裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す 作:棘棘生命
モユヌエからの依頼を受けてから話を戻し、ラディアが何故上位種の介入を受けているのかを聞き出す。彼が元々守護ヴァルミ教の人間だったのは驚きだったが、宗旨替えした頃から悪夢を見なくなったというだけでは証拠として弱い。
そもそも、この悪夢について「バックスタブレイブ」作中では全く言及されなかったのだ。主人公の勇者へ情報を渡さないように、裏で示し合わせていたのかも分からない。
それにエドムンドはリシディア騎士だ。女神を信奉する騎士が狙われているのだと仮定しても、双子神とリシディアが繋がっているという事実を、大陸の人間の大部分が否定するだろう。
本物には翼という共通点があるが、人々が考える女神の姿にはそれがないのだから。
精神攻撃をするのは上位種の常套手段であり、剣のドラグシエルが作り上げたクソのような仕組みのこともある。ラディアの考え通りであってもおかしくはない。ただ、どうやって彼が真実に辿りついたのかを知りたかった。
するとラディアは、単純な回答を返した。
「ああ?化物どもが鳴いてるだろうが。ヴァルミラ様だの、リシディア様だの…。死ぬまでずっと、同じ名前しか言わねえ。それも揃って鳥みたいな羽を付けてやがる。おれの夢に何度も出てきた化物も同種だった。だったら答えは一つだろうが。」
「なるほど…翼持ちのがラディアの悪夢にも。それだけ戦ってよく生き残ってきたな…。流石だ。」
「ちっ、てめえが言うなよ…。」
俺は合点する。上位種を何度も相手にして、今まで生き残ってきた戦士は一握りであり。それでいて種族の共通性を見抜くまでに至れる実力者は、巨大組織の上層部に昇進している。力ある者には相応の立場が与えられるからだ。
だからこそ、リシディアたちの正体が漏れない。騎士からわざわざ言葉にして、信奉している者たちへ混乱を与えることに意味は無いからだ。生き延びる戦士ほど、重大な情報を吹聴せず慎重になる。
ラディアは続けて話す。彼は武と秩序を重んじる矛神教の名誉のため、様々な種類の強敵と戦ってきたようだ。彼が潜り抜けてきた死闘について、俺が知っているのは一部でしかない。「名誉を守る」とは矛神教としての建前であり、敵対者の排除はいつも血の臭いが漂って汚れていると彼は言う。
邪教の狂信者、尖兵、上位種。人間であれば、痛めつけて捕縛し。化物相手なら問答無用で斬り殺す。彼が命じられ行ってきた任務は、「黒血絶ち」の人員の仕事と変わらなかった。
身綺麗でいられる人間は、剣もろくに振ったことのない子どもか、死人だけ。ぼんやりと騎士になった奴はすぐに死ぬと。彼は嘲るようにそう笑った後、重い溜め息を吐く。
ラディアはいつでも悪ぶっているだけである。
「――それで、翼の化物が原因なのは違いねえ。どうやって目を付けてやがるのか分からないが…お前リシディアの駒のままなんじゃねえのか?」
「脱退届は出したはずだが…。」
「てめえの鎧が呪われているかもしれないって話だよ!」
ラディアは、外套で隠した俺の鎧に拳をぐりぐりと押し付けてくる。彼の言う通り、悪夢の原因がリシディアにあるなら、リシディア騎士としての要素は真っ先に除くべきだ。
しかしこれはエドムンドの遺品で、友が鍛え上げてくれた防具だ。借り物であるが、この鎧は俺の命を何度も救ってくれた。
リィートイも鎧についておかしな点があると言及したことは無かったし、上位種特有の歪んだ魔力を感じたこともない。
「そうだろうか。しかし俺が眠っている間に、上位種の魔力は感じなかったんだろう?」
「…どんな小細工をしてやがるか分からないだろうが。物にこだわるか、安全を取るかだ。」
ラディアは俺の胴鎧から手甲を離すと、腕を組んで言う。モユヌエも俺の鎧を上から下まで見ており、眉をしかめて考え込む。
その後、彼女の口から魅力的な提案が飛び出した。
「ううむ…騎士団に所属しているか否か…。そうじゃな――エドワルド、うちが直接お主の体を診てやろう!そうすればはっきりするじゃろうて。」
「ありがとうございます。モユヌエ殿は、医師にもなれるのですか。」
「いいや、大それたことは出来ぬ。じゃが、リィートイよりは霊魂の見方は分かっておるつもりじゃ。『嵐翼』の人間であったことは飾りではないのよ。な、分かるじゃろう?」
モユヌエは器用に片目だけを閉じて、俺に周知の事実であるように投げかけてくる。俺が頷くと、モユヌエは笑みを深くした。
古い猛き戦士たちにおいて、作中詳しく語られたのは四つの部隊だ。中でも「嵐翼」の隊列は後方支援を主に行っていた。人形師たちもこの部隊に内包されていたのを俺は知っている。
つまり支援するための技術を、多く習得しているということ。具体的な処置は分からないが、人形ではできない魔法があるのか。
ラディアは聞き慣れない単語だからか小首を傾げた後、けっと苛立ちの声を放った。モユヌエは両手を突き出しておさめると、続けて話す。
「お主も診てやるから安心せい。越境の者でなくとも、其方はリィートイが知る人間じゃ…邪険にはせぬよ。それにシウゼヴァクには、うち以外に専門家がおる。解決の糸口は見つけられるはずじゃ。」
「な…その方は貴女と同じ、古い戦士でしょうか。」
「うむ、そうじゃ。まあ詳しくは、お主らが入国してから話すのじゃ。」
「リィートイ擬きが他にもいんのかよ…。どいつもこいつも表に出やがらねえで…。」
モユヌエが唐突に明かした事実に、俺は頭の中の情報を総動員する。
だが分からない。シウゼヴァクについて思い浮かぶのは純白の魔兵たちと、ゲーム終盤地下で戦うことになった化物だけだ。
元より、ルヴネトでの戦いが無ければリィートイが猛き戦士であることも知り得なかったし、作中で生き残りと明言されている者は一人もいないのだから。彼らはアイテムテキストで言及されるか、尖兵や白骨化した亡骸としての登場しかしない存在なのだ。
だがあの時思ったように、古い猛き戦士に生き残りがいるのならば。その戦士たちを起点に、総力戦での逆転の目を見つけ出せるかもしれない。
主人公とそのパーティーという圧倒的な個に頼り切るのではなく、戦の最後まで喰らいつける可能性を。
モユヌエは机にぺたと掌を置き、次の目的に移る。そう、裂け目についての情報共有だ。
「悪夢については、うちが何とかするのじゃ。…よし、情報の共有に移ろうかの。騎士ラディアよ、お主も聞きたいか?同じくルヴネトで強大な魔を討った間柄じゃ。口を滑らさぬと誓うなら…お主も良い。」
流し目でモユヌエはラディアの様子を窺い、彼は無言で椅子に座り続ける。モユヌエの背中からいつの間にか、糸が伸びていた。魔力であるため音も感触もなく、ラディアと俺の腕にそれは巻き付いている。
ラディアは頷いた後、顎で続きを促した。もうラディアの中に怒りはなく、態度は畏まらずも真剣な調子で言葉を待っていた。
モユヌエは息を小さく吐くと、ぱちんと左手指を鳴らす。魔力の白糸が解かれ、代わりに奥の部屋から水晶のようなものが運ばれてくる。占い師が使うような、完全な球体だ。
魔力の糸が手足のように自在に扱われているのを見て、俺は練度の差に気づかされる。たかが数年の修練で、猛き戦士との経験の差を埋められるものではないのだ。
「ふふ…敢えて総司令官に上がらずにいる戦士に、問う必要も無かったの。矛神にかけられた呪いは、悪意に満ちておる…。では前回の会議から起こった裂け目について、話していくぞ――」
モユヌエは飛んできた巨大な水晶の一つを両手で抱え、机に置く。するとぼんやりと水晶の中に、人々の姿が浮かび上がってきた。
これが魔道具かと、見る度感動する。俺はモユヌエの横で、過去を記録した映像をじっくりと確認した。
◆
エドとモユヌエが、水晶を見ながら言葉を交わす。
ラディアは無言でその様子を眺め、段々と寒気を感じ始めていた。彼女がエドに思っていた、現実味に欠ける感覚が間違いではなかったのだと、分かってきたからだ。
上位種が出るところに、都合よく「青月」はいる。それは運や偶然などではなく、必然だったのだと。
「――ルタハ渓谷、ジイヒュ高原、デハワツ…お主が言った場所じゃ。」
「…ありがとうございます。人員を、俺が話した通りに取ってくださって。」
「ばらけさせておいた戦力じゃ。この程度ならすぐ集められる。」
「引き続きお願いします。…ウィスプマリナの方はどうでしょうか。」
「相変わらず、尻尾は掴めぬな…。リシディア教にも、ちっと話は通しておるが…動くつもりは無いようじゃ。まこと、俗物ばかりよ――」
エドが話し、モユヌエが投影された巨大な大陸地図に、せっせと印をつけていく。既に印が消されている部分は、対処された裂け目を表しているのだと、ラディアにも理解できた。
(…エドワルド…あんたは一体どこまで見てる?…あたしを司令官のままにさせた理由も、予知じみたこれにあるってのか?)
参加を許された理由について、ラディアは考えモユヌエの言葉を思い返す。そしてエドが自らと会うたびに引き止め続けた文言に気がついたのだ。
由来が違おうと、本当は女神を信奉していない教団であろうと、上位種の魔の手は入り込んでいる。ラディアは足元を掬われた気分になった。そしてエドの言葉の裏に震える。
(恐ろしい人だな、あんたは…。リィートイどもや、上位種よりも得体が知れない…。)
心の中では恐れを呟きながらも、ラディアはぞくりと悦楽を感じる。彼女はエドに関わってから、歪みを増大させた。強き者に屈服する被虐的な想いを、ずっとエドに感じ続けているのだ。
エドが魘されていた夢についてもそうだ。心が弱っているかと思いきや、ソヘネーの町を離れてからけろりとしている。まるで悪夢を打ち負かしたかのように。
ラディアは、翼を持った上位種相手に逃げた。血の滲むような努力を続け研鑽し、似たものを屠れるようになったとしても、逃避した事実は変わらない。
多くの同胞を、双子神を信じる仲間たちを殺した主女神たちに矛を向けても、心の底では敗北してしまっているのだ。
だからこそ、ラディアは折れない剣に惹かれる。割れない「月」に絶対を見る。どれだけの苦痛も一時のものとして、エドワルドは乗り越えると信じているのである。
エドワルドはもはや死ぬことも、退くことも許されない。これまで巡り合ってきた縁が、祝福とも呪いとも言い表せない泥になって「月」を包んでいる。
ラディアは一言も発さず、会議を見届ける。言葉をかけられても、掌で受け答えた。
そして終わり際、エドから己に向けられた視線に含むものを感じ取り、ラディアはモユヌエが席を外すまで待つことにした。
◆
「――此度の話し合いはここまでにしようかの。依頼した付きモノの討伐、よしなに頼むぞ!」
「ええ、良い知らせを持って参ります。次はシウゼヴァクでお会いしましょう。」
今後の裂け目についてや、ウィスプマリナに潜んでいるはずの上位種をどう見つけ出すか、モユヌエの特殊な人形について等を話し合い、それが終わる。
特に二つ目は大きな課題だ。人魚の如き姿形の「狂い堕とす」メイダは、総力戦に入る直接のきっかけになり得るからだ。奴は物語前章のラスボスとも言える存在なのである。
隠密性が高く、倒せば上位種たちが本気でこちらを潰しにくるトリガーになる。放置できないが、タイミングを見誤ればバッドエンドに直行する厄介な敵だ。
奴の存在は、ウィスプマリナにあると上位種によって分かってしまっている。俺はもう、選択を迫られているのである。
大きく頷いた後、モユヌエはひらひらと手を振り奥の部屋に去っていく。しばらくして彼女の魔力の流れが感じられなくなり、俺はふっと息を吐き出した。
外見は幼子でも、年長者相手には緊張するものだ。リィートイには元々人柄を知っていたこと、戦士であると知る前に交友関係を結んだことからプレッシャーの類を感じないが、モユヌエへ気安く接するのは無理だ。
「…ラディア。大角付きについてだが、競争するのはこれを討つまでにしよう。おそらく連戦になるだろうからな。」
「ふ、おれはもうガキじゃねえ。…上位種か?」
「そうだ。だが足さえ潰してしまえば、駆除するのはぐっと楽になるはずだ。君なら、奴ら相手に立ち回れる。」
やけに大人しくなったラディアに、俺は声を小さく伝える。モユヌエから受けた依頼内容を見た瞬間、これから阻止する惨劇への繋がりが見えたのだ。
あえてモユヌエに知らせなかったのは、裂け目から現れる三体があまりに強力すぎるからだ。後々主人公の勇者が大陸外で戦うことになることから、その強さが分かるだろう。
幾ら「束ねられた腕」や魔兵たちが集ったとしても、無駄死にするだけだ。数では勝てない。上位種を甘く見ず、慢心しない戦士で構成せねば。
だからといって、モユヌエの特殊な人形を使ってもらうにも、過剰すぎるきらいがある。彼女に聞いたが、オビシオンとの戦いで放った魔力の砲弾は、人形を自爆させるのと同義であり、使い切りだ。人間サイズの敵や、俊敏な相手に使っても当たらない可能性も考えられる。
それに、俺が倒さなければならない敵を丸投げする等あってはならないことだ。俺は人死にを減らすために戦っているのだから。
ルヴネトにいる時から俺は、念入りにその裂け目が出現する場所までの距離と所要時間を考えていた。俺の体調不良というアクシデントはあったが、問題なく間に合う計算だ。
現れるはずの上位種は、異相付きを支配できる。武装した異相付きに騎乗し、その機動力で主人公パーティーを苦戦させた。
尖耳の種族、その中でも「英雄」と称される人狩りども。奴ら尖耳は、大陸外に最も分布している上位種だ。
俺がかつて生きていた世界のフィクションでは、エルフと呼ばれる外見である。緑尖耳とは別種であり、耳を隠せばまるで美しい人間のよう。
しかし奴らは上位種の括りに漏れない。虐殺を何より好み、人類の絶望に愉悦する邪悪な人外だ。
上位種について制作陣から明かされているのは、別世界からの侵略種族という事実だけであり、しかし断片的に情報は散りばめられている。
尖り耳どものデザインを見れば、これまでどんな世界群を滅ぼしてきたのかが推測できるのだ。
着こんでいる防具や持っている武器は煌びやかで、明らかにこの世界由来の装備より派手である。それでいて統一性はほぼなく、血腥い略奪の歴史が透けて見える。
ラディアは俺の話を笑い飛ばすことなく、右肩を力強く握ってきた。彼の兜の奥から、含む物のない真っすぐな視線が返ってくる。
だから俺は、ラディアのことを信頼できる。何年も交流してきたのだ。年は離れていても友人であり、俺は勝手に弟のように思っている。こんなにも真摯に、俺へ関わってくれる人間を疎ましく思うわけがない。
彼の才能と努力は、やがて俺を抜き去るだろう。矛神の総司令官と互角以上の実力を持ちながらも、未だ戦闘能力は天井知らずに伸びている。
「分かった。…お前が知っている範囲はおれたちに話しておけ。特にケルにはな。あのガキの爆発力は、縫合持ちの枠におさまらねえ。」
「ああ、そうしようか。実戦で惑うことが無いようにしなければ。」
俺たちは頷き合うと、豪華な大部屋を出る。そしてそのまま会話なく、荷馬車へと戻った。
今回の会談は、多くの利があったと思う。ラディアの今までを聞け、彼の真意も知ることが出来た。
ここからはまた、血生臭い戦いの時間だ。
◆
シウゼヴァクにおいて雪の白が無くなるのはまだ先で、吹雪く日も珍しくない。しかしこの日は雪が止んで、星空が綺麗に見えていた。
国内に点在する村々の一つ、ゼイカの村において、外に抜け出す小さな人影があった。茶色の毛皮を頭からすっぽりと被った、厚着の少年少女だ。
子どもらは、夜は危険だと大人たちから固く言い聞かせられていながらも、神へ祈りを捧げずにはいられなかった。
気象の乱れは、そのまま食事にありつけるかを左右する。蓄えは底をつきかけているが、子どもたちには何をすることも出来ず。大人たちが狩りを成功させることを、村の外れにある祠に願うしかないと思い至ったのだ。
特定の信仰を強制しないシウゼヴァクでは、自然を畏れる考えが根付いていた。それは、翼の上位種が人類を支配する前の在り方に似ていた。
村が奉る実在しない神へ、子らが手を合わせる中。闇夜に、赤く輝くものが浮かび上がる。そして、緑色に発光する影も。
それは妖しく動き、この世のものでないことを示していた。獣も竜も、不気味な光を発さない。
子どもたちは縮こまり、災いが形を為したものだと考えた。
緑色の何かが、凄まじい速度で迫る。そのときだった。
遠くから、青色の獣が駆けてきたのである。それは短く高い声で鳴き、飛来する緑色を弾き飛ばした。
ぼうっと雪が燃え溶ける。青白い獣は、天に向かって腕を振りかざした。よく見ればそれは、獣ではなく人であった。
流星が線を為し、空を彩る。