸びていても、ジェロムは杖を手放せない。ジェロムは傀儡人形の一体を近くに配置し、にこやかに俺たちを見送ってくれた。

 

 

「二人とも、またいつでもおいで。次はご飯でも一緒に食べよう。」

「うん…ま、また来るね…ジェロムさん。」

「ああ。傀儡人形の制御には気を付けて。」

 

 

 岩場近くにある家を出た俺はそのまま、トリネを資料館まで送り、戦闘用の武具を補充することにした。大きめの町でなければ、鍛冶屋も居を構えない。

 リューン近辺に現れる裂け目は、念入りに潰す必要がある。俺の望む未来のため、町で生きる人々のため、また友人のために。

 

 

 

 

 二度日が沈み、エドとトリネがそれぞれリューンに来た意味を果たしている最中。

 老年の術師はベランダにて、冷たい荒波を見ていた。そして椅子の傍に、命じられた家事を終えた傀儡人形の三体が立つ。

 ただ無機質に、次の命令を待つ人形たち。ジェロムは大きく息を吐きだすと、独り言つ。何年経っても彼には、意思を持たぬとされる無機物でも、人間に似せれば答えが返ってくるように思えてならなかった。

 

 

「…君たちは、この海の向こうをどう思う。越境の秘蔵品なら…怒りを滾らせるんじゃないかな。」

「感情という高度なものを、我々人形は持ち合わせておりません 主様のお気持ちはお察しいたします」

「あの方は調整がうまいね。監視させるだけなら、複雑な機能は封じていい。こんな爺さんへ、貴重な戦力を使う必要はないだろうに。」

「ご自分を卑下なさらないでください 有事の際に盾となるのが人形の役割です そうするだけの価値を創造主様は見出されています」

「…価値があるのは僕に流れる薄い血だけだ。戦の礎にもなれず、家族さえ守れない術師なんて…血以外に何の価値がある?」

 

 

 ジェロムは幾度となくしてきた一人問答を止め、三体の傀儡人形へ別のことを命じる。傍流なれど、本家が戦争で断絶したならば、物は縁ある者へ流れつく。長く続いた血脈の終着点に、ジェロムは立っていた。

 何十代も前、ジェロムの一族を作るに至った戦士の遺品。旧き上位種に敗北した後も希望を捨てず、無力であった民を守り、リューンにて命を散らした戦士の一部。それを、もう一度表舞台へ出すのだと。

 

 ジェロムはこの鎧を、エドに預けようと思ったこともあった。しかし会うたび硬く、戦いに適した防具へと鍛えられていくエドの鎧を見れば、その気は無くなった。外見は然程変化していなくても、腕の良い鍛冶師の影が見えたからだ。

 やはりこの防具を渡すなら、流水に近しい術師へ。それも女性ならば、鎧の条件に見合う。

 

 

「…最後まで、抗わせてもらうよ。今の僕にも、出来ることが見つかった。」

 

 

 古の防具には、魔力が宿り続けている。猛き騎馬や小人たちを含む「地鎧」なら、地を踏みしめるための重さ。「流刃」ならば、受け流すための力を今の時代にも残す。

 例え戦闘で使われずとも、人間を生かすために防具は存在する。ジェロムは己の価値を未来へ繋げるため、才ある少女の来訪を待つ。

 

 

 

 

 その頃。全身鎧の騎士エドは、リューンから少し離れた海岸沿いを警戒しながら、剣の状態を確かめていた。

 曇り空から微かに下りてくる光で刃を照らし、鞘へと戻す。この二日間の内に購入した武具について、品質に問題はないと判断する。

 

 静かに、魔力の乱れを感知し続ける騎士。彼は突然、背後から声をかけられた。

 魔力を持たない者に、魔法「感知」は適用されない。敵意についても、直感でしか判断できないのである。

 

 

「おい、あんた何してんだ――」

「……!」

「うわっ!驚かせないでくれよ!」

「…その身なり、冒険者か。何か用があるなら聞こう。」

 

 

 エドは殺気を収め、松明を持ちながら足を竦ませる男性を見定めた。

 その男性は所々が凹んだ、武骨な金属鎧に身を包んでおり、頭部はヘルメット状の兜で覆われていた。騎士団に所属せず、鎧を着こんでいるのは殆どが傭兵か冒険者の二択だ。野盗であれば、上等な鎧を着ることはないため、エドはそう判断した。

 白髪が混じる髪と目元の皺から、壮年であることが伺える。男は困った様子でエドに言葉を返す。

 

 

「そうだ。用って言ったって…そんな何もないところに座り込んでいたら、怪しいだろうが。この辺じゃ見ない鎧だしな。」

「失礼した。俺は貴方と同じく、冒険者のエドワルドだ。討伐依頼か?」

「ええ?そりゃもちろん。…あんた本当に冒険者か?もし物見に来た貴族様なら、さっさと宿に戻ったほうが良いぜ。おれじゃなけりゃ、身ぐるみ剝がされてただろうさ。」

 

 

 変な奴だとこぼしながら男は、エドを訝しむ。やけに整った装備と惚けたような質問から、危機感を持っていないように思えたのだ。冒険者ならば近辺の状況も知っているはずだと、疑いを強め半ば断定した調子で言った。

 

 しゃがみ姿勢から立ち上がったエドはしばらく考えた後、自身の目的について真実と嘘を混ぜて共有する。冒険者としての証を見せ、男を一応納得させた。

 

 

「…海から現れる異相付きを警戒していた。最近は、異相付きの目撃情報をよく耳にするからな。貴方たちはどのような獣を追っているんだ?俺も手を貸そう。」

「…そうかよ。うん、装備は整ってるしな…。」

 

 

 男はエドの全身を観察し、言い出すかを迷う。それから、おもむろに情報を共有した。人の血に塗れていないならば、不思議な雰囲気をした冒険者として考えればいいと結論付けたのだ。

 

 

「追っているのは、でかい猪の異相付きだ。おれたちのパーティー以外も集められているから、あんたも入れる。腕に自信は?」

「俺には戦いだけだ。冒険者というのは荒事で成り立つ仕事だからな。…短い間だがよろしく。」

「…随分安請け合いするじゃないか。まあ、冒険者同士仲良くしようや。背後には気をつけろよ。」

 

 

 男は、討伐に乗り気なエドへ変に緊張しながら、自身のパーティーがいる場所へと戻る。発見しなければ良かったと内心後悔しながら。

 

 異相付きの討伐とは、多くの人員を使って為せるもの。複数体いたり、特に凶暴な個体を相手取ることになれば、パーティーの半壊、最悪の場合全滅もあり得るのだ。

 

 異相付きは正しく怪物で、好き好んで討伐に参画する人間は死にたがりか、場慣れしていない初心者である。

 冒険者の男は、エドの事をそのどちらかであると思っていた。独特な雰囲気の騎士を連れると、死地へと臨むには、気持ちが入りきらない。

 男の仲間である荒くれ者たちも、エドの雰囲気に吞まれかけていた。

 

 

「――討伐依頼が出されたのは、巨大な猪の怪物。脚付き…機動力と重みは相当なものだろうな。」

「おいおい、てめえ呑気に整理してる場合かよ!」

「…イワン、何でこんなやつ連れてきやがった!」

「いいや、頭数は多いほうが良いだろ!それによく分からないやつを放置していったら、そっちの方が危ない。パーティーを保たせることを考えればな!」

「ちっ…死んだら化けて出てやるからな…。」

 

 

 男たちが罵声を飛ばし、最後に男勝りな口調で、汚れた皮鎧を身にまとった女性が悪態をつく。エドを連れてきた壮年の男性イワンは、ため息を漏らしてから武器を構えた。それは柄の短い斧であった。

 

 エドは状況を整理してから、直剣を抜く。遠くから悲鳴が上がった瞬間、イワンを含めた四名のパーティーとエドは、その方向へ走る。

 そこには毛むくじゃらの脚を五対並べた猪と、盾がへしゃげ怯える冒険者たちがいた。

 

 エドは迷わず前へ躍り出て、剣を薙ぐ。脚付きに生えた器官の一本が、血飛沫を上げて飛ぶ。

 

 魔力を持たぬ者にとっては、ありふれた死。その一つへ、月明かりが焦点を当てた。

 

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