裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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事前準備

 早朝、銀世界と呼べるほどの美しい雪景色にて。陽は既に空へと上がり、月の輝きは隠れた。故に俺に残されている攻撃手段は、学院によって解術された魔法しかない。

 俺は外気の冷たさから気管を守るため、魔法「魔力の薄膜」を使用し左腕からは暴風を解き放った。

 

 だが俺が魔力で作り出した嵐の中を、灰色の異相付きは力押しで進んでくる。何という逞しさだろうか。

 

 

「二人ともばらけるんだ!このまま俺が注意を引く!」

「了解、です!ケルちゃん、私左行くからね!『疾足』」

「うん!」

 

 

 生き生きとした野生を狩るのは心苦しいが、名前を付けられている以上、幾度も人命を奪ったということ。依頼書もある。上位種の足になってしまうことも考えれば、逃すわけにはいかない。

 血走った「肥大の角馬」の眼光が、嵐をぶつけ続ける俺へ突き刺さる。挑発は成功したようだ。

 勢いは抑えられたが、衝突は避けられない。俺はミウとケルに向けて声を大きく伝え、一つ試してみる。

 

 

「これならどうだ…『突き出す岩地』」

 

 

 一瞬暴風を解き、地属性の魔法を行使する。土を巻き込んだ魔力が地面から突き出す。

 これは「肥大の角馬」の重さを測るためだ。見た目以上に軽ければ転倒してくれるだろうし、想定通りなら脚を鋭利な岩が貫通する。異相付き相手なら、小手先の技も案外有効打になるものだ。

 

 そして予想は当たった。「肥大の角馬」は魔力を含んだ岩を踏み抜き、血を吹き出す。低く、馬であったとは思えない鳴き声が何もない平原に響き渡った。

 

 

 

 異相付きの動きは鈍り、しかし一撃一撃は重い。

 異形となってから生えた特徴的な一本角での貫きや、両前脚を持ち上げ地面へ叩きつける攻撃は冷静に行われている。それに単純な嚙みつき、体を激しく揺らすだけの動きも厄介だ。

 装備が軽量な二人がまともに受けたら、致命傷になりうる。二頭を相手にしていたら、修練などと言っていられなかっただろう。ラディアたちと共闘できて助かった。

 

 しかし二人も、俊敏さでは負けていない。俺が囮役を引き受け、ミウは撹乱に徹してくれた。

 大きな隙を見極めようとしている最中、左右から力強い声が聞こえてくる。ケルとミウで意思疎通をはかっていたようだ。

 

 

「ブルルルッ――!」

「今…!伸びて、白糸!」

「ナイフも結構役立つんだから!くらえ…!」

 

 

 瞬間、俺に噛みつこうとする異相付きへ二人の攻撃が迫る。

 ケルは突き出した左掌から魔力の太い糸を放ち、ミウは強い魔力が感じられる分厚いナイフを目にも止まらぬ速さで投げた。

 

 それぞれ、太い魔力の糸は槍の如く異相付きの後ろ脚を貫き、ミウが投げたナイフは獣の右目に突き刺さる。二人の手際の良さ、技術力に、俺は喜びに打ち震えるしかなかった。

 

 

(こんな短期間で、これだけの成長を…!ミウ君の才覚はあの猫擬きに唆されなければ、こんなにも花開ける――)

 

「いよし!決めちゃって、エド!」

「ああ。やらせてもらう。」

 

 

 ミウの鋭い叫びに、俺は気を引き締めた。二度も足止めを食らった「肥大の角馬」は、受けたダメージを怒りのエネルギーに変え、痛覚など無視して駆けてくる。

 犀のごとく横幅が広くなった異形は、その最もたる武器である一本角で、俺を突き刺すつもりのようだ。まるで銛のように長く、ギザギザとした恐ろしい見た目である。

 

 ならば、銛には銛で返そう。俺は数月前のこと、「鉄剥」のヨヌアが放った魔法を思い浮かべた。

 高位の魔法ほど理論は複雑になり、それら全てを頭に入れるまで時間がかかる。だが基礎さえ習得していれば、自力でそれらしい魔法にまで昇華させることは可能である。細かい理論は考えず、見て聞いて覚えるのが一番だ。

 

 俺が師事するルリベナにそんなことを話したら、間髪入れずに殴られるだろう。魔法の探究に生涯を費やす術師たちから、総スカンを喰らうかもしれない。

 だが俺にとっては、敵を討つための技を磨くことだけ考えていればいいのだ。

 

 

「――当てる!『暴風の銛』」

 

 

 白き炎を腕に纏ってから、左腕を突き出す。元々覚えていた「旋風の槍」の理論に、風へ茨が生えたイメージを加える。そうすると、飛び出る風は対象をより傷つける見た目へと変化した。青白くなった風魔法は収束し、地面の雪までを巻き込んで直進する。

 そして今度こそ獣は、嵐の中を突き進むことは出来ない。「肥大の角馬」の頭部から後ろ脚までを暴風が貫いた。

 零れる血が雪を染めていく。獣の骸はずしんと、支える力を失って倒れた。

 

 それと同時にミウが雪にへたり込み、ケルはミウに近づいてから地面に手をつく。雪の冷たさは、激しい運動によって気にならなくなっているようだ。

 俺も二人に怪我がないか確認するため寄り、二人に手を貸した。二人の手は熱を持っており、赤くなっていた。

 

 

「二人ともよくやってくれた。手を貸そう。」

「はあ…はあ…ありがとうエド。うわ…足、がくがくになっちゃった…。」

「ぼ、ぼくも…。怖かった…。」

「あれほどの獣を相手取ったんだ。美味いものを食べて、疲れを取れるようにせねばな。」

「う…。でも私、今日お肉の気分だったけど…やめとこうかな…。」

 

 

 戦いの興奮が冷めたためか、ミウが獣の骸へ顔をしかめてそう呟いた。反対にケルは平気そうな顔だ。ミストヴィルにいたとき、自給自足の生活をしていたからだろうか。

 ミウも異相付き狩りには冒険者として何度も関わってきただろうが、感覚が麻痺するほどではなかったのかもしれない。

 

 

 暴れ回る番の異相付きは、魔力の炎で燃やされている。この分だと、俺が助力するまでもなく終わりそうだ。流石はラディアと彼の弟子である。

 背後をちらと見れば、アルビンが怯えていた馬たちをいとも簡単に落ち着かせていた。彼は刀身を抜こうとしていたが、ラディアたちの戦闘を見て鞘へ戻した。アルビンも俺と同じ結論に達したようだ。

 

 俺は獣に敬意を払い、心の中で祈りを捧げた後、次の夜のことを考える。

 今の戦いは上位種の有利を崩すためのいわば前哨戦だ。裂け目から現れるはずの三体は、大陸外にうようよいる尖耳どもの中でも上澄みであり、比例するように屑を体現した思考回路をしている。

 

 何故こんな何もない場所にぽっと出てくるのか。制作陣を呪いたくなるが、嘆いていても仕方ない。何よりも殺しの快楽を優先する化物に、動機など求めても無駄なのだから。

 戦士二人が異相付きを仕留めたのを見て、体から出来る限り力を抜く。

 

 

 

 

 ラディアとロオファ、二名の戦士が協力して「肥大の角馬」を追い詰め、背後から重いものが落ちた音がした。

 二人は隙を見て背後の様子を確認し、その音の発生源が何か理解する。それは頭部を無くし、黒く染まりかけた血を垂れ流す獣の骸であった。

 

 

「ははっ、流石にやりやがる。…ロオファ、おれたちも終わらせるぞ!」

「はいっ、ラディア様!」

 

 

 ラディアは兜の裏で嬉しそうに口角を上げてから、迸る火炎を異相付きへぶつける。ロオファも合わせるように、魔法「赫光」を放射状に放った。

 灰色の天然の鎧がどれだけ厚くとも、皮膚を全て焼かれ、呼吸を塞がれればひとたまりもない。ただ暴れまわるだけになった異相付きの胴体に綻びが出来、ラディアの大剣が深々と突き刺さった。

 

 

 しばらくして、二人の元に全身鎧の男が近づく。エドはミウとケルを荷馬車に戻した上で、ラディアたちを迎えに来ていたのである。

 

 

「――二人とも見事だった。ロオファ殿に関しては、神官とは思えないほど戦士として完成された動きだった。ラディアの才覚を見る目は素晴らしいな。」

「お、おお…。『青月』にそんなこと言われるとは…なんだか変な気分になりますね…。」

「ちっ!これだけ時間に差を作っておいて、舐めた口を聞きやがる…!」

 

 

 そしてラディアは近付いてきたエドへ、平時通り汚い言葉を使い悔しがった。先ほどまで振りまいていた喜悦が、嘘だったかのように。

 そのラディアの様相の変化を間近で見ていたロオファは、ぴくりと頬を引きつらせる。力を誇る男勝りな騎士とは、到底思えない姿だと。

 

 

(「青月」エドワルド…。やはり「第二」の息がかかっているだけではない。もっと恐ろしい…学院の権威すら揺るがすやもしれない個人だ。)

 

 

 ロオファは調子者の仮面を被り、時にはとぼけたようなことを言いながらも、心の奥ではラディアとエドを冷静に観察する。それが彼女の役割であるために。

 

 

 どの巨大組織にも、間者はいるものである。強き者は警戒され、正体を偽った暗部が近づくものだ。

 ラディアを師として仰ぐ神官の女性もその一人。「紅炎」のロオファ、彼女は「学院」に飼われた術師だ。

 

 「学院」の生徒として学ぶためには、血統や身分の高さが必要となる。学び舎を守る兵士も同じように、それなりの地位である。

 だが、そうでない魔力持ちも稀に、「学院」が取り込む場合がある。そうした人間たちは、しかし陽の元を歩くことは許されず、私情を持たない使い捨てに仕立て上げられるのだ。

 初めに出来た学舎、「第一学舎」には魔女がいる。学院の頂に君臨するその傑物は、育て上げられた暗部を手足のように扱う。

 それは内面の黒さを全く表に出すことは無く、奇しくも使い捨てたちと同じように嘘で塗り固められていた。

 

 

 ラディアは派閥間抗争を嫌っていた。守護ヴァルミ教から脱退したのは、自身に不利益があると確信したからだ。矛神騎士であれば、しがらみなしで生きられる。そう考えていた。

 しかしラディアは、人間が隠し持った闇などすぐに見抜いてしまう。ロオファを「偶然」拾ったときから、腹の探り合いは始まっていたのである。

 

 

 ロオファは、ラディアが一枚上手であることに気づけない。それでいて間者としてラディアに近づいていながら、凍った心が揺れ動いてしまっていた。ラディアからぶっきらぼうにかけられてきた言葉の数々が、エドの受け売りであったとしても。

 矛神教の勢いを「第一学舎」の総長へ密かに報告し、ロオファは己の行いの是非を問うている。

 

 

「――いやあ、皆さんお見事でした!僕も加勢に行きたかったんですが…荷物は大事でございましょう?」

「…今回は良い。温存しておけ。」

「へ…?てっきり、お叱りになられるかと思ってました…。」

「俺もラディアと同意見だ。…アルビン殿の技は、人型にこそ発揮されるだろう。温存しておいてほしい。」

「大先生まで…!…か、覚悟しておきますわ――」

 

(…青月が言った事が、戯言でないなら…。わたしは戦うのか?何のために?)

 

 

 荷馬車に戻って、動き始めた後。ロオファの前では、エドたちが緊張をはらんだ会話と、和やかな話題を織り交ぜて話している。

 作り物の人格でへらりと笑い、ロオファも会話に混ざった。意図的に壊された人格を、見つめ直すかのように。

 

 

 それから小さな町に辿り着き、しばらくして凍えるような夜がやってくる。

 

 町民が寝静まる銀世界を、導かれるように一人の騎士が駆けた。青色の、透き通るような牡鹿の脚で。

 

 

 

 

 魔法「霊月の後脚」を展開して、何もない平地まで辿り着く。小さな町から少し離れた場所には、これまた小規模な村が町を囲むように点在している。家屋の中はどれも真っ暗だ。

 夜活動しようとすれば、凶暴な獣に襲われる可能性が高いからだろうか。理由は複数あるだろうが、年中雪が積もっている場所では豊かさは望めない。

 

 後方に視線をやる。夜の闇に溶け込むように、ラディアたちがマントを羽織って待機していた。このまま何もなければ、俺が合図を出し町へ戻る手筈になっている。俺は雪の中に身を潜め、地面に落ちている布のように振舞った。

 

 俺の杞憂で終わってほしい。そう願っていても、都合の良いことは起こりえない。裂け目が出現する時特有の、吐き気と眩暈が込み上げてきたからだ。遠目からでは皆の顔色はうかがえないが、悪いことは分かる。

 俺は息を整えて裂け目を注視する。次の瞬間、ぴしりと空間に亀裂が入り、奴らが現れた。

 

 

『なんだ、しけてるな。本当に骨のある人間が生息しているのか?』

『当たり前でしょ!養殖なんかより、活きが良いんだから。』

『そうか?それ用に増やした人間の方が動くと思うけどな。』

『どうでもいい…早く首を喰いたい。』

 

 

 発光する鎧を身に着けた美丈夫に、緑色のフードを深く被った長身。そしてきんきんと喧しい長髪の女。皆一様に耳が尖っている。

 会話の内容さえ聞かなければ、人に限りなく近く見える。ファンタジー世界のネームドキャラだとも思えるだろう。だが、これは「バックスタブレイブ」だ。

 

 人間以外の種族は全て人皮を被った怪物であり、吐き気を催す生態をしている。絶対に分かり合えない存在なのだと、言動から価値観から俺たちに思い知らせるのだ。

 

 

『それじゃ、まずはあそこのぼろっちい家から――』

「――『霊月の槍』」

 

 

 尖耳の女が何の前触れもなく矢を番え、撃った。

 隠れるのはやめだ。俺は左腕から「月」を放ち、光弾と化した矢を消し飛ばす。

 

 すると奴らは俺を一斉に見る。喜悦に満ちた化物の顔で。

 

 

『待ち伏せか?面白い人間が出てきたな…狩るには丁度いいやつだ!』

『あああ、私の矢が…!作るの面倒くさいのにいい!死ねよ、人間ごときが!』

 

 

 ぶんと振られた煌めく剣が、またしても光弾のような矢が、俺目がけて飛んでくる。俺はそれらを「月」の魔力を纏った腕で弾き飛ばした。

 既にペースはこちらが掴んでいる。ここからが本番だ。

 

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