裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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第四章
永遠に白き山を臨む


 大聖堂に、ステンドグラスから極彩色の光が射しこむ。

 その最奥部。何もない白い空間で、竜皮を加工した、触りのごつごつした鎧を着こむ騎士が立っていた。

 騎士は異形の剣を持ち、兜の奥で目を瞑って思案に暮れている。

 大柄かつ、真なる竜の鎧を着た騎士の正面には、人影があった。横幅の広い鎧騎士たちと、白染めのガウンとキャップを纏う者たちが立つ。その集団の内、ある細身の男性は嫌味っぽく考えを口にした。

 

 

「ルヴネトにおける被害は甚大です。この事件の首謀者に、矛神の総司令官たる者が関わっているとなれば……すぐにでも策を講じるべきだ。」

「……。」

「――代わりの、頭の古臭い総司令官を用意するか、それとも教団を縮小するか。ワタシとしては、後者を選択すべきだと思いますが。そうでしょう、アデス団長?」

 

 

 竜鎧の騎士、アデスと呼ばれた矛神騎士の頂に君臨する人間は、ゆっくりと返答する。

守護ヴァルミ教の頂の一人、野心家である技術者の彼に。

 

 

「それで、俺が後者を選べば…。代わりの務めを果たせるのか、サイラス。」

「もちろんですとも。そちらの怠けている人員とは違って、ワタシたちは日々技術を更新し続けています。――ヴァルミラ様の守りこそ、守護者として相応しいのだ。」

 

 

 自信に満ちた、どこか傲慢な様子で技術者サイラスは言い放ち、しかし矛神騎士団長アデスは気分を悪くしなかった。

 同じ双子神教と言えど、信奉する神へのスタンスは違っている。元々別の集団が合衆したのだから、知りえる幅も違うからだ。それに野心を燃やした先へ他者への施しがあるならば、情熱と言い換えることも出来ると。

 アデスは大きく息を吐き、椅子から立ち上がる。

 

 

「……では、号令をかけよう。どちらが『守護者』として価値を持つか。選りすぐりの戦士を以て、どちらに舵取りを任せるか決める。」

「なっ…ず、随分思い切りましたね…!どういうつもりです。」

 

 

 サイラスの焦りを見ながら、アデスは考えていた。もはや、矛神の内部にも毒は回っている。このルヴネトでの襲撃を機に、現状を維持するだけの双子神教に終止符を打たねばならない。つまりは、旗印とする神へついに弓引くときなのだと。

 アデスは続ける。双子神教に関わる者にも、招待状を出すことを。

 ゼシニス大陸中央で起きた戦は、目立ちすぎた。異相付きよりも恐ろしい異形を知り、怯える者もいれば、重い腰を上げる者もいる。矛神の頂に立つ者は後者であった。

 

 

 

 

 最近、よく夢を見る。

 あちらの世界での、平穏だが灰色がかった暮らしではなく。このどす黒い悪意に塗れたファンタジー世界での継ぎ接ぎ。

 それは決まって、俺の体験じゃない。会ったことのない子どもたちが腕を引き、守るべき人たちと笑い合うエドムンドの記憶だ。海沿いのウィスプマリナは美しく、子の心身を育むに相応しい景観である。

 

 しかし最後には、悍ましい惨劇が広がる。花は焼け落ち、焦げ臭い孤児院から骸となった子らが這い出てる。そして俺の足を強く掴み言うのだ。

 義兄の体を返せ。人の皮を被った化生と。恨みの籠った、おどろおどろしい声で非難するのである。

 俺はその度懺悔して、目覚めるまで地獄絵図を見続ける。エドムンドの体を黄泉へ明け渡すには、まだかかる。この体に安寧が来るのは、役割を果たしてからだと。

 

 苦し気に呻きながら、子どもだったモノの幻は俺を囲む。俺は怨霊の恨み言を受け入れ、何もできない自らへ意識を向ける。その繰り返しだ。

 永遠にも思える悪夢の中、体が大きく揺れる感覚がする。すると目の前の惨劇がぼんやりとしていって、代わりに俺の前には、愛らしい少女の貌が現れる。

 一人ではなく、三人。皆、安心できる友人の顔だった。

 

 

「あ、起きた!すごい魘されてたけど…大丈夫?」

「…ああ。心配いらないよ、ミウ君。だが起こしてくれて助かった。」

 

 

 俺の兜を覗いていた内の一人、銀髪を切り揃えた少女ミウが俺の肩から手を離す。彼女が悪夢から解放してくれたようだ。俺は礼を言い、頭を押さえる。がんがんと締め付けるような鈍い痛みがする。

 ここは、もはや見慣れた矛神の拠点における休憩室だ。俺はまだルヴネトにいる。まだこの国を去るわけにはいかなくなったのだ。

 

 ミウの隣にいるのは、小さな童女のごとき古い戦士の友人リィートイと、早くも正式に勇者となった幼子ケルだ。二人の瞳も不安げに揺れていて、申し訳ない気分になる。

夢を見ること自体久しぶりで、体は休息を取れているのだと実感できるから良いのだが、第三者から見れば違ってくる。

 リィートイがじっと俺を見つめ、ゆっくりと話す。

 

 

「魔力を多く使いすぎたから…その後遺症かもしれないな。…そういうときは美味いもの食べるのが良い。旅立つ前に元気になっておかないとな!」

「そうだね!ぼくがエドさんに、ルヴネトのお店屋さん教えてあげる!」

 

 

 ケルが俺に向かって手を伸ばす。小さいが剣を振るう中で豆ができた、頼もしい掌を俺は柔らかく握る。

 確かに気分転換は必要だ。俺は友人たちに連れられ、矛神の拠点から陽の明るい街へと繰り出した。

 

 

 あの黒い靄の如き偽竜との戦いから、半月が過ぎた。

 宴の後には、現実が待っている。戦禍を忘れ、生き残ったことを喜ぶだけでは、人の営みは立ち行かない。

 この短い間に、大きく巨大組織が動いた。戦に参加したシウゼヴァクと越境組織、矛神教、リシディア教だけでない。ゼシニス大陸中が、戦の前触れを感じ取った。

 最も武力が集まる都とも称されるルヴネトが、外敵によって壊滅しかけたのだ。しかもその敵は空に現れた異空間からだった。未知、恐怖。大陸の人々に広まったのは殆どが負の感情だっただろう。

 

 だが、俺はルヴネトの今後が「バックスタブレイブ」の話とは大きく変わっていくことを予感している。ルヴネトは、単一の教義を国教にするのではなく分割での守りになるからだ。

 一般市民には殆ど伏せられたが、国の王子と矛神の総司令官が上位種の手に堕ちていたというのは、矛神の存亡を大きく左右する事実だ。

 これが多く知れ渡ったら、ルヴネトの安定は瞬く間に崩れてしまうだろう。そうならないために、リシディア教が介入したのだ。

 「バックスタブレイブ」作中では、双子神教自体が縮小してしまったため、国教が交代するという流れだった。しかし、この世界では二つの教団が協力する形になっている。

こう見ると、悲劇は乗り越えられるのではないかという希望を抱いてしまう。

 あれだけ大掛かりな謀があったのだ。大きな陰謀に隠れる影があったとしても不思議ではないが、他組織同士が監視し合うならば、治安は維持されるはずだ。

 

 

「――リィートイさんは、シウゼヴァクに行かないの?ケルちゃんも離れちゃうんでしょ?」

「まあ、そうだな。わたしは招待されてないし、王様にも頼まれたから動けない。もちろん、ミナちゃんがまた来てくれたらくつろげるようにする。でもラディアが離さなそうだからなー。」

「そうだよねー。じゃあお土産に期待してて!ラーマイマにもあったかい泉があるらしくて――」

 

 

 ミウとリィートイが話している内容を偶に耳に入れながら、俺はこの半月ほどを思い起こす。

 俺は、アイナ達リシディア教の面々を見送り、ルヴネトでしばらく静養した後、体が鈍らないよう鍛錬を行っていた。

 その間に転換点とも呼べる出来事が起こった。矛神教の騎士と神官たちが、北の総本山へ向かうよう招集を受けたのだ。そして全員ではないが、その人員の中にはラディアとケルが入っていたのである。

 それに加えて、俺にも声がかかった。厳密には、矛神教に関わる戦士が招待されたのだ。

 極寒の高山、ラーマイマ。山々と厳しい自然によって隔てられ、強き異相付きやこの世界特有の生物がうろつく危険地帯へと。

 レベリングをするには環境が厳しく、山に残る廃墟群に踏み入ることができたのは、「バックスタブレイブ」終盤だった。

 

 俺はまた別の考えを脳裏に浮かばせる。宴の後、去っていったもう一つの集団。シウゼヴァクに戻っていった越境の三名と魔兵たちのことだ。特にモユヌエについては気にかかる。作中で影も形もなかったのには、悲劇が隠れているように思えてならないのだ。

 

 

(…あの人は、未だ多くのものを抱えている。幾らヨヌアたちの宿願が叶ったと言っても、俺が重荷を背負わせてしまった。)

 

 

 越境組織と交わした協力関係は、大きな効果を齎した。睡眠時間を切り詰めて、ようやく間に合うか間に合わないか五分という遠い位置に出現する裂け目を、対処できるようになったのだから。

 信頼に足る古い猛き戦士ともう一人知り合えたのは、俺個人にとって直近で一番の収穫かもしれない。

 

 越境の上層「束ねられた腕」と、加えて「黒血絶ち」も共同して事に当たってくれていると、モユヌエ本人から聞いた。彼女を精巧に模したという傀儡人形は、まだ二つルヴネトに残っていて、時折鍛冶工房に操作されてくるのだ。流石人形術を極めた者である。この時代には残らない魔法であり、是非とも後継者を作ってほしい。

 モユヌエは意気揚々としていたが、本来その裂け目たちは俺が対処しなければならなかった。

 しかしながら、今後も頼ることになるだろう。俺では世界の現状を変えられないし、ゲームから得た知識だけが全てではないからだ。先人たちには頭が上がらない。

 

 俺は友人三名と共に食事をとり、約五月前の再現を行った。俺以外の三名は、雰囲気こそ違うが皆快活だ。俺はほぼ鉄の置物と化し、彼女らの明るい声色を楽しんだ。偶にこそりと話しているが、そうされると料理店の騒がしさで内容がほぼ聞こえない。

 だが、こうしている間に俺の友人たちは仲を深めている。俺はそれが嬉しいのだ。善良な者が生き残って幸せそうにしていることが、俺の生きがいともいえるのだから。

 

 

「――ほんと、戦わないときはのほほんとしてるよね。それもいいけど。」

「張り詰めるのは体に毒だ。わたしはこれくらいが丁度良いと思う。」

「ふふっ、エドさんー。お肉冷めちゃうよ?」

「…すまない、ぼんやりしていた。早めに食べよう。」

 

 

 微笑むケルに促され、俺は小さく切った肉を兜の中に放り込む。じゅわりと滲むほど良い塩味が、俺の心を癒した。

 

 

 

 

 雪深い山の麓にある国、シウゼヴァク。人をほとんど通さない私室にて、幼き老女がじっと水晶型の通信道具を眺める。

 彼女の周りには蜘蛛糸についた雨粒のように大量の水晶が置かれていた。そしてその一つには、モユヌエの友人の姿が映っている。

 

 リィートイは暗闇に閉じこもっていたとは思えないほど、かつての晴れやかさを取り戻したように見える。しかしリィートイをよく知る少数であるモユヌエは、そうではないと断言する。

 彼女の横にいる青年、食事中も絶対に兜を外さない不審な騎士が、絶望よりも黒い闇をリィートイに巣食わせたのだと。

 裂け目の出現しない昼だからこそ、モユヌエは気を楽に過ごしていた。「お気に入り」をずっと見ていられるくらいには。

 騎士の周りには視線が集まっている。じっと見入ることはないが、料理店の客たちが鎧の彼に向ける眼差しは、ただの他人相手に出る熱意ではなかった。

 

 

「ふうむ…恐ろしいほどに鈍いな。皚炎で消耗し過ぎたのか?」

 

 

 モユヌエは小さな手で顎を触り、騎士エドの一挙一動を見る。エドは、楽し気に彼へ話しかけるケルへ頷き、勇者の頑張りを大げさに褒めている最中だった。

 

 ルヴネトの天に青白い閃光を放った騎士は、その魔力量と「月」を多くに知らしめた。そして天を貫き巨悪を挫いた事実は、王都民の心を焦がしたのだ。例え、魔力を持たない人間であっても。

 

 

(しかし、もう気軽には歩けぬぞ…エドワルド。そして卑下も。お主は越境のえーすになるのじゃからな!)

 

 

 モユヌエは心の中でそう熱く叫び、両掌で頬を包みながら水晶を眺める。「学院」に取られず、新生せし猛き戦士を囲うにはどうすればいいか考える。

 エドは既に、古い戦士と同等以上の力を得ている。「皚炎」を使いこなし、その実力は更に成長し始めた。

 モユヌエは何れ、憧れさえも胸に抱くだろうと予感していた。

 

 

「北の高山にゆくならば…通るのう。なら今度は、本当のうちと…。――カウラ!お主が戦うのは、巨体じゃ!十分に備えよ!」

 

 

 モユヌエは一つの水晶を口に近づけて声を張り上げ、映る屈強な冒険者を激励する。「束ねられた腕」であるその人物は、感無量とばかりに大きく頷いた。

 季節が移り変われど、シウゼヴァクは吹雪く。モユヌエのために用意された私室においても、本当の彼女はいない。

 

 白色の裏側にある赤色が、どくどくと脈打っている。世界が急速に動きだすことを想い、老成した娘は胸を高鳴らせた。

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