裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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静けさに休まる

 尖耳どもの戦い、並びにトスカとの再会から早くも十日が過ぎた。しかし思ったよりも俺たちの乗る荷馬車は進んでいないように思える。

 北へ向かうほど、積もった雪が厚くなっていき、路という概念が無くなっているからだ。建造物は周囲にあらず、雪に埋もれた草木と、ついては消える獣の足跡だけが銀世界の目印であった。

 

 そんな中俺は、馬を操るアルビンの横に座り、彼と雑談していた。この人員の中だと、アルビンとの会話が一番気楽で良いのだ。

 ラディアは戦闘の時以外じっと瞑想しているから声をかけるのも憚られる。彼の弟子であるロオファとも、ラディアから簡単に事情を聞いてから言葉を選ぶようになってしまった。ミウとケルとは、やはり年がそれなりに離れているからか、長く話していられない。元気が違い過ぎるのだ。アクセサリーやルヴネト王都で流行っているものの話等、興味深くはあるのだが。

 普段人と話す機会が少ないから、こういった時に舌を動かしておくべきだとは思っている。つまり最適なのが、話が上手く、朗らかではあるが落ち着いてもいるアルビンというわけだ。

 

 

「食料に薪、諸々買い込んどいて正解でしたね。もう少しで都に着くはずなんですが…この距離では観測できへんみたいです。」

「そうみたいだ。シウゼヴァクの王城の厄介なところだな。奴ら化物にはこの上ない守りなんだが。」

「これも『心臓の王』の技なんでしょうかね。胡散臭い話ですが、こうも大規模だと信じざるを得ないといいますか…。あ、エド先生は知ってらっしゃいますよね?隠れている王様の噂。」

 

 

 シウゼヴァクの王城は吹雪かないときであっても、姿を見せない。古い術で城下町ごと覆われているからだ。作中では壊れかけていて、城だけがシンボルマークのように聳え立っていた。古い都であるゆえに、全盛期はどれだけの機能を術に込めていたのかと興味は尽きない。こういった心擽る仕組みはどれだけあってもいい。

 

 アルビンは細長の目を、寒さからかぴくぴくと震わせて言った。鎧の上に着こんだ防寒具の背面から、一つ結びにした茶髪が飛び出る。

 

 彼がこの旅で俺に心を少しでも許してくれたからかは分からないが、「大先生」などという仰々しい呼び方ではなくなっていた。

 

 

「ああ。以前個人的にシウゼヴァクへ寄ったとき、魔兵の御仁から知った。彼らには王の”声”が聴こえるそうだ。」

「へええ、それは初耳です。おっかないですね…というかエド先生、魔兵とも仲がいいなんて。それ女性の方ですか?」

「いや、少し酒場で話しただけだよ。男性だった。魔兵の鎧は目元すら見えないから、ちゃんと人が入っているんだと、温かみのようなものを感じたな。」

「なるほど…。エド先生の兜も、隙間細いですが…確かに。魔兵の方々、真っ白すぎて人形かと思ってまうのも分かりますよ!そうだ、ここら辺の獣についてとか――」

 

 

 うんうんと頷き、アルビンは別の話題を出してくれる。俺は彼の話に返しながらも、受け身すぎてもいけないため、話題を探してみる。

 旅していればおのずと見識も増える。表面だけが繕われたゲームでの知識とは別の、その土地に生きる人間の慣習だったり、名物料理だったり。国を知りたいなら冒険者を見ろとも言われたりするが、正にその通りで彼らが持つ武器防具、治安の悪さ等が国の風土を、肌感覚で教えてくれるのだ。

 

 アルビンからは矛神騎士として巡回して得てきた知見を、俺からは旅して見てきた世界を伝え合う。

 すると突然、アルビンが左拳で口元を覆い笑った。

 

 

「――少し安心しましたわ。エド先生って魔性なとこありますから、色々と苦労されてる思うてたんですが。楽しい旅の話聞けて考え変わりました。」

「…君は不思議なことを言う。冒険者として戦いだけをやっていればいいんだから、楽に決まっている。それでいて友人に支えてもらって…こうして君とも話ができている。恵まれすぎているくらいだ。」

「はは…。エド先生。それ気を付けたほうがええですよ。寄る辺がない子なんて、沢山いるんやから。」

 

 

 本心からの言葉を返すと、アルビンは頬をかいた後真剣な表情で言う。その言葉に、もっともだと心の中で同意した。

 この大陸の人々は、上位種の存在が知れ渡っていなくとも、それぞれが苦しみを抱えている。これは、俺が昔生きたあちら側の世界でもあった問題に似ている。

 貧富の差からくる争い。飢えに苦しむ平民。魔力持ちの中での格差。異相付きにいつ命を取られるか分からない恐怖。信仰に縋っても何も還ってはこず、皆先行き不安な日々を必死で生きている。

 ファンタジー世界でありながら、鬱展開の種はいたるところに撒かれているのだ。

 

 ただでさえ辛い部分が見えるというのに、上位種がにやけた面で虐殺しに来るのだから最悪だ。やはり知人友人に恵まれたことは、不幸中の幸いといえる。

 

 

「…その通りだ。この幸福に感謝しなければ。ありがとうアルビン君。」

「…まあまあ、そういう方ですよね。あ…あのちんまいの、人やないですか?」

「本当だ。近くに村があるんだろう。アルビン君は目が良いな。」

 

 

 アルビンが何気なく視線をやった先には、毬のように丸々と着ぶくれした姿が愛らしい子どもたちがいた。遠すぎて声も聞こえないが、彼らは雪遊びを楽しんでいるように見える。俺はその様子を見て、心が穏やかになっていく気分だった。

 戦いばかりで凝り固まった考えと体は、それからしばし離れることでもほぐすことができる。俺はこの移動するだけの時間に、間違いなく癒されていた。

 

 凍える時期はもう去って、徐々に雪が解けていく。交互に来る寒暖の狭間で、俺はあちらで言う春を感じていた。

 

 

 夜の厳しさは、どの国よりシウゼヴァクが勝る。俺は異相付きに荷馬車を囲まれる度、ケルを伴って掃討に励んでいた。

 獣も冬は飢えているのだ。異相付きともなれば尚更で、シウゼヴァクのそれらは他国に比べて凶暴性が増しているように思える。

 故に動きは単調で、野生の狡猾さは飢餓に塗りつぶされている。脳から生えた触手は、もはや本能が無理やり骸を動かしているだけであった。

 哀しみこそあるが、戦闘の場数をこなすには最適と言えるかもしれない。

 

 ケルの魔法と剣の実力は、日を追うごとに伸びている。ザアカアとの戦いで心身に疲労がたまっているかと思いきや、張り詰めた様子は一切ない。無理をしているようだったら遠慮なく話してもらおうと、定期的に様子を窺っているにも拘わらずだ。強がらず、自然体である。主人公はやはり逞しい。

 

 

「狼さんたち…ごめんね。」

「……。」

 

 

 ケルは魔力の糸をほどき、剣を柄に戻すと、両手を組み祈りを捧げる。矛神教では行わない仕草だ。「バックスタブレイブ」作中では、主人公の勇者はリシディア教徒であったため納得はできた。しかしこの世界における主人公は何に向けて祈っているのか。俺もケルと同じように、獣への弔いを済ませながらも尋ねてみる。

 

 

「…ぼく、昔からこうしなきゃいけないって思ってて。でも最近、ちゃんと気持ちを伝えたいって思ったんです。エドさんは、空に視えますか?」

「…星のことだろうか?」

 

 

 ケルが空を見るのに従って、俺も首を傾ける。排気ガス等がない星空は美しく、心を現れるようだ。

 そしてケルから続けて返ってきた言葉は、抽象的なようで、しかし納得がいくものだった。俺はその概念を知っている。作中で時偶に目にした、この世界の大きな流れを。

 

 

「ううん。空を流れているもの…『魂の運河』って、クシアお姉さんに教えてもらいました。あの流れに、狼さんたちも、いなくなってしまった人たちも還っていくって。」

「勇者が見られる世界か…ケル君は素敵なことを教えてもらったんだな。」

「はい…!」

 

 

 ケルは暗闇の中で晴れ渡った空のごとき表情を浮かべた。俺には見えないが、あるのだろうそれを目で追った後、眉間にしわが寄る程に強く瞼を閉じる。

 しばらく祈り続けるケルを見て、人ができているを通り越しているように思う。命を奪わんと襲い掛かる異形を倒し、高揚するのではなく、静けさを祈る子どもがいるだろうか。二度目の人生を生きていると言われても驚かないだろう。

 それは年齢と背丈こそ大きく違っても、俺が好きな主人公の勇者の在り方だった。

 

 

 

 

 ルヴネトを出てからの旅路は、まだ生きた時間の少ないケルにとって、最も刺激的で喜びに満ちていた。

 生まれ故郷ミストヴィルでの日々は、生きることに必死であり、刺激とは言えない激痛だった。

 次いで、エドに導かれやってきたルヴネトでの生活も、ケルにとっては極楽のようであったが、何処か物足りなかった。決まった時間に行う訓練、仲良くなった子どもとの遊戯、どちらもが平和でありすぎたのである。

 

 荷馬車の中では、姉もしくは母のように思うミナと、自分に構ってくれるロオファに甘えて遊び。突然降りかかる異相付きとの戦いでは、戦士たちの背中を見て胸を熱くする。少女の目には、鎧に身を包んだ三名が物語の主役のように映っていた。

 命の危険こそあるが、必ず守ってくれると確信している「救世主」がいて、そして彼を見守る大勢と一緒ならば、怯えることもない。

 これからも恐れることはないだろう。例え、上位種を相手取ることになったとしても。

 

 

(うう…恥ずかしい…。本当はエドさんを真似したかっただけなのに…!)

 

 

 そんな充実した気持ちのケルは、今荷馬車の中で頬に手を当て悶えている。元々生きるために小動物の狩りを行うことはあったが、命をいただくことへの謝罪の気持ちをしっかりと込めるようになったのは、エドへの憧憬故であった。

 ある時エドはケルへ、自身の考えを話した。獣とは人間よりも純粋で、裏表なく強者を認める。だからこそ、狩りを成功させ命をつないだ人間は、獣に敬意を返さなくてはならない。

 それを聞いたケルは、口から呆けた声が漏れそうになるほどに頬に熱を込めた。これが大陸を身一つで渡り歩ける「騎士」なのだと。

 エド独自の感性は、人以外にも騎士らしく、ケルもそれに倣いたいと思ったのである。

 

 少女は色々なものを、エドの背を追うように身に着けている。魔力の糸は「月」の青に染まって、好む魔法はエドが取り回しの良さから扱う「槍」の魔法だ。それでいて、ケルが持つ剣は幅広で、装飾も簡素な品である。

 ケルは自身が着る金属鎧にすら、エドとの共通点を想い、愛おしさを感じていた。

 

 

(…トスカさんは、エドさんのこと沢山知ってるんだろうな…。次会えたら、色んなお話聞いてみたいな。)

 

 

 物語にしか存在しないと思っていた竜のこと、これから向かう王都の事、ルヴネトで共闘した二人との再会など、近い未来をケルは楽しみにし続ける。

 そして彼女にとっての楽しみは、他にもあった。ケルは突っ伏して眠ったふりをしながら、虚空へ向けて心の中で語り掛けた。

 

 

(今日もお話しできる?)

『――ああ、勿論だとも。小さな英雄のお嬢さん。』

(ありがとう!それじゃあ今日は、魔法のお話を聞きたいな。)

『喜んで。今宵も君の退屈を紛らわすとしようか。』

 

 

 魔力の糸が繋がり、この場ではケルだけに見えるヒトガタが荷馬車に浮かび上がる。その爽やかな表情をした男性は、同じく実体のない数名を連れて語り始めた。ローブを着こんだ術師の女性に、冒険者らしき筋肉隆々の男性。

 彼らはまとめ役のような白銀鎧の男性と意見を合わせ、順々にケルと話し始めた。

 

 亡霊たちは生き生きとしている。怨念まみれの絶望から、「月」の輝きに連れ出されたために。

 今夜もまた、少女は眠れない夜を過ごす。そしてようやく、雪景色に隠れ潜んだ王都が姿を見せた。

 

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