裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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スライム(鬱ゲー仕様)を漏れなく潰す

 トリネを模倣するという、あまりの気色悪い行為に、「月融け」を使わず斬りかかってしまった。外見は同じになっていたがお粗末で、それだけで愛らしいトリネへの侮辱である。

 まず感じられる気配が違う。俺の探知にも引っかかっている。そもそも上位種特有の殺気と嘲りが混じった気配は、探知を使わずともすぐ分かるのだ。

 

 次に、トリネは俺に同行しており、木陰に隠れている。事情を説明した時、戦闘を支援すると言い始め、頑として意見を曲げなかったからである。

 トリネには、俺の上位種狩りを見せたことはなかったため、心配してくれたのだ。一人で戦うことと、術師と共闘することのメリットデメリットを天秤にかけ、今回は共闘に傾いた。

 だが、本来上位種から守らなければならない存在であるのに、結果として少女の心優しさにつけ込むような形をとってしまった。反省すべきことばかりだ。

 

 俺は怒りから繋がった思考と、剣を伝って感じた不快さとを、頭から振り払う。後者は何とも言えない、弾力があるのに粘着性が高い感じが嫌な気分にしてきたのだ。

 得物を持っていかれはしたが、粘体の上位種相手なら痛手ではない。寧ろ身軽になったので、好都合である。

 

 

(粘体の化物…。こいつら種族通して、本当に終わってやがる。)

 

 

 聴覚を閉ざしていることにも気づかず、奴はぺちゃくちゃと鳴き声を発しているようだ。内容は聞かなくても大体分かる。

 厄介な性質の上位種は、悦への浸り方もより気持ち悪くなるのだ。発している言葉の意味を理解しようとした瞬間に、デバフが入るくらいには。

 

 

『――食べてるとき、ぴいぴい鳴くの、体に響いて好きなんだあ。そこの人間も――』

 

 

 少し聴覚を戻したが、すぐに塞ぐ。悍ましすぎて、また「月融け」を使わずに攻撃してしまいそうだ。

 流石に何も無しの拳で殴るのは、リスクが高い。もし体に入り込まれたら、上位種の肉片によって中から溶解されるからだ。

 

 俺は化物に気づかれないよう視線を緩やかに動かし、トリネの様子を見た。少女は今まで見たことがないくらい、顔色が悪くなっている。今にも吐きそうだ。トリネが気づかれる前に、ぶっ殺さなくては。

 

 

 粘体の上位種は、所謂擬人化スライムである。この個体の場合は赤だが、粘体の上位種は何かしらの色が単一である。ゼリー状の美形ヒトガタというのは、一部のマニアなら好みそうだ。

 俺も奴らの性質に目を瞑った上で五感全てを破壊し、更に俺自身がこの世界からいなくなったら譲歩できるかもしれない。

 

 このタイプの上位種は、決して弱くない。弱さを演出するスライムにありがちな、体の核も存在しないのである。

 どうやって倒すか。単純な物理ではなく、魔力を存分に使う。そして肉片一つ残さないように、死ぬまで攻撃を繰り返すのだ。

 だが弾ける系の魔法はだめだ。分裂して、大量の肉片に攻撃されて死ぬ。

 

 因みにゲーム中盤、大陸の外に入ってすぐ、複数体相手しなければならない。これは本当にきつかった。

 クソみたいな鬱展開の洗礼をこれでもかと受けているため、プレイヤーは舐めてかかるわけがないのだが、純粋に強いのだ。魔法なんて知るかと、「筋力」の能力値ばかり上げたプレイヤーは、残念ながら一旦ゲーム終了をクリックすることとなった。

 

 俺は改めて、周辺を感知する。粘体の上位種は既に分裂しているようだ。目の前の奴を含め三体。加えて、ヒトガタを取れていない小さいのもいるようだ。それら肉片は、俺の背後や真横から飛び掛かる機会を伺っている。

 馬鹿正直に戦うつもりは無い。分裂するなら阻止し、すぐに片を付けてやる。

 

 

「さあ…ありったけ使ってやろう。行くぞ。」

 

 

 俺の手足が、視界までもが青い靄に覆われていく。全身へ「月融け」を使用した後拳を構え、そのまま素早く右足を踏み込んだ。

 そして拳へ多めに纏った魔力により、真横に潜んでいた小さい粘体が消滅する。

 

 まずは、一匹。

 

 

 

 

 樹の根によって凹凸が作られた森にて。女性の肢体を真似た粘体の上位種と、全身鎧の騎士が向かい合う。どちらからもプレッシャーが漏れ出て、近辺で眠っていた獣たちの地を踏み鳴らす音が聞こえ始めた。

 

 そんな中、幼い術師の少女トリネは縮こまっている。想い人の騎士に恩を返せるチャンスだと、先ほどまで勇み足であったのだが、戦いの緊迫した空気に限界を迎えていた。

 トリネは確かに魔法に関する才能を持っている。しかしその才が発揮されてきたのは、彼女にとって安全な場所である。命の危機など経験していないし、触媒である血液だって、彼女が対処できるレベルの異相付きから採取した物。

 トリネは少し荒事に触れたことがあるだけの、まだ幼い少女なのだ。

 

 想い人の殺気だって、こんなに長く感じたことはない。それに人を模した化物に気づかれれば、絶対に殺される。あんな残虐な行為を嬉々として語っているのだ。

 幼い子供なら、息さえ満足にできず、恐怖で震えるのが当然だった。

 

 

(エドさんのこと、考えれば…。エドさん…かっこよかったな…。あんな感じを、ちょっとだけ…試しにわたしにも…。)

 

 

 そこまで考えて、トリネは小さく首を振った。騎士の、日中見せることのない容赦のなさが、歪んだ形で少女の心を揺り動かしてしまったのだ。

 低く冷たさしかない声音も、少女にとっては劇物だった。しかしそれに浸るより、騎士への献身が勝る。自身の魔法により、上位種へ立ち向かうのだ。

 

 

(役に、立たないと…!え…あっ…。)

「――行くぞ。」

 

 

 トリネの表情が決意に満ちた。だがそれは、すぐに呆けたものへと変わる。

 少女の百面相は、恍惚とした笑みで幕を下ろした。騎士を包み込む青い霧と、差し込む月光を美しいと感じ入ったのである。まるで、この世のものではないかのような美であると、少女には思えた。

 トリネの目の前で、青の月を受けた騎士が舞う。荒々しくも正確な体術が、鎧の鏡面をなぞった。

 

 

 

 騎士は、飛び掛かってくる肉片を殴って魔力で焼き焦がし、次を消しに行く。対面する粘体の上位種は、ごぼりと音を鳴らして言葉を止める。目の前の光景の異常さに気づいたかのようだった。

 

 

『ねえねねね、おかしいよお!活きがよすぎるじゃない!』

『でも…おいしそう!』

「はっ…。…穿つ!」

 

 

 口元にどろどろの腕を持ってきた、分裂したばかりの上位種が、騎士へがばりと覆いかぶさろうとする。

 騎士は鼻で笑ったような声を兜の中で漏らした後。青い靄で包まれた手甲で上位種を掴み、青色の奔流を解き放った。断続的に放たれるそれにより、上位種は濁った水音を、人間の口を真似た穴から放つ。

 そうして見る見るうちに体が消滅していく。地面に接していた肉片は、念入りに踏みにじられ無くなった。

 

 粘体の上位種側はもう、本体と分裂した一個体しか残っていない。奇襲をかけるための小さな肉片は全て殺された。

 本体である上位種は、別の粘体から分裂したものである。分裂するたびに重要な記憶を受け継ぎ、歪んだ本性を人類へ浴びせる。だが、受け継いだ記憶のどれにも今のような状況は存在していない。

 これが異常であるのは分かっても、危機であるか判断できない。それが人類より肉体的に勝っている異形が、切り捨ててきた要素であった。

 

 

『あ…何だかだめだ…。』

『え、どうしたのさあ!ぐずぐず溶けてるよお!』

 

 

 すると突然、動きを止めている二個体の内、分裂した方がヒトガタではなくなっていく。その上位種の地面との接点には、赤黒い泥が広がっていた。

 上位種の有り様を見て、騎士が声を上げた。目の前に敵がいるため分からないように、少女の奮闘に歓喜したのだ。そして自身に欠けていたピースの在りかについても。

 

 

「ああ…ついに掴んだぞ。」

『なんなの!鳴き声を上げない人間なんておかしいよお!』

「…珍しいな。自ら隠れようとする個体もいるのか。」

 

 

 唯一残った本体がずるずると音を立てて、騎士から離れようとする。粘体の上位種は、なまじ動物的で、異常な光景を長く見すぎた。人間を殺す愉しみよりも、裂け目に戻って分裂しようという本能に従ったのだ。

 騎士はその大きな隙を見逃さない。

 

 魔力を放射するのではなく、浮かべ。それを地面へと落とす。液状化した「月」がどろりとした銀色の固体となり、広がった。移動の遅い化物は、銀色のそれに触れられる。

 「銀の泥沼*1」。まるで煌びやかな底なし沼のようだと、かつて言及された魔法であった。

 

 上位種は下から溶けていく。人間を内部から食い荒らす化物は、最期まで銀色を味わう。

 粘体の上位種は身動きできないままに、騎士を見上げた。月の光に照らされて、騎士の兜の隙間から、瞳が薄っすらと見える。

 それを見下ろす騎士は何も感慨もなく、無機質であった。

 

 

『活きが良くて…おいしそうだった、のに…。』

 

 

 粘性の化物は魔力で出来た泥沼に溶けきり、死へと沈む。

 

 本体を殺した後も、騎士は感知を徹底する。そしてもう粘体の上位種を倒しきったことを確認し終わると、彼は大きく息をついた。

 同じ頃。上位種の死により、裂け目はかき消える。森は再び静けさを取り戻した。

 

 

 

 

 厄介な化物との戦いが終わり、村に戻ってから朝を迎え今に至るまで。俺の横で、手入れされた少女の黒髪が揺れ動いている。トリネが俺に望んだことである。

 視線を向けると、少女はへなと笑みを浮かべ、腕甲を両手で握ってくる。

 

 討伐を成功してすぐ、俺はトリネの支援に感謝し、拙くなってしまった語彙力で褒めたたえた。的確な流血魔法に加え、俺のインスピレーションを刺激してくれたのだから当然のことだ。感謝だけでは足りない。

 そのため俺は恩を返そうと思った。申し出ると、トリネはすぐに話してくれた。戦いの恐怖が抜けず、しばらく傍にいてほしいという願いである。

 

 

「エドさん…わたし、王都に住もうかなって…思ってきた…。」

「それがいい。やはり一人では身を守りにくいし、またこういったことがあっては恐ろしいだろう。」

「うん。それに――」

 

 

 トリネからの話は、喜ばしいものであった。王都にも上位種による災いは起こるが、まだ猶予がある。トリネがずっとこの村にいて、もし予測できない襲撃に遭ってしまえば全てが水の泡だ。

 彼女はその後も続けようとしたが口をつぐみ、黙って首を横に振る。俺が聞き出そうにも、少女は話さない。

 顔色が悪くならなかったため、彼女自身の中に留めておきたいものが零れただけだろう。

 

 俺は聞くのを止め、トリネが満足するまで、村の外れの庭で時を過ごした。その間に、俺が次の場所へ向かうとき、トリネも王都に行くと決めた。またしばしのお別れである。

 

 

 

 

 月光は、見開かれた少女の瞳をも輝かせる。少女は「月」が真に美しくなる時を知り、想った。

 

 魔力と血の繋がりが更に深まったことへの歓喜だけでなく、新たな望みを。

 

 騎士に連れられた後。少女は王都にて、捻じ曲げられ延びた生を享受するだろう。

 やがて己の中に「血の月*2」を融かすという、標を掲げて。

 

*1
月の魔力を含んだ沼地を作り出す、罠魔法。「知」「理」の能力値が35、「生命力」の能力値が40必要。強い魔力は人類の敵に毒となる。地面に魔力を撒く技は単純で、それ故に制御が難しい。基本的な水系統の魔法や、大地の魔法についても似たような罠魔法は存在する(昼夜変わらない威力)。上位種側も使うことがある。

*2
???

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