裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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鍛冶工房の二人?

 軽く雑談をした後、ケルはバンダナを取り、リィートイは俺が渡した手甲を一旦作業台へと置きに行った。そうして俺は、同じように椅子へ座ったリィートイとケルに向けて、近況を包み隠さず話す。またリィートイからもらった脚甲の具合についても。

 よく考えてみたら、第二学舎を出てから手紙を送っていなかった。増える裂け目の発生に対し焦って、連絡が疎かになってしまったということか。俺はまるで他人事のように思い、その離人症じみた感情に心奥で呆然とする。

 

 しかし俺の薄情さとは真逆で、リィートイの心根はどこまでも温かい。深く相槌を打って、真正面から俺の話を聞いてくれるのだから。

 そしてケルも同じように、真剣な面持ちで聞いてくれる。幼くも主人公はやはり、俺がこの世界に求める人間性を持ち合わせているのだ。

 

 

「――そうか…。厄介な奴らばかり…エド、本当によく戻ってきた。」

「リィートイの脚甲のおかげでもある。協力者がいたから、結果的に勝つことが出来たが…力不足は否めない。ベルーガナスはともかく、腐り落ちるソレオについてはまだ根絶していないんだ。」

「ははっ…ならよかった。それだけの上位種相手なら、上出来だろ!だが、お前の言う『丸薬』に頼るのも危うい。どうしようもなくなって、最後の手段として使うなら仕方ないけどな。…だからわたしと、良い方法を一緒に考えないか。」

「…真剣に考えてくれる友人は、得難いものだな…。助力をお願いする。」

 

 

 穏やかに笑みを浮かべるリィートイを見ていると、焦燥が和らいでいくのを感じる。リィートイの言うように、俺が所持している丸薬、『飢渇の雫*1』は、死中に活を求めるための道具であり、恒常的に使用するものではない。体内の魔力総量の伸びが鈍化してきたことを考えると、限界以上を引き出さなくては上位種を討てない。

 その状況を打破できる策さえ考えられればと、俺は望んでいた。リィートイの助け舟に、俺は情けなくも乗ろうとしていた。

 

 俺は痞えそうになる息を大きく吐き出してから、鞄からケルのために持って来た蔵書を取り出した。第二学舎で購入した、四属性魔法の基礎理論が書かれた本である。

 ここに来たら真っ先に渡そうと思っていたのに、頭が回らなかった。俺は両手で分厚い本を持ち、ケルへ差し出す。将来オールラウンダーを体現する勇者になってほしいと思いを込めて。初歩を幼い内から広く習得しておけば、それだけ不自由なく高位の魔法も覚えられるだろう。

 

 

「ケル君、これは土産だ。魔法の基礎が記されている。今も魔法に興味があるなら、読んでみてくれ。物語も中々面白いぞ。」

「わあ…!ありがとう、エドさん!ぼく、大切にするね!」

「いいものもらえて良かったなー!…わたしには手甲だな。よく分かっているじゃないか。」

 

 

 リィートイはケルのさらさらとした髪を撫で、俺へ向けてにやりと口端を吊り上げる。彼女と友人になってからは、色々な手土産を持っていったが、他者が作った防具や武器が最も喜ばれる。

 鍛冶師としての血が騒ぐのか、それとも猛き戦士として前線に出ていた残り香を覚えるのか。上気した表情からして、そのどちらもだろうと俺は推測する。

 感謝を伝えるため装飾品を買うにしても、彼女が気に入るかは分からない。向かい合って左に作られたサイドテールを飾る紐は、変わらず使ってくれている。次送るにしても、シンプルなものが良いだろう。

 

 

「刺激があったなら、俺も嬉しい。鍛冶師としても一流なリィートイになら分かると思う。どちらも古い魔力を含んでいて、こちらは貴女の同胞のもの。俺の友人から受け取った、代々受け継がれてきたという手甲だよ。」

「…そのエドの友人は、リューンにいるって言ってたよな。ネリールのやつが…。」

「知り合いだったのか。」

「ああ、良いやつだったよ。…良いやつすぎた。」

 

 

 作業台に置かれた、大きな手甲に紅葉のような掌を付け、リィートイは目を瞑る。「バックスタブレイブ」作中でも聞き覚えのない戦士の名前は、確かにリューンを守った英雄だったのだ。

 気持ちを奮い立たせる情報は、テキストの裏に隠されている。だから俺は今まで、リューンを何の変哲もない港町だと思ってしまっていたのだ。あれほどに深く因縁が絡みついているとは考えもせずに。

 

 

「友はこの遺産を再び表に出した。防具は使われなければ意味がないと言ってな。リィートイ、貴女なら上手く輝かせられるはずだ。」

「やってやるさ。埃を被るんじゃあ、戦果を欲しがったあいつも浮かばれないしな。それでこっちはまた…珍しい防具じゃないか。ロシー*2の子らの鎧…。」

 

 

 俺は、リィートイに呟かれた人名に反応する。この前、サングと出会って間もなく尋ねた質問の答えが、古き時代の生き証人から返ってきたのだ。推測が当たり、浮足立つ思いだった。

 

 

「やはりそうか。だが人獣たちに聞いても、岩の聖女については知らなかった。一族として現れてから長いのか?」

「お前…すごいな。本当どこまで知って……まあいいか。そうだ。人獣はロシーの子の中でも古くて、最も生き延びている。奴らのせいで、どれだけロシーが失ったか…。」

「…興味深い話だ。俺もその一族の生き残りと友誼を結んだ。色々と聞かせてほしい。…この手甲の主は、人として生きることを選んだんだ。主のない鎧…どちらも上手く使ってくれるか。」

「ああ。エド…本当に、わたしが好きにしていいんだな。」

「リィートイだから、任せられる。よろしく頼む。」

 

 

 リィートイを見つめれば、彼女は自信に満ちた笑みのまま頷く。リィートイがどのように二つを扱うか未知数だが、彼女に任せれば安心だ。その成果が形になれば、トリネに手紙を以て報告しようと、俺は思った。

 

 

「おうよ、わたしに任せておけ!…よし。話もまとまったことだし…お前は休んできな!」

「…だが、リィートイとケル君の近況をもう少し…。」

「ううん、休んだ方がいいです!エドさんのお話を聞いていたら、すごく疲れているの分かりましたから!」

「ケルちゃん力を合わせて、こいつを持ってくぞ!ほら、お前もきびきび歩けよー!」

 

 

 俺の話す番が終われば、二人の近況を詳しく聞きたい。そう思っていたが、リィートイは俺の肩をぐっと掴んで立たせ、ケルもリィートイの真似をするように背中を押してくる。

 友人と、世界の希望となる主人公の考えは無下にできない。俺は二人の思いやりにじんと心を滲ませ、押されるままに鍛冶工房の奥へ進んでいく。

 友人の私室には遠慮せざるを得ないが、もう安心できる場所は数少ない。結局俺は、戦い続けることが命を繋ぐと思いながらも、安寧に抗えやしないのだ。

 

 

 

 ドアが開かれる。リィートイの私室に入るのはこれが二度目だ。

 しかしこの前よりも、可愛らしい内装になっている。厳密に言えばぬいぐるみが増えているのだ。俺が疑問に思っていると、ケルが説明してくれた。

 

 

「ふふっ…エドさん、このクマさんたち、ぼくとお友達で編んだんだー!同じ村の皆とも作りました。リィートイお姉ちゃんが全部飾ってくれてるんです!」

「そうだったのか…。ケル君、俺は君をルヴネトに連れてきてよかったと、今心から思ったよ。友達と仲良くな。」

「ぼくも、ここに来れて良かったです。エドさんとミナお姉ちゃんが来てくれたから…。」

 

 

 ケルは両手を握り、愛らしく微笑む。それだけで疲れも吹き飛びそうなほど、俺はケルの現状を嬉しく思った。

 彼が成長してからも、絶望や裏切りで心を淀ませはしない。万全の状態で、主人公は世界を救うのだ。正しく救世主として先陣を切るケルの姿を幻視し、俺は一助を担いたいという思いを強めた。

 

 リィートイが暖炉に火をつける。そして毛布を手一杯に抱え、俺の前に置いた。その後、腕を大きく広げてリィートイは言外に要求する。

 

 

「準備できたぜ。寝ている間に鎧を直してやるよ。ケルちゃんはちょっと、部屋の外で待っててな。」

「え!わ、分かった…!見ないようにするね…!」

 

 

 ケルは両手で顔を押さえ、小さな悲鳴を上げるようにして素早くドアから出ていく。炎から零れる暖色のせいか、幼子の肌は赤らんで見えた。

 じっと掌を天井へ向けて催促するリィートイ。全ての部位に修理が必要であるため、まずは腰に下げていた直剣の鞘を外し、次に兜を脱ぐ。

 ルヴネトを離れてから四月以上が経過し、激戦によって傷んだ俺だけの顔。その傷さえも深く考えられずにいた俺は、崖っぷちに立っていたことを思い知る。

 

 

「とりあえずこれで体を拭いて、起きたら水浴びしてきな。頑張った分、しっかり休めよ。」

 

 

 鎧を全て外したところで、リィートイはそれらを抱える。彼女の声音は穏やかで、この前のごとく俺を微睡に誘う。

 これは俺の自己満足だ。本来労われること自体、おかしなことである。しかしそんな細かなことを考えられないほどに、俺は疲労を溜めていたらしい。

 リィートイがドアを閉める音を皮切りに、布で顔を隠した俺は泥のように眠る。久しぶりに味わう、真の意味での休息であった。

 

 

 

 

 リィートイが二回に分けて、エドの鎧を作業台へと運び。唐突に来訪した男がいない、二人だけの空間に戻る。リィートイとケルは、エドと話していた時に比べ、重苦しい空気を放っていた。

 耐えがたい沈黙を、リィートイが破る。ケルは口を固く結び、リィートイの問いかけへ了承した。

 

 

「ケルちゃん、エドが話した奴らについて話してもいいか?」

「うん。聞かせて、リィートイお姉ちゃん。エドさん…いつもあんなに苦しそうなの?」

「ありがとうな。楽しくない話なのに、聞いてくれるか。…そうだ。だけど今回は特にひどい。…相手が悪すぎたんだ。」

 

 

 幼く見える古の戦士は、鎧のリベットを最初に修理していく。彼女の語りは呟くようで、普段の快活さはなりを潜めていた。

 

 

「ケルちゃんも知ってるよな?人のような顔をした、残虐な化物。知っている人間からは、上位種って呼ばれている奴らだ。」

「ミストヴィルで、エドさんが戦っていた怖いのだよね。矛神の神父さんに聞いたら教えてくれた。ぼくたちを狙って、空から出てくるんだって…。」

「知っている人間にはすんなり教えるんだな。ケルちゃんが聞かされた通り、奴らは際限なく強い。騎士をどれだけ集めても絶対倒せるわけじゃないんだ――」

 

 

 リィートイは上位種の恐ろしさと嗜虐、そして特別な名を語りながら、エドの胴鎧における凹みを叩く。裂かれた場所は熱し、金属を継ぎ足すように元に近づけていく。元はリシディア騎士のものでも、意匠は潰れ、白銀はくすんでいる。もはやマントで覆い隠さずとも、教団以外の者には由来は分からない。

 

 ケルは表情を曇らせながら、エドが戦ってきた今までを想像する。しかしエドの在り方を痛ましく思うことは無かった。エドの用いる「月」は美しく、ケルにとっての救世主であることに変わりない。

 過酷な環境を生き抜いてきた幼子にとって、この世界の不条理はすぐ傍に在り続けたものである。

 

 ルヴネトの王都だけを見ても、光の裏には影があるものなのだとケルは理解している。往来で横行する盗みや、騙して利を貪る者の姿。矛神の騎士に牢へ突っ込まれたからといって、都やそこに住まう個人は変わらないと。

 

 

「それでも、エドは勝てる。限界まで絞り出せば、届いてしまうんだ。そんなに実力を持っていても、力が足りないって嘆くんだよ。おかしな話だろ?」

「うん。だから、リィートイお姉ちゃんと決めたんだよね。エドさんがルヴネトに戻ってきたら、うんと甘くするんだって。」

「ふふっ…エドはケルちゃんにご執心だからな。わたしたちが一緒に作った剣なんて渡したら、デレデレだろ!」

「喜んでくれるかな!いっぱい勉強したから…。」

 

 

 早くもケルは勇者見習いとして、矛神教にて訓練を積んできた。勇者とは何よりも魔力を練るための技術と、俊敏さが重要視される。裂け目を閉じるまで、誰よりも長く生き残らねばならないからだ。

 魔法「縫合」を習得し終わった後は、見習いであっても実戦に近い訓練へと移っていく。ケルはかけられる期待に応えるように、ぐんぐんと技を吸収していた。その吸収力は鍛冶の手伝いや、料理作りなどの、勇者に関係ない技術にも適用されている。

 エドが少女に望んだオールラウンダーとしての道を、既にケルは歩み始めているのである。

 

 

 

 ケルは、リィートイと親密な関係を築く内に考えを共有した。白き糸に「月」を感じてから、ケルは内に淡き輝きを感じ続けており。想いは肥大化して、自分の中に抑えきることが出来なかったからだ。

 初めて知った感情をどう対処すればよいか、頼れる身近な女性に相談するのも時間の問題であった。

 

 ケルにとって想定外だったのが、リィートイも少女と同種の感情をエドに抱いていたことだった。友人関係とは呼べないほどの、重く沈むような母性。

 そしてこの瞬間、ケルはリィートイの想いを直感的に理解した。憧れや恋慕がぐちゃぐちゃに混ざり合った中に、己も微かに持っていた想いであると。

 一回り以上も年上のエドに、感じるはずはないのに。ケルはエドへ、憧れとは相反する庇護の情を爆発させたのだ。

 

 

(ぼくを見てくれてる…。ならもっと…。エドさん、ぼくがたっぷり癒やしてあげるからね。)

 

 

 しかし相反するはずの想いは共存する。弱き部分へは甘やかし、強き部分に心を痺れさせる。

 ケルは、リィートイの叩く兜にぼうっとした視線を向ける。その後、バンダナを巻いてリィートイの手伝いを開始した。

 少女の心は「月」を縛り付け、己もまた縛り付けた故に動かない。

 

 

 ケルと明るい会話をする傍ら、金属を叩くリィートイは、ちらりと二つの手甲を見る。そうして決めていた案を実行に移すことにした。

 血に錆びた「熊羆」の手甲を磨き、「流刃」の隊列における手甲と共に高温で融かす。古い魔力が閉じ込められた金属を、リシディア騎士の手甲の外側へ重ね合わせたのである。覆うように、元の手甲と判別がつかないような技巧で、小さな鍛冶師は防具を強化していく。そして余った金属は、エドの兜と胴鎧へ使われる。

 彼女は受け取ってすぐ、エドのために手甲を融かすと決めていたのである。

 

 

(ネリール…ロシーの子孫…。エドが、お前らの闘志を継ぐ。絶対に、生きて帰すんだ…!)

 

 

 叩く槌に感情を込めるリィートイは、鬼気迫る表情を作っていた。

 上位種がどのように悦に浸るか、戦ってきたリィートイは知っている。無理をするなと言い聞かせたとして、エドは納得しないということも。男は、誰かが愉悦の果てに命を奪われることを考え、それを阻むことを望んで戦う。それによって己が擦り減ることも厭わずに。

 

 リィートイは、エドを止めるつもりは無い。ただ安心して帰れる場所になるのだと、考えを強固にしていく。

 だが彼女は自身の望みも叶えられそうだとも思う。エドは、ケルとリィートイへなすがままで、休息を取った。そしてこの鍛冶工房を安心できる場だとも言ったのだ。

 

 これまで以上に頑張りを褒め、エドをルヴネトへ帰りたくなるようにすれば良い。リィートイは思う。エドはもっと報われるべきだと。孤独な戦いによる強張りをほぐせる人間が必要なのだと。

 

 

(エド…わたしが、鎧と武器で守ってやるさ。それに、他にも良い方法を思いついた。)

 

 

 リィートイはケルと協力して、次々に修繕兼改良を完了させていき。最後に兜を打ち終える。暗めの銀色をしたアーメットヘルムは、改良によって僅かに色味を変化させていた。

 

 古い魔力が武骨な鎧へ、白と青とを伝わせる。これは、リィートイが鍛えた『青月』の鎧*3である。

 

 

「完成だ!それじゃあケルちゃん、ドアを開けてくれるか?」

「うん!エドさんの手甲も持っていくね!」

 

 

 リィートイとケルは息が合った様子で、掌を叩き合ってから、エドの下へ鎧を運んでいく。ケルは恥ずかしがりながらも、リィートイと共に部屋へ入った。

 

 毛布に包まれ、布越しの顔に陰を纏わせた男性は、未だ眠り続けている。布をどけたとしたら、これまでの険しい戦闘により、眉間に刻まれた皺が見えるだろう。また異形の怪物と戦い続けたことによる古傷も。人が近い距離にいるのに飛び起きないことが、二人に対するエドの信頼を物語っていた。

 

 二人は物音を立てないように鎧を並べてから、エドにかけられた毛布をそっと撫でつける。顔を見合わせた彼女らの瞳は、外見年齢に見合わないほどに熱を帯びていた。

 

 

 

 急ぎ、ルヴネトの王都に着いた者たちがいる。どちらの集団も疲れ果て、気分転換を求めていた。そして最終的な目的は、どちらも同じ人物を示している。

 

 街路に、錫杖の音*4が鳴り響く。内側から腐り落ちるように、大陸の中心には悪意が積み上がる。

*1
魔力が枯渇していても急速に回復できる丸薬。臓器の代謝を高めるが、体力を奪い取る。禁術へ手を出し、死さえ厭わず至高を目指した錬金術師プディムの業。

*2
「岩の聖女」ロシー:森に潜む者たちの始祖。その片割れ。「バックスタブレイブ」作中では、岩の如き状態となり首から半壊している。

*3
???

*4
「命の錫杖」

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