裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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投稿を再開していきます。今年もよろしくお願いします。


恵みでしかない

 熱く、息ができないほどに喉元が塞がれている。全身が内側から燃えるというのは、こういった感覚なのか。いやこれは、その苦しみには程遠いだろう。その熱は永遠じゃない。それに俺をアイナやケルが見守ってくれている。そして手を、友人が握ってくれているのだから。

 

 

「いいぞー。そのまま体から放出するんだ。大丈夫、危なくなったらすぐにわたしが除いてやるからな。」

「きれい…。」

「これがリィートイさんの魔法…魔力経路が全部埋められてるっす…。」

 

 

 リィートイは幼子へ語り掛けるような柔らかさで俺に言い、力強く俺の手を握る。

 魔力でできた白き炎。それは俺が作り上げた魔力の通り道から吹き出し、そして発散されていく。

 掌、足、腰だけでなく、上半身にまで広がる。そのとき俺は、全身が白き炎と一体になったような心地を味わった。

 だが炎に熱さはなく、すっと俺の体の中心に戻っていく。白色に包まれた視界が正常に戻っていき、その隅に金髪の少女を模した人形、モユヌエの表情が見える。彼女の顔は驚愕で歪んでいた。

 

 

『……まさか、本当に火種を飼えるとは。いや、もう分かっていたことじゃな……』

「よしっ! これでお前の中に『皚炎』が宿った。少し動いてみろ。お前の状態を思うに、体が軽くなってるはずだ。」

 

 

 しばらくして炎はおさまる。こんな簡単に魔法を習得できたのか。俺は首を傾げてから少し歩き、リィートイの言った通りであることに気が付いた。旅や戦闘による疲労、倦怠感がなくなっているのだ。

 魔力循環を高めるだけでなく、疲労まで取るとは。リィートイが用いた未知の魔法に恐ろしさまで感じるほどだった。

 

 

「本当だ……羽のように軽い。これも『皚炎』の効果なのか?」

「まあ、そんなところだ。成功してよかった。普通の奴に使うと、自分の魔力で丸焦げになるだけだからな。」

「…そうっすよね。見ていて分かりました。炎が留まり続ければ、体内が完全に焼かれてしまうでしょうし。」

「ああ、アイナちゃんの見た通りだ。掌だけじゃ、皚炎を逃がしきれない。それも、ここにいる子たちは、鍛え続ければ習得できるかもしれないけどな。」

 

 

 リィートイの説明にアイナが頷く。自分の魔力の流れは感覚でしか捉えられないが、魔力の扱いに長けた者なら、他者の魔力循環を見ることもできる。アイナは見て覚えられる才覚があるため、先ほどの俺がどうなっていたか理解できたのだろう。

 ヨヌアとオズは主と同じように黙り込み、ケルは俺の方へ近づいてきて、無邪気に魔法を知れたことに対し喜ぶ。

 

 リィートイから更に説明がなされる。魔力循環を高めることで、皚炎は成長し、体内に貯めこめる魔力量を伸ばすことができる。つまり動かずとも、魔力を練る鍛錬を続けるだけで成長し続けられるのだ。

 俺にとってそれは天啓とも呼べる言葉だった。

この炎さえあれば、俺はもっと動くことができる。休息に取られていた時間を削れば、今まで以上にイレギュラーな事態へ対応できる。実質的な弱体化もなくなるのだ。

 そしてケルや才能あふれる善なる戦士に鍛錬してもらい、皚炎を覚えてもらえれば、来たるべき総力戦において上位種相手に勝利をおさめられるだろう。ケルとそのパーティメンバーだけが残る惨状ではなく、輝かしい凱旋へと。

 

 

「――という感じだ。だからといって、無茶はするなよ。皚炎は自然に発生するものじゃない。エド自身の魔力を燃やしているんだ。丸薬で魔力を練るより効率は良いだろうが、有限であることは忘れずにな。」

「ああ。しっかり覚えておこう。それはそうと、この魔法について上手く使えるようにしておきたい。アイナ、王城に行った後にはなるが、手合わせを頼めるだろうか。」

「もちろんっす!…私もエド先輩に見せたい技がありますから。」

「楽しみだ。ケル君も眠そうだし、各々しばらく休むとしようか。モユヌエ殿、ここを貸してくださったこと感謝いたします。」

『……うむ。またしばらくしたら会おうぞ。ヨヌア、オズ、お主らが泊まった宿にうちの人形を運んでくれるかの。』

 

 

 アイナは愛らしい笑みを浮かべ、俺の頼みに応えてくれる。事が終わって、俺は越境組織の奥部、不気味さを感じる無機質な部屋から離れることにした。

 何とも簡単に得てしまった力に溺れぬよう、気持ちを引き締めながら。

 

 

 

 そしてアイナと一度別れ、俺たちは鍛冶工房にまで歩く。

 陽はまだ上っているが、俺の背中で幼子は寝息を立てている。日差しで疲れが取れないうちに起きないよう、清潔な布で目元を覆っておく。

 ケルとは反対に、俺の体からはみるみる力が湧いてきていた。魔力が無くなった時のことが想像できない。このまま三日三晩眠らずとも大丈夫なんじゃないかと思える。俺の中にある種火へ薪を投入するように魔力を動かせば、更に活力が湧いてくるのだから。

 

 

「すう…すう……。」

「素晴らしいな…。これなら休息を取らずとも、飯を食べるだけで活動し続けられるんじゃないか?」

「全く…そういうことは考えるんじゃないって、さっき言ったろ?戦うとき以外は、しっかり休め。」

「…そうだな。オビシオンかその眷属か…奴らを相手取るなら、温存しなければ。」

「ふふっ、良い子だ。…わたしが寝かしつけてやってもいいぞ?ケルちゃんのおかげでお守りが得意になったからな。エドみたいな奴でも、ころっと眠らせられるんだから。」

 

 

 リィートイの魔性の優しさは、どんどんと底なし沼のように深くなっているように感じる。俺は掌で、遠慮する意を伝えると、リィートイは悪戯っぽく笑った。

 

 

 俺はその後、ケルをリィートイの私室に寝かせ、幼子がリィートイと共に作ったという直剣を見せてもらった。それは厚く、俺が折れる度交換している剣と同じだった。ケルの器用さは、この年でも活きているのだと驚かされる。

 

 

「ケルちゃんはお返しがしたいって、ずっと頑張っていたんだ。お前に使ってほしいってな。起きたらあの子から渡されるだろうから、それまで知らないふりをしておけよー。」

「分かった。…ケル君が、俺に…。」

 

 

 主人公からの贈り物。それは俺の心に、じんと温かさを与えてくれた。幼子の気持ちに応えられるほど、俺はケルに多くを渡したい。希望の芽は、彼の善性のもとに育っている。

 

 

「――なあエド。王城での用を済ませたら、一杯やらないか。…モユヌエも呼んでな。飯を共にすれば、あいつもエドのことを疑わなくなるさ。お前が嫌ならやめるが…どうだ?」

「彼女が良いなら、是非とも。…しかし、人形の体で飲食できるのか?」

「はは、確かに疑問に思うよな!あいつの人形は特別製だ。越境の職員として置いてる人形と違って、食事の真似事は出来る。天才人形師の呼び名はハリボテじゃない。」

 

 

 モユヌエはリィートイの友人。友人同士仲を深めてほしいという思いがあるのだろう。リィートイの心遣いは温かい。

 俺は提案に乗る。越境組織の舵取りをしてきたというモユヌエの手腕は頼りになるし、何より打算抜きでも信頼できる戦士だ。それに彼女からかけられた威圧の中に、俺は出会ったばかりのリィートイと同じ雰囲気を感じ取った。触れれば壊れてしまいそうな、不安定な感情。それを解消できれば、モユヌエのメンタルは勿論のこと、総力戦を成功させられる鍵になる。無為に死ぬ冒険者は絶対に減らせるのだ。

 

 そして俺たちは、デリク総司令官が鍛冶工房に来るまで、休息を取ることにした。ルヴネトに来てから濃密な時間を過ごして凝り固まった緊張をほぐし、ルヴネト王に粗相がないように。

 

 

 

 

 越境組織に集まった各員は、三つに分かれた。アイナは単独でリシディア教徒たちのもとに戻り、エド、リィートイ、ケルの三名は鍛冶工房へ。そしてモユヌエとその懐刀である二名は、防音性の高い宿屋の一室へと入る。値の張る宿屋であり、ベッドに敷かれたシーツも純白だ。

 狭い一部屋しか取っていないという意味は、ヨヌアとオズがただの姉弟ではないことを示していた。生まれてから、上位種のもとから逃げ出すときも、常に寝食を共にしてきた。血の繋がりだけでない、強固な親愛がある。

 

 体を洗い、全身鎧を脱いだオズはベッドに腰かけ、ヨヌアとモユヌエの顔を交互に見た。彼女らの表情は硬く、エドに宿った炎について考えていた。

 

 

「おばあちゃん…あの『皚炎』って、私たちに教えようとした魔法よね?それに…私たちの体に使った…。確かにただの魔力持ちには扱えなさそうだったけど、今の私たちなら…!どうして教えてくれなかったの?」

「私も、気になります。魔力の流れを全身へ。難しいですが、鍛え、あの力さえ手に入れれば。憎き偽竜の喉元に、刃を届かせられる。」

『落ち着け…そのことを今から話そうと思ったのじゃ。』

 

 

 冒険者の姉弟は、白き炎に見覚えがあった。上位種に養殖された身であれば、その支配から逃れることが出来ない。その生まれ持っての役割からも同様に。

 しかし直接的な支配からは解放する術を持っていると、幼き頃の二人にモユヌエは言った。そして僅かな時間の苦痛、灼熱感、そして背面に生涯残る火傷痕と引き換えに、二人の脊髄から服従の印が消え去ったのだ。

 

 モユヌエは二人を諫めると、語り始める。ヨヌアとオズは一旦口を閉じ、モユヌエの喋りに耳を傾けた。

 

 

『あの魔法には欠点がある。まず…そもそも全身に魔力の放出孔を作るというのは、只人では自死したい輩であるのと同義じゃ。』

「…魔力が漏れ出るのを、抑えられなくなるってこと?」

『その通りじゃ。じゃがあの男は、抜けていくはずの魔力を体内に戻すか、固形化させて動かさないようにしておる。あれは、相当な魔力制御じゃ。例外なのじゃよ。』

 

 

 オズたちが二言を告げる間もなく、モユヌエの人形は指を一本立てて続ける。「束ねられた腕」の一部が知る事実。モユヌエは古くから生き続ける、不老の少女であること。その理由が彼女自身の口から放たれた。

 

 

『もし魔力制御を鍛えきったとして、お主らがあれを灯せば――うちと同じになる。この新しき世には化物とも称されるじゃろう、時を固定されたような人間にの。』

「…おばあちゃんは化物なんかじゃないわ。」

「ただの魔力循環を高める魔法では、ないということですね。」

『…そうじゃ。うちは戦乱の世が明けた後、お主らに人として健やかに生きてほしいと思っておる。死なず朽ちぬ、ただ存在するだけの人外になってほしくはないのじゃ。』

 

 

 その返しにヨヌアは、恩のある大母に対してであっても、声を荒げる。皚炎を得ることを、モユヌエは望んでいないように聞こえたからだ。

 

 

「…だったら、エドワルドさんに教えてあげれば良かったじゃない。リィートイさんも、おばあちゃんと同じなんでしょう?」

『ふふ…リィートイを止める気はなかった。うちはこうも思っておる。猛き戦士の再来…我らと同じ時間を過ごす同胞。その存在も、うちは待ち望んでいたのじゃ。』

「……。」

「…やはり、貴女様は、彼を求めていらっしゃる。」

 

 

 モユヌエは穏やかな笑みを浮かべる。またその笑みには罪悪感の色も混じっていた。

 青を微かに含んだ、白き炎を見てからだ。モユヌエはリィートイへの畏怖と同時に、猜疑心から解放されたいという思いに呑まれた。

 

 皚炎は、上位種とそれらに繋がる者を焼き尽くす。古い時代、悪しき怪物を退けた力の根底にあったのは、侵略前から育まれていた技。燃え盛るような白光と、結びつける白き糸であった。

 白光は「此の地からの恵み」とも呼ばれ、尊きものとされていた。白光を内に宿し、行き渡らせた者は、肉体の全盛期に固定される。その者だけ時が止められたかのように。

 これは古い時代多くいたが、現在に至っては数人でしかない。数人で事を為すには力は足りず、蹂躙されることを見せつけられるしかない。恵みは呪いと言えるほどに残酷だった。

 

 

 戦の時。偶然にも猛き戦士たちは、此の地と隣り合う天体、届く星々に、光を武器にすることを教えられた。

 その片割れ、火種を心臓に宿したということは、上位種に与していないことを示す。

 猛き戦士と言えど、絶望的な戦況に寝返る者もあった。そうした者たちは、体内の皚炎により焼かれ尖兵になることさえ無かったのだ。死した後、傀儡に変えられた者はいても、死肉に灯火は宿らない。

 

 だからこそ、モユヌエは疑念と感情でぐちゃぐちゃになりながらも、新生した灯を信じたくなった。同胞である証すら疑えば、何もできなくなる。強き戦士と新しい同胞をモユヌエは望んでいたのだから。彼女は思考を投げ出すようにして、一歩踏み出した。

 モユヌエは、長きにわたる策謀の中で疲弊しきり、寄りかかる場所を求めていたのである。

 

 

 彼女は元々、後方支援をしていた人形師の一人でしかない。上からの指令を聞き、その通りに傀儡人形を動かすのが得意でも、導くことに長けているとは限らない。

 上に立ち、導いてくれる存在がいないからこそ、モユヌエは動き続けたのだ。

 

 分不相応だとモユヌエ自身が思おうと、時間は積み重なり経験もまた蓄積される。しかし流れる時間はむごく、反撃の勢いは鈍り、諦観と欲望に濁っていく。その暗雲は見ないふりをして。

 

 

「おばあちゃん…分かったわ。黙っておく。」

『すまぬな…。』

「でもモユヌエ様…貴女は人間だわ。人外なんかじゃない。だって人間じゃなかったら――私たちのために思い悩んだり、人として生きさせてくれるはずがないもの。ね、オズ。」

「同感です。私たちはずっと、貴女様の剣であり盾でありましょう。そして、固く閉ざした口にも。」

『ありがとう…お主らは、本当にできた子じゃ。うちの腕であるには、勿体ないくらいのう…。』

 

(すまぬ…すまぬな、エドワルド。……ヨヌアとオズの心をつかんだように、うちにも信じさせてくれぬか。もう、だめなのじゃ。お主がはじめてになってしまったから…。)

 

 

 モユヌエは、ヨヌアとオズ等信頼できる「腕」たちの他には真実を明かさず、口を噤む。彼女の人形から伸びる白糸は、ルヴネトの王城、老いた王が寛ぐ私室にまで続いていた。

 これは彼女が守るべきだと思う後世の民、その一人への密かな裏切りであった。

 

 しかし、皚炎を既に鍛え始めたエドにとって、それは些末なことに過ぎなかった。そのことを知っても、何れ只人では無くなろうとも、手段を得たならば使い込む。

 エドの考えは変わらない。借り物の肉体と鎧は、上位種の脅威を退けた後、返還せねばならないものだと。彼は九年余りの時を過ごそうと、部外者(プレイヤー)の気持ちでいた。しかし、感情は黒血に塗れた戦によって擦り減り、誤魔化しながら生きている。

 兜を外せば、表情は苦渋で固まっている。形状が破損によってしか変化しない鉄塊こそが、「青月」エドワルドの顔なのである。

 

 

 

 

 王城にて。頭髪と同じく豊かな白髭を持つルヴネト王は、巨体を座り心地の良い椅子に沈め、一人戦士たちの会話を聞いていた。

 腕に繋がった糸が伝える。大陸外のこと、「束ねられた腕」に所属する姉弟の出自、そして白き炎についてまで。

 

 現ルヴネト王は、只人としてはあまりにも理を知りすぎている。その背景の一部には、越境の頂との深い交流もあった。

 猜疑心の塊、幼い風貌でありながら化かし合いに長けた老女。人形師モユヌエと彼が出会ったのは、少年の頃に遡る。裏表なく純粋な武にのみ執心するルヴネト王は、モユヌエの信頼に値する人物だった。

 

 現在に至るまで歴史を絶やしていない各国は、生ける先人の知恵を借りている。そして繋がりが薄れていく中で、最後まで糸を掴み続けているのが、このルヴネト国なのである。

 

 

「雪城に籠って出てこない大母が、ここまで。この激動……再び人類の栄華を見るまでは、死ねん…!」

 

 

 老王は立ち上がり、私室に飾られている武具を手に取る。巨大な剣だ。常日頃から手入れされ、武具の芯も錆びついていない。

 

 そして彼は剣を持ったまま、従者と共に城内の修練場へ向かう。普段は限られた王兵、矛神の騎士に使われているが、戦の準備により閑散としている。恭しく待機する従者たちが見守る中、王はぶんと剣を薙ぎ、風を切った。矛神の赫光が、王が振るう剣と体の中心を燃やす。

 彼の記憶には、他大陸を奪還しようとした大戦が今も残っている。老王は残り短い生を燃やし、次の戦を待っていた。

 

 そして老王に心から仕える者たちは、ルヴネトにかつての熱気が戻ってきたことを感じる。闘技を催しても、矛神教を国教としても戻りきらなかった情熱が。

 人同士の戦乱を勝ち抜き、大陸の中心に陣取り続けられた理由。老王がまだ若き頃、王都に住まう者は皆、刃を取らずとも武人であった。

 

 王の猛りは続き、陽が沈む。王への謁見のため、招待された戦士がやってくる。

 

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