裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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陣形は固まる

 朝陽が昇った後。熱狂冷めやらぬ思いで、ケルは矛神の教会へと戻っていく。彼女の前後には矛神の騎士たちだけでなく、リシディア教徒たちもおり、皆同じ方向を目指し歩いていた。

 ルヴネト王都で戦が始まる。アイナ率いるリシディア教徒たちは、矛神の戦士たちとの話し合いを進めようと考えているのだ。

 

 ケルの耳には、話し声が入ってくる。まだ幼き故に背が低く、その内容は途切れ途切れであったが、ケルの憧れである「救世主」の驚きははっきりと伝わる。

 

 

「――昨日の昼は失礼した、エドワルド殿。」

「復帰は嬉しいことですが、お気を付けを。貴女が倒れれば――」

「問題ないさ。私が働くときには、もう大部分が終わっているだろう――」

 

(エドさんって、沢山知り合いがいるんだな…。)

 

 

 ケルは、エドとリシディア教の勇者クシアの姿を見上げた。昇る橙の光が彼らの鎧に反射して、ケルの疲れた目を強く刺激する。

 ケルがしょぼついた目を擦っていると、二人の視線が彼女に向けられた。

 

 

「君がルヴネトの未来の勇者か。私はクシア。会うことは少ないだろうけど、脅威に立ち向かう者同士仲良くしよう。よろしく。」

「は、はいっ!こちらこそ…!」

「あまり気負わなくてもいい。戦いの前に、私の技を教えよう。世界を縫合するとはどういうことか、感覚で理解できる。勇者というのはそういうものだ。」

 

 

 ケルは差し伸べられるクシアの掌を握り、友好の証とした。勇者の身に着ける装備は、リシディア騎士の鎧に似て、装甲が軽量化されている。脚甲も必要最低限であり、装甲の隙間からは黒いインナーがのぞいていた*1

 ケルはクシアの相貌と魔力を見て、目の奥に自身と似た気配があることに気が付く。そして人の影へと伸びる白糸も。

 執着と依存。クシアもまた縋り、生にしがみついているのだと。

 

 クシアもまた、同じ白糸を紡ぐために感じ取る。勇者の中でも異質、青色を帯びた糸について。クシアはケルの掌を通じて、魔力の糸が球体を雁字搦めにしている情景を見た。

 勇者以外がそれを感じ取れば衝撃を受けるだろうが、クシアは寧ろ眩しく思った。奮起したとはいえ、彼女の標はもはや微かでしかない。

 影の如き上位種の猛攻によって意識を失い。再び戦線に戻ろうとしたときには、彼女の最愛メアル・テタムは血痕だけを残し、消え失せていた。クシアはその時、自身がもう長くないことを悟ったのだ。

 

 

「……君は、既に標を見つけているんだな。羨ましいことだ。決して失うことが無いように、離れないようにな。」

「うん。…でもクシアお姉さん、まだ諦めないで。感じるんだ。お姉さんの糸はまだ切れてないよ。」

「そうだな…。ああ、諦めの悪さは大事だよ。ありがとう、勇者ケル。」

「…打ち解けられたようで良かった。ケル君、同じ勇者から学べるものは多々あるはずだ。良い機会にしてほしい。」

 

 

 クシアとケルの様子を見て、どこか呑気な言葉をエドは吐き、次に地面付近を見る。

 小麦色の人工毛を靡かせる、幼子のような人形。彼は、リィートイの友人の正体について反応していた。

 

 

「それでまさか、貴女が越境の――」

『そう、うちこそが設立者よ!…今は、大体を若いのに任せておるがの。』

「そんなこと声高に言っていいのか?今いるのは、お前の家じゃないぜ。」

『機密情報は話していないから、せーふじゃ。のう、ヨヌア?』

「ちょ、よく分からないところでふらないで!」

 

 

 リィートイは顔をしかめ、モユヌエの能天気に呆れたような調子で返した。

 だがリィートイは複雑な心境だった。ゼシニス大陸を共に守った戦友に、自暴自棄のきらいがある。まるで、かつての自分を見ているようだと。

 

 エドはモユヌエから聞いた話を頭で整理しながら、ルヴネトでの戦闘について作戦を練る。彼が知る情報は一握りで、イレギュラーを想定しても個人の範疇に留まる。そのため楽観視は出来ないが、既に考え得る最大の備えはできていると、彼は緊張をほぐしていた。

 

 

「…シウゼヴァクと越境に、深い繋がりがあるのは知っていたが…。援軍まで呼べるとは。魔兵*2の軍勢は、各騎士団にも匹敵すると聞きます。流石は越境の頂にいる方だ。」

『ふふん、長く生きている特権じゃよ!もっと褒めても良いぞ!』

 

 

 モユヌエの人形は自信満々に胸を反らし、リィートイは己よりも低い肩をぽんと叩く。わめくモユヌエをいなしながらも、リィートイの瞳には力が宿っていた。

 エドという友人に、心を救われてから思っていたこと。今度は自分も手を差し伸べたい。茫然自失となっていた己を、越境にて支えてくれたモユヌエ。彼女の窮地を、友人として。

 

 

(それにはやっぱりお前が必要だ――エド。…炎を伝っても上手く扱える姿を、わたしに見せてくれ。)

 

 

 モユヌエが求めるのは、強き戦士。上位種の侵入を許し民を殺される現状を、打破できる逸材である。

 だが彼女は喜びながらも恐れている。戦の蜂起により、一矢報いることが出来るか。反撃の狼煙をあげようと、今までの戦では、無駄に魔力持ちが命を散らしてきた。何度も何度も、モユヌエは己より若き命が絶たれる様を見続けてきたのだ。

 

 モユヌエは、肉体は老いずとも意固地になる。何事にも不信感を募らせ、どれだけ純粋な人間にさえ向ける笑顔は作り物であり、心の深奥には統治者としての冷たさが凝固している。

 ()()()()()()()、雪国に潜む老女は、しかし凝り固まった感情が剝がれてきている。どれだけ疑おうと、浮世離れした騎士は絶対に人類の味方、上位種の敵であり続ける。モユヌエが情報網を駆使しようと、それだけは変わらなかった。

 

 

(リィートイの思案…。もし、それが事成るなら…覚悟せねばならん。目を背けてはならんのじゃ。うちも、あやつも。)

 

 

 集まった者たちは皆、それぞれの考えを抱き矛神の拠点へと向かう。修練場には、剣を振るう騎士たちがぽつぽつと出始めていた。

 その中には、ルヴネトの総司令官の姿もあった。赤褐色の双剣を目にもとまらぬ速さで振るうデリクは、近付く集団を認めると、腕を止めて挨拶をする。

 

 

「御機嫌よう、皆お揃いか。」

「デリク総司令官、修練中失礼します。早速ですが認識を共有できればと。」

「ええアイン・エルディア殿、お待ちしておりましたぞ。偽竜を討つ策、すぐにでも練りましょう。…皆、矛神の騎士たちよ!今日の修練は終いだ!」

 

 

 アイナが騎士長としての公的な表情で言葉をかけ、デリクは快く答える。

 矛神の戦士たちは例え末端であっても、作戦立てに参画する。少数精鋭で、捨て駒は一人もいない。ルヴネトを万全に守り、来たるべき時矛を天に差し向けるために。由来を知らなくとも、彼らは戦に血潮沸き立つ豪傑なのである。

 

 デリクは集まった面々の内、エドとリィートイ、アイナたちリシディア騎士、そして最後に「束ねられた腕」の二人を順に見た。強者に心を震わせ、デリクは昨晩を思い出す。

 ドラグシエルの真実を知った後でも、デリクは狂気とまで称せる闘志を胸に秘めている。総司令官まで至り、力を故意に落としている今でも、心は血を求めている。北の山脈、真なる竜が生きる土地にて、彼は気高い強さを知ったのだから。

 

 それぞれ別の使命を持つ戦士たちは、広く取られた矛神の拠点へ入っていき、扉を固く閉める。そして彼らは入念に策を練りはじめた。

 

 

 

 

 俺は人でごった返す大部屋を眺め、一息つく。手合わせに加え、心臓が幾つあっても足らない驚きの連続。その上で合同での作戦会議をしているのだ。

 戦闘ばかりで、普段あまり人と会話しない俺にとっては、どっと疲れが押し寄せる場だ。こういった機会に喋りを上手くできれば、今後も苦労はしないのだろうが、白熱する議論には気後れする。

 

 アイナはリシディア騎士たちの代表として、ルヴネトの総司令官であるデリクと会議の中心を担っている。流石司令官だと言わざるを得ない。アイナは立派だ。

 

 俺の役割は明確だ。単騎で先陣を切ること。俺の提案は通ったため、隅の方で会議が進むのを聞いていると、椅子を引いてリィートイやケルたち見習い、会議を聞くだけの者などが集まってきた。見習いである子どもや、成人したばかりに見える青年たちは不安そうな顔をしている。

 今日初めて、上位種の襲撃について聞いた者もいるのだろう。自らが暮らす街が急に危険に晒されれば、至極当然の反応だ。

 しかし何故、俺の方に集まってきたのか。その理由を、一人の騎士見習いらしき少女が口にした。

 

 

「…あの、エドワルドさんでお間違いないですよね。闘技で優勝された…。あたしたち、どうすればいいんでしょうか…。」

「総司令官様が仰っている内容、おれたちも戦わなきゃいけないってことですよね…!あんな化物相手に、どうしようもないですよ…!」

「この子たち、だいぶ怯えちまってるみたいでな。わたしについてくるんだよ。…よしよし、これだけ戦士がいるんだ。大丈夫だからなー。」

 

 

 リィートイが補足し、近くの少年少女の背中を撫でる。慣れた手つきだ。きっと面倒見の良い彼女は、矛神の子どもたちに平時からそうしているのだろう。ケルも同じように、明らかに年上の子ども相手にも、ぽんぽんと体を擦っていた。

 矛神は戦い一辺倒であり、惑う子どもたちは外部へ助言を求める。子どもたちの目からは、リィートイの言うように怯え、何かに寄りかかって安心したいという思いが感じ取れた。

 

 矛神の若年層には孤児が多く、上位種に血縁を奪われた者は大勢いる。彼らは平時修練漬けで気にならなくても、こういった危険が迫っているときは思い出してしまうのだ。

 足の竦むような恐怖、何も出来ず殺されるのを見ているだけの無力感を。

 

 俺は子らを一人一人見ていき、力強く伝える。俺はこの世界のハッピーエンドを見届けるのだ。絶対に可能性の芽を死なせはしない。

 

 

「…リィートイの言う通り、多くの戦士がこのルヴネトを守る。君たちは戦えない王都民たちのために、避難誘導をしてほしい。逃げても構わない。だが約束しよう。俺や、俺が信じる戦士たちが命を繋いでみせる。だから信じてくれ。」

 

 

 力こそが、戦いの主導権を握る。近くの者と顔を見合わせ、瞳を潤ませる子どもたちは、まばらに頷いた。その中でケルは、真っすぐで頼もしい笑みを俺に向けていた。

 作戦会議を聞くことに徹する騎士や神官たちもまた、迫る脅威に震えながら、守る者としての凛々しい顔だ。

 

 俺は深く考える。リィートイの言った策と、裂け目から現れる上位種の特徴。そして「バックスタブレイブ」作中において、矛神教からリシディア教に代わったわけについて。

 王城には、悪魔が潜んでいる。それがもう人をやめているか、それとも今なら踏みとどまれるか。王城に入ることは、旅人では基本的に不可能である。だがこの機を狙い、俺は見定めるチャンスを手に入れる。ルヴネト王が取り仕切る戦ならば、一度なら謁見の機会も取れるかもしれない。

 有事の時にこそ、化物に繋がる奴らはぼろを出すのだ。

 

 

 

 

 雪国から、大量の騎馬隊が南下する。それらは不自然なまでに休みなく動き、飲食を馬上で取っていた。

 シウ・ゼヴァクの魔兵たち。大陸の傍観者を冠する国の戦士。重厚な白染め鎧は、見る者に不安を抱かせる。統率が行き届いた兵士たちの動きは、無機質かつ無慈悲であるからだ。

 最短距離で目的地へ向かうために、それらは町や村の真ん中や足場の悪い山森さえ通りすぎる。賊や異相付きと接敵することも珍しくない。

 魔兵たちは進軍を邪魔するものに対し、何人たりとも容赦しない。

 

 魔兵を知らず、威圧にも怯まず襲いかかってくる生物は轢き潰すか、純白の馬上槍で針山のごとく変貌させる。返り血で汚れた鎧は、その血を吸い取り白を維持するのである。

 その在り方は、人類の仇と相対しようと変わらない。

 

 

 ある夜、ルヴネト国でのこと。空に裂け目が出現し、のそりと人のような何かが這い出てきた。それらは体中から赤い樹木の如き血管が突き出ており、奇怪な動きで立ち上がる。

 目は眩いほどに赤く輝き、一様に笠を被っていた。靄がかった肉体をばきばきと音を鳴らしながら動かし、騎馬隊へと襲い掛かる。

 

 

『ヒヒッ…言われた通りだあ…。出たら、目の前に餌だらけ…!』

『馬も喰える!いいところに――』

「――突撃ッ!」

 

 

 馬上鎧に、広がる陽光を模した紋章がつけられた魔兵の隊長が鋭く叫ぶ。赤い樹木を生やした人ならざる者たちは馬脚にて押し潰れ、体内から黒い血を弾けさせた。

 騎馬隊が通った後には、腐った肉体だけが残る。靄は器が壊れたことで雲散し、惨めな命を散らした。それらが何者か分からずとも、魔兵たちにとってはどうでもいいことだった。

 命令に従う。それだけが、姿を隠していても尚、民に豊かさを与える王への恩を返す手段なのだから。

 

 

「時間だ!各自補給を取りながら、前進!魔力が切れそうな者は、後部に移動せよ!」

 

 

 黙々と指示通りに行動し、交代で馬を走らせる。否、それは純粋な馬ではなく、魔術回路によって制御された絡繰り仕掛けであった。

 使命に殉じる騎士団も、求道者たる術師もいない只人たちの楽園。その裏側には、糸が張り巡らされている。

 

*1
リシディア勇者の鎧:主人公の勇者の初期装備。最も魔力が通り抜ける左腕と、急所を重点的に守る軽量鎧。身に着けたときから、これは彼らにとっての死装束となる

*2
シウ・ゼヴァクの魔兵:代々「姿を隠した王」に従う兵士たち。光沢のない純白の鎧。設定上、一兵卒であっても三名集まれば騎士と同格だとされる。人間味を感じないと評され「バックスタブレイブ」中盤では主に弾除けの役割を担う。

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