裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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蒼風が立ち昇る

 深夜勃発した市街戦。騎士と術師たちが魔力を輝かせ、似た装束に身を包む尖兵相手に刃と魔法を振るう。倒しても倒してもどこからか出現する尖兵に、二つの騎士団は疲弊していっていた。

 シウゼヴァクから来た魔兵たちはあくまでも外を走り、術式で制御された作り物の馬で轢き潰す。他国の主戦力が大手を振って王都内に入ることはできない。後で言い訳が利くように、「姿を隠した王」は国家間の取り決めを順守していた。

 

 

「総員、十の陣形!…クシアさんは、裂け目の調査をお願いするっす…!」

「ああ任された。巡れ、白糸――」

 

 

 リシディア騎士長の少女、アイナは三つの小隊をまとめ上げて的確に指示し、内一人の女性にも言葉をかける。この場で唯一の勇者であるクシアは、左腕を大きく広げ、白糸のごとき魔力を放射した。一本一本は細く脆いが、感知能力は高く。糸に触れる外気が、裂け目の在りかを高速で探し出しはじめる。

 只人の脳が処理するには、糸を伝ってくる情報量は多い。クシアは割れるように痛む頭を右手で押さえ、同じ隊に所属していた神官の女性二人と共に動く。

 

 

「アイン・エルディア殿…!裂け目の反応が濃くなってきましたぞ!」

「そんな…やばいですわ!そ、それに、王城が…崩れて…!?」

 

(…これ以上戦力を分散させるのは、危うすぎる。でも…ルヴネト国王陛下が!…先輩と、リィートイさんも戦っている…!?)

 

 

 矛神騎士の男性と、リシディア神官の女性が口々に叫ぶ。アイナは「聖光宿し」を行使した直剣で斬り下がり、「探知」と「感知」を数舜だけ併用した。

 遠くにいる彼女が信頼している二人からは、魔力の乱れが感じられ。エドに関しては、一部が崩れた王城にまだいる。悪意で乱れた魔力たちの近くに。

 

 矛神騎士の女性は顔を歪めて苦し気に言い、次の瞬間はっと目を見開く。崩れた王城の壁から、凄まじい勢いで青白い竜巻が飛び出したのを見たからだ。

 その状況に一同気づき、セオドア・ティテア隊のリシディア騎士の男性がぽつりとこぼす。

 

 

「総司令官殿は、何をなされているのだ!指揮系統の乱れは――あ、あの青っぽいのはなんだ…!?」

「特徴的な魔力です…しかし、覚えが…。」

「皆さん、聞いてください!このまま人員は分散させず、門前での戦闘を続行!現れる裂け目に備えます!」

 

 

 青白い突風を視て、アイナは決断する。それが少女の想う騎士、エドの放った魔法であることを理解したために。

 また寄りかかることになっても、その騎士の背中は大きい。アイナの焦りは幾分ましになり、果敢に攻める。

 月を用いる騎士に関わった者は、認識の大小はあれど感じ取った。心を寄りかからせる場所は確かにあると。

 

 突風に巻かれた月の明かりは柔らかく、絶望をも和らげる。不思議と、騎士と術師たちの心は仄かに熱くなっていた。

 

 

 

 そして戦の最中。前傾姿勢になった黒笠の尖兵が、ある矛神の神官に飛び掛かったときだ。

 ルヴネト王都の門から凄まじい熱が湧き上がった。その熱は刃として振り下ろされ、縦に尖兵を両断する。魔力の炎で焼失していく骸の向こうから、男勝りの騎士長が姿を現した。彼女と共闘する二人の戦士と共に。

 

 彼女、「紅瀞」のラディアは兜の奥でにやりと笑み、足をくじいた矛神の神官を引っ張り起き上がらせる。

 神官見習いから卒業したばかりのその少女は、涙と鼻水で顔を濡らしながら、ラディアの来訪に情けない声を漏らした。

 

 

「何という幸運!『紅瀞』殿、感謝するぞ!」

「はっ…こんな木っ端に情けない奴らだぜ…!仕方がねえから、おれが尻を拭いてやるよ!」

「…あ、姉貴ぃ…!うぐう、もうだめかと…!」

「ガキが、しっかり立ちやがれ!…リシディア騎士団も魔兵もいやがるとはな。それに『青月』も!ふはははっ!」

 

 

 ラディアは口端を大きく吊り上げ、感じる「月」の魔力に震えた。邂逅するたび強くなる騎士に、ラディアは己にいつしか生まれた被虐嗜好を募らせる。直接対面したらどうなるのかと、期待を膨らませながら、女戦士は猛った。

 

 

「…アイナ、久しぶりだね!私も、ちょっとはやるようになったんだ。一緒に頑張ろう!」

「へ…わ、びっくりしたっす…!…ええ、再びこの王都を共に守りましょう!」

 

 

 回り込むようにして、アイナの隣に立った冒険者ミナは蠱惑的な笑みを浮かべた後、戦場を疾走する。彼女の武器は引き締まった肉体にある。

 知人との思いがけない再会に驚きつつも、アイナの精神は安定していく。女神リシディアから賜ったとされる黄みがかった聖光は、既にアイナの元にはなく。代わりに、完全なる青色が直剣を染め上げる。

 「月光宿し*1」。アイナは追いかけ、ようやく「月」を掴んだ。彼女はもう、憧れを逃さない。

 

 

 

 

 今ルヴネト王都を攻め込んでいる尖兵、黒笠の集団はそれぞれ顔が違う。彼らはかつての優れた僧侶たち、癒やし手の模倣であり、養殖された人間たちでもあった。

 善良だった医療者の模倣が植え付けられた理由は、単純だった。ハドリグは、生き残った古い猛き戦士たちの心を完全に折るつもりだったのである。

 

 前線で戦う者にとって、後方支援の部隊は生命線であり、心の支えでもあった。後方支援の部隊を守り、その後ろにいる民も守る。守る者がいるからこそ奮い立ち、目の前の脅威に立ち向かうことが出来たのだから。

 中でも黒笠の僧侶たちは、「嵐翼」の隊列の中核だった。故に数が多く、死後も化物に愚弄される。

 

 その事実を知る者は限られており、今の時代を生きる人々にとっては恐ろしい尖兵に過ぎない。

 かつて人々の絶対的な味方であった集団が、後世の人間を殺して回ろうとする。ハドリグは人の尊厳を破壊することを娯楽にしていた。

 

 

 

 また多くが知らず、またそれを知る天才も公に示さない事実がある。

 ゼシニス大陸における空間の裂け目は、実のところ()()()()()()()()。その一つ一つが魔法では感知できないほど小さいため、不規則に発生しているように判断されているだけなのである。

 何万、何十万の戦士や知恵者を喰らい糧としてきたとある上位種は、人類の知恵を略奪した。保持してきた魂をついに消化し、知恵者がひた隠しにしてきた情報を我が物にしたのだ。

 そして見つけ出した。裂け目に、己が尖兵を潜り込ませる術を。

 それが実に、六十余年前の出来事であった。

 

 巨山のごとき肉塊の怪物は、子と呼べる肉塊を取り込ませた従順な家畜、養殖した人間たちを次々に空間の綻びへ押し込み、ゼシニス大陸へ入り込ませた。

 魔力を溜め込む素質がある戦士に狩られようと、悪しき種は着々と実り、上位種ハドリグはついに悦楽に浸ろうとしていた。

 己こそが最も優れた頭脳を持った生物だと、誇示するために。

 

 しかしどうして、人間を喰らって知識を蓄えるだけの寄生生物が、他者から掠め取るだけの盗賊が優れていると言えるだろう。

 

 

 その上位種に消化された古い時代の人間も、蹂躙されるだけの存在ではなかった。せめてもの抵抗として、彼らの一部は死す直前、自らに魔法を行使した。

 

 美しき夜空をもとに体系立てられた「天体の魔法」。その内、生体の神経を星空に見立てた魔法群「記憶に関わる魔法」である。夜空の星々は流れる時を表す。

 此の地に生きる動物に着目した「記憶に関わる魔法」は、奇しくも後世の才女が作り出した魔法とアプローチが似ていた。

 

 古い時代、命尽きるまで戦い抜いた術師たちは、上位種へ「流れる時間」を押し付けた。

 それによって、半永久に生命活動を維持できる上位の生命体を、同じ土俵に引きずり落としたのだ。

 流れる時により生を全うする動物と同等。いや時を加速させられることにより、それ以下の存在へと。

 

 

 そしてハドリグの体内は、時を追うごとに崩れている。子である粘体たちも知性を失い、もはや上位種という定義には当てはまらない、グロテスクな怪物だ。

 しかしハドリグは、現状を理解していない。取り込んだ生体は多く、日に日に奪った知恵が消失していても気づくことが出来ないのだ。消失している知恵が数万に及ぼうと、別の世界において行った過去の蛮行は、多大なる犠牲者を作り上げた。

 

 だからこそ、油断する。その巨体はもう既に、裂け目へ尖兵を潜り込ませる術を忘却した。それを忘れたことにも気づけず、奇怪な馬鹿笑いだけを繰り返す。

 

 

 

 ルヴネト王都北端。王城に青白い竜巻が昇る。それは、家々に閉じこもった王都民にも見えるほどに、巨大であった。

 しかしその輝きに、恐怖を感じる者は少なかった。

 何故ならこの王都に住まう民は見て、見ていない者も知る者から聞いていたからだ。青色の淡い光は、此の地を見守る二つの月由来のものであること。その光が、一度ルヴネトを守ったことを。

 

 只人の中でも魔力を持たない大部分の民は、災いが討たれるのを祈り。魔力を持つ少数、特に矛神の教団に関係する者は、王都陥落を想像しても尚、自分にできることを模索する。

 

 

 古い月の魔法を我が物にした騎士、「青月」エドワルドは暴風の中心にて、剣を振るう。突き、切り払い、刃を尖兵に届かせるために、剣戟は激しさを増していく。

 蹴撃も織り交ぜる荒々しい戦法でも、月下で踊るような優雅さを感じさせる。

 

 高速での戦闘を得意とする、冒険者の上澄みの協力により、強大だった戦士の骸は徐々に動きを封じられ。エドワルドの青白い炎を宿した刃は、ついに矛神騎士の胴鎧を深く裂いた。

 

 

 

 

 「鉄剥」の通称を冠する冒険者の少女、ヨヌアの前で、デリクだったものがよろけた。好機を逃さず、ヨヌアは突撃し、デリクの左手を切り飛ばす。赤茶けた双剣の片割れと、既に腐っていた左手は、魔力の嵐に消えた。

 ヨヌアは攻撃してから、自身が一撃を入れられたことに驚く。デリクの卓越した剣技と、地属性の魔法の併用は、一騎当千の総司令官に相応しい実力である。

 そして尖兵になったことで単純な力は増す。そのためヨヌアは、総司令官だったものとの実力差が更に開いたのを感じていたのだ。

 

 ヨヌアは、隣に立つ青白い鎧騎士に視線を合わせる。その騎士、エドはヨヌアと違って息を乱していない。ただ冷静に魔力を練り上げている。

 

 

「はっ、はっ……もう、これで終わりよ。尖兵…!」

『まだまだ…片方を失ったところで、戦い続けるのが矛神の騎士たるもの!さあ来い!』

「…気づいているか?既にお前は、デリク殿を模倣出来ていない。動き方が粘体の化物と同じだ。」

『何…!何ということだ…この感触は…。』

 

 

 尖兵デリクは、左腕があった場所を触る。ぐちゃぐちゃと音を鳴らし、肌と同じ質感の肉塊が生えてきた。しかしそれは、溶解しているような形状であった。

 尖兵の目下に出来た傷からも、同じように肉塊が零れる。粘体の上位種による、骸の消化が始まっていた。

 だが尖兵デリクは、悔し気に歯を噛み締める。黒血が噴き出るほどの力で食いしばり、己の末路を嘆く。

 

 

『く…これでは、逃げたことになるではないか…!名残惜しいが、早々に我が技を全てぶつけさせてもらおう!』

「……デリクさん。」

 

 

 ヨヌアは眉を悲しげに下げ、出会って間もない総司令官の影に胸を痛ませる。ここまで生前を模倣した上位種への怒りも、ふつふつと湧き上がらせて、ふとエドの背中を見た。

 彼女は戦闘中だというのに、思わず口元をおさえる。エドの背中に張りつくような亡霊たちの内、一人が前に出たのである。

 

 ヨヌアは気づいた。手合わせの時は気にしていなかったが、その亡霊はエドと背格好がよく似ているのだ。いや似ている言葉では言い表せないほど、肩幅も身長も、身に纏う鎧の形状さえも同じに見えた。

 違うのは雰囲気と、兜の有無。そして鎧を隠す外套だ。

 

 

(エドワルドさんの兄弟…双子?でも、ここまで同じことがあるのかしら…。)

 

 

 その亡霊は気取ったような、柔和な表情を浮かべ、手を伸ばす。左掌はエドの背中につけたまま、実体のない刃をぶんと振るった。

 

 亡霊は、生きる者へ肉体的な影響を与えない。ただの魂の残滓でしかなく、死の間際の絶望のみを視える人間になすりつけるだけの存在のはずだ。少なくともヨヌアはそう教わり、認識も知識と噛み合っている。

 だが、ヨヌアは理解しがたい光景を目にする。その飛ばされた刃は、尖兵デリクに命中した。その後、効果があったかのように尖兵がもがき苦しみ始めたのだ。

 ヨヌアと同じくエドも驚き、彼女を庇うように左腕を横に伸ばす。ヨヌアが感じている驚きとエドのそれは別種のものであった。

 

 

「何だ…?ヨヌア殿、気を付けてくれ!」

「う、うん…。」

 

(エドワルドさんは気づいてない…?うわ…どうなってるの、あれ?)

 

 

 エドに酷似した背格好の亡霊は、すっと前方へ手を差し伸べる。彼の手の先には、幽体離脱のように抜け出たデリクの亡霊の姿があった。ふわりと浮かび、デリクの亡霊は腕を掴まれ引き寄せられる。

 

 理解不能な光景に目をくぎ付けにされたヨヌアへ、エドに似た亡霊がサムズアップを行った。あちらから観測されていることにヨヌアはびくりと体を震わせ、落ち着かない気分を味わった。

 最愛の弟の声にも生返事をするくらいには。

 

 

「――姉上、こちらは終わった。加勢する!」

「え…ああ、オズ…。」

「ありがたい、オズ殿!ちっ…陰湿な化物め…。デリク殿の体を…!」

 

 

 オズが駆け付けて間もなく。尖兵デリクの体は完全に溶解し、粘体の上位種に成り果てていた。毒々しい緑色をしたそれは、デリクとは全く異なる貌をにたりと歪める。

 しかしヨヌアとオズは、上澄みの上位種相手に敵わずとも、裂け目の対処は幾度も行ってきた身だ。未だ暴風は残っており、しかも一体だけならば勝利は揺るがないと思っていた。

 

 

『へっへへ…餌がいっぱいだあ…!もっと、おいしそうなのが…!』

「ただの粘体か。残念だ。総司令官と斬り合えれば、昂れたかもしれないのに。そう思わないか、姉上。」

「全く…温存しときなさい。…エドワルドさん、それ私がもらうわ!『暴風の銛』」

『あ、え――』

 

 

 ヨヌアは調子を取り戻すと、にやにやと笑う粘体の上位種目がけて魔法を放つ。槍から直接放たれる銛の形状をした魔力は凝縮されているがゆえに、突き刺すのではなく、小さな粘体そのものごと消滅させた。

 エドは粘体の上位種がいた場所と、ヨヌアたちを交互に見てから、直剣を鞘におさめた。吹き荒れていた青白い風は勢いを無くし、荒れた城内に三名は立つ。

 

 

 そしてしばらく。いつの間にか姿を消していたモユヌエの人形が、彼らのもとへ合流する。一体だけでない。越境組織に並べられていた美麗な顔をした人形たちと、モユヌエを模した人形が三体。

 人形に守られるように、その集団の中心には、消耗した様子の矛神騎士たちと、王族の面々、王と共に都の政治を支える貴族などの姿があった。

 

 

『よしよし、全部ぶっ倒したようじゃな!一先ずは安心じゃな。』

「…しかし、王都内に尖兵の反応があります。それに…この後の戦と、信仰も…。」

『後のことは気にせんで良い。そういうものは、この坊と、矛神の団長が考えることじゃ。うふふ…それにお主なら、オビシオン如きやれるじゃろう~!』

「……」

 

 

 三体のモユヌエの人形から一斉に放たれる言葉に、エドはたじろぐ。妙に楽観的な振る舞いをするモユヌエに対して戸惑い、その後エドなりに納得をした。

 エドの解釈が、モユヌエの真意とは違っても、場は収まる。

 

 

「『青月』エドワルド…離れから見させてもらったぞ。見事な太刀筋だった。不覚を取ったが…この程度で怯んでは、ルヴネトを守った先祖に申し訳がたたぬ!ウィル、リリをしっかり守ってやるのだぞ。」

「そ、そんな!お爺様…この災いに向かわれるなんて!行かないでください!」

「承知しました、偉大なる王。必ずや…!」

「――魔に堕ちた総司令官に代わり、我が指揮を執る!ルヴネトの騎士よ、矛を掲げよ!」

 

 

 現ルヴネト王の威厳ある言葉によって、矛神騎士たちは命を王へ預けた。残されたルヴネト王の子孫は、一方が泣き叫び、もう一方、国を背負う可能性を示された王子は顔を引き締める。

 王族の二人は、優しかった兄と、幼き頃から懐いていた総司令官の裏切りに心を引き裂かれながらも、寄る辺を求め縋っていた。立ち昇り、天にまで届かんとする青色に。

 

 

 空が大きく割れて、王都外壁の前に巨体が落下する。

 翼のない、巨大なトカゲの上位種。それは人体に似た部分を、既に恍惚に歪めていた。

 

 奇跡的に、二つの月はどちらも欠けずに円を描いている。潜もうとする影を、降り注ぐ光が照らす。

 

*1
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