裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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魂を見る者?

 リシディア騎士団に所属する「勇者」の一人であるクシア。彼女との対話は、想定通りだった。

 俺を見ても、アイナが話しかけても、同じ隊であるミレイユや他神官たちが集まっても虚ろな瞳で空を眺めるだけだ。食事は摂るらしいので、生きることを投げ出しているわけではないようだ。

 

 聞いたところルヴネトまでは、リシディア騎士の面々がおぶって連れてきたという。縫合持ちは裂け目を閉じるという役割上、身体的損傷を伴わない場合、隊に入り続けなくてはならない。少なくともリシディア教ではそう定められている*1。くそのような規定だが、実際彼ら勇者が活動しなければ均衡は崩れ、上位種による被害は増えることになる。

 どれだけリシディア教の中で地位を上げたとしても、覆すことのできない決まり。勇者たちが死なないようにするには、外側から支援するしかないのだ。

 

 

(こんな状態の勇者が、戦線に復帰できるようには思えない。裂け目から追加で、奴らが出てくることも加味しなければ。)

 

「…エド先輩、皆さんありがとうございました。やっぱり、心の支えがないと…。」

「力になれず、申し訳ない。…クシア殿?」

「クシア様…!」

 

 

 あらゆる手段を試しても何の反応も無く、アイナたちに謝罪した瞬間だった。驚くべきことに、勇者クシアの瞳が虚空ではなく俺に焦点を当てたのだ。瞳は虚ろなままだが、柔らかな茶色の髪を横に揺らし、かけられた薄い布を握っては離す。

 クシアは一言だけ、消え入りそうな調子で呟いた。

 

 

「…盾、狩り…?」

「それって…エド先輩の…。」

 

 

 アイナは困惑した様子で、俺とクシアを交互に見る。「盾狩り」の異名と俺を繋げてみるのは、アイナの隊に所属する騎士の男女と、リィートイだけであり。ミレイユも含め、他二つの隊の人員は発した言葉の意味を捉えず、クシアが快方に向かっていることを喜ぶのみだった。

 同じリシディア教徒として、エドムンドのことを知っていたのか。それとも、肉体は同じであるために気づいたのか。

 

 結局、それ以上の言葉をクシアは発せず、対話は成立せずに終わる。しかし俺たちが立ち去る瞬間まで、彼女の瞳は奇妙なほどに、俺へ向けられていた。

 

 

 それから俺は、リシディア騎士や神官たちに今夜の手合わせについて、聞かれることになった。

 騎士たちなら分かる。前線を張って、己の剣技を高めることが任務だからだ。しかし、上品や奥ゆかしいという言葉が当てはめるような神官たちも訓練を娯楽にするとは、意外な事であった。

 俺がそう伝えると、白と銀の装束に身を包んだ彼女らは一様にくすりと笑う。

 

 

「――青月様、わたくしたちは貴方が考えていらっしゃるほど、ふんわりとした人間ではございませんよ。」

「ええ。援護が主とはいえ護身も出来ないなら、初陣で命を落としております。拳と足は鍛えて、動きは戦士から学ぶものですわ。」

 

 

 御淑やかな風貌の女性がシャドーボクシングをしていたり、好戦的に微笑んでいるのを見ると、どうにもギャップがすさまじい。だが確かに、彼女らも遊撃部隊として戦場を渡り歩いているのだ。それなら、今夜の手合わせを観るのに有用性はありそうだ。

 ヨヌアは観戦する者について、特に制限していなかった。俺はこの機会を、相互理解の場に出来ることを期待した。

 

 

「アイナ。実は新しく魔法を習得したんだ。貴女の観察眼なら、俺の技も上手く活かせるかもしれない。来てくれると嬉しい。」

「ええ、もちろん行くつもりっす!それと…私も魔法の練度を頑張ってあげている最中でして。次の日にでも、見ていただきたいと思ってるんですが…。」

「大歓迎だ。なら、明日にでも。」

「あははっ、お願いします先輩!」

 

 

 アイナからの願いに、俺は快く返答する。思えばアイナと剣を交えたのは、前ルヴネトで参加した闘技での一度きりだと記憶している。それも試合であったため、訓練とは言い難い。そうなると、初めての訓練になるのか。

 先に待つ戦には心が冷えるが、実力者や親しき者との訓練は喜びが勝る。俺は兜の裏側で笑顔になっていることを自覚した。

 アイナ達と別れ、リィートイの鍛冶工房で時が経つのを待つ。

 程なくして、陽は沈む。約束の時間がやってきた。

 

 

 

 ルヴネトの夜は原則、矛神の騎士以外街路を歩かない。そのため夕陽が陰っていくにつれて、王都は静まり返っていく。例外的に出歩くのは、矛神教に許可された者や、法を知らぬ流れ者だけ。今外にいるのは、後者のみだ。

 

 

「夜更かしって、わくわくするなあ…!エドさん、応援してるね!」

「ありがとう、ケル君。」

「愛しのケルちゃんに良いとこ見せてやれよ。ふふっ、終わったらしっかり寝るんだぞー。」

「はーい、リィートイお姉ちゃん!」

 

 

 俺は、リィートイとケルと共に王都の正門前へと赴く。そこには門衛の矛神騎士たちと、待ち合わせていた冒険者二人が立っていた。

 

 

「…待たせてしまったな、お二人とも。これから来る観客は少し多いが、大丈夫だろうか?」

「問題ない、貴方への報酬だ。」

「助かります。それでは早速、王都の外で始めましょう。」

「あ、始める前にルールを決めておきましょ!最初はオズで、次に私が出るわ!それで――」

 

 

 ヨヌアは、手早く段取りを決めていく。普段使いの武器を用いること。参ったと言った瞬間に、訓練を終了すること。制限時間は針が十進むまで等、大雑把だが基本的な部分は認識を合わせる。これは親善試合のようなもので、互いを傷つけることが目的ではないのだと。

 

 異論なく頷き、俺は実戦に近い形での訓練をすることに決めた。切羽詰まった状況でなければ、温い交流を選んだだろう。しかし、今は上位種の影がルヴネトに迫っている。越境の二人が戦力に数えられるか、その上で協力して貰えるかが優先すべき事項だ。

 

 ルールを決めている最中に、矛神の騎士も観戦すると言い出した。

 ルヴネト近くの平野には、ぞろぞろと荒事に精通する人間達が集まる。リシディア教徒たちもやってきて、矛神の騎士の横に陣取った。

 二つの月が、雲間から顔を覗かせる。月の光を、オズの鎧が反射し、ざりと脚甲が地面を擦った。

 

 

「昂る…このおれの、『腕』が…!」

「それは…。」

 

 

 オズが、手に持つ得物から白い布を解いた。パキリパキリと音が鳴り、何かが蠢く。それは異形の大斧だった。

 見覚えがある。あれは作中「犬面」ヨヌアが肌身離さず持ち歩いていた、特別な武器に違いない。

 

 

「初手は…いただく!」

「…速いな。俺も合わせよう。『霊月の後脚』」

 

 

 一瞬意識をオズの手元へ持っていかれた。その数舜を待つことなく、オズは人とは思えぬ跳躍力で距離を詰め、肉薄する。

 地面は足の形に陥没し、練度の高い身体強化魔法を用いたことが分かった。

 俺はその一撃を避けるため、展開した青い牡鹿の脚で旋回する。この瞬間から模擬戦は始まった。

 

 

 

 

 両者鎧を着こんだ戦士の様相は、奇妙だった。どちらも紛れもなく人であるのに、獣のように見えるのだ。魔力持ちでしか行えないような跳躍。本来人に存在しえない脚を駆使した体術。矛神の騎士にとってもリシディア騎士にとっても、定石から外れた立ち回りだった。

 

 地を駆けずり回る狼と、青き鹿の戦い。ギャラリーは多く、それぞれが二人の手合わせに意味を探す。

 その観衆の中で、最も長く戦場に身を置いてきた古兵は、エドの腰部から表出する魔力に興味を持つ。無邪気に戦士の攻防を楽しむケルの隣で、頤に手を当て考え込む。

 

 

(あれが、エドが話してた魔法か。うーん…やっぱり、エドに()()()()よな…。)

 

 

 リィートイは目を細めて、じっとエドの腰から背中にかけてを凝視する。霊月に照らされ、青白くなった靄のような何かが、エドの背中を離れない。それは、今の時代となっては限られた者にしか認識できない。この世に留まってしまった人の残滓であった。

 鍛えなければ、それをはっきりと見ることはできない。リィートイはしばらく、目を擦りながらエドの背を追ったが、激しい剣戟でぶれ、元々ぼやけたヒトガタは更に不明瞭になる。彼女は己のブランクを嘆きながら、注視するのを止めた。

 

 

(もう少しわたしが霊術に精通してれば、見えたのかもしれないなー…。…だが、魔力の流れは分かる。これなら教えても問題なさそうだ。)

 

 

 リィートイは安心したように呟き、胸に手を合わせて高鳴る自身の鼓動を感じる。既にリィートイは、エドを一騎当千の戦士だと認めている。そして、その実力に磨きがかかったことに熱を上げていた。

 

 掌だけでなく、他の部分からも魔力の通り道を作れているならば。かつて己と肩を並べた、戦士たちの領域に至れる。白き焔*2を心臓で燃やす、猛き戦士の再来へと。

 

 

 

 その頃。宿屋のベッドで絶望に沈んでいた一人の勇者は、虚ろな瞳のままに立ち上がり、何かに誘われるように外へ出た。快復を喜んだ神官たちが、勇者の女性へと付き、寝静まったルヴネトの街路を歩いていく。

 勇者クシアは暗闇から戻ってきたわけではない。道半ばで迷っている。そして、白い魂の導きと囁きによって、無意識下で役目を果たさなければともがいているのだ。

 正気に戻れば、最愛の騎士長を失った現実と向き合わなければならなくなる。勇者クシアはそれがたまらなく怖かった。

 

 

「エ、ド…?」

「クシア様…!エドワルド様の修練を、ご覧になりたいのですね。」

 

 

 しかし彼女の糸に触れ語りかけた者は、微睡みにいることを良しとしなかった。彼は誇らしげに名を名乗り、気取った様子で手を差し伸べたのだ。

 美しく、勇ましい者よ。ここで朽ちるのは、あまりにも惜しい。

 クシアにとって、それはむず痒く、とても逃避し続けることはできなかった。

 

 神官たちに支えられ、クシアはそして王都外にてしかと見る。「月」の輝きと、それに近くある亡霊の姿に。憑りついた亡霊たちは楽しげで、生前鍛え上げたであろう筋肉隆々の右腕を高く挙げていた。

 クシアは思い出す。何故勇者となり、今まで命を戦場で燃やし続けてきたのか。彼女は、還ることのできない亡霊を救いたいと願っていた。また、人の尊厳を守ることで死者が亡霊とならないように。死した両親の悲し気な表情が、彼女のルーツであった。

 

 

「そう、だ…。」

「ああ、クシア様…!」

「すまなかった、皆。…はっきりと前が見えるよ。」

 

 

 数少なくとも才覚があろうとも、「勇者」は特別な存在ではない。無理矢理取り繕って、支え無しでは生きられない。ずっと小さな頃のまま、立ち止まっている者なのである。

 

 

「いなくなろうと、私たちは慰められる。メアル様の墓標を…私がやらないと、報われないじゃないか。」

 

 

 クシアは拠り所を失って、最後に残った一つを支えに立ち上がった。死んだ後も、霊魂は地上で苦しむ。それを視認できるのは、白い糸で縁を繋ぐ勇者たちだけなのだと。

 彼女は例外的な亡霊に触れ、責務を理由に奮起する。

 

 この場において、魂を視る者は三人。鍛冶師とリシディア教徒の勇者。残る一人は、手に汗握りながら「月」に希望を見出していた。

 

 

 オズの跳躍を活かした斧術は激しく、異相付きを軽々と両断できる威力である。エドは受け流しに徹していて、防戦一方に見えた。

 

 しかし、徐々にオズは押されていく。エドが持つのは、何の変哲もない直剣である。魔法「月融け」で強化されているとはいえ、装備の強度や質は、オズ側に分があるはずだ。いつ押し負け、根元から折れてもおかしくない。

 それを力押しではなく巧みな技術で、五分以上に持っていく。決して鍔迫り合いを起こさず避けて、切り返しでオズの隙を誘う。

 着地したところをエドの蹴りが狙い撃つ。「月」の魔力が込められた蹴りは、オズを後方まで後退らせた。蠢く大斧で蹴撃の威力を殺し、オズは体勢を整える。

 

 そして両者一気に近づき、エドワルドの剣とオズの大斧が互いの鎧を掠った。距離を取って再び見合う。

 オズは、兜の隙間から蕩けたような声を漏らした。

 

 

「…やる。聞いた以上の、強さだ。」

「これ以上は双方に傷がつく。迫る脅威を考えれば、ここで切り上げるのが最良だろう。」

「満足しているのか?おれはまだ、昂ぶり続けているぞ…!見せてみろ、偽竜を討てる力を…!」

「束ねられた腕に、これほどまでの実力者が隠れていたことを知れた。俺としては、目的を達成できて満足だ。だが…こう焚きつけられては、応えたくなる。」

「ならば来い…青月エドワルド。大母が求める戦士…!」

 

 

 観戦する姉と同じように、戦に狂った狼もまた、これまでの攻防でエドの実力を正しく理解した。

 彼は、越境での派閥争いの中で、常にモユヌエの剣であった。様々な器官が増えた異相付きも同じように、剣として狩り続けた。誰も己たちモユヌエの「腕」に敵わず、血の海に沈んできた。

 

 己が実戦で鍛え上げた斧術を難なく避け、圧倒するエドは、明確に格上だと認識できる初めての戦士だった。

 オズは初めての感情に、心臓が口から飛び出すような心地を味わっている。生まれ落ちてから夢想してきた強さが、目の前に人の形を成しているのだから。

 兜の奥。オズの瞳が、黒から赤色へ輝く。彼は、己に植え付けられた役割に身を委ねた。

 

*1
リシディア教設立時に交わされた規定とされる。この規定により、主人公の勇者は立ち止まることを許されない。

*2
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