裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す 作:棘棘生命
白き巨影が“餌”とみなした者たちを喰らおうと、水面から姿を現す少し前のこと。
黒血絶ちについて、エドがサングに共有し終わってすぐである。
兜までも鎧を着こんだ二人と、鼬面の暗殺者は、見上げるほどの巨体と相対していた。それは正に熊と呼ばれるに相応しく、太く逞しい左腕と両足を露出させた戦士であった。
平地に散らばる尖兵の名残は、その戦士「母熊」が為した勝利であり。寡黙さは、それだけでプレッシャーとなり、放浪の騎士エドと、猪鎧のサングを警戒させる。
特に後者に至っては同じ人獣の一族であるが、直前に尖兵と化した同胞たちと交戦したために、気を緩められなかった。
月明かりが辛うじて、意思無き骸と人とを分ける。口の端からしゅうと息を漏らす戦士に対し、ナタリーが面を脱いでその証を近づける。血塗られた生き方を自ら望み、正道を外れることでより憎悪を熟す、「黒血絶ち」の象徴の一つを。
それを見るなり戦士は、掴んでいた尖兵の胴体を放り投げ、呼応するように低く吠える。長きに渡る孤独な守りによって今や言葉を殆ど亡くし、執念だけで生き続ける「母熊」の姿がそこにはあった。
「…言った通りだな。奴らが操っていないとしても、尖兵相手に無双とは。」
「オ、オマエが…『母熊』なのか。なぜ、ここまでになった…?」
「だいぶ前からこうだよ。…群れを無くしてからずっとね。人獣の一族は、亡霊に呑まれる。潜む先の心地が良かったんだろう。」
「流石、ナタリーだ。貴女と話す度に見識が広がる。」
「ふ…この程度なら、隠していても秘密は漏れるさ。」
(――そう、アンタが持つ嗅覚と情報とは…比べ物にならない。恐ろしいことだよ。)
ナタリーは、声音の上がったエドの賞賛を流すと彼の兜横を、血みどろの生き方で感情が擦り減り、冷たくなった瞳で盗み見る。
ゼシニス大陸のどこにでも黒血絶ちは潜み、今もその命を使い潰している。しかし、間諜と暗殺を得意とする人員たちがどれだけ労しようと、尖兵が襲撃する場や、裂け目の位置に居合わせ続ける事はできない。それは突発的で、対策しようとも後れを取るものだからだ。
ナタリーは誰よりも、「月」を知る騎士を恐れる。ナタリーよりも若く、未だ限界を迎えていない戦士。この都合の良すぎる存在が、信念を折られたら。もしくは刃をこちらに向けたら、それだけで復讐は瓦解する。
復讐に生きるとは、視界が狭まり足元が疎かになるもの。視野狭窄を補うものが無ければ、上位種やそれに操られた者が、ナタリーを狩る側ではなく、哀れな獲物へ変えてしまうのだから。
エドは大人しくなった「母熊」と視線を交差させてから、ナタリーに判断を仰ぐ。戦士には「母熊」だけでなく、ウルサという名前があった。
そして戦士が今も尚、リューン近辺を守り続ける理由。人物について、エドは知っている。イワンから聞いた情報だけでも、エドは巨大な戦士の正体をつかんでいた。
「ナタリー、彼女に聞きたいことがあるんだが、問題ないか?この戦士の家族についてだ。」
「あたしに聞かずとも、耳はついてるよ。」
「ありがとう。ならば『母熊』…いやウルサ殿。イワンとミーシュカという名前に覚えはあるか。もしあるのならば、共に町近くまで来てほしい。奴らが、この程度の陰湿さで終わるはずがない。――まだ、リューンから危機は去っていない。」
「……!」
エドの言葉を黙って聞いた「母熊」ウルサは、大樹のごとき腕を組んでから、眉間に皺を寄せる。戦士は獣ではなく、掟を守る人間である。群れを失って茫然自失になり、一族の外で過ちを犯してしまったとしても、二度と掟は破るまいと心奥で誓っていた。
人獣の一族として生き、独りになった後「黒血絶ち」としての道も歩む。ウルサの生はいつも、血みどろだった。
だが一度、人の温かさを知れば忘れることはできない。母熊は時折、町を見ていた。出会ったばかりの人間に頼まれるだけで、もう一度過ちを犯すことを迷うほどに。
「熊羆」の鎧を着こみ、ウルサと共に駆けた仲間はもういない。つまり群れごとに決められた掟を知る者もおらず、破ろうと誰も咎めない。境遇の近しいサングでさえも。
血を以て、高みへと至る。それが一族に共通する標。優先すべきを間違えず、ウルサは両拳を握ってだらりと垂らした。目を瞑り、戦士は頷く。
「有難い。強い者がいれば、それだけで安心できる。…見れば見るほど、大きいな。俺と同じくらいと言ったイワンはどこを基準にしていたんだ…。」
「いつまで育った?うらやましいぞ!」
「……?」
静かな了承へ、エドは嬉し気に言葉を返す。そして彼が少し間の抜けた疑問を呟き、サングも同様にウルサへ感じたことを話していると、唐突に騎士の雰囲気が変わる。
プレッシャーを隠す事なく、虚空へ向ける。殺意は岩の多い海岸を貫いていた。首を傾げていたウルサは一族以外では感じたことのないほどのプレッシャーに体勢を整える。母熊は、戦いが先で待っていることを感じ取ったのである。
「…話している場合ではなさそうだ。助力をお願いする。皆、先に行かせてもらうぞ。」
「支援するよ。専門外だから、あてにはしないでおくれ。」
「われも、やる…!同胞よ、共に狩りへ向かおう。」
エドは「霊月の後脚」を用い、森の中を一直線に走っていく。その速度は三名を置き去りにし、誰よりも早く戦場へと到着した。
そして現在。騎士は、ベルーガナスと呼ばれる上位種を討つため、決意を固める。鯨もしくは海豚を模したような見た目の、ぬめった白。髪のような形をした発声器官が、震える。だがぶっくりと水を吸った骸のごとく太った下半身と、奇怪な鳴き声からは、神秘性が悉く削られている。
エドは、虫が耳元で飛ぶような不快さを感じる叫びに辟易としながらも、戦い方を練る。
ベルーガナスがぬるりとした腹部の穴から、ぼこりと何かを吐き出した。今まで海に近づいてきた者を喰らい、倒れた尖兵さえも取り込んで作った異形の兵士。それは「水底の腐乱死兵」と呼ばれていた。
だがその痛ましさに顔をしかめても、怖気づくような輩はこの場にはいない。
冒険者たちは異相付きとの戦いで、幾度も死を見て、感じてきた。人獣の一族も、若き日上位種へ恐怖よりも憎しみを抱いたジェロムも、幼く恐れることが当然であるトリネにおいても。ベルーガナスをただ醜悪な化物として位置付けている。
特殊な尖兵、「水底の腐乱死兵」はぐちゃぐちゃと、軟体生物のごとく体を歪ませながら、戦士たちに襲いかかる。同時にまた岩場に叩きつけられる上位種の鰭を、今度は人類の魔法が弾き飛ばした。ウルサ、サングによる白く輝く拳。体系化されず伝わった、人獣の業である。
空の左月は尖り、右月は半円を形作っている。波打つ水面に、それらがくっきりと映る。
◆
上半身を出した巨大な人擬きは、まるで山が突如海から生えたかのようだ。「霊月の後脚」を展開し、渾身の蹴撃をぶつけた箇所は、既に修復されて、残る傷も指一本程度の小ささだ。
眼球が全て黒で染められた化物は、俺たちをなぶり、けたたましく哄笑を上げている。
「純白の巨影」ベルーガナス。安直な命名規則からは想像できないほどグロテスクで、人類の敵の中でも強く、やり口も卑劣である。
ベルーガナスとこいつの同族は、かつての戦争後、この世界の海を我が物顔で動き回っている。そして魔力を持っている者や、心が弱った者等を見つけるやいなや、尾の疑似餌に幻の魔法を付与し、水底へ向かわせるのだ。
主人公の勇者たちが序盤の苦しみを乗り越え、大陸を出てからの強敵たち。海辺ではこの種族に狂わされた惨状を、常に覚悟しなければならないのである。
特にベルーガナスが作り上げた死体の山は、凄まじい量だったと「バックスタブレイブ」作中で資料に残されている。奴のせいで、この世界の海底では大量の亡霊が苦しみ続けているのだ。
(しかし…こいつがリューンを狙っていたとは。もしや古傷は、リューンにいた戦士に付けられたものか。)
「く、気色わりい…。おれのガキが、夜の海辺に来るわけねえだろ…!」
『キ゚ァ、キイアア!』
「てめえら、盾を構えろ!腹から出てくる化物を狙うぞ!」
「おうよ…『流麗槍』。足止めくらいはな…。」
声を張り上げるイワンは、冒険者たちの中でも一際目立つ。
ベルーガナスが遊んでいるためだろう。血を流しているが、まだ人は欠けていない。ぬるりとした尖兵や、ベルーガナスによってこれ以上被害が出る前に、屠らねば。
隙はあるが、巨体故に傷をつけても小さい。つまり大半の攻撃が意味を為さない。
俺は、戦闘の最中に幻覚を織り交ぜてくる化物に視線を固定しながらも考える。ベルーガナスには明確な弱点がある。
それは、体のあちこちに付いた古傷。この箇所を穿ち、広げることで大ダメージを与えることが出来る。いわばベルーガナスは半分ギミックボスなのだ。
主人公の勇者たちはこいつと戦闘した際、船のマストや流れ着いた場所にあった塔などを駆使し、脳天や上半身にある古傷を抉って勝利を収めた描写があった。
俺も、記憶の中にある主人公たちを真似ればいい。
ここでこの化物を討てば、よりケルと仲間たちが見せつけられる悲劇は減る。そして、ケルが育つまでの数年間で、犠牲になってしまったであろう人々が、未来を作る。これは小石どころではない。
戦場は膠着状態に陥り、またぼごりと音を鳴らして、ベルーガナスの下腹部から尖兵が現れた。
俺はその骸の姿に、はっと意識が冴える。溶けかけてはいるが、骸が着こんでいる防具は人獣のものだったからだ。
ある推測が、頭の中に浮かんできた。人獣の尖兵を使役していた、あの旧い上位種はベルーガナスと繋がっていたのではないかと。
次の瞬間、その推測は補強される。わらわら出てくる尖兵には、獣を模した鎧が混ざりすぎていた。
「…節操なしの化物め…!」
死しても尚、あの化物の悪意を感じる。どこまでも人間を辱めてくる上位種に、俺は瞬間的に冷静さを失いそうになる。
だが、俺は正気に戻る。後ろで身を縮ませながらも、戦いに加勢をするトリネの姿が視界に入ってきたからだ。この戦いに勝利するには、前衛がいなくてはならない。注意を引きつけ、後衛の術師が確実に一撃を見舞えるよう隙を作る役割が。
今それを為せるのは、この場で俺だけだ。
怒りは力を増させるが、足運びと判断から柔軟さを消す。俺はまず、尖兵が出てくる白い化物の腹、横に走った大きな古傷へ狙いを定めた。
◆
全身鎧の騎士エドが、ベルーガナスとの距離をぐんぐんと詰めていく中。海岸は乱戦となっていた。
広範囲に影響を与える幻の魔法は、仲間同士で刃をぶつけさせようとし。尖兵に被せた甘い誘惑で、手元を狂わされる。
惑わないようにと意識しても、視覚と聴覚を紛い物だらけにされれば、身を守るので精一杯である。しかも尖兵一体一体が、並の冒険者であれば圧倒できる強さを持つ。
越境の通称持ちと言えど、目印もないまま全方位から痛めつけられ、肉体と精神が限界を迎えようとしていた。
人獣の一族サングとウルサは、各個撃破を徹底しているが、幻覚のために攻撃が止まってしまう場面が多々あった。
しかし、幼き術師は戦況を分析していた。そしてトリネは、妙案を思いついた。「水底の腐乱死兵」の性質を見抜き、自身の魔法を使えると考えたのである。また、水の魔法に秀でるジェロムについても。
トリネはジェロムの近くへ寄り、作戦立てる。「流転の濁り盃」を飲もうとしていたジェロムに対し、図らずもトリネはそれを阻止する結果となった。
「魔法を当てるたびに、あのぬるっとしてるのがブレてるの…。幻もそれで、判別できると思う…!」
「分かった、やってみよう。なるべく広域に降らせるように。」
「ありがとう、ジェロムさん…!」
ジェロムは、無意識に幻に騙されない事へ躍起になっていたことを恥じ、トリネの観察眼に舌を巻く。そしてトリネは鞄の中から瓶を大量に出し、そのまま足で叩き割った。獣血が地面に零れ、トリネの手の動きで宙へ浮かぶ。
か細い声を必死で張り上げ、トリネは戦う者たちへ伝える。聴覚の優れた人獣の一族や、いつの間にか装束を着替えて、冒険者のような防具になったナタリーはすぐに気づく。
「皆さん…今から飛ばすから…!揺らいだら、それが偽物だよ…!」
「よし…『潮の水沫』」
「行って…!『血雨』」
術師二人が掌を翳し、魔力が込められた液体が柔らかに降り注ぐ。冒険者たちも、目の前にいる敵の姿が不自然にぶれるのに気づき、寄り集まった集団にて一体の尖兵を囲んで貫いた。それは殆どダメージになり得なかったが、その隙を狙ってサングの突進が尖兵を叩き潰した。
『次だ…!主の露払いは、われがやる!』
「すげえ、これが…人獣ってやつ――おい…?お前、もしかして…。」
「……。」
サングの動きに気圧されていたイワンは、幻が消えた視界に覚えのある顔を見つける。イワンとウルサは数舜見つめ合い、そして尖兵相手に武器を構える。それぞれ感情を湧き上がらせながら。
戦況は少しずつ、人間側に傾いていく。そしてそれは、一人ベルーガナスを相手取ったエドが、青い閃光を放った瞬間。明確に人間の勝ちの目が示された。
巨体相手に、出力を絞ることをエドは選択した。エドは、己が習得した「穿つ業」を腹部目がけてぶつける。
より尖らせ、古傷を開くように狙いをすませて。
「くっ…!尖れ――」
『ソンナ細いハリで何がデキル!』
一気に懐へもぐりこんだエドは、研ぎ澄ました「月」の魔力が奥部にまで刺さったことを感じる。そこから絞った魔力を開放するように、魔力循環を早めた。
「ここだ…!――穿つ!」
『キ゚イイオ…!ハナレロ!!』
「逃がすものかよ…!」
内側から膨れ上がる魔力に、不気味な響きで声を出すベルーガナスは、何が起ころうとしているかを察知する。身を引こうにも、エドは離れるつもりは決してない。瞬間、青い魔力が上位種の体内から漏れ、爆発する。
彼は既に数月前、第二学舎での死闘にて、己の限界を超える手段を知った。
魔力がほぼ空になったとしても、丸薬を飲み循環を高めれば、継戦できる。即ちそれは、体内の総魔力量を二倍にも換算できるということ。
体内組織に傷が入ろうと、動き続ければ治る。エドは肉体的には命を賭し、しかし精神には必ず生きて勝つという執念を宿して、叩きこんだ。
大量の黒血を撒き散らして、ベルーガナスは苦しみもがく。もはや人間という玩具で遊ぶ余裕は無くなっていた。
全身に使った「月融け」が消えかけるほどに消耗し、ふらつくエドは丸薬を二つ含む。一つはそのまま歯で砕いて飲み込み、もう一つはそれでも足りなかった場合のために舌で潰した。
『キュアルウ!!ツブレタつぶれた!ワのオモチャアアア!』
「さあ……次の傷だ。」
エドは躍り出て、同じように「月」の魔力を針を通すように刺し、上位種の腕で背で胸部で魔力を爆発させる。
巨体故に丈夫で、人型に近い種族と比べ動きは遅い。白い触手で騎士を捕えようとしても、魔力で出来た牡鹿の後ろ脚で蹴られ、直剣を突き刺される。
愉しみのために痛覚を廃さなかった上位種は、自身の体が解体されていく様に底知れぬ恐怖を抱いた。それは生命として頂に君臨し続け、人間を海に沈めて苦しめ、貪り食らってきたこの上位種にとって、二度目の感覚であった。
古い時代、侵略者として人類を虐殺し敗北させたベルーガナスは、リューンに住まう無力な人間を全て喰らおうとした。勝利の美酒に酔い、敵となる者はもはやいない。油断をしきっていた。
そのときだった。流線形の鎧を着た戦士が、ベルーガナスを神速とも呼べる剣技で切り裂いたのだ。
敗北しようとも、世界を悦楽のためだけに奪おうとする化物を、此の地における大海は決して許さない。
その戦士はベルーガナスと同じ種族の群れによって命を落とした。
だが、今この時。ベルーガナスをあと一歩のところまで追いつめた戦士の末裔がいる。
親と子。姿形はまるで違っていても、その執念は後の時代にも受け継がれている。そして今は細くとも、流れる水の如き交わりが、戦場にて確かな結束を作り出すのだ。
ジェロムとイワン。トリネやサング、尖兵を下し終わった戦士たちが上位種を睨む。冒険者たちは満身創痍で、人獣の一族も鎧が砕けている。力が残った者は、黒い血を吹き出すばかりで動きが悪くなったベルーガナスへ向かっていく。
エドは口に含んでいた丸薬のもう一つを、ついに飲み込む。背を張るようにして伸ばしながら、魔力を循環させる。
「魔力が残っているなら…手を貸してくれ。一気にかたをつける…!」
「…エドくん、もう無理はしないでいい。僕も、この化物の体内にぶつける。」
「エドさん…わたしにも、力にならせてね…。ありったけ使うから…。」
上位種に近付くジェロムは既に、魂を溶かして魔法を放とうなどとは思っていなかった。それだけでは足りないと分かったからである。命を絞り出すように「月」の魔力を放ち続けるエドを見て、ジェロムは無意識に復讐心で働かなくなっていた思考が、急激に晴れたのだ。
また、トリネはエドの「月」に滲む血を見た。滲み体内から零れる血こそが、降り注ぐ月光に見立てられる。新しい理論の始まりをつかもうとしながら、少女は想い人の状態に心を配っていた。目の前の脅威よりもエドの様子に、少女の心臓はばくばくと脈打っている。
鰭も下半身さえも、「月」の魔力でずたずたになり、ベルーガナスは最後の最後に魔力を持たない冒険者を殺そうと体を動かす。道連れにすることで、最後まで愉悦をと。
その一撃は、イワンの盾で阻まれ、魔力を宿した二振りの刀によって斬られる。リューンに一時的にある「黒血絶ち」の内、最も幼い者とその師の二名が切り払ったのである。
「…これで、終わりだ…。喰らうがいい…!」
『キイイ…モット、タベ――』
エドは震える掌から、上位種の脳天を目がけて業を放つ。それは放射状に拡散し、下げられた巨大な頭部を包むようだった。
魔力が残っている者は上位種の内部から広がるように放ち、発声器官を失ったそれは、何も音を出さず討たれた。魔力を持った者を執拗に狙った、虚栄の上位種は、水底に戻ることなく。
しばらくして、陽が昇る。力が抜け座り込んだ騎士は、友人に支えられながらも、黒い血が消される様を見届ける。
潜む化物はおらず。リューンの町はしばらくぶりの、清々しい朝を迎えた。
対照的なまでに情感はより濃く、糸は絡み付く。
皆様、いつもありがとうございます。三章も折り返しに入りました。よろしくお願いいたします。