裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

85 / 114
祈る者たち?

 悪夢の中だろうと、体が動いている感覚があれば段々とその気になってくる。俺の存在意義だとか、もう戻れないあちらの世界だとか、頭の片隅へと追いやられていく。

 

 俺は、化物を、化物に操られてしまった人々を、鍛え上げてきた力でぶっ潰すだけだ。この「バックスタブレイブ」の世界に来てから数年、生き残るため魔力量を伸ばすために、毎日炎症を起こした肉体を動かし続けてきた。

 激痛が走って息さえ満足に吸えない以前より、ずっと楽だ。何を思い悩む必要がある?

 

 そう。俺には戦うことしかできないし、策謀の裏を突くことも、ましてや主人公の勇者であるケルの手本になんてなれない。たかが外からこの世界を覗いていたプレイヤーごとき、平和な生活を享受していた俺は、ずっと部外者のままだ。

 だが中途半端な力を得た人間だからこそ、相応の貢献を為せるように努力する。それが俺に出来る精一杯なんだと、今だけはふっきれる。

 

 

「燃えろ…『皚炎』」

『……!やはり、貴様は危険分子だ…!主女神から賜った言葉の通り!』

「…でかい羽虫がか。だがまだ、ふんぞり返っていられるほど人を見下しているらしい。覚悟してもらおう…幻め!」

 

 

 翼騎士は、亡霊のような戦士二人相手に剣を振りながらも、俺に敵意を向けてくる。尖兵とは思えないほどに、意思があるように感じられる。

 しかし上位種の操り人形にされてしまった全ては、思考をいじくられた骸か、異形だ。上位種を賛美し、同族を殺そうとする裏切り者に仕立て上げられる。

 これが悪夢であっても、尖兵の性質は変わらない。分かり合う以前に、彼らは死んでしまっているのだ。

 

 

「よし…!やれ、稀代の騎士よ!」

「幾ら古い先達でも…動きを止めるくらいなら、僕にも出来るさ。あらゆる守りを崩したこの『盾狩り』を、甘く見るなよ!」

『背信者どもめ…!この行いは必ず、天罰として下るだろう…!』

「罰など…アレが受けるべきものだ!欺き続けた、アレこそが!」

 

 

 亡霊のようなものが発する言葉を聞きながら、拳を振るう。一対三は、幾ら翼騎士に異形の羽が生えていようと、こちらの優位は覆せない。

 俺は白き炎に魔法「月融け」を使用する。星空がないからか淡くも、「皚炎」の威力を以てすれば問題ない出力だ。掌に青白い炎を蓄えた俺は、ぎりりと音が鳴るほどに拳を強く握る。

 俺の夢の中の二人は、考えていたように動きがよく、ついには翼騎士の体を押さえつけた。

 

 決定的な隙。悪夢もこれで終わりだ。

 

 

「ふうう…。現実の皆、避けてくれよ…!喰らえ!」

『くああ…!主女神よ、命を果たせず申し訳――』

 

 

 ゆっくりと振りかぶった拳の先には、固形化した「月」の魔力があり。翼騎士、もしくは想像の産物は、俺の拳によって鎧ごと貫かれた。

 空には人はいない。アッパーを仕掛けたために、青白い魔力が高く突き上がった。

 兜の隙間から飛び散る血は、腐臭のする黒であり。俺は成したことに確証が持てないまま、力尽きる尖兵を眺めた。

 

 

 

 俺は、近くに立つ半透明な戦士二人を見る。都合のいい夢であっても、彼らが味方してくれたことに変わりない。俺は深く頭を下げ、二度と彼らを代替行為に使わないと固く誓った。

 エドムンドと、俺の記憶にある「流刃」の隊長、ロイスの幻へ。

 

 

「…ありがとう。虚像でも言わせてほしい。貴方たちの死が無為でないように、俺は役割を果たす。…必ずや、この世界を平和へと向かわせてみせる。」

「行く路を、まだ見させてもらおう。私が、私たちが為せなかった世界を…。」

「…夢から覚めたら忘れているかもしれないけれど、折角だ。言わせてもらうよ。あまり気負うなよ――エドワルド。」

 

 

 二人の言葉を、俺が望んだ甘い言葉を聞き終わった瞬間、がんと頭に強く打たれたような衝撃が走る。

 俺は直感する。黒赤の不気味な心象風景ともお別れだと。

 

 トラウマを植え付けるような最悪な夢とは早く離れたくても、名残惜しい。俺は責め立てられるはずなのに、願望の中ではエドムンドは爽やかに笑っているのだ。後ろめたさを忘れられる瞬間を、手放したくないと情けなくも思ってしまう。

 

 

 

 俺の願望虚しく、夢の中で意識はぼやける。そして瞼をこじ開ければ、地獄のような空間ではなく。

 安心できる石造りと、馴染み深い知人友人の顔が近くにあった。

 

 

「ごほっごほっ!ふ、ふう……。」

「……ああ、騎士様…!良かった…。」

「エドさん!苦しいところとかない!?」

「エド!…ふうう。いきなりぐったりするなんて、やめてよね…。」

 

 

 見渡せば、シスター・ジゼラやケル、ミウだけでない。同行しているラディアたち矛神や教会の面々、知らない町民らしい布服を着た人々の姿もある。

 ラディアは石煉瓦に背を預けた状態であったが、俺を見た途端に近づいてきて、俺の思いもよらない行動をとった。

 暴や罵倒ではなく、ぐいと俺の体に手を回してきたのだ。バケツのような形をした、薄緑のグレートヘルムから燃えるような瞳が薄っすら見える。

 

 

「…後で話せよ、エドワルド。ただ気絶しただけじゃないって、おれにだって分かる。」

「分かった、ラディア。騎士である君になら、この異様も分かるかもしれない。」

「ああ、包み隠さず言え。…てめえに倒れられちゃ、困るんだよ。おれがな。」

 

 

 平時とは違った様子でそう言い残すと、ラディアは俺の体から手を離し、困惑している矛神の二人を連れて外へ出ていく。

 彼がこのような心配をかけてくれるとは。ラディアは我が道をいく人間だと思っていたため、より心に染みる。俺はラディアの善性を強く感じ、しばらく固まっていた。

 

 

 

 

 一修道女であるジゼラは、青白い騎士エドがソヘネーの町を離れるまで、心を粉にした。

 想い人が倒れたこともあるが、ジゼラが考えているよりもずっと遠くに、エドがいるように感じられたからだ。

 

 鎧の形状も意識を取り戻したエドの様子も、以前より浮世離れしていて、掴みどころがない。見せている態度は変わらず、柔和で優し気であるというのに。

 この町から離れたら、もっと手が届かない場所に行ってしまうのではないかと、ジゼラは気が気でなかった。

 

 もしそうなってしまったら、かの騎士が戻ってくる場所は無くなってしまう。あの夜、教会で見た「月」と同じになったら、もはや人としてではなく「英雄」という象徴的な存在になってしまうだろうと。それでいて、エドの背はもっと儚く、ジゼラには見えていた、

 

 か弱く、戦場に立つ人ではないジゼラには、去っていく背中へ祈ることしかできない。

 きっと世が動乱から戻って、想い人も平穏に暮らせるようにと。

 

 

(リシディア様……これも、貴女様が我らに与えし試練なのでしょうか?)

 

 

 シスター・ジゼラは焼け跡残る教会で目を瞑り、眉を歪める。彼女の考えは当たっていたが、その推察にはどす黒い悪意が足りていなかった。

 

 

 

 

 聖国プシケニアム。リフォニアよりも東に位置し、裕福な貴族たちも多く内包している国。

 肥沃な土壌と、活気ある流通により豊かな経済圏を確立したこの国において、とある奇病が密かに問題視されていた。

 眠り病。突然数日眠り込んだと思えば、錯乱した様子で覚醒する。そして睡眠の間隔がどんどんと短くなっていき、最終的には昏睡状態に陥るのだ。

 

 国の人口からすれば一割にも満たず、それどころか毎年数名だけが新たに罹る病だ。だがそれは、プシケニアムにて絶対的な守りとなっているリシディア教にとっては、看過できない事態であった。

 ごく一部。リシディア教上層部には、この病の実態が共有されている。昏睡状態になったリシディア教徒が最後どうなってしまうのかを。

 翼を生やした骸が、天へと昇る。それを止めることは未だできておらず、ひた隠しにされている。上位種の尖兵そのものだと、知識として分かっていながらもだ。

 

 病の原因は勘繰れど信仰が邪魔をする。病にかかった強きリシディア教徒の言葉に耳を塞いでいるのだ。

 慢性的に騎士や神官から疾患者を出し続けている現状へ、リシディア教総本山は甘んじている。主女神からの試練なのだと、都合が良いように考えを捻じ曲げているのである。

 

 

 リシディア教の真なる方針がどうあろうと、生活は巡る。プシケニアムにある聖都に、遊撃部隊を担う二組がやってきていた。

 司令塔を担う二人について、一方は傷や火傷痕を誇る女騎士であり。もう一方は、平時兜を付けずとも、並外れた記憶能力によって大きな傷を負わずにいる少女であった。

 メアル・テタムの洗礼名を賜った妙齢の騎士メアリーは、自らの隊の神官たちと戯れながらも、アイン・エルディア、吸い込まれるような瞳が特徴的なアイナへと話しかける。

 

 

「アイン殿、ここまで同行感謝するよ。壊滅した部隊を集めながらなんて……貴女には迷惑をかけてしまったね。」

「いいんですよー、同輩っすからね!また巡り合わせがあれば、協力しあいましょう!」

「ああ、約束だ。私の可愛い部下たちを守ってくれた恩は、返しきれないが…。力を惜しまずに努力しよう。近くでの任だったら、私を呼んでくれ。」

「ありがたいっす!でもそんな気負わなくたって大丈夫っすよ、お互い生き残ることが大事ですから。」

「…そうだな。私たちは命を張っているんだ。この国の騎士よりも、ずっと、」

「あはは…。それは一旦置いて…『聖域』に向かうっすよ、皆!」

 

 

 メアリーは理想的な男性を演じるような態度であったが、この煌びやかな都に苦言を呈する。死線を潜り抜けてきた騎士にとっては、「美しいだけ」の街は不満を溜め込む原因となり得る。

 アイナは愛想笑いを返した後、隊員である騎士たちへ示し合わせ、城のごとく巨大な聖堂に視線を向けた。プシケニアムにおいて、リシディア教は国教とは名ばかりで、国王と教団の長を兼任している。

 清廉さを求められるはずの教義とは真逆の欲が、聖堂にはありありと映し出されていた。

 

 時間とは残酷で、どんな高尚な目的を掲げ設立されたとしても巨大な組織はやがて腐敗する。そして、冒険者をまとめ上げる越境組織と同じように、人員に腐らせる源が入り込んでいるために。

 

 

 リシディア騎士の司令官二人が報告も兼ねて、大聖堂に向かっているとき。

 

 近頃、奇病に落とされた者たちが目を覚ました。総勢七名、その中でもオデットという名を持った、リシディア神官の中でも知恵者と称される術師は、陽の射しこむ「主女神の聖域」にて、ぼんやりと空を見上げる。彼女は昏睡状態になってから、最も長く生き長らえた人間だった。

 

 そして女性は、成長が止まったような小さな体躯を震わせ。神官たちが彼女の無事を知るまで、青空に薄く浮かぶ雲の向こうを見続けていた。ずっと、いつまでも見ていたいと、瞬き以外で瞳を動かさずに。

 

 

 この時代を生きる強きリシディア教徒は、呪いを受ける。魂の一部は隔離され、黒赤の歪んだ情景に囚われる。そして呪いを受けた者たちは、己の苦しみを表在化した悪夢と一生涯向き合わなくてはならないのだ。

 丈夫なほど玩具にすれば楽しめると、化物は人を穢し尽くす。

 

 しかし、幾ら人類に都合が悪くあろうと、星々はさんざめくのだ。隠された醜悪な箱庭だろうと、「月」が天を穿った。

 

 

「ふむ、そうか。あれこそが、『月』なのだな…。人類が空を照らすための古い輝き…か。」

 

 

 女性は呟き、気持ちを新たにする。魂の監獄、終わらない尖兵との戦から解放され、女神への不信感を募らせる。

 地獄に「月」を齎した当人が知らずとも、変化していく。天に届く青い光が、余りに美しかったから。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。