裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す 作:棘棘生命
本年も残り僅かになってまいりました。30日の朝が今年最後の投稿になると思われます。よろしくお願いいたします。
数時間を要し、大まかな戦術と配置が決められていく。他派閥の連携は、相当な話し合いを経なければ成し得ない。即興で挑めば、大勢いる戦士の大半が機能せず、上位種の膂力に全滅するだろう。
ルヴネトの総司令官デリクは、モユヌエのことを知っていたらしく、決して彼女を子ども扱いせず恭しい様子で話を聞いていた。デリクの認識では、モユヌエはシウゼヴァクと越境組織の大物であるようだ。殆ど俺の認識と大差ない。古い猛き戦士の一人であるという事実を、知るか知らないかの差である。
時々アイナと、デリク、モユヌエたち越境組織の三人に呼び出されることはあったが、それは情報の共有だけであり、俺の役割自体は変わらなかった。
会議の合間、手持ち無沙汰になったヨヌアたちや矛神の子どもたちと雑談し、前者からは情報を引き出す。オズの赤く輝いた瞳について問えば、ヨヌアはひそりと俺に話した。
「…そう。私たちは、大陸の外で生まれたの。やっぱり、分かっちゃうものなのね…。」
「いえ、手合わせ中のオズ殿に違和感を覚えただけです。平時は仲の良い姉弟で、実力者であるという印象しか持っていませんでした。」
「ならよかった…。エドワルドさんなら、知っているかもしれないけど…大陸外は…。」
伏し目がちな状態でヨヌアは言い淀み、出自故の苦悩を含ませる。養殖された人間というのは、人としての尊厳を全て剝奪された者たちだ。悪意の塊であるクソどもに命を握られ、機嫌次第で玩具にされるのだから。
ゼシニス大陸からの遠征隊へ裏切りを行おうと、その理由は多岐にわたる。中盤、重要アイテムを入手した後明らかになる背景を思えば、その行為には筋が通っている。全てに共通して、彼らの在り方は傷ましいの一言に尽きる。
「ええ。大陸外の現状について、俺も知っています。呪われているような心地でしょう。ですが、こうして魔の手から逃れて生きているだけで、奴らによる呪縛はないようなものだ。部外者ではありますが、そう言わせてください。」
「…感謝するわ、エドワルドさん。今私たちが人として生きていられるのは、大母――モユヌエおばあちゃんのおかげなの。だから、どんなことがあってもおばあちゃんの命に応えるのよ。」
「……私からも、感謝を。」
ヨヌアとオズに話を聞く傍ら、子どもたちへの気配りは欠かさず行う。
リィートイやケル、戦士たちの声掛けによって、子どもたちは少しずつ元気を取り戻してきた。
しかしこれは、不安を取り除いたというより、脳裏に絶望がよぎることを先延ばしにしただけに過ぎない。竜の上位種並びに、蜥蜴の上位種が攻め込んで来たとき、恐怖は再び呼び起こされてしまうだろう。刻まれたトラウマは、他者では解消できないものだ。
子どもたちは各々、これからを考える。町を守るためとにかく行動せねばと意気込む若さは、俺にとって眩しいものだ。
究極、俺が行動するためのモチベーションは、小さな火種でしかない。この世界をより良く変えてみせるだとか、最愛のパートナーを守りたいだとか、勢いのある志向を持ち合わせていればこの子らと同じ視点に立てただろうか。
マイナスをゼロに近づけるため、俺は藻掻いている。エドムンドの亡骸を借りた俺の第二の人生は、それにのみ費やされるだろう。
俺に何かを生み出す力はない。ゼロをプラスにするのは、ケルや組織を統べる実力者たち、ないしは活力ある者だ。
段々会議の中で、アイナ達が接敵した上位種の情報が分かってくる。それは巨大かつ光を通さない黒であったという。動く度に姿形と持つ武器の特徴を大きく変え、アイナ達が放つ魔法は悉く回避されてしまったらしい。
この時点で、俺はどの上位種か殆ど目星がついていた。考えるほど、足の力が抜ける感覚が強まる。
竜の上位種は、この世界を奴らが侵略し始めてから、親玉によって
そして竜の上位種はほぼ増えず、絶対数も少ない。影のような身体的特徴を持った化物は、「陽炎模し」オビシオンとその眷属に違いない。
もしそうなら、俺が考えていた戦法については、軒並み一から組み立てることになるだろう。
作戦会議をする面々の近くで考え直していると、モユヌエが俺の腕に右人差し指を引っ掛けてきた。そのまま彼女は指をくいくいと動かし、アイナ達の方へ顔を向ける。これだけ自然な動きをして人形なのだから、モユヌエの魔力と技術力には感嘆するばかりだ。
『――お主、また何か知っておるような感じじゃのう。言うてみい!出どころを一々疑う者は、この場にはおらんよ。』
「先輩、お願いします!どんな情報でも共有してもらえれば…!」
「分かった、アイナ。…しかし古い書物に記されていたことで、記憶も定かじゃない。皆さんもあくまで参考程度に留めていただきたい。」
「ありがたいっす…!デリクさん、こういう時エド先輩が出してくれる情報は、本当に頼りになるんです!」
「ふうむ…。ルヴネトから一度脅威を退けた、その見聞。拝聴させて頂こう。」
「もし違ったとして…この責任は、先陣を切ることで取らせてもらいましょう。それでは――」
俺は友人であるアイナや知人、この作戦で初めて顔を合わせる戦士たちに向けて、推定される上位種について話していく。
「陽炎模し」オビシオン。それは黒いドラゴンのような見た目をしていながら、喉元や腹部、翼等から異形のヒトガタを生やした逆さ吊りの怪物である。そしてその身は軽く、姿を簡単に変える。正しく不定形モンスターだ。
夜の暗闇に溶け込むことに長けた特性上、厄介な強敵である。「陽炎模し」とは、奴の半透明な体を通して光が不規則に曲げられることからきている。上位種の通称のほぼ全ては、古い時代の戦士に付けられており、故に脅威の度合いは桁違いだ。
オビシオンとその同族が厄介なのは、隠密性や攻撃が通りにくいことだけではない。奴らは霊魂に近い性質を持っている。そして尖兵や、上位種の体までも乗っ取るのである。幸い奴の魔法は、長い間影響下に置いた者にしか発動しない。
オズとヨヌアについてはどうなるか未知数だが、彼らを支配していたのがもし竜の上位種であっても、オビシオンでなければ問題ないはずだ。だが、万が一がある。再考の余地があるだろう。
奇しくも、俺がエドムンドの体に入り込んでいる状況と、似たようなシチュエーションだ。俺に亡霊は見えないが、エドムンドがもし亡霊になっていて、教会跡から立ち去った肉体を見ていたら憎しみを強めているかもしれない。
そうであっても甘んじて受け入れ、目的を果たし続けよう。彼に身を以て謝罪するのは、道半ばで倒れたときか、全て終わってからだと決めている。
俺が「陽炎模し」と称される上位種について情報を伝え終わっても、しんと場は静まり返っている。空気が凍るとは、こういった状況を指すのか。作戦会議を聞くだけの戦士たちから、ざわりと話し声が広がる。彼らは近くの者と意見交換をしているようだ。
微かに俺の耳へ、カチカチと硬い物を当てる音が入ってくる。見ると、その音の発生源は、ヨヌアの口元だった。
ヨヌアの顔は明らかに血の気が引いていて、倒れそうになったところをオズに支えられていた。
嫌な予感がする。俺はヨヌアたちの言葉を待った。
「…オビシオン、って…。はあっ、はあ…!」
『青月エドワルド。その名と特徴まで知るとは…。…いいや、うちが言ったことを覆してはならぬな。オズ、ヨヌアに気つけを飲ませてやれい。』
「承知。…青月殿の話、本当であれば。ついに、この時が来た。私は絶対に、それを殺す…!」
ヨヌアは苦し気に喘ぎ、オズは兜の内側からおどろおどろしい声音で言い放つ。その調子には、何処か歓びも混じっているように思えた。
オズが続けた言葉により最悪は更新され、俺は焦燥感によって我慢できず手をつく。
彼らにとっての宿敵が、オビシオンそのものである事実に。
しかし、困難な状況は好機へと転じさせられる。ここで惨劇を退けさえすれば、彼らの身は真の意味で自由となるのだから。
話し合いは進み、俺はモユヌエが要請したというシウ・ゼヴァクの魔兵について、彼女が詳細を話すよう促した。
魔兵たちについて、「バックスタブレイブ」作中では、設定上実力者揃いではあるが、命が軽すぎる集団だったと記憶している。加えて名前がついたキャラクターが殆どおらず、そのため簡単な会話しかできないNPCだったと。
総じて、よく分からない味方サイドの勢力という感じである。こんな曖昧な認識では、背中を預けられない。魔兵について知っているであろう有識者から、情報を聞き出すのが最適だ。
渋るものかと思いきや、モユヌエは作り物の顎を触りながら、滔々と答える。鎧の性質、構成員の出自、取る戦法等、話してしまっても良いのかと思えるほどの重要情報を。
豪胆と言えるデリクたち矛神騎士でも、冷や汗を垂らすほどだ。ここまで手の内を明かすほど、モユヌエは他派閥に心を開いているようには見えない。ただただ不気味だった。
『――それで魔兵には、うちの魔力を渡しておる。無論騎馬隊の機動力は、それ無しでも精鋭と言えようぞ。…ここまで話したが、お主が聞きたいのは強さじゃなかろう?どれだけ信頼が置けるか。上位種は容易く裏をつくものじゃからな。』
「その通りです。皆がどう思っているか分かりませんが、俺視点ではここにいる戦士は全員信頼できます。しかしシウゼヴァクは、騎士団や学院の手が入れられない分、未知が多い。魔兵も同様です。外部からの評はご存じでしょう。」
『…そうじゃのう。一つだけ確かなことがある。絶対に、魔兵は裏切らぬ。此度の王の命は、「ルヴネト王都に現れる上位種、尖兵を全て殺し、王都の民を守れ」じゃ。多少融通は利かぬが、同じ人類に仇なそうものなら…躊躇いなく、その同胞を穂先で突き殺す。』
モユヌエは冷たい声で、上位種への憎悪を撒き散らす。彼女の熟成された憎しみは、俺の鳩尾から下へずしりとした重みを感じさせた。
そしてモユヌエはにこりと口元だけで笑い、俺の疑念を晴らした。敵への憎しみは何よりも信頼できる。隙や甘さのない明確な殺意こそが、上位種を屠る戦友になり得るのだ。
『ルヴネトにあるのは、作り物じゃ。この体も戦線に参加しよう。ヨヌアとオズについては心配いらぬ。うちが策を用意するのでな。』
「おおっ…!モユヌエ殿の助力も頂けるとは…有難い限りです。」
デリクは顔をほころばせ、モユヌエへ好意的な反応を返す。アイナも俺と同じく、モユヌエの殺気に感覚で納得したようで、作戦会議は腹を割って続けられる。
しかし俺は、落ち着かないままだった。そのわけはモユヌエの行動にあった。
彼女は唐突に俺へ向かって手を伸ばし、不可思議な現象を起こした。頭の中に、幼くも荘厳な調子の声が流れ込んできたのだ*1。
知らない魔法だ。古い時代にあったものか、それともモユヌエだけが扱う技か。
今気づいたがモユヌエから、俺だけでなくヨヌアやオズ、奥部にいたリィートイにまで魔力が伸びている。あまりにも細かったため、気づけなかったのだ。これは魔力が弱いからではない。恐ろしいまでに魔力制御が高度なのだ。
また一本の魔力の筋だけ、建物の外へと続いていた。建物を透視する方法はないため、誰に向けられたものかは分からずじまいであった。
(後に話すことがある。エドワルド…お主の功績と、リィートイの友であることを鑑みてのことじゃ。…故に伝えるが、謀ることは許されぬ。どれだけリィートイが懸想しておっても、少しでも道を外れれば…
モユヌエの念話のようなものに、口で返答することはできない。不自然にならないように、俺は彼女へ向けて小さく、しかし力強く頷いた。
そうだ。疑り深くなければ、越境組織の頂に居続けることはできないと思っていた。
餌を垂らし、化けの皮が剥がれないか試すことで、モユヌエは区別してきたのだろう。それが、先ほどの情報提供だったわけだ。彼女は、この場にいる人間を全く信頼していない。
俺はモユヌエの姿に、蜘蛛の影を見る。彼女に殺すべき獲物だと認識されたらたまらない。同じ方を向く者として、助け合いたいのだから。
上位種との交戦と、モユヌエからの信頼の獲得、ヨヌアたちを守り抜くこと。そしてルヴネトに潜む、上位種と繋がらんとする者の対処。失敗が許されないことばかりだ。
だが絶対に乗り越える。これは未来の主人公に代わり、今動ける俺がしなければならないことだ。
◆
時は進み、話し合いがまとまって、組織ごとに人が集まっている頃。リィートイは平時の穏やかを捨て、心の奥で怒っていた。モユヌエの言動についてである。
表面上は繕っても、長い付き合いになれば分かることだった。モユヌエがまた何か、一人で考え始めていると。
エドの雰囲気が張りつめる少し前から、モユヌエは限られた人間へ糸を括りつけた。魔力の糸を伝って、モユヌエがエドへ圧をかけたに違いない。
どこか悲し気な様子のエドに近づき、リィートイは確信した。そして彼女は、ケルとアイナを手招く。不思議そうな顔で寄ってくる二人に笑顔で返し、モユヌエに言い放った。
「…おいモユヌエ。わたしとエドを集めるっていうなら、アイナちゃんとケルちゃんも一緒だ。」
『む…しかしのう…。これは内緒にしたい話なのじゃ。お主の策にも繋がることじゃぞ?』
「わたしが見込んだ子たちだ。どうしてもってなら、まず話す内容を共有してみな。」
モユヌエは唸った後、リィートイの頭へ直接言葉を届ける。糸を通じ、リィートイも頭に浮かばせた言葉を返す。
(…分かるじゃろう。あやつは、エドワルドは不自然すぎる。学院で学んだだけでは説明がつかん!大陸の古文書など、うちが既に確認しておる!)
(だけどお前は、エドに気づいてなかったじゃないか。こいつが活動して八年も経ったんだ。それにわたしの状態もな。エドを疑うより、自分の目を先に疑え。)
(ぐうっ…それを言われるといたいのう。)
(わたしも最近、痛いところを突かれてる。なんで力を持っているのに、無駄な時間を過ごしたのかってな!…疑ってなにになる?わたしたちは、ただの死に損ないだ。だから歪な結果しか残せない。)
リィートイはエドの腕を引いた後、モユヌエと見つめ合う。そしてエドの緊張をほぐすように、背中を柔らかく叩いた。
「大丈夫だ、エド。こいつはひがんでるだけさ。強さも知識も…なまじ託されちまっただけ、何でもこなせなくちゃいけないってな。」
「…そうなのか?至極当然の反応だろう。寧ろ今まで疑われなかったのが不思議だ。」
「ふふっ、そう思ってるのにみんなに話してるのが証拠だろ。…モユヌエ、二人は呼ぶからな。」
『そこまでお主が言うなら…仕方あるまい。…ヨヌア、オズ。先に施設に向かっておれ。うちのすぺあの前じゃ。』
「…承知。姉上、肩を貸そう。」
モユヌエに促されるまま、冒険者二人は矛神の拠点における大部屋から出ていく。モユヌエはじっと、何も分かっていないアイナとケルを見定めていた。
重い空気が漂う中、デリクがエドたちの近くまで歩いてくる。そして言い出しにくそうにエドとリィートイへ向けて言葉をかけた。
「話の腰を折ってしまうようですまぬな!青月殿とリィートイ殿に向けて、王からお達しがあったのだ。先日の戦いについて、直接話がしたいと。夜、私がお二方を呼びに行く。…作戦の要として、よろしく頼むぞ。」
「…光栄です。ええ、全力を尽くしましょう。」
「良い空気を運んでくれるじゃないか!ありがとうな、デリク総司令官!」
「はははっ、では私も楽しみにしている!」
デリクが元気よく階段を上っていく姿に、停滞していた空気は色を取り戻した。アイナはリシディア教徒たちに指示出しした後、会議による疲れもあって、大きく深呼吸してから状況の説明を求める。
また昼が過ぎるまで続いていた会議により、夜眠らずにいたケルも限界を迎えていた。
「ふううー。それで…私とケルちゃんは、何に呼ばれちゃう感じっすか…?」
「…リィートイお姉ちゃん、今日は教会じゃなくて…お姉ちゃんの部屋で寝たいな…。」
「ああ、すぐ終わることだ。わたしのとっておきの魔法を、まずエドに教えてやろうと思ってな。二人とも、興味あるんじゃないか?」
とっておきの魔法という単語に反応した二人は、ぴくりと瞼を震わせる。エドもその魔法について知らなかったため、驚いた様相でリィートイを見た。
エドたちは矛神の戦士たちへ声をかけながらも外へ出て、越境組織の施設へと向かう。道中、リィートイは悪戯気な表情で、エドに笑いかけた。彼女の灰色の瞳には、期待が込められている。
「話は教えながらだな。望んでいた魔力循環を高める方法…お前ならできる。育てるのは時間がかかるかもしれないが…あんな変なところにまで魔力の通り道を作れるんだ。すぐものにできるさ。」
「そんなに期待されたら、恥ずかしい姿は見せられないな。アイナとケル君も呼ばれたら尚更だ。」
「知らない魔法…!エドさん、今回も応援してます!」
「私も成功を祈ってるっす!訓練で試してもらっていいっすからね!」
(…エド先輩が、また遠く…。でも、めげずにいくっすよ…!)
エドに熱情を抱く三名は、気持ちを同じにしていた。モユヌエの疑いを覆せるほどに、自身はこの騎士の行いを理解していると。
もはやシウゼヴァクから動くことのできない老女は、少しでも疑念を抱くと、偏って物を見る。強き戦士に対する喜びは、警戒に。どれだけ精巧に作られていても、ルヴネト王都にあるモユヌエは人形で、フィルター越しに氷解しかけていた心は再び凍り付く。
それが再び溶かされていくとき、モユヌエは幼子のように恐怖を感じる。紡ぐ言葉の調子や、流れた時の重みによって背負った威厳は役に立たず、紙のように脆い。人間不信の老女は、無理やりに閉じこもっていた心の扉を蹴破られる。
ずっと望んでいた、夢物語のような存在。それが真であることを思い知らされて。
陽は傾いていき、空に淡く二つの月が浮かび上がる。此の地は怒りだけでなく、小さな喜びを味わう。地を体現する者が、生まれ落ちる瞬間を。