裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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人の体に、獣の心

 大人しくなった「猛進の鎧」は、俺がスクロールを使用して作った温石に少しずつ近づいていく。炎は出ずとも、周囲を温めることができるファンタジー仕様だ。冷たい外気対策には、これが手っ取り早い。

 興味を示したのか、バサバサの茶髪を伸ばした女性は、熱を持った石を指でつつきに行った。

 

 

「ぬくい!餌の中と同じくらいだ!…アツっ!」

 

 

 兜を脱いだためか、女性の声からおどろおどろしい響きは無くなっている。冷や汗を垂らすような殺意も、警戒心もまるでない。先ほどまで、命のやり取りをしていた戦士とは思えないほどのギャップだ。

 俺は緩みかける警戒を何とか留め、十分に周囲が乾いたことと「猛進の鎧」が不意打ちをしてこないか確認してから、火を焚く。一時もこの戦士から目を離すことはできない。

 

 

「火、火はダメだ!近づけない!」

「獣避けだ。話している途中で、血に誘われた獣が現れてはたまらない。…では質問に答えてもらおうか。」

「グウウウ…。分かった…。」

 

 

 俺が声を荒げる女性にそう返すと、驚くほど素直に頷く。

 焚火を恐れる理由だが、火が人間がいることの証拠と教え込まれたのではないかと考える。言葉を話せるのは、この女性に教えた人間がいるということだ。

 しかしゲーム中で全くと言っていいほどNPCに言及されていないため、人間との接触が許されていない一族なのではないかと。

 

 俺の推測は一部当たっていた。俺がまず尋ねたのは、この女性の名前と、これまでの生き方についてである。外見年齢の割に精神が未熟であるように思えたため、満足いく回答が返ってくることは期待していなかった。

 しかしたどたどしくも、女性はしっかりと話す。蛮族的存在ではないようだと、俺は認識を改めた。

 

 

「われは…サング。祖よりたまわった血…人獣の生き残りだ。群れを失ってから、ずっと、おのれを高めてきた。」

「ありがとう、サングというのか。人獣…聞いたことが無いな。それはどういう一族なんだ。」

「グウウ…祖は分かたれた。…森にかくれるだけでなく、おのれを高めねばと。異形の血肉を喰らい、高まる…。」

 

 

 女性サングの言葉に引っかかるものがあった。「生き残り」や「森に隠れる」という部分だけで早合点するわけにはいかないが、俺が知っている集団に関わりがある可能性はある。

 それは「バックスタブレイブ」内で、意味深な要素を散りばめながら、結局全貌を掴めなかった集団。そのまま「森に潜む者」と呼称されていた人々である。

 俺はサングに対し、引き続き質問をする。

 

 

「森に潜む…。サング、『岩の聖女』という呼称は知っているか?それが分からなければ、ロシーと言う名前は?」

「…グル、知らない…!われが知るのは、一族のみ。隣り合う、人獣だけだ。」

「そうか…。」

 

 

 サングはしばらく考えてから、また素直に応える。魔法「感知」を使ったが、サングに魔力の乱れはない。こちらが主導権を握っている状態で、嘘を吐きとおせる演技力があるなら、俺は騙されるしかないだろう。

 俺は問答を続ける。乾いた血の臭いがきつくなってきたため、「魔力の薄膜」によって防護し、女性の処遇について考えながら。

 

 

「質問を戻そう。人獣についてと、どうやって異相付きの中に入っていたか。」

「分かった。オマエは、新たな群れの頂に立つ!なら、われらの業も覚えねばならん!」

「…それについても聞かせてもらおうか。」

 

 

 文明から離れた者たちには、独特の風習がある。俺は何故この女性が問答に乗り気だったのか、何となく理解をし、冷や汗が垂れるのを感じた。

 

 

 

 そうして夜は過ぎ、陽が昇る頃。

 俺は、戦闘よりもサングとの問答に疲弊し、ずんと体を重くしていた。異文化交流とは想像以上に体力を使う。

 夜の間に、海へ繋がる河川にて鎧ごと体を洗い、汚れが落ちた女性は未だ元気である。今サングは、俺が渡した干し肉を齧っている。

 サングは、俺が貸した磨き砂や香料を、特に疑いもせず使った。血肉の生臭さが隠れたのは良いが、七、八時間であまりにも警戒を解き過ぎている。

 

 

「主、この肉うまいぞ!こんなうまいなら、町から奪って喰えば良かった!」

「それはやめてくれ。食料なら俺がやる。それと…俺は、人獣になるつもりはない。交流するならば歓迎だがな。」

「なに!だが母は、強き者を取り込むように、言った!オマエは、われの主だ!」

「……。」

 

 

 俺は言葉を無くし、サングから聞いたことを整理する。「バックスタブレイブ」で影も形もなかった、「人獣」とは何かが見えてきたのである。

 

 まずこの女性が着る、「猛進の鎧」は複数あったことが分かった。群れと呼称していた集団の全てが、この鎧を纏っていたようなのだ。「共喰いの鎧」の系譜は皆同じく、群れを形成していたと。

 人獣とは、獣を模した鎧を身に着けている集団のことで間違いなさそうだ。「祖」というのが何か不明瞭なままではあるが、大方掴めた。サングが使った魔法から、先祖は「森に潜む者」に関わりがある。

 そして、人獣は分派のようなものらしい。姿形も分からなくなったが「祖」は獣の要素をすべて盛り込んだ鎧に身を包んでいたと、彼女は言った。

 

 また、サングが所属していた集団は、十数年前に壊滅している。それからサングは殆ど独りで生きてきたため、精神性が育ち切らなかったようだ。だからといって異相付きに人々を襲わせていたわけではなく、ただ中に入り込んでいただけらしい。

 壊滅の直接的な原因は、やはり上位種絡みだ。サング曰く、「骸から飛び出る白を背に括り付けている」らしく、既に「猛進の鎧」以外の群れもやられていると。

 骨ばった翼。それは、旧い上位種の特徴だ。羽虫でない方の、悪魔のような外見をした上位種が執拗に、「人獣」を狙っているのだ。

 

 俺たちプレイヤーの推測は当たっていた。主人公の勇者に襲いかかってくる個体は、尖兵にされた人獣の一部だったのである。

 サングは上位種への憎しみを露にし、人獣に伝わる業を使うことによって強くなろうとしていたのだ。

 

 

「…主になれないが、貴女たちとは情報を共有したいと思っている。上位種、貴女が知っている『人擬きの化物』は、殺し尽くさねばならない。」

「グルウ…何故、拒む。母の言った、一族のさいこうも、オマエを長にすればなせるのだ!」

「よく知らない人間に、大役は任せられないだろう。だが、貴女たちが持つ業については興味がある。直近で望むものについてもな。取引といこう――」

 

 

 持っていた最後の干し肉と綺麗な水をサングに渡す。取引の内容とは、彼女が望む力と一族の再興の一助を担うこと。その対価として、人獣が用いる魔法を共有することである。

 血肉を直接的に魔力向上の糧にする技は、作中で表に出て来ず知り得ぬものであり、凄まじく有用なものだ。

 

 俺はそのことを一言一句、誤解をしないように伝える。俺の目的は、知っている人命を救い、ケルの旅路における「小石」を取り除くことだ。サングの言うように、他者の前で力を誇示することではない。

 

 香料付きの磨き砂で綺麗になった歯を剥き出し、サングは唸る。この世界の言語を理解しているため、サングに言葉の意味が伝わらない事はない。納得がいっていないだけだ。

 

 

「…われら、人に近づくことは、許されない。人獣にならぬのならば…!」

「貴女の一族については、気の毒に思う。だがサング、貴女一人ならば掟を忠実に守る必要もあるまい。実際、俺の取り出した文明の利器に触れただろう。」

「それは、オマエが主になるからだ!」

「…同盟という形をとるのはどうだ。多くに貴女たちのことを言いふらしたりはしない。上位種を共に狩れば、敵は減り一族の復興に近づける。そして人獣を集めることが出来れば…手始めにサングが今望む、同胞との再会に協力しよう。」

「グウウ…。オマエは、変な奴だ…。」

 

 

 俺は、サングがこのリューンの町付近に来た理由を知った。彼女は、別の群れではあるが同胞である、人獣の気配を辿ってきたのだ。

 それは、熊を模った鎧を着こんだ者たち。つまり「共喰いの鎧」と同じ一族である。

 

 もし、サングが追ってきた中に「共喰いの鎧」がいれば。説き伏せ、尖兵にならない内に協力関係を築き上げられる。正体不明の敵から、異相付きを狩る心強い味方として、認識を変えられるかもしれないのだ。

 俺は何としてでも、この奇妙な出会いを無駄にしたくはなかった。多少自身に損があっても、有用なものはおさえたい。

 

 

「その、長となれる者が他に見つからないならば、仮に俺を置いてもいい。立場だけだ。それも、貴女が本当に良しとするならば。」

「なんだ、なら良いぞ!オマエの言う通りで良い!」

「……。」

 

 

 俺が躊躇いながら言うと、サングは表情を一変させた。

 手放しが過ぎる。これも力を至上とする文化故だろうか。俺が戸惑いを強くしていると、サングは猪の頭部を模した兜を被り、前傾姿勢のまま待機する。俺の、次の言葉を待つかのように。

 

 

『強き者に従うが、われらの習わし。さあ主よ、どこへ向かう!』

「…俺一人では、判断を誤るだろう。友人の下へ行く。決して、市井の人間に襲いかからないでくれ。」

『ムグッ…分かった!』

 

 

 干し肉を水でふやかしながら飲み込んだサングは、元気よく返す。

 昨夜から起きた事の情報量が多すぎる。俺はリューンに滞在する幼き友人と、経験豊かな老年の友を思い浮かべ、判断を仰ぐことにした。

 トリネとジェロムには迷惑をかけることになるが、俺も数日後上位種を討つために気持ちを整えねばならない。信頼できる友人に情報共有しておくのが一番だ。

 

 それに、俺には考えがある。トリネが得意とする流血魔法と、人獣の扱う魔法には近いものを感じる。研究熱心な少女の力になれるかもしれないと、俺は思ったのだ。またジェロムのような話上手なら、俺では聞き出せなかった情報も引き出せる。

 

 俺が一歩進めば、サングは俺の前を一歩進む。獣が人間の形を成したような一族の在り方に、俺の胸には、体に疲労感を残しながらも興味が湧き上がっていた。

 

 

 

 リューンの町まで、「猛進の鎧」を伴っていく。サングが時折かぶりを振る姿は、猪そのものだ。町が見えるなりサングは唸るが、俺の進行方向に黙って向かう。

 入口まで来ると、町の守衛たちが俺たちを留めた。船乗りのような恰好であり、町の守りと兼任していることが伺える。

 人間としては様子がおかしい女性のことを怪しみ、連れている俺のことも不審がる。よく考えれば当たり前のことである。

 

 

「旅の御仁、その鎧の連れについてだが…通すのは難しい。ただでさえ、昨夜大量の負傷者が出たのだ。危険を町に持ち込むことは…。」

「おい、旅人に話す事でもないだろう…!そういうことだから、すまないな。しばらく別の町をあてにしてくれ。」

『グウア…!主、敵意を感じるぞ…。』

「おさえてくれ。…その通りだな、失礼した。」

 

 

 俺は、隣に立つサングから強烈な威圧感が発せられたため、掌で留める。昨夜の戦闘とは、十中八九猪の異相付きのことだ。「複合付き」に入り込んでいたサングの実力について、改めて認識するとともに、俺は頭を下げてリューンの町から一旦離れようとする。

 ほとぼりが冷めるまで、数日以上はかかるだろう。事を荒立てたくないため、策を練ることにする。それか、トリネに外へ出ると話しておいたため、集合場所に来ないことに疑問を抱いて動いてくれるまで待つ、という手もある。

 いっそ、あの巨猪の骸ごと持ってくるかと考えたときだ。昨夜顔を合わせた冒険者が、門の中から見えたのは。

 

 

「おう!あんた、エドワルドだよな!すげえ、よく生きてやがった!」

「通してやれよ!お前らの命の恩人だったかもしれねえ奴だぜ!」

「てめえら、そう簡単なもんじゃないんだよ!守衛ってのはな――」

 

 

 俺の目の前で、冒険者の大男たちと守衛たちが睨み合う。服装は違っても、荒事慣れをした人間同士ということだろう。口汚く互いを罵っている中、鉄鎧の男性イワンも顔を見せる。

 明るいところで見ると、人が好さそうな顔立ちをしているのが分かる。二ッと彼は笑うと、自身の胸元を叩いた。冒険者としてのタグを見せるように言外に示しているようだ。

 

 証人がいるならば、話も通しやすくなる。俺は普段はしまっている「越境」の人間としての証を腰回りの鞄から、巨猪から削り取った牙を袋から取り出して見せる。巨大な牙はずっしりとしていて、俺の持つ直剣よりも長く太い。

 

 

「俺は越境に所属している、『青月』のエドワルドだ。…昨晩、異相付き相手にしんがりを務めた。これが証拠だ。」

「んん…?で、でかい!」

「通称付きの冒険者か。…町に知り合いがいるなら、早く言ってくれ。通っていいが、その連れの手綱はしっかり握ってくれよ。」

「有難い。貴方たちのお陰で助かった。」

『……。』

 

 

 守衛たちはサングの様子を注意深く見つめた後、門を開いてくれた。思わぬ助勢に、俺は冒険者たちへ頭を下げリューンの町へと入る。

 

 

 

 

 人間らしい文明から離れ生涯を過ごしてきた女性は、奇天烈な景観に惑いながらも、全身鎧の男性へとついていく。己が既に、主と定めた狩り人。強き者の背に。

 

 人獣と同胞内で呼称される存在は、一族存亡の危機に立たされていた。

 異相付きを餌とする中、天敵が人獣を襲っていたからだ。「森に潜む者」から分かれる前、大陸に生まれ落ちてから常に直面していた問題である。

 彼らは言葉少なく、群れが分裂するごとに忘れていってしまったことだが、その天敵とは上位種と呼ばれる人智を越えた化物であった。

 時に同胞の血肉を被り、時に弱き人間のふりをする化物。異相付きよりも強いというのに、狡猾な手段を以て不意をつき、嘲笑う。精強揃いであった人獣の一族は徐々に数を減らされ、追いつめられていた。

 

 サングと名付けられた女戦士は、群れでただ一人生き残った。戦闘により散り散りになった若き同胞は、順々に上位種に消されていった。サングは、彼女の母から早い内から教えられていた業「薄膜の胎動*1」を用いたことで、難を逃れたのである。

 だから、獣の血肉とそれを介して作った薄膜で守られることは、サングへ揺り籠の如き安心を与えていた。

 女戦士は誓った。腹の中で、餌の血潮を力へ変え、いつか「人擬きの化物」をも喰らってやるのだと。

 

 

 女性は身体が成長するにつれ、群れでの狩りを忘れていく。殺すか、殺されるかの闘争へ常に身を置き、力を高め、最早己に敵う者はいないとまで思っていた。

 しかしそれは、比較できる戦士がいなかったからだと、思い知ることになる。

 

 自身と同じく全身鎧で、しかし月明かりで表面を反射させる銀の騎士。温かい眠りを妨げたその男性に、サングは怒り攻撃を仕掛けたが、拳が届かない。

 異相付きを転倒させる蹴りも、血肉を突き破れる突進も、ひらりと躱され手痛い反撃を受けたのだ。

 

 戦いが終わった後、相対するそれは人擬きなのかと恐怖した。ほとんどの人間は、獣相手に一人では立ち向かわない。人獣の戦士も、上位種を相手にするならば同じように群れで戦う。

 兜で表情が読み取れず、向けられる殺気にサングは死を覚悟した。

 

 

 しかしその刃は振り下ろされず、寧ろその騎士は穏便な対応をした。温かな場を用意し、血肉で汚れた己の身さえ綺麗にし、良い香りのする物を分け与えた。その上、一族復興に協力するとまで言う。

 孤独に戦ってきた女戦士にとって、久しく触れたことのない人情であり。この出会いを運命的に思った。

 

 もはや、幼い頃に聞いた掟の大部分は抜け落ちている。だが母から教え込まれたことは頭に入ったままだ。

 

 強い者の血を取り込まねばならない。その方法は分からないが、かつて群れの頂にいた男性は権威を求めていた。群れの長という立場は魅力的なのだと、サングは知っている。

 

 他の群れのにおいを辿り、群れの一員になることを望んでいたが、今のサングはその事は二の次に思っていた。熊の人獣に頼らずとも、己の力で群れを再び作り上げてみせる。

 女戦士は、騎士から漂う澄んだ花の香りを嗅ぎ、兜*2を目深に被った。

 

*1
テキストでの言及無し。使用者の感覚に依存するため体系化されず、作中では失伝している。

*2
「血に錆びた猛進の鎧」…理性を亡くした獣の鎧。手入れされず、錆びていても強い魔力を纏っている。獣たちは異形の血を吸い、いつか仇の喉元へ牙を届かせんとしていた:ゲーム内テキストより

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