裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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千切れた血脈と結ばれる縁

 相談用の部屋を借り、俺たちは向かい合って座る。イワンとミーシュカは揃ってごくりと喉を鳴らし、緊張した面持ちだ。

 俺も兜が無ければ、同じ表情をしているだろう。ただ静かに膝をつけて待機する、巨躯の鎧が雰囲気を引き締めていく。

 段々と重くなってきた空気を変えるように、イワンが口火をきる。彼の計らいにより、俺も話しやすくなった。

 

 

「…やかましいのはこいつだけになったぜ。それで、おれらに何を?あんたみたいな通称持ちに、役立ちそうな話は持ってないと思うけどな。」

「通称を持つのは貴方も同じだろう。『流麗槍』イワン。先ほど、俺に言葉をかけてきた冒険者たちから聞いた。その槍捌き、是非拝見したいものだ。」

 

 

 俺はイワンの武器を見る。穂先には鋭い返しが幾つも付いており、形状は平地に生きる獣だけでなく、海の生命にも対応できそうな得物だ。単純な槍というよりは、銛と表現すべきだろうか。

 しかしイワンは、乾いた笑みを浮かべて自嘲するように言う。彼の心には、魔力を持たない事が重くのしかかっているようだ。

 

 

「よく聞き取れたな!だが魔力を持っていなければ、名前負けだ。」

「そこまで言わなくてもいいだろ!まあ、アタイはあんたも越えてやるけどな!」

「はっ、すっかり生意気になりやがって!…あんた、もう本題に入ろうぜ。おっさんとガキが押さえつけ合ってんのを見てもだろ?」

「いいや、価値はあった。ただのパーティメンバー相手に、そこまでの親愛は見せられない。…貴方たちは親子か、まずはそれを聞きたい。」

 

 

 イワンは眉を顰めると、口を開けて首を傾けた。それを知って何になるのかと言う顔だ。俺は、頷く彼らに前提を固め、次に問いかける。

 親子で冒険者をしていること、つまり危険に身を置くことを良しとする状況にあるということだ。ミーシュカの母親について、俺は聞かなくてはならない。

 

 

「――言いづらいことかもしれないだろうが、聞かせてほしい。イワン殿、貴方の侶伴についてだ。俺の連れが、ミーシュカ殿に興味を持っていてな。俺もその魔力には特異性を見ている。」

「へえ…魔力持ちってのは、そんなことまで分かるんだな。…良いぜ。あいつについて聞かれたのは、随分久しぶりだ。話さなくなると、どんどん忘れちまう。良いことは忘れたくないんだよ。」

 

 

 結局理由付けをするため、無礼な物言いになってしまったが、イワンは了承してくれた。俺とサングにとって価値ある話だと、理解したような顔だ。

 掌を組んでじっと手の甲を見ながら彼は、頭の中から記憶を引っ張り出すように話す。

 

 

「あいつは…女なのに、男のあんたと同じくらいでかかった。それにおれでも感じられるくらい、魔力が迸ってやがったんだ――」

 

 

 そして言葉の切れ目に、イワンはサングの体を上から下まで見る。俺はイワンの様子と次に飛び出た言葉から、施設に入ってくる前彼が浮かべていた訝しげな表情のわけについて、誤解していたと分かった。

 あれはサングを怪しんでいたのではなく、既視感を覚えていたのだと。

 

 

「エドワルド。悪いが…おれが話し終わったら、あんたの連れについて教えてくれ。ようやくウルサを見つけられるかもしれねえんだ。この糸は、逃せない。」

「やはり、この密話には価値がありそうだ。…ミーシュカ殿も、情報共有に協力してくれるだろうか。」

「魔力…よく分からないけどよ、母さんについて覚えてることなんてほぼないぜ。あ、じゃあアタイが思い出せたら、エドワルドのアレ、見せてくれよ!アタイも魔法使えるかもしれないんだよな!」

『グル…。弱き者に…業は扱えぬ。』

「こ、こいつ喋んのかよっ…!」

 

 

 サングの兜越しの恐ろしい声音に、ミーシュカは両手を肩に付け擦る。サングは鼻を鳴らすと、再び岩のように動きを止めた。

 しばらくして、イワンが話し始める。彼が大事に思う人、ウルサと呼んだ者との出会いと別れについてを。

 

 

 聞けば聞くほどに、その人物が異質であったということが分かる。

 イワンとウルサが出会ったのは、リューン近辺の森の中であり、そのとき女性は砕け散った鎧と共に、気を失っていたそうだ。辛うじて残っていたのは胴鎧と、右の手甲のみで、深い裂傷が幾つもあったという。

 言葉の紡ぎ方も、町の人間とは違っていたとイワンは話す。寡黙だったが、物を示すとき古い響きが多く、世俗に疎かったと。

 

 だがその異質さを包み隠すように、ウルサは温厚であったそうだ。巨大な背丈であっても、町に溶け込めるほどに。

 

 

「――三年だ。あいつはミーシュカを寝かしつけた後、いきなり消えた。直した胴鎧と手甲もだ。ただの家出じゃないってのが分かったんだよ。ウルサはおれたちと違う世界で生きてきて、また戻っていったんだ。」

『だが…われは、感じる。この弱いヤツとは違うが、にている。』

 

 

 サングが口を挟み、イワンとミーシュカが一瞬肩を跳ねさせる。はっきり言って俺には何も感じられないが、この女戦士が別にあるというのならば、取り越し苦労にはならなそうだと希望が見える。

 

 

「なるほど…ならばそのウルサという戦士は、リューン近くにまだいる可能性が高い。同族なら通ずるだろうからな。感覚とは中々侮れないものだ。」

『主、オマエも業を知れば、感じられるぞ。』

「あるじって…強いと、こんなでかいのも従者にできんのか…。」

 

 

 ミーシュカは最早、サングを別種族とでも見ているように言う。肝が据わっているため、ミーシュカは例え魔力が無かったとしても、通称をつけられる逸材だろう。

 

 

 そうして、イワンの話が一通り終わる。サングの了承を得て、次は俺から彼に必要そうな情報を伝えようとした時だ。

 部屋の外側から、か細いが特徴的な友人の声が聞こえてきた。

 何故ここに入ってきたのかを考える前に、俺は立ち上がる。少女の声は明らかに平時とは違っていて、嗚咽混じりだったのである。

 

 いきなり立った俺に、イワンが困惑した顔で疑問を呈する。俺は軽く頭を下げると、一旦外の様子を見たい旨を伝えた。

 しかし出るまでもなかった。ドアを開けた瞬間、その声の主が顔を涙でぐちゃぐちゃにして立っていたのだ。

 

 

「エドさぁん…!ううぅ…。」

「何があった。…すまない、三人とも。この娘も部屋に入れさせてくれ。大事な友人なんだ。」

「おい…こんなちっこいのを友人とか呼んでたのかよ。そりゃ、一人でリューンまで来させられないな。」

「ああ、そうだろう。トリネ君、この布を使って顔を拭くと良い。」

 

 

 通路から強面の冒険者たちの顔が覗くが、俺が手を挙げると、がやがやとしながら元の席に戻っていく。トリネを心配してくれたのかもしれない。

 荒くれ者でも、越境に所属しているなら良心があるというわけだ。野盗だったり、町を我が物顔で歩き回り捕縛される悪人だったり。「バックスタブレイブ」の世界において、奪うことを望む、悪意に染まった落伍者は沢山いる。

 

 俺の右腕にしがみつくようにして、見知らぬ三名へ怯えながらトリネは横に座る。

 すると、イワンは人の好さそうな顔をふっと緩め、懐から四角く小さな物品を取り出した。包装を除いたそれは琥珀色をしていて、蜂蜜を固めた甘味のようだった。

 鼻をすすりながら、トリネはじっとそれを見つめる。

 

 

「嬢ちゃん、これでも食いな。毒なんか入れてないぜ。店売りの甘味だ。」

「あ…ありがとう、ございます…。」

「オヤジ、また買ってやがったのか。アタイにも寄越せよ。」

「お前な…勝手にとっていけ。エドワルドと、そこのサングもいいぜ。ガキの頃から甘味好きなんだよ。つい買いだめちまうんだ。」

 

 

 真剣な話をし続けるのは、疲労がたまるものだ。イワンに促されるまま俺も、ほぼ正方形の飴のようなそれを兜の中に放り込む。その味は覚えがあった。

 俺は確信一歩手間まで考えを深め、トリネが目尻を下げてぽつりと零した言葉で、正しいと分かる。

 

 

「えへへ、おいしい…。エドさんこのお菓子、ジェロムさんが作った飴にそっくりだねぇ…。」

「……!」

「どうしたんだ親父?」

 

 

 イワンの表情の変化は著しく、固まった父親を見てミーシュカがぼんやりとそう尋ねる。

 この瞬間、トリネを交えて話を進めることが有用であると感じた。俺はこういった話し合いの場では、目的の議題に関係しなければ情報を漏らさない。

 

 俺は隣で微笑む友人が、話を一気に進めるための呼び水になると思い、次の話題へと移る。人獣について、そしてイワンの出自についてを。

 

 

 

 

 小さな黒髪の少女トリネが話に入ってきてから、壮年の冒険者イワンは、己が余裕を無くしているのを感じていた。人獣についての情報も得られたが、それと同程度に感情を揺さぶるものが彼にはある。

 つぶらな黒い瞳を輝かせてトリネは声を弾ませるが、イワンは因果が重なり過ぎだと、内心頭を抱えた。

 

 

「――すごい…イワンさんも、冒険者として町を守ってるんだぁ…!」

「…そんな立派なもんじゃないぜ。おい、ミーシュカ!笑ってないで、嬢ちゃんの話相手をしてやれよ!」

「くっ、ははは!オヤジ、この年で英雄願望持ちかあ!そうそう、リューンから全然離れねえもんな!」

 

 

 イワンは腹を抱えて笑う一人娘に青筋を立てながら、徐々に妙な気分になっていく。

 昔、決別を伝えた肉親の話が、他人の口から聞けることなど想像すらしていなかったからだ。聞けばトリネよりも、対面に座る兜で顔を完全に隠した男、エドワルドの方が知り合って長いという。エドワルドは話が下手だと自称しておきながら、行動を詳らかに言葉にできていた。

 記憶に残っている癖などを思い返し、イワンは口数を減らす。

 

 

「運命とはあるものだ。ここにいる人間は、イワン殿を基点に糸で繋がっているように思える。…ジェロムにもう一度、顔を見せてみないか。幼い頃の貴方と母親を描いた絵を、彼はずっと大事に飾っている。大成した姿を喜ぶはずだ。」

「ふっ…そうかよ。親父は…。」

『血の繋がりは、群れの中で最も濃い…。われは血によって、守られた。』

「応援するよぅ…!わたしの親も、ジェロムさんみたいな人たちだったら…。」

 

 

 サングは群れから受けた愛を知り、トリネは肉親からの愛を知らない。だがトリネは善良であり、人の幸せを願える少女であった。

 途切れてしまった絆を、再び繋ぎ直せればと思った。また己が得られなかった愛へ羨望も混じっていた故に。

 

 ミーシュカは単純明快で、楽観的に物を考える。擬音を交えて、見たことのない術師の力を夢想していた。

 

 

「エドワルド、その爺さんはどんな魔法知ってるんだ?やっぱり、ズバッと水の刃を飛ばしたりとかすんのか!」

「彼が戦うところは見たことが無いから、上手く言えないな。それに関してはイワン殿が知っているんじゃないか。」

「そうか!おいオヤジ、うじうじしてないで、さっさと行こうぜ!」

「仕方ねえ…。あんたがいなきゃ、ミーシュカが知ることも無かったんだ。親父と友人ってんなら、仲介は頼むぜ。」

「勿論だ。上手くいくように、事を進めてみせよう。…そうだ、トリネ君。聞きそびれてしまったが――」

 

 

 情報共有の時間は終わり、エドワルドは最後トリネに尋ねる。少女が言い出さなかったため、涙のわけを聞こうにも止まっていたためである。

 トリネは、はっと口を大きく開き、はにかみながら返す。

 

 

「えへへ…エドさんに会って、安心しちゃってたよぅ…。…とっても、怖い人に会っちゃって…。その人が、エドさんに伝えてって…。」

「…まさか、尖兵か。」

「ううん…!でも、怖くて…。エドさんに教えるね…――」

 

 

 トリネはこそりとエドワルドの兜に口を近づけ、文言を一言一句間違わず伝える。それを聞き、エドワルドの雰囲気は一瞬だけ、荒立つ。

 

 

「ありがとうトリネ君。その人たちは、どういう人相だったか覚えているか?」

「ううん…。どっちも綺麗だったけど…冷たい感じがして。でも一人はわたしよりちょっと、年上くらいの子だったよぉ…。もう一人は、大人の女の人…。」

「二人組か…。もし俺の推測通りなら、心強いが…。」

 

 

 エドワルドは、トリネから出てきた少ない情報から考え、結論を出す。リューンから離れるには、まだ問題が残っている。全貌を掴むまでは、離れられないと。

 

 そして全身鎧の騎士は、トリネにそのことを伝え。頬を赤く染めて少女は頷く。危機が迫ろうとも、トリネはエドワルドの戦いと「月」を見れることの喜びが勝っていたのであった。今度こそ役に立てると、少女の思考は想い人で埋められていた。

 

 

「足踏みすることになってすまない。厄介事は放置していけないんだ。サング、貴女にも協力してもらいたい。力が必要になる。」

「大丈夫だよぅ…。わたし、まだお休み長くできるから…。」

『分かった。気配が近い…共に狩ろう。一族の、名誉のために。』

 

(…そういう感じか。あんたよっぽど、因果が絡んでやがるな…。)

 

 

 イワンは、少女の言動と、血に錆びた鎧の戦士へ感情を浮かばせ。ミーシュカは変わらず、将来掴む力を考え続ける。

 

 陽が頂から下がってきた。リューン近辺へ潜んでいる悪意に、それを潰さんとする者たちが同じく潜む。

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