裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す 作:棘棘生命
夜は酒場も兼ねる店内は賑やかで、人も少なくはなかった。その中で俺は、ある集団と互いに認識しあった。暗色のきめ細やかな外套に身を包んだリシディア教徒たち、越境上層部からやってきた二名の冒険者である。
俺は、まず冒険者の二人へ掌を向ける。待ってほしいという意味を込めた合図だ。理解してくれたようで、ヨヌアは小さく首を傾げた後頷いていた。
そうして俺は、こちらを見ているアイナに近づき声をかける。彼女の特徴的な吸い込まれそうな瞳はくすんでいて、戦いによる疲弊が癒えきっていないのを、ありありと感じさせる。整え切れていない紺色の髪を、後ろで一つ結びにしているのが、平時と違うことを物語っていた。
今日の昼食は、楽しいだけでは終わらないそうだ。リィートイとケルには悪いが、明日以降気分が上げられるように埋め合わせるとしよう。
「…リフォニアで会ったきりだな、アイナ。やはり上位種絡みか。…騎士団の方々、空いている席に座らせていただいてもよろしいだろうか?」
「はは…エド先輩、会いたかったっす。ええ、その通りっすよ。共有する前に、リィートイさんと…そっちの子も座っちゃってください。皆、応えられそうにないもので。」
「リシディア騎士の隊列が、ここまで…。わたしにも話を聞かせてくれ。」
「は、はい…失礼します…!」
俺は丁度空いていた隅の席に腰かけ、リィートイとケルも続いて座る。他の人員については、外套の裏側は白布で覆われていたり、鎧の欠損も見受けられた。
アイナも、騎士長としての証である装飾や鎧の一部分が削り取られている。しかしそれ以外の傷は無いため、流石は騎士長と呼ぶべき実力である。
「…小さい子にはきつい話になりますが、大丈夫っすか?お二人が連れているってことは、ただの子じゃないでしょうけど…。」
「アイナちゃん、この子は珍しい『勇者見習い』だ。わたしとしては聞かせてやってほしい。ケルちゃんが嫌でなければな。」
戸惑うケルの代わりにリィートイが答え、ケルもおずおずとアイナに伝える。
本来なら真っ先に俺が紹介すべきことだったが、リシディア騎士たちの様子を間近で見ると、考えが飛んでしまった。
「…ぼく、まだ知らないことが多くて…。お姉さんのことも、その上位種についても…聞きたいです。」
「へえ、縫合持ちなんすね。…分かったっす!ケルちゃん、で間違っていないっすか?」
「はい!えっと、アイナお姉さん!お願いします!」
アイナは元気を振り絞るように、いつもの調子に戻り、ケルに話していく。アイナ自身の立場や、この大陸を脅かす化物について、前提となる秘密を。
ケルは勇者見習いである故に、早い段階で上位種のことを伝えられているはずだ。それでも戦場を知らないため、まだ聞かされていないことは多くあったようだ。視線を揺らし、顔をしかめたり、俺やリィートイの方をちらりと見たりと落ち着かない。現場からの声は生々しく、腐った血の臭いに満ちている。
「――と、こういうわけなんすよ。騎士団だけじゃなく、ゼシニス大陸に生きている人は皆狙われているんです。ああー…すみません。やっぱり刺激が強すぎたっすかね…?」
「だ、大丈夫です!ぼくが生まれた村にも、上位種が来て…それをエドさんが倒してくれました。矛神の騎士さんたちにも教えてもらって…上位種がどういうひどいものなのかは、理解してます。」
「そうだったんすか。エド先輩に…。」
大方前提としての知識を話し終わったアイナは、俺の兜をじっと見つめた。そこには穏やかな表情だけがあった。
そしてアイナは、白銀の手甲で覆われた両掌をぱんと叩くと、頬を膨らませ息を吐く。ここからが本題だ。
「それじゃあ、先輩たちに共有させていただくっす。リフォニアを出てすぐ…裂け目から現れた化物について。このルヴネトに来た理由も、お話しします。」
「先に聞かせてくれ、アイナちゃん。また…この王都が危険に晒されるってことなのか?」
「…大陸の中心は狙われやすいっすから。これは、流石に内緒にしましょう。『感知の阻害』」
アイナが指を弾くと、その瞬間からテーブル外の音が濁る。魔法「感知の阻害」が行使されたのだ。戦闘以外にも応用できる、汎用性の高さをこの魔法は誇る。
ケルは不思議な現象に戸惑い、耳を触っていたが、切り替えてアイナの話に集中する。少女が語り出したのは、ただ裂け目の対処をするだけでは、解決できない問題であった。
ルヴネト王都は狙われている。王都そのものというよりは、現ルヴネト王その人の命を奪おうと画策されているのだ。
矛神教の瓦解と、ルヴネト国の事実上の崩壊。二つは密接に繋がっている。ラディアの運命も同様に。
「神官たちにリシディア教の文献を漁っていただいたのですが、見つからず…。でも、しっかりと覚えています。あの怪物たちは…正しく翼の生えたトカゲでした――」
アイナが語る特徴は、俺の知識にある怪物と一致していく。
旧き上位種の中でも、大陸外の奴らの下についていない個体。竜の上位種。俺が対処せねばならない種族は、羽のない蜥蜴である。違う個体だ。
それらは謂わば、弱点のないベルーガナスと言える強さ。偽女神が行使する分身と同等だろう。
竜は強大な存在だ。別のゲームであれば、打ち倒すことを純粋に誇れる。
しかし奴らは上位種である。悪辣で、災いを起こした後、遊ばれた多くの屍が積み上がる。犠牲になる人を想えば、勝利に喜びなどない。
俺は手を震わせながらも、腹を括る。奴らがこの時系列においても、人々の命を刈り取ろうとしている。何故、その痕跡がバックスタブレイブ作中になかったのかは分からないが、描写されなかった事実は幾らでもある。
友人と主人公であるケルが住まう地を脅かすというならば。必ずや、骸に変えてやる。
◆
ケルは、エドが声をかけた女性を見た瞬間、綺麗な人だと息を飲んだ。ケルが今まで出会ってきた中で美人と呼べる人は、ミナやバストル一家におけるシーユの母親、矛神教の女性たちがいる。
しかし、疲弊しているのに背筋が伸び、凛とした態度のアイナは、ケルが考える「美」を体現しているように思えた。ケルが思い描く騎士像も、同様に。
その、騎士らしさのあるアイナが、苦しげに話す。言葉だけでは想像がつかない激戦と被害。人死にを間近で見たことのないケルは、遠い出来事のように聞こえていた。
被害が、今暮らしている王都にまで及ぶかもしれないと頭では分かっていながらも。
「――この小隊は、三つの寄せ集めっす。観測された裂け目は小さかったので、まず向かった小隊が二十人程度でした。それが…全く…足止めにもならなかったんです。私たちともう一つの隊が動員されて、何とか押し返したんすけど…。あの怪物は哂いながら、西を指してから消えて…。」
「…つまりこの王都を示したというわけか。」
「はい、その通りっす。それで生き残った人員の中でも、動ける騎士と術師だけ連れて、矛神に協力を願いに来たんです。」
兜の下に手を当て熟考している様子のエドへ、ケルは視線を向ける。その後、エドとリィートイからでた言葉に、少女は驚いた。二人の様子に全く焦りがなかったからだ。
「別の方角に現れるか…いや、奴ら竜擬きはわざわざそんなことはしない…。やはりここに来るだろう。次、裂け目が出現したら、奴もペアだと考えた方がいい。どう叩くか。」
「…えっ…エド先輩、その上位種について知ってるんですか…!?」
「エドは色んなことを知ってるからな。しかし、竜の上位種か…。わたしも加勢するが、どこまで通用するか。」
「り、リィートイさんも…。なんで、そんなに落ち着いてられるんですか!」
慌てふためいたのはアイナの方であり、気持ちは自らと同じなのだとケルは親近感を抱く。
アイナの様子に反応し、黙りこくっていたリシディア教の神官兼術師が、エドたちの方向を見る。心身を元に戻すため、賑やかな場所に身を置く手法を、戦士たちは取る。加えて、料理で流し込むように気つけを飲み続けるのだ。親しき同僚を失い砕けた心は、人の近くにあることで辛うじて結合する。
その甲斐あって「感知の阻害」の範囲外に座っていた女性は、ようやく戻り、見覚えのある姿に気がついたのである。
話し合う一同は、近づいてくる神官の女性に気づく。魂まで凍えた様子の女性は、しかし清廉さを失ってはいない。
「戻り、ました…アイン・エルディア様。作戦をご考案なされているならば、わたくしも。」
「ミレイユ、まだ休んでて大丈夫っすよ。エド先輩…私が個人的に信頼している人たちに話してるだけっすから。」
「そうでしたか…。ですが一つだけ。エド…エドワルド様、ですね。いつか、戦場でお会いしたことがございます。覚えていらっしゃいますか…?」
「…ええ。五年ほど前…北で敵を討った…。アイナ、もしや貴女以外の司令官は…!」
「…いえ、一人は生き残りました。リフォニアの国境で治療を受けています。でも、もう一人は…。」
「メアル・テタム様はもう、いらっしゃいません。民のため、わたくしたちは命を捧げています。あの方もまた、命を盾とされました…。」
ミレイユとアイナに呼ばれた神官の女性は、両掌を組み祈りを捧げた。その女性の憔悴しきった姿を見て、エドは拳を血が滲むほどに握りしめる。
ケルからすればエドの怒りは、直接命を奪った上位種に向けられているように見えていた。
確かにその怒りも含まれている。しかしエドは、ミレイユが祈った先に強い憎悪を向けていた。今も天上から時折眺めては、人類を嘲笑っているであろうリシディアたちへと。
「エドワルド様がいらっしゃるなら…どうかあのときのように。再びの助力を願っております。貴方にも、リシディア様の加護があらんことを。」
ミレイユは深々と頭を下げ、「感知の阻害」の範囲外へ出ていく。大きく息を吐く女性の精神は、未だ暗闇の中にあれど、微かに光を見出していた。
神官の女性を見届けたリィートイも息を吐く。この世の不条理を嘆くように。古い時代から生きる戦士は、リシディアの正体を知っている。
重苦しい空気になったところを、エドは切りだす。口約束で保証もできないが、必ず守ると誓いを立てて。
「その竜擬きによって、犠牲はこれ以上増やさない。俺が、何とかしてみせる。協力して対処しよう。」
「あははっ…やっぱりエド先輩がいると、気分が楽になるっす。それに…。」
「わたしも力を尽くすさ。アイナちゃんとは戦友だ。知人じゃ収まらないって、わたしは思ってる。」
「ありがとうございます。情けない話っすけど…あの特殊な尖兵を退けられる力、頼らせていただきます。」
その後も真剣な話が続き、ケルの目の前で進行されていく。その間三名はケルに話を投げかけ、上位種を討つことに加わらせるつもりは無くとも、この場で疎外感を味わわないように努めた。
しかし、既にアイナの話は矛神の拠点へ伝えられている。そしてルヴネトの総司令官であるデリクは、矛神の団長と王に向けて、進言をしているのだ。
勇者とは、上位種を迎え撃つために存在している。見習いであっても、出し惜しみはできないだろう。
矛神教の人間にとって幸いであったのが、現状ルヴネトで唯一「縫合」を扱えるかもしれないケルが、心まで勇者であったことだ。
成人となる十五に大幅に足りないケルが、使命に殉じることなど凡そ普通ではない。しかもルヴネトに来てから一年も経たないのだ。帰属意識も生まれようがないだろう。
しかし、ケルは心壊れずとも勇者なのである。怒る此の地が絞り出した一滴。何れ此の地に平穏が戻ることが願われた、切り札の一つ。少女はその最もたる希望なのだ。
(できることをしなきゃ…ずっと後悔する。シーユも、エヴも、ぼくに期待してくれてるミストヴィルのお兄ちゃんお姉ちゃんだって…。)
少女は意識せずとも、地獄を知っている。生まれ故郷の惨さだけではない。矛神の騎士たちが民のため命を賭し、多くの仲間の死を経験し、それでも守り切れず少なくない犠牲を払ってきたことも。夕方酒場で酔いつぶれた荒くれや、旅人が悲観的に叫ぶ理由が、暗い過去に押し潰された結果であることも。
友が身代わりになった、恋人が喰い殺された、親族一同瓦礫の下で死んだ。八年以上前のことであっても、人の記憶には一生残るのだ。
大陸中心であるからこそ、人は流れ着き、別の場所へと向かう。絶望させられた人間は、どこにも安寧などないと思い知っている。どこにでも、前触れもなく上位種は現れることを一度知ってしまえば。
だからこそ、親しい人だけでも守りたいとケルは願っている。ケルが口から出した勇気に、重みが生じるのは必然だった。
アイナは険しい顔で首を振るが、ケルの決断にエドは賛同する。逃げた先の不意打ちこそが恐ろしいのだと、彼は考えているために。
「アイナお姉さん…。ぼくも出来ること、やるよ。裂け目を塞げる人、もう一人しかいないんだよね?」
「縫合持ちは、一番危険なんですよ。訓練を受けているなら、聞いているはず。ケルちゃんや王都の人が隠れている間に、何とかするっすから。」
「…リィートイ、やはりケル君についていてくれないか。貴女が守ってくれれば、安心して戦える。まだ習得出来ていないにしろ、危機を乗り越えることで『縫合』を扱えるようになるかもしれない。」
「エド…。」
「上位種を撃退するために、結局見習いも駆り出されるだろう。これも、ケル君が生き残るためだ。君に降りかかる脅威は、俺が全て取り除く。王都の人間も絶対に死なせない。」
エドは力強く言い放ち、決意しても体は震えているケルの手をぐっと握る。アイナは「勇ましき者」と他者に定義付けられた人を憂い、リィートイはぎゅっと目を瞑って、己の体の状態に考えを巡らせる。
背中を押されたケルは、心の奥で熱を迸らせる。自分の救世主が共に戦ってくれる。あのとき見た「月」の輝きが守ってくれるのだと思えば、漠然とした恐怖は無くなっていた。
ケルとアイナ。「月」を追う二人の考えは、どこか似ていた。
(エドさんが…ぼくを見てくれてるなら。)
この場にいる全員は、同じことを胸に誓っている。犠牲を出さず、人類の敵を倒しきることを。
◆
エドたち四名が話している頃。冒険者のヨヌアとオズは、店内に突如発生した魔力の流れを感覚で追い、それが騎士団の魔法によるものだと突き止める。
頬杖をついたヨヌアは、顎を開いたり閉じたりを繰り返しながら、エドの手振り身振りを観察していた。
「オズ…あれ、どう見える?」
「深刻な会話をしているようだ。騎士団を交えているのは、相当な事だ。」
「『青月』って、学院のお抱えじゃなかったの?すごく仲良さそうじゃない。」
「姉上は、親密度を聞いていたのか。」
「どっちもよ!おばあちゃんに、なんて説明しよう。というか、生きて帰れるかしら…。」
ヨヌアは考えることの多さに、溜め息をつく。暗色の外套から覗くのが白銀であることを見てから、ヨヌアは胸騒ぎがしていた。
矛神教が守る国に訪れるリシディア教徒は、十中八九遊撃部隊である。それは、鎧の眩い輝きとは裏腹に、災いが訪れる前兆と思う者もいるほどである。
「問題ない。姉上は死なない、私が生かす。」
「あなたの言うことじゃないわ。私があなたを守るの。とにかく、おばあちゃんに共有して判断待ちね。ほら、オズも食べなさい!こうなったらやけよ!」
「承知。王都の飯は、美味い。小さい時の餌は、まずすぎた。」
「嫌な事言わない!どんどん食べなさい!」
ヨヌアは、香辛料で味付けされた干し芋を掻っ込みながら、オズに料理の皿を押し出す。挙句の果てにオズは、兜の隙間へ干し芋を突っ込まれた。そのまま飲み込み、ヨヌアの言葉通り彼は料理を食べていく。
それから二人は、遠慮や気兼ねなく雑談して過ごし、エドたちの話し合いが終わるのを待った。そして「感知の阻害」による魔力が弾けたのを感じるなり、ヨヌアはエドに向けて手を挙げる。
「あ、もう終わったみたいね。おーい!」
振り返ったエドも、ヨヌアに気づき軽く手を振り返す。そのままエドは、冒険者二人のもとへ近づき頭を下げた。
「…待たせてしまった。申し訳ない、お二人とも。」
「いいのよ!それで、リシディア騎士団とは話はまとまったの?どんな内容か知らないけど。」
「ええ、おかげさまで。…報酬をいただけるという話、少し急ぎになってしまいそうです。厳密には、今日明日に。」
「…『青月』。その早まる理由は、戦いに関わりがあるか。」
「え、ちょっとオズ…!」
ヨヌアが咎めるように囁くが、兜に隠れたオズの瞳は血走っている。血が見たい。騎士団が手を焼くほどの脅威とあれば、上位種の他にいないと彼は昂っていた。
エドは、ずいと体を寄せたオズに戸惑いながらも、頷く。
「…ええ。協力していただけるなら、詳細を話しましょう。」
「そうか、ならば聞きたい。」
「オズ!だめよ、危ないのは!」
「姉上は、下がっていればいい。おれは奴らを喰らう。付きモノも、人皮の化物も…!」
一人称すら荒々しく変化したオズは、昂ぶりをまず、エドにぶつけようと自身の得物を握る。飼われている狼が、本性を失くすことはない。ただ抑え込まれるだけだ。
エドは、オズの様子に何かを察した様子で、提案した。彼はオズを、ヨヌアが変化する原因と考えている。この数舜でオズの命がどのように失われるのか、大方見当をつけていた。
「それでは、オズ殿。話す前に、手合わせをお願いする。俺が望んだ報酬の一つを、この後いただきたい。ヨヌア殿も是非お願いします。」
「…分かった。オズが残るなら、私も残らないと。エドワルドさん、王都の外でやりましょ!」
「ええ、あと観戦する者も連れていいでしょうか。仮に協力者として、戦士たちへ戦いを見せたいのです。」
「そこは、どうしたっていいわ!『腕』については知ってるでしょうし。」
「有難い。では王都外、正門前で。陽が沈んですぐに始めましょう。」
「待っている、『青月』。」
手早く約束を取り付け、ヨヌアとオズは越境の施設へ向かう。モユヌエへの報告を済ませ、エドから話を聞く前に調査しておく。その上で、モユヌエに判断を仰ぐのだ。彼女らは、幼き老女の「腕」である。
店に残ったエドは、アイナたちリシディア教の人間と、ケル、リィートイに伝えておく。その間に食事を摂り、雑談によって、重苦しい空気は取り払われていった。
ケルは手合わせを観戦することに重くなっていた気分を変え、リィートイは「束ねられた腕」に対して考えを巡らせてから頷く。
リィートイは、越境組織の頂に座る老女のことを考え続ける。久しく顔を見ていないことに、老女の一部ずぼら気味な性質を思いながら。
「うーん…。やっぱりあいつ、わたしのこと話してないな…?」
「リィートイさん、何かありましたか?私の話で盛り下がっちゃって、申し訳なかったっす…。」
「いや、アイナちゃんの話とは関係ないんだ。話せて良かったと思ってるし、気にしないでくれよ!」
「はは…次来るときは、楽しい話を持ってきます。」
真っ先に騎士団とケル、リィートイが食べた分の金銭を、エドが払いに行く中。アイナとリィートイは言葉を交わす。
リシディア騎士と神官は少しずつ戻り。宿で動けなくなった他の人員を呼びに向かう。宿にて再起不能になっている人員には、リシディア教に所属する勇者の女性の姿もあった。
壊れかけていた守りは、補強されていく。エドの「月」を知る者から、順に希望の芽を生やしていく。
ケルが戻った後、エドとリィートイは騎士団との交流を続ける。その間「狂狼」は月明かりの下、武器を振るい合うのを待ち望んでいた。エドも同じように、昂る。
双方が望む通り、陽は沈む。