公安対魔特異課のヒーラー   作:水滴

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初投稿です。
なんか怪我治す系の人が居たって良さそうな世界観だよなって思って書き始めました。


1. 対魔得意か?

 

「よかったね〜、近くで僕が仕事してて」

 

「ミミさん、何とかなりますか……?」

 

 ミミと呼ばれた男が近づいた先には大きなタオルを被せられた死体があった。ミミに話している青ざめた男はこの死体のバディだろう。返り血か怪我でか、白かったであろうシャツはほとんど真っ赤だ。死体に被さるタオルの腹、胸の部分には血が滲んでいるのがわかる。まだ何とかなりそうだとミミは思った。

 

「この人死んでからどんぐらい経ってる?5分くらい?なら余裕だね」

 

 一度隣の男に視線を向けたミミは周囲を見回した後に、視線をタオルに戻した。

 周囲に見物人はいない。

 

「タオルかけといてくれてありがとう。大丈夫だろうけど、一応後ろ向いててくれない?」

 

 そう言い死んだデビルハンターのバディであろう男が後ろを向いたのを確認するとミミは死体に体を向け勢いよく手を叩いた。乾いたいい音ののち、5秒ほどたっただろうか。タオルに包まれた死体であった物は勢いよく咳き込み始める。

 そのことに気づいたミミに背を向けていた男は勢いよく振り返った。

 

「生き返ったんじゃないか?なくなった血の全部は戻ってないだろうからとっとと病院だね。口に溜まった血は吐き出してね」

 

 ミミは安堵の表情でタオルに近づくとタオルを剥がす。そこにはさっきまで青ざめ、正に死体というような苦悶の表情で死んでいたはずの男の姿があった。

 

「加田‼︎わかるなら3回瞬きしろ。………………よかった。ミミさん、ありがとうございます‼︎何てお礼したら良いか……」

 

 バディの男が目覚めた加田に駆け寄り、意識の確認をしながらミミに感謝を伝えた。

 

「死んでからが早かっただけだよ。よかったね。…と言ってもしばらく入院だろうけど」

 

 「ドンマイドンマイ〜」とうまく行ったからかミミは気楽だ。

 一方で加田はまだ状況が把握できていなかった。死ぬまでの痛みも冷たさも加田はよく覚えていた。一度死んだ事実を思い出して加田の体は震える。

 遠くから救急車のサイレンが聞こえてくる。すでに呼んでいたようだ。

 

「佐々木さん、あとは何とかなりそうだし彼のことよろしくね」

 

 そう言われた佐々木は生き返った男の介抱をしながら「ありがとうございます‼︎」と大きな声で言った。バディが生き返ったことに喜びが隠せないようだ。生き返った男も何かを言いたいようだが、蘇生後すぐのため大きな声が出せない。

 

「加田さんはまずは安静にね。お礼は良くなってからでいいから」

 

 そう言いながらミミは現場から離れていく。彼は今回の仕事の報告書にプラスで悪魔の力で蘇生を行ったことの報告書まで書かなくてはならないことで頭を抱えていた。

 

「めんどくさいけど、死なすより全然ましだよね………」

 

 

 

 

 デビルハンターという仕事は過酷だ。それも公安所属であればなおさらである。新人が一年もったら大したもんだという認識を持たれていると言えばわかりやすいだろうか。様々な事物を司る悪魔は力と頭脳と悪意を持って人間を害してくる。そんな悪魔と戦うことに適応できる人間は稀な上にそもそも適応する前に死ぬ奴も多い。

 今日近くで死んだ彼は幸運だったとミミは思う。

 公安デビルハンターの本部にてミミの今回の仕事の結果を報告すべくオレンジに照らされる廊下を歩いていた。彼の髪の毛がオレンジに光る。しかし、窓のない部分を通ろうとも髪の色は変わらない。彼は廊下を照らす夕陽のような髪を持っていた。この髪色は彼の自慢だ。

 

「ミミ、お前また誰か蘇生してきただろ」

 

 ミミは後ろから話しかけられて振り向いた。ミミの青い目と話しかけた人の黒い目が合う。

 

「何でわかるの?怖…」

 

 ミミの視線の先には後頭部にマゲを結った面の良い男がいた。彼と目を合わせるためにはミミは少しだけ目線を水平から上げなくてはならなかった。

 彼の名は早川アキ。ミミと近い時期に公安の対魔課に来たのだ。ほとんど同期と言っていいだろう。

 

「雰囲気だ。そんなポンポン蘇生して良いのか?」

 

「報告書を書かなくちゃいけないくらい?急いで移動すんのも面倒だけどさ。死ぬ奴救えないよりはやっぱマシだよ。救えるなら救わなきゃ」

 

 とミミに返されたアキは「気にするとこはそこなのか……?」と呟きながらミミの隣を歩き出した。

 

「アキくんが報告で、姫野さんはもう書いてんのか、報告書。いいなぁー、バディ」

 

「お前は組みたくても組めないだろ」

 

 

 

 

 アキが足を止め扉に手をかける。報告先の上司の執務室までついたようだ。アキが扉の中に入り続いてミミも扉に入る。

 

「一緒にきたんだ」

 

 扉を閉めるミミの耳に綺麗な声が聞こえてくる。彼等の上司マキマのものだ。綺麗なのは声だけでなく外見もであり、どこか神秘的な雰囲気がする。彼女の前に立つと自然と背筋が伸びるような気がした。

 彼女は報告を待っていたようで手は空いていたようだ。

 返事をしながらマキマの机に向かってアキに並んだ。どうやら我らが上司はすでに手が空いているらしい。流石だ。「俺が先いいか」とミミに確認をとり、アキが報告を始める。

 

「目標であるピーマンの悪魔の駆除に成功。他の悪魔の介入などはありませんでした。報告は俺が担当して姫野先輩はすでに報告書に取りかかってます」

 

「ありがとう。野菜系の中じゃ1番強いんじゃないかって話だったけど無事に済んだみたいだね。よかったです」

 

 マキマは微笑みを浮かべていた。絵画じみた微笑だとミミは感じた。アキは相変わらず真顔のようだがミミにはわかっていた。アキはマキマに惚れている。きっと心の中ではガッツポーズなんかをしているのかもしれない。

 「じゃ、次は僕ですね」と言いながらミミも話し出した。

 

「目標の指の悪魔の駆除に成功。駆除後に近くから蘇生の要請があったため現場に向かい、公安所属デビルハンターの加田・佐々木ペアのうち死亡していた加田の蘇生に成功しました。…えっと、……何課所属かは聞き忘れました、すみません…」

 

 申し訳なさそうにするミミだがマキマは気にした様子がない。

 

「それはこっちにもそのペアから報告書が来るだろうから後で補足をしておきます。報告書もよろしくね。2人ともお疲れ様でした」

 

 「お手数おかけします。失礼しました」「お疲れ様でした。失礼しました」とそれぞれ言いながら2人は部屋を出る。アキは相変わらず真顔だったがミミはげっそりとしていた。手間をかけさせることになってしまったのはマキマも気にしていなさそうだったが、何より報告書が嫌だった。

 

「もう仕事は終わってる感じだったね。すげぇよ」

 

「ああ」

 

 ミミは「僕はこれからなのに…」と一言。アキは相変わらずのお澄ましフェイスであった。

 

「……民間行きかなぁ、加田さん」

 

「…加田って人がどんな人かは知らないが、本来なら死んでたんだ。辞めちまうかもな」

 

 アキはこれまたげっそりしたミミを尻目に赤くなった街を眺めながら言った。

 デビルハンターになる理由は大きく二つある。金か復讐だ。金を求めて公安所属になった奴の大抵は死の恐怖に負けて民間のデビルハンターに移るかやめるか任務で死ぬかだ。

 一方で悪魔に大切なものを奪われたことの復讐をするために公安に入った奴は屈強だ。もっともそいつらとて死ぬ時は死ぬし、ずっと復讐を志し続けるのは困難だ。結局目標が復讐にしろ金にしろ本人の持ちよう次第なのだ。

 目の前のアキも銃の悪魔に復讐することを願っている。まだ直接聞いた話ではないが、公安最強のデビルハンターの持論では志望理由や強さとは別の観点で向き不向きが決まると考えているらしい。アキはその観点でデビルハンターに向いているのだろうとミミは考えた。

 

 

 

 

 公安所属のミミであれば死んで時間の経ってない死体を蘇らせられる。これは公安のデビルハンター内では常識、民間のデビルハンターでも一部の知る話であった。1時間経った死体でも蘇ったという人もいれば、1時間経つとダメだったという人もいた。そのため、死亡が確認されて1時間以内の死体がミミを訪ねてくることが時折あった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人間をよこしなアァァァァ‼︎!!」

 

 聞くものが怖気立つような不気味な大声があたりに響く。まだ民間人がまばらに見える。逃げ遅れてしまった人々のようだ。

 道の真ん中に成人男性の1.5倍ほどの大きさを持つ化物が立っていた。その体には腕や足を中心に血が付いている。フサフサとした毛で覆われており実際の体つきは確認しづらいがうっすらと筋肉質そうなシルエットに見えた。頭の上には長い耳が生えておりその顔は不細工で凶悪な顔つきのウサギだった。その怖さよりは間抜けさの方が先に感じる顔の口元には血がついており、B級ホラー映画のような様相だ。すでに民間のデビルハンターが返り討ちにあったと見ていいだろう。

 

「あからさまにウサギって感じだな、前まではもっと弱そうな見た目だったでしょ?」

 

 ウサギの悪魔が声に振り向くと歩道にミミが立っていた。ミミは腰に差していた剣を左手で持っている。ベルトの右側面についた拳銃にしては大きなホルスターに入っている銃を抜くつもりはないようだ。観察してますといった風体だ。

 

「バカな人間を食ったらよぉぉ〜。こんなんになれたぜ!やっぱバカは利用するに限るよなぁ〜!」

 

 どうやらウサギの悪魔に騙されて餌食になった民間人がいたらしい。まだ小さいウサギの悪魔に騙されて殺されたのだろうか。ウサギと言っても悪魔は悪魔だ。普通のウサギの何倍かの大きさで最初は出てきたとしたら騙した人間1人くらいを殺して食うのはできそうに思えた。ここまで大きくなるまで潜伏されたのも元が小さかったからだろうとミミは当たりをつけた。

 

「お前デビルハンターだよな?なんかあんま強くなさそうだし……」

 

 ウサギの悪魔は足を屈めると一気にミミの元へ低く飛びかかってきた。

 

「食べさせてくれよ‼︎」

 

 そう言うと同時にウサギの悪魔は両腕を振った。

 

「バカがァァァ‼︎」

 

 叫びながら腕を振るウサギの悪魔。成長したことによる筋肉量増加に物を言わせた雑な一撃。しかし成長と動物系故の元々のポテンシャルによって並のデビルハンターにとっては脅威になりうる速度と威力があることがわかった。どうやら瞬発力と怪力による初見殺しで死体を作っていたらしい。この調子だと反撃されたこともなかったのかもしれない。

 

「フッ……」

 

 息を吐きながらミミは腕を迎え撃つ。足を屈めた時点で構えは取っていた。とりあえず切れるか確認だと考え上段から来た両腕をバックステップで避ける。その後、ミミの体ではなく地面に傷をつけて停止した腕を2度、速く切りつけた。

 

「イ、イテェェェ〜〜!!??」

 

 両腕を並べるとバツ印のように見える傷を負った腕を見て驚いた様子で痛がるウサギの悪魔。

 速く武器を振ったが浅くは振っていない。筋肉が特別硬いというようなことはないらしい。この様子を見るにこれまではこの奇襲が大体決まって勝っていたようだ。ミミは他人をどうこう言えるほど頭の出来は良くなさそうだなと感じた。

 ミミはウサギの悪魔の様子を見ている。どうやらこれ以上の隠しダネはなさそうだと思った。

 

「何だ…?その剣…?」

 

 ウサギの悪魔は急に質問を始めた。ウサギの悪魔を傷つけた剣は黒色で刃の中程をピークにするようにくびれていた。ウサギの悪魔は食ってきた民間のデビルハンターは直剣や刀のようなシンプルな形のものを使っていたことを思い出した。

 

「これはグラディウスっていうんだよ。物を知ってる悪魔は何体か知ってるけどお前はそうじゃなかったらしいな」

 

「お前の方がバカだな‼︎死ね‼︎」

 

 ミミが質問に答えたことで気を逸らせたと感じたウサギの悪魔は被せるようにそう言うと、躱されたことで地面についていた両腕を前に進みながら振り上げることでミミの頭を叩き飛ばそうとした。今の所負けなしだったウサギの悪魔はこれで終わりだと思った。

 しかし、頭に到達するかと思われた腕は振り上げる途中で肘から先がなくなった。

 

「アギィーーーーーー‼︎??」

 

 悪魔の悲鳴が聞こえる。

 実際のところは腕は地面から離れるより先に肘より先を残して両断されたのだ。拳はいまだ地面についたままだ。

 急に肘から先がなくなってバランスを崩しかけた悪魔は目の前の弱そうな奴に自分が敵わなそうだということを理解した。

 

「お、おおい‼︎契約だ‼︎なんか契約してやるから、見逃せ‼︎‼︎」

 

 ウサギの悪魔はどうやら死にたくないらしい。少なくとも10人は殺していそうなのに勝手なもんである。

 ミミは命乞いの様子を最後まで見るつもりはなかった。ミミはウサギの悪魔の体の右側面を素早く通り抜けるようにしながら首を目掛けてグラディウスを振った。両腕を叩きつけた状態の時から屈むような姿勢であったため、首は親切さを感じるほど手頃な位置にあった。

 

「するわけないじゃん。やっぱ頭悪いよ」

 

 不細工なウサギの頭がずれて落ちる。あまり重いものが落ちたような音はしなかった。

 ミミは右手で頭をかきながら呟いた。

 

「殺す相手とおしゃべりしちゃうのやっぱ良くないよなぁ……」

 

 

 

 

「民間人に飼うように仕向けてから騙して殺したようです」

 

「調査されてた民間人失踪の際の痕跡はミミ君が殺したウサギの悪魔の特徴と一致するね。このことが確定したら周辺住民の不安も解消されると思います」

 

 報告のためにミミはマキマの執務室へ来た。マキマの机の上にある資料には「自ら家に入れた痕跡アリ。見た目は危険ではなかった可能性」などの調査報告が載っていた。ここに書いてあることはウサギの悪魔がやったことで間違いないだろう。

 

「引き続き励んでください。お疲れ様でした」

 

 マキマに対して「お疲れ様でした」と返すとミミは背中を向けて部屋の扉へと向かった。

 

「そうだった。ちょっと待って」

 

 ミミは返事をしながら振り返る。

 

「明日はゾンビの悪魔の件があって、朝からいないんだ。本部に帰ってくるのは昼頃になると思います」

 

「私がいなくてもやることは変わりません。いつも通りに仕事をしてね」

 

「了解しました。大丈夫だとは思いますがお気をつけて」

 

 ミミは執務室を出た。マキマは相変わらず絵画のような微笑みだった。

 

 なるほど、ポチタとデンジは今日死ぬのか。

 

 

 

 

 

 

 




動物系の悪魔って人間食べたら倍のスピードで成長しそうですよね。
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